67話 幸せな記憶
「クロードさん。今日はここまでにしましょう。大分暗くなってきましたし」
「いや、もう少しだけ進むぞ。少しでも先に進みたい」
「でもクロードさん、今日は戦ったり大怪我をしたりで疲れてますよね。それにヴァイスも限界そうですよ」
「ハッ…ハッ……」
「…そう、だな。今日はここまでにしよう」
「じゃあ私ご飯の準備しますね。クロードさんは休んでてください。ヴァイス疲れてるところ悪いけど、火を起こすの手伝ってくれない?」
「ワン!」
ヒスイ街を脱出してから私たちはすぐにトレイダ街を目指し出発した。今日はもう暗くなってきたからここで休むことにした。クロードさんはもう少し先に行こうとしたけどクロードさんを乗せてたヴァイスが限界だったから諦めてくれた。ヴァイスも今日は沢山走ったから疲れてたよね。クロードさんどこか焦ってるように見える。いつものクロードさんじゃないみたい。
***
「クロードさんできましたよ!」
「あぁ…すまないな」
「ワフン!」
鍋に沢山の料理を入れてそれぞれの器に盛り付けていく。ヒスイ街で調味料を買えたから美味しくできて大満足!ヴァイスは基本的に私たちと同じものを食べられるらしい。見た目はオオカミだけどやっぱり魔物なんだなぁ。
「クロードさん、その聞きたいことがあるんですけど」
「なんだ」
「その、クロードさんがアイリスさんの右腕だったって聞いて。それって本当なんですか?」
「……何処から聞いたのかは知らないが本当だ。それを知ってお前はどう思った。俺を恐れるか、軽蔑するか」
「え!?そんなこと考えたこともないですよ!え、えっと私、謝りたかったんです。私クロードさんのことを全然知らなかったのに偉そうなことを言っちゃってごめんなさい…。そりゃクロードさんにとってアイリスさんは特別な人ですもんね。でもクロードさんあんまり無茶をしないでくださいね」
「……ぁ、そう、か。………お前、俺のことを誰から聞いた」
「え、ルイさんからですけど…」
「アイツなんなんだ…」
「あはは…確かにそうですね…」
よかった。ずっと言いたかったことを言えた。クロードさんのことを少しは知れたけどやっぱり私はまだまだ知らない。でもクロードさんには無茶をしてほしくない。今日だってクロードさんが1人で団長と戦ってこんなにボロボロになってきた。私がもっと戦えたら……。
「お前、俺がなんでこんなに焦ってるのか気になってるだろ」
「え!?……まぁ少し気になってましたけど」
「……お前になら話してもいいな。これから話すことはアイリスも知らない、今まで誰にも話したことがないことだ。お前だから話すことにした」
「え?」
「…………俺には妹がいた。ずっと人攫いに合ってからそれ以降会うことはなかった。きっともう……。昔は今よりも魔族は生きにくく過酷な環境だった」
「クロードさんに妹…?な、なんでそのことを私に教えてくれたんですか?」
「お前は兄を探してるんだろう。俺には妹を見つけることが、助けることができなかった。それに今回攫われた男も村に姉がいる。アイツらに俺と同じ思いをしてほしくない。時間に間に合わずオークションにかけられたら辿る未来は暗闇だ」
「クロードさん……。妹さんのこともっと教えてくれませんか?私、クロードさんのことをもっと知りたいです」
「あまりいい話じゃないがそれでもいいのか」
「構いません」
「分かった…。聞いた後に文句を言うなよ」
クロードさんはポツリポツリと話始めた。クロードさんは昔、家族と一緒にサナティクトの外れの村の森の奥で暮らしていたらしい。当時のウォルトカリアは魔王の座を巡る戦いで毎日争いがたえなかったらしく、家族で国を出て森の中で暮らしていたらしい。
***
…約700年前…
「おにーちゃん!こっちだよ!」
「なんだよモネ。見せたいものって」
僕は妹のモネに手を引かれて森の中を走っていた。モネがいきなり僕に見せたいものがあるって連れて来られた。本当にいつもいきなりなんだから。
「ほらみてお兄ちゃん!」
「キャン!」
「これって…犬?しかも真っ白だ」
「ね、ね!かわいいでしょ!」
「これって…魔物じゃないか?」
「え!?」
モネに連れられた場所に1匹の白い犬がいた。でもこの感じ普通の犬じゃないし魔物かも知れない。僕もあんまり詳しくないからお父さんに聞かないとわからないな。
