70話 ひとりぼっち
「ふわぁ…お兄ちゃんおはよ…」
「おはよう。寒くないか?」
「うん。お兄ちゃんがいるからあったかいよ」
「そうか…。でもそろそろ冬だからなんとかしないとな」
「確かに最近ちょっと寒いかも…ゲホッ…」
毛布でも買ってきた方がいいかな。残ってる金で毛布は買えなくはないが食べ物を買うのが厳しくなるな。…人間の身包みを剥ぐ、のはダメだな。モネが悲しむ。
「お兄ちゃん?どうしたの?」
「いや、ちょっと考えごとしてたんだ。なんでもないよ」
「そっか。…ねぇお兄ちゃん私に何かできることないかな?」
「モネはいいんだよ。モネは魔法が使えないからいざって時に身を守れないだろ」
「そう、だけど…。でもお兄ちゃんばっかりに任せるのは私だって気が引けるよ」
「モネ……。いいんだよ。俺がやりたくてやってるんだから」
モネにも心配かけちゃったな…。なんとかしないとな。
***
「ゲホッ…ゲホッ…!」
「モネ、大丈夫か?」
「うん…大丈夫…ゴホッ…ゴホッ……」
モネの体調が急に悪くなった。顔は青白くなって咳が止まらない。どうする…今ある金で薬は買えない…。でもこのままじゃモネの体が持たない…どうする…。
「おにいちゃ…私は…大丈夫、だから………ゲホッ…」
「モネ…」
……仕方ない。モネが嫌がっていたから今までやっていたが、もうなりふり構っていられない。モネの為にも人間から金を奪ってでも薬を買ってモネを助けてやるしかない。ごめんなモネ。できるだけお前が嫌がることはしたくなかったがお前の為だ。許してくれ。
***
「許してくれ、許してくれ!!」
「妹の為なんだ、すまない。殺しはしない」
それから俺は路地裏の浮浪者を襲っては金を奪いとっていった。できるだけモネの遠くで襲っているから気づかれてはいないだろう。
「大分集まってきたな…」
金を入れた袋がちゃりちゃりと音が鳴っている。薬は高いがあともう少しで金が集まる。あともう少しだ。これでモネを治してやれる。一回モネのところに帰ろう。心配だ。
「ひっ…!あの魔族だ…。隠れろ金どころか身包み全部取られるぞ」
最近ここら辺を歩くだけで人間たちが怖がって俺を見るなりすぐに隠れていく。まぁ当然だよな。今までこっちから襲ってこなかったのがいきなり襲いはじめたんだ。だが、今になって最初からこうしていれば良かったと思っている。俺たち魔族が人間の街で生きる為にはどんな手を使ってでも生き抜くしかないんだ。たとえどんな汚い手を使ってでもモネを守らないといけないんだ。
「モネ、調子はどうだ?」
「うん…大丈夫、ゲホッ…だよ……」
「大丈夫じゃないだろ。大人しくしてな。何か食べるか?」
「ううん…いらない…。お兄ちゃんこそ大丈夫なの?ゴホッ…最近離れてるところに…ゲホッ…いるみたいだし」
「あぁ平気だよ。最近食べ物を漁れるいいところを見つけたんだ」
「そう、なの?」
「そうだよ。だから安心して寝てな」
「うん……」
最近モネの調子がどんどん悪くなっていってる。顔色はどんどん青白くなっていって、咳も酷くなってる。早く金を集めきって薬を買わないと。
「ケホッ…」
「熱も少しあるな…」
モネの額に手をあてると少し熱を帯びている。少しでもマシになるようにボロ布をモネにかける。少し汚いがないよりもマシだろう。
「ありがと…お兄ちゃん」
「いいんだよ」
頭を撫でてやると少し笑って手に頭を擦り付けてきた。かわいいな…早く元気してやらないと。
「すぅ…すぅ……」
「寝ちゃったか…俺ももう少しだけ頑張ってくるか」
少しだけ重い腰をあげて立ち上がる。モネの顔を見たら少しだけやる気が出てきた。あともう少しで金が集め終わるんだ。もう少しだけ頑張ろう。
***
「ごめんなさい…ごめんなさい……」
「これで…全部だ…」
袋に金を入れてようやくいっぱいになった。これでやっと薬を買ってやれる。やっと終われる…。今から買いに行こう。少しでも早く元気になってほしいからな。
「これ、貰うぞ」
「ひぃー!!あげます、あげますからもう許してください!」
地面にへたり込んだ男から帽子を拝借する。これで少しは角を隠せるだろう。
「薬屋は…あっちか…」
人間の間を掻い潜りながら薬屋へ向かう。帽子を押さえながら身を低くしてなるべく目立たないようにしながら歩いて行く。相変わらず裏路地を抜けた方は人が多くて嫌になる。なんとか人を掻い潜ってようやく薬屋へ着いた。
「いらっしゃい。どんな薬をお探しで?」
「妹の体調が悪いんだ。咳が止まらなくて顔色が悪いんだがそれに効く薬はあるか?」
「なるほど…そしたらこの薬だね。金はあるかい?」
「これで足りるか?」
カウンターに金を入れた袋を置く。多めに集めたんだ。なんとか足りることだろう。
「うん…ちょうどだね。はい薬だよ。1日3回食後に飲むんだよ」
「分かった」
「まいど〜」
薬を受け取ってすぐにモネの方へ走って向かう。これでモネを治してやれる!人間を押しのけてモネのいる路地裏に全速力で走る。そうだ、モネが元気になったら人が寄りつかない森の方へ行こう。俺がここで暴れすぎたから長くはここにはいられないしいずれここにはいられなくなる。2人で静かに暮らすんだ。そしていずれウォルトカリアで戦争が終わったら国に戻るんだ。2人で幸せになるんだ。
「きゃぁあああーー!!!!」
「この声…モネ!!」
路地裏に入った瞬間モネの叫び声が響き渡った。モネに何かあったのか!?まさか俺がいない間に人間がモネのことを…!
