68話 燃える幸せ
「お兄ちゃん今日も魔法の練習してたの?」
「まあね」
「いいなー!私も魔法使いたーい!」
「モネは魔力が少ないからね。ちょっと難しいかしら」
「むー…なんで私だけ…」
「モネは珍しい事例だからね。まあそう落ち込まない。モネは動物型の魔物によく懐かれるんじゃないか。きっと神様が魔力の代わりにくれた贈り物だよ」
「そうよ。魔力が全てじゃないのよ」
「そうなのかなー…」
「モネが魔法使えなくても僕が守るからいいんだよ」
「もー!お兄ちゃん!私は真剣に考えてんの!!」
「あははは!」
「うふふ!」
ご飯を食べながら談笑する。僕はこの時間が好きだ。今日は足元でウォルトがウロウロしてて足が少しくすぐったい。美味しいご飯に大好きな家族。この幸せがずっと続いて欲しいな。
****
「2人ともお休みなさい」
「「おやすみなさい」
「夜更かししちゃダメよ」
「はーい!ウォルフおいで。一緒に寝よ」
「キャン!」
モネがウォルフを呼ぶとすぐに寄ってきた。そのまま抱えて寝室に行く。
「おやすみお兄ちゃん……」
「おやすみモネ」
蝋燭の火を消して部屋が真っ暗になる。布団に潜り込んで体を丸める。最近寒くなってきたから寝付きにくくなってきた。布団が薄いし隙間風が部屋に入ってくるから肌寒い。ウォルフと一緒に寝てるモネが羨ましい。
「ぐー……」
「もう寝てる…。僕も早く寝よ」
目を閉じてぼーっとすれば眠気が次第に襲ってくる。そのまま僕は眠りに落ちた。
****
「もうここはダメかもしれないわね」
「そうだな。森の外の村の人間たちが気付き始めた。そろそろ移動しないと」
「ねぇあなた。やっぱりウォルトカリアに戻った方がいいんじゃないかしら。戦争中とはいえやっぱり……」
「いや、子供たちがいるんだ。今のウォルトカリアは2人には厳しい。早く戦争が終わってくれればいんだが」
「やっぱりそうよね。あとどれくらい続くのかしら。10年?100年?このままじゃここの生活も限界がきちゃうわ」
「そうだな…。取り敢えず明日から荷物をまとめて別の場所に移る準備をしよう。できるだけ早くここから離れよう」
「分かったわ」
****
「ふわぁ…お兄ちゃーん朝だよー…」
「ん、いま、おきる……ぐぅ…」
「お兄ちゃーん!もう…ウォルフ行け!」
「キャン!」
「グフッ!ゲホッ!ゲホッ!!」
「もう、やっと起きた」
もう一回寝ようとしたらお腹にウォルフが飛び込んできた。結構な勢いで飛び込んできたから衝撃が凄くて咳きこんで涙目になる。苦し…。
「ほら朝ごはんだよ。起きて」
「う、うん。今行くよ。それにしてももう少し起こし方なかったの?」
「あぁでもしないとお兄ちゃん起きないでしょ」
「それは、まぁ…」
「ほらぁ」
「2人とも朝ごはんよー!」
「はーい!ほら行こ」
「うん」
お母さんに呼ばれてリビングに向かう。テーブルには朝ごはんが並んでいて食欲がそそられる。
「おはよう2人とも」
「おはようお父さん。お母さん」
「おはよー!」
「ふふっ今日は早く起きれたのねクロード」
「まあ…」
「ウォルフが起こしてくれたの。ねー!」
「キャン!!」
「あらえらいわね〜ウォルフ」
「もういいじゃん…朝ごはん食べよ」
別に毎日起きられない訳じゃないし。偶に起きれないだけだから…。
「「いただきまーす」」
「召し上がれ」
「ん〜美味し〜!」
「よかった。沢山食べてね」
「2人ともちょっと話があるんだ」
「なに?お父さん」
「明日にはここを離れようと思うんだ。だから今日中に荷物をまとめおいてくれ」
「え!?引っ越すの?」
「もしかして、森の外の村…?」
「まあ、そういうことだ…。移る場所は目処が立ってるから安心してくれ」
「分かった。モネ、食べ終わったら荷物まとめるぞ」
「はーい」
僕は一足先に食べ終わって部屋に戻る。部屋の隅に追いやってたトランクを引っ張り出してくる。引越しなんて何年ぶりかな。確か10年くらい前?今回は早かったなぁ。まぁ仕方ないか。最近森の外にも碌に出られてないし人間も森に近づき始めてる。
「えっと、取り敢えず服を纏めないと」
「お兄ちゃんきたよ」
「キャン!」
「よし、じゃあまずは服を入れてくから持ってきて。ウォルフは、特にすることないか…」
「分かった!」
「キューン…」
モネはクローゼットから服を何着か引っ張り出してくる。僕の服もモネの服もあんまり多くないから荷物がかさばらなくていい。でも服はあちこち繕ってるから少しボロボロだ。着れないこともないけどモネには綺麗で可愛い服を着て欲しい。ウォルトカリアはいつ戦争が終わるんだろう。僕が生まれる前からだから100年以上前?