「また魔物かよ。本当に魔物に好かれるな。しかも動物型の」
「えーこんなにかわいいのに魔物なの?」
「キューン…」
「お父さんに聞かないとなんの魔物か分からないけどね」
「じゃあ聞いてみようよ!」
「まあ僕も気になるし聞いてみようか」
「おいで。一緒にお家に行こう!」
「キャァン!」
「気をつけろよ」
モネが犬を抱えて家に連れていく。今のところは危なくなさそうだけど、もし何かあったら僕がモネを守らなきゃ。
「ねえお兄ちゃん。この子飼ってもいいかな?」
「さあ。僕は別にいいけど、お父さんとお母さんがなんて言うのか」
「ダメって言われちゃうかなぁ…。最近お母さんなんか困ってそうだったもんね……」
母さんは最近食べ物があんまり手に入らなくて困ってるみたい。そろそろ秋だから冬に備えて食べ物を保管しなきゃいけないから大変そう。モネはまだ小さいからそのことを知らないみたいだ。
「お父さん!お母さん!ただいまー!」
「ただいま」
「おぉ。おかえり2人とも。ん?その抱えてる子はどうしたんだい?」
「この子ね森の中にいたの。小さくて親もいないみたいなの」
「それでお父さん。この子多分魔物みたいだからどんな魔物か教えてほしくて」
「勿論いいぞ。ちょっと待っててな。今図鑑を持ってくるよ」
お父さんは本棚から図鑑を持ってきて僕たちの前に広げてくれた。
「あら、どうしたのその子」
「お母さん!この子ね、森の中にいたの。それで今この子がどんな種族なのかを調べてるの」
「そうなの。本当にモネは動物型の魔物に好かれるわね。その子、モネにベッタリじゃない」
「えへへ。そうでしょ」
「キャァン」
「モネ。ちょっと来てよ」
「なぁにお兄ちゃん?」
「これじゃない?フェンリルっていうみたいだけど」
「おぉそうだかもな。よく見つけたなクロード」
「ちょ、痛いよお父さん…!」
お父さんが僕の頭を力強く撫でる。髪がボサボサになったしお父さんの力加減が下手くそだからちょっと痛い。でもそれ以上に嬉しい気持ちが胸を満たしてる。
「フェンリル…。姿は狼に近く、身体の大きさを自由自在に変えられる魔物。フェンリル自体の魔力も多く、精霊の加護を受けてる個体も多い、だって。凄い!この子こんなに凄い子なんだ!!」
「キャァン!」
「えへへ〜凄いぞ〜!」
「お母さん、フェンリル初めて見たわ」
「ねえお父さんフェンリルってやっぱり危険なの?」
「うーん。フェンリルは賢いし高潔な種族だから無闇やたらに襲ったりはしないから大丈夫だと思うかな。それにこんなにモネに懐いてるなら平気だろうね。でも見た感じこのフェンリルはまだ子供だし親はいないのかな」
「この子にあった時は近くにこの子のお父さんやお母さんはいなかったよ。この子が1人で弱ってたの」
「そうか…じゃあ親と逸れたかもういないのかもな」
「あら、可哀想ね……」
「ねえお父さん、お母さん。この子うちで飼っちゃダメ?」
「うーん…そうだな……」
「そうねぇ…」
やっぱり2人は悩んでる。でもモネはもうこの子は放って置けないだろうしここは僕がなんとか説得しないとダメかな。
「お父さん、お母さん。僕からもお願い。世話は僕とモネでちゃんとするし、それに番犬にもなるだろ?ねぇダメかな?」
「そうだな……」
「…ねぇ貴方。この子たちがここまで言うんならいいんじゃないかしら。それに最近人間の村の方が怪しい動きをしてるし…」
「そう、だな。よし!いいぞこの子をうちで飼うのを許可する!」
「やったぁ!!」
「キャン!」
「だが世話はちゃんとするんだぞ。フェンリルは普通の動物と違って長生きだ。私たち魔族よりも長生きすることもある。それでもちゃんと責任をもって世話をできるか?」
「うん!する、するよ!ね、お兄ちゃん!」
「うん。僕もちゃんと世話をする」
「よし、約束だからな」
「はーい!えへへ、そしたら名前をつけないとね。うーん…どんな名前がいいかなぁ」
「白いしそれに関係した名前がいいんじゃない?」
「うーん……あ、お母さん。前に昔の言葉教えてくれたよね。それで狼ってどういう意味だっけ?」
「狼?ウォルフって意味よ」
「ウォルフ、ウォルフかぁ。かっこいい!よし、今日から君はウォルフだ!よろしくねウォルフ」
「キャン!!」