「モネ!!」
「あぁ〜?もう帰ってきたのか。チッ…!めんどくせぇなぁ」
「お前ら!!!」
モネの長い黒髪を鷲掴んでいる人間の男。……モネを掴んでいる人間、手に大きな火傷をしている。アイツは俺に突っかかってきて俺に拳を燃やされたやつだ。まさかその逆恨みか?
「お兄ちゃん!!ゲホッ…ゴホッ…!」
「お前、モネを離せ…!!」
「ハハッ!お前ら兄妹か!まぁ兄の方はいらねぇか。お前ら取り押さえろ!」
「ぐ、うぅ…なんだお前ら!!」
後ろからいきなり人間が数人俺を押し倒して押さえつけてきた。後ろにもいたのか!?クソっ…数人がかりで押さえつけてるからびくともしない…!
「クソ…こんなの魔法で…!水の第五魔ほ…むぐっ!んー!」
「そうそう、そうやって口をちゃんと押さえとけよ。魔法を詠唱されると面倒だからな」
「離して!離してよ!!ゲホッ…!」
「さてとコイツは高値で売れそうだな。魔人の癖に角がちっこいし、こりゃ物珍しさにコレクターが買ってくれるかもな。それに今どき魔族自体珍しいからなぁ」
「いやぁ!!」
コイツ、もしかして最近噂になってた人攫いか!?だとしたらまずい!このまま連れて行かれたら俺でもどうしようもなくなる!!クソっ!クソっ!!魔法さえ使えればコイツらなんか!
「さて、この男だが、まぁアイツはいいか。アイツは反抗心が強すぎるし捕まえるのも面倒くさそうだ。俺はもう行くからお前ら後は好きにしていいぞ」
「あの!取り分はちゃんと分けてくれるんですよね!」
「あぁ?まぁ考えとくよ」
「そんな!金を貰えるからあんたに協力したのに!!」
「そういう約束はちゃんと書面にでも残しとけよホームレスども」
「そんな…そんな……」
コイツらも騙されて協力くされてたのか。……!力が弱まったこれなら振り解ける!!
「あぁあああ!!!」
「しまった!」
「お」
「モネを離せ!!水の第二呪文:ウォーターカッター!!!!」
「あっぶねぇー!」
「クソっ!!」
斬撃を屈んで避けられた!怒りでコントロールが乱れた!もう一回だ!!
「ったくめんどくせぇな。コイツちゃんと押さえたら報酬はちゃんと分けてやるよ!今度は本当だ!!」
「コイツまだそんなことを…!」
「うああぁぁぁああ!!!」
「な!コイツら!!」
人間がまた俺に飛びかかって押さえつけてきた。なんでこんなことをするんだ!金が貰えるって確証はないくせに!
「お兄ちゃん!!!」
「モネ!!クソっ離せっ!」
「俺は体をおさえるからお前は口をおさえろ!」
「分かった!」
「んー!!」
また口を塞がれた!クソっ!クソっ!!
「お兄ちゃん!やだっ!離してよ!!」
「あーもううっせぇな。ちょっと黙ってろ」
「きゃあ!」
「んー!!!」
モネ、モネ!俺が、俺が守らなきゃいけないのに、クソっ!離せよ!離してくれよ!!
「おーい!そいつそのままにしてると面倒くさいからこの薬を使って眠らせとけ」
モネを掴んでいる人間が何か液体がはいった瓶を投げ渡してきた。そのまま俺を押さえつけてた人間が布に薬を染み込ませて俺に嗅がせてきた。すると途端に眠気が襲ってきた。寝るな、寝るな…。モネ、俺が守らなきゃ、いけないんだ……。
***
「モネ!!」
目が覚めて飛び起きる。あたりは暗くなり始めて時間が随分経っていることが分かった。そうだ。モネ、モネはどこだ!!
「あぁようやく起きたんだ…」
「お前ら!モネは俺の妹はどこに行ったんだ!」
「あの男がどこかに連れていったよ…。俺たちは何も知らない……」
「お前らはなんであんな奴らに協力したんだ!?なんでだ!!」
「……お前が、お前が金を奪ったせいだろうが!!!お前が金さえ奪わなかったら俺だってあんな奴に協力しなかったさ!!」
「俺の、せい……」
「そうだ!!」
「これからどうすればいいんだよ!!」
俺のせいだ……モネのために汚いことに手を染めたせいでモネが攫われた…。俺が強くなかったから、俺が守れなかったから…!!残ったたった1人の家族さえ守れなかった!!
「あぁ…ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁああ!!!!!」
「熱い、あづい!!」
「燃える!!あ゛あ゛あ゛あ゛ぁあ!!」
「あ、あ……ぁ」
魔力が暴走して魔法が暴発してあたりが燃え上がる。近くにいた人間も一緒に燃えて汚い悲鳴をあげている
あぁ…もう何もかもどうでもいい……。俺は両親の最後の約束さえも守れなかった!!全部ぶっ壊してやる。俺たち家族をぶっ壊した人間を全員!!