「よし、取り敢えずはこれでいいかな。モネ入れ忘れはない?」
「うん。次は何やればいい?」
「えーっと次は……」
****
「終わったー!」
「ワフン!」
「忘れてるものはない、よね」
「あちゃーもう夕方になっちゃった」
「家の家具とかも整理してたからね」
「2人とも手伝ってくれてありがとうね。じゃ夕飯にしましょうか」
「わーい!」
お母さんの夕飯を運ぶのを手伝って宅につく。この場所で食べるのは今日で最後か。次はどこにするんだろう。お父さんは決めてあるって言ってたけど。
「ご飯食べたらすぐに寝るんだぞ。夜中にはここを出発するからな」
「はーい!お兄ちゃんちゃんと起きてよね」
「大丈夫だよ…」
夜中か。まあ村の人間にバレないようにするから当然かな。引越し先につくときにはもう朝だったりするのかな。早く寝て夜中に起きれるようにしないと。
「ご馳走様」
「ご馳走様でした!」
「2人とも早く寝るんだぞ。途中での眠くならにようにしろよ」
「「はーい」」
「起こしに来るからそれまでちゃんと寝てなさいね」
「はーい!お母さんおやすみなさい」
「おやすみなさい」
「はい、おやすみ。いい夢見てね」
部屋に戻ってベットに潜り込んで毛布を被る。カーテンの隙間から漏れてくる光が眠りを妨げてくる。
「引越し楽しみだねお兄ちゃん」
「そうだね。ちゃんと寝ろよ。引越し中に眠くなっても知らないからな」
「分かってるよ。おやすみなさい」
「おやすみ。ウォルフもね」
「キュゥ…」
****
パチパチ……
熱い…息苦しい……おかしい最近寒くなってきた筈なのに……熱い…熱い…
「キャンキャン!キャン!!」
「……ゲホッゲホッ!!なんだこれ!?おい、モネ起きろ!!」
「なぁに。おに、ちゃん…え?なにこれ……」
部屋の壁に炎が走っている。か、火事!?取り敢えず避難しないと!
「モネ速く家の外に行くぞ!」
「で、でもお父さんとお母さんは!?」
「とにかく部屋を出よう!」
モネの手を引いて部屋の扉を開く。熱気で汗が流れて肺が苦しい。なるべく煙を吸わないようにしないと。
「お兄ちゃん……」
「モネは先に家を出てて!僕がお父さんたちを呼んでくるから」
「う、うん……ウォルフ…お兄ちゃんについて行って。何かあったらお兄ちゃんを助けて」
「キャン!!」
モネを先に家の外に出してからお父さんたちの寝室へ向かう。炎の勢いがどんどん強くなってきてる速くしないと…。
「お父さん、お母さん!!」
「キャンキャン!!」
「クロード…か。無事だったんだな…」
「クロード……」
「お母さん!!」
部屋には頭から血を流しているお母さんとお父さんが。燃えて落ちてきた木材が頭に降ってきたみたいだ。早く脱出しないと…。
「クロード、モネは…」
「モネなら先に家の外に避難してる。お父さんたちも速く!!」
「クロード……私たちはいいわ。速く、逃げなさい…」
「そんなのできる訳ないじゃん!!速く…」
「私は頭を怪我して、お父さんは足を怪我してしまったの…だから……」
「そんなの魔法で治せばいいじゃん!それにこんな火事お父さんの魔法で!!」
「クロード。ずっと黙っていてすまない。私は魔法を使えないんだ。昔からね」
「え…」
「話はこれだけだ。クロードお前だけでも逃げなさい。俺たちはもうダメだ」
「なんで…」
「俺は脚を怪我してしまった。これでは逃げられない」
「そしたら俺が背負って行くから!」
「クロード…モネをお願い…」
「お母さん…!」
ガラガラ…ドガァン…!!
