65話 脱出
真実を知り最初に沸き起こった感情は無だった。突然目の前に投げつけられた事実にただ茫然とするだけだった。そしてすぐに怒りが沸き起こってきた。身体中の血が沸騰するように身体が熱くなり俺の口から出た声はドス黒く俺自身も聞いたことがないものだった。
「何故だ!!何故そんなことができる!!お前ら人間はなんなんだ!!!」
「はぁ…はぁ……。国の研究者がいきなり始めたんです。魔王の身体を有効活用できると言って……」
「お前はアイリスの身体と知りながら移植を受けたのか!!何が魔族は心のない化け物だ、お前らの方がよっぽど化け物じゃないか!!!」
「……返す言葉がありません」
「お前ら人間はよく分かった……。このまま放っておいてもお前は死ぬが俺が直接引導を渡してやる」
両手で硬く剣を握りしめ剣先を心臓に狙いをつける。………何故だ。なんでそんな顔をする。まるで全て自分が悪かったかのように悲しそうな顔をする。何故怯えない。今から殺されるだぞ。なんでなんだ…。
「地獄で悔い改めろ」
高く持ち上げた剣を振り下ろす。俺の決意は揺るがない。俺は俺自身の野望の為に、アイリスの為に…。
「ストーップ!」
突如何処からか聞きなれない男の声が聞こえてきた。すると突然炎が目の前で燃え上がる。俺は咄嗟に後ろに飛び退き炎を避ける。なんだこの炎…。普通の炎魔法とは違う気配がする。
「やっほー!セリオス元気〜?」
「この様子で元気に見えるなら病院への受診を推奨、しますよ。ゲホッ…!」
「冗談が言えるなら意外とだいじょぶそーだね。そ、れ、とやっと会えたね。クロード!」
炎と共に現れた男は俺の名前を呼んだ。糸目の男の服装からしてあの男の仲間だろう。さっき読んでいた増援か。だが、まずい…もう魔力は殆ど残っていない。移動魔法でここから逃げることもできない。どうする…。肉弾戦に持ち込もうにもこの怪我じゃまともに戦える筈がない。どうする……。
「ありゃ?この様子じゃ覚えてないかぁ…。残念だなぁ。まあ仕方ないか」
「??」
「ルイ副団長。貴方何を、言ってるんですか…」
「こっちの話。さて、と。僕としては君と戦うつもりはないよ。こっちは早くセリオスを連れ帰らなきゃいけないからね」
「ルイ副団長!私のことは構いません!クロードを捕縛できるチャンスはここしかありません!ゲホッ…!貴方ならできます!!ですから…」
「う〜ん僕としてはセリオスを死なせる訳にはいかないからね〜」
「何を話してる。俺としてもそいつに逃げられる訳にはいかないんだ」
「え〜引いてくれなさそうな感じ?困ったな〜」
なんなんだこいつ。明らかに場違い過ぎる。俺としても戦わずに済むのは願ったり叶ったりだ。だが、このままコイツらを逃せば俺が生きていることがバレる。そしたら今後行動がしにくくなる。どうする……。
「クロードさん!!」
「アオォン!」
「お前、なんで…!?」
俺の背後からデカくなったヴァイスの背に乗ったアイツが来た。なんでここにいる。魔石工房で待ってろと言った筈だろ!!