「うふふ嬉しそうね」
ウォルフと名付けられたフェンリルは嬉しそうに駆け回ってる。モネは生まれてから角が小さくて魔力が極端に少なかったから僕がずっとモネを守ってたけどあんなにモネに懐いてたらウォルフもきっとモネのことを守ってくれる。でもモネを守るのは僕だけどね。だって僕はモネのお兄ちゃんだから。
「ウォルフの寝床とかも作らなきゃ。お母さん手伝って!」
「えぇ勿論」
「お父さん。魔法教えて」
「いいよ。それじゃあ外に出ようか」
「2人とも気をつけてね」
「気をつけてね〜!」
家の外に出てお父さんに魔法を教えてもらう。お父さんは魔法を使うのでがうまくて僕によく魔法を教えてくれる。何かあった時に魔法が使えた方が便利だからってよく言ってる。
「それじゃあ昨日教えた風の第三呪文をやってご覧」
「うん。風の第三呪文:スカイアップ!」
呪文を唱えると魔法で風が生まれて身体が浮かび上がる。空中で身体を保つのは難しいけどなんとか堪える。
「うん、上手くできてる。よし降りてきていいよ」
「う、ん。…よっと。ふぅ…いつ落ちるかヒヤヒヤした」
「この年でここまでできるのはさすが俺の息子だ!」
「ふん。これくらいできて当然だよ」
「この調子ならいつかは最上級魔法もできるようになるかもな。だが、忘れちゃダメだぞ。魔法は使い方次第だ。人を守ることもできるが人を傷つけることもできる。使い方を間違っちゃダメだぞ」
「分かってるよ。僕はモネを守るためにお父さんから魔法を教えてもらってるんだから」
「うん。クロードは本当に偉いな。それと…」
「究極魔法は使うな、でしょ。いっつも聞いてるから聞き飽きたよ」
「大事なことだからいつも言ってるんだぞ。究極魔法は加護を受けてない者が使うとどうなるか分からないんだ。大昔にも究極魔法を使った魔人が永遠に目覚めなかったて話もあるんだぞ」
「分かってるよ。そんなもの使わないから」
「分かったならよろしい。それじゃ今日は1つステップアップしようか。今まで教えてたのは初級魔法だったが今から教えるのは中級魔法と言われるものだ。魔法については前に教えてただろ」
「うん。4〜6の呪文が中級魔法でしょ。ちゃんと覚えてるよ」
「よく覚えてたな。中級魔法は今まで教えてた初級魔法よりも難しくなるし威力も上がる。気をつけて扱うんだぞ」
「うん!」
「まずは氷の第四呪文:ホワイトアウトを教えようか。この魔法は霧を出して視界を遮る魔法だ。中級魔法の中でもコントロールをあまり必要しない魔法だからまずはこの魔法から始めよう」
「わかった。氷の第四呪文:ホワイトアウト!」
プシュー………
「…できない」
呪文を唱えても手のひらから少し霧ができるだけ。視界を遮るほどまで霧ができなかった。初級魔法は初めてでもできたのに…。
「あはは!少しだけど出来てたよ。まあ初めてで少し出来てるのは流石だな。初めて中級魔法を使う時は大体暴発するからね。暴発しないだけ大したもんだよ」
「んー……ちょっと分かった気がする」
「本当に?まあ気をつけてもう一回やってみな」
「うん。……氷の第四呪文:ホワイトアウト!」
もう一回呪文を唱えればさっきとは違って霧が全体に広がった目の前が見えなくなる。近くにいたお父さんまで見えなくなるくらい霧が濃くなった。
「やった!できた!!」
「まさか本当に出来るとは…」
「ね、できたでしょ!」
「あ、あぁ。まさかここまでとは。本当にクロードには魔法の才能があるなぁ。ちなみにどうやったか教えてくれるか?」
「えっと…魔力をグーっと集めて呪文を唱える時に一気に魔力をばっと解放する感じかなぁ」
「うーん…クロードは感覚派かぁ。まあでもすぐにここまでできる人をみるのは俺でも初めてだなぁ。本当に凄いよクロード!」
「えへへ……。まあモネを守るために早くたくさんの魔法を覚えたいからね」
「その心意気は立派だがあんまり無理はするなよ。お前はまだ子供なんだから」
「子供って…、あと数年で僕は成人するんだよ」
「そっか。もうそんな歳か。子供は成長が早いなぁ」
「お兄ちゃーん、お父さーんご飯だよー!!」
「はーい!今行くよー。さ、今日はここまでにしようか。いくらクロードの魔力が多くても無理は良くないからね」
「うん。ほら早く行こ!」
「ははっ!本当に子供は元気だなぁ」