「お父さん、お母さん!!」
天井が崩れて2人がそのまま下敷きになった。僕はウォルフに引っ張られて無事だった…あ、あぁ…!!どうして、どうしてこうなったんだ!!
「キャン!!」
「ウォルフ……そう、だよね。家から、出なきゃ…。モネが待ってる……」
モネ…モネ……。モネになんて言えばいいんだ。目の前で2人が死んだ。なんで、なんでだよ。そもそもなんでいきなり火事になんかなったんだよ。
「お兄ちゃん!!」
「モネ…よかった無事だな。怪我は……」
「お父さんとお母さんは!?」
「ダメ、だった……ごめん…俺がいたのに……」
「そん、な……。あぁ…うぅ…」
「キャン!」
「グスッ…なにウォルフ…ちょっと押さないで…」
ウォルフに背中を押されて木の後ろに連れて行かれる。なんだいきなり…。
「1人でも逃すなよ!忌まわしい魔族を駆逐するんだ!!」
人間だ…。それにあんなに大勢。全員松明を持ってる…まさかこの火事はアイツらの仕業か!?
「お兄ちゃん…怖いよ……」
「モネ…取り敢えずここから離れよう。このままここにいたら殺される」
「うん…」
やっぱりウォルトカリアに行くのがいいのか?ここからならそう遠くないはず。でも今は戦争中だからいかない方がいいのか?だとしたらやっぱり人間の街の方が…。
「おい、お前」
「ひっ…!」
「人間…!!」
「おい!こっちに…」
「ガァァアウ!!!」
「グアッ!なんだこの犬!!」
「ウォルフ!!」
人間が他の仲間を呼ぶ前にウォルフが飛びかかって腕に噛み付いた。ウォルフ自分よりも大きい人間に噛み付くなんて…。
「おい誰か来てくれ!」
「まずい!人間が来る!」
「お兄ちゃん行くよ!」
「おい、でもウォルフが…」
「ウォルフが行ってて言ってる!そんな気がするの」
「キャァン!!」
「ウォルフ…」
「お兄ちゃん!」
モネに急かされてウォルフを背中に走り出した。後ろから人間の声にウォルフの唸り声が聞こえてくる。ウォルフ…いくらフェンリルとはいえまだ子供だ。どうか無事でいてくれ…。
「はぁはぁ…お兄ちゃん…どこまで行くの?」
「取り敢えず遠くにだ!アイツら人間がいないところまでだ!」
ひたすらに走り出す。草木で足が切れても構わず走る。人間の怒号が聞こえる。あれに捕まったら殺される。なんで俺たち家族がこんな目にあうんだ。俺たちがなにをしてって言うんだ!
「グスッ…お父さん、お母さん……うぅ…」
「モネ…」
そのまま僕たちは走り続けた。結局僕たちはウォルトカリアには行けなかった。ウォルトカリアには大きな壁が作られていて入ることさえ叶わなかった。きっと戦争から1人も逃さないようにしたんだろう。そのまま僕たちは流れるように国の端っこの街にいるようになった。
僕の幸せはたった一夜にして崩れさった。人間の手によって。僕がもっと魔法が使えたら幸せを守れたのか?いや、今更考えたって仕方ない。僕がモネを守るんだ。モネは魔力が普通の魔人よりも極端に魔力が少なくて魔法も使えない。僕よりもずっと弱いモネを守り抜く。それがお母さんとの最後の約束だから。