「クロードさんが心配で。酷い怪我………ルイさん…!!」
「ガルルルル……」
「あ、リリィちゃんじゃーん!さっきぶり〜」
「お前知り合いなのか?」
「知り合い、なんですかね?でも色々あって…」
「リリィちゃんが来ちゃったらますます逃げないといけなくなっちゃったなぁ」
「おい!待て!!」
「クロードさんその怪我じゃ…大人しくしてないと」
「クソっ…!」
今ばかりはコイツの言う通りだ。コイツらを逃すのはもう仕方ない…。アイリスの身体を取り戻し情報を聞き出せただけで十分だ。今後のことは後で考えるしかない。
「じゃ、そう言うことで〜!あ、そうだリリィちゃんに言わなきゃいけないことがあったんだった」
「な、なんですか」
「君のお兄さん、ダリアくんについて調べてみたけど、な〜んにも出てこなかったんだ。お兄さん本当にいるの?」
「え…?」
「じゃあね〜!」
そう言うと2人は炎に包まれて消えてしまった。やはりあの炎、糸目の男のギフトか。通りで普通の炎魔法とは違うと思った。それにしてもあの男俺のことを知っているような口ぶりだったな。まぁサナティクトの団員なら俺のことを知っていてもおかしくはない、か。
「はっ…!クロードさん大丈夫ですか!酷い怪我…。特に左足が…歩けますか?」
「あぁ。多少は歩ける」
「ヴァイス、クロードさんをお願いできる?」
「ウァン!」
「おいこっちだ!早く囲め!!」
「まずいな他の奴らが集まって来た…」
戦闘音が止んだから他の団員が集まって来たんだろう。早くここから離れないとダメだな。
「お前身体強化できるんだよな?」
「え、あ、はい!まだ不安定ですけど…」
「ならいい。早くここから離れるぞ。俺はこの脚じゃ動けないからヴァイスに乗っていく」
「わかりました!」
「ヴァイス頼む!」
「ウァン!」
俺が乗ってからヴァイスは一鳴きして建物上に跳び乗った。すごい跳躍力だな。5メートル以上はある建物だが、さすがフェンリルだ。
「お前登ってこれるか!?」
「なんとか!!」
まだ下にいるアイツに声をかける。身体強化が出来るならこの高さは登れるがアイツに登れるか…。
「せーっの…うわぁああー!!!」
アイツが跳び上がったが思ったよりも高く跳びすぎて建物よりも1メートル以上跳んでいる。アイツ着地大丈夫か?
「あぁああぁ!!……おっとっと…。ふー…なんとか上手くいきました」
「おい!上だ!上にいるぞ!早く捕まえろ!」
「うわっ!下に凄い人が集まってますよ!」
「建物の上を乗り継いでい逃げるか。行くぞ!」
「はい!」
ヴァイスとアイツが建物の上を跳び回って街の外側に逃げる。ヴァイスの上は揺れて乗り心地がいいとは言えないが贅沢は言えないな。このまま逃げ切れればいいが……。
「やっと追いついたぞ!さあ大人しくしてもらおうか」
「クロードさん囲まれちゃいましたよ…」
先回りしていたのか俺たちを囲み始めた。俺はもう魔力が全くないから戦えない。ヴァイスに戦ってもらうしかないか。
「ヴァイス!!」
「ウゥゥ……ヴァアアン!!!」
「クソっ全員防御魔法だ!」
「今のうちだ!」
ヴァイスの炎魔法で全員防御している間に頭上を跳び上がる。アイツも続いて頭上を飛び上がる。
「な!?逃すなぁ!!」
「早く街の外へ頼む!」
「ウァン!」
背後から魔法が飛んでくるのを感じながらヴァイスは全速力で街の外を目指し走っていく。アイツもヴァイスの横に並んで走っている。短い間でここまで身体強化が出来るのは中々のものだ。アイツは飲み込みが早いな。
「はぁ…はぁ…!クロードさーん!後どれくらい走らなきゃ、はぁ…ダメですかー!!」
「後数分は覚悟しろ」
「ひぃ〜〜!!」
****
「はぁ…はぁ…ゲホッ…!」
「キューン…」
「はぁ…はぁ…はぁ……ヴァイスありがと…はぁ…」
「ここまでくれば大丈夫だろ」
追ってを掻い潜りながらなんとか街の外まで出て林の中まで逃げて来た。今はもう追っての魔力も感じない。やっと逃げ切れたのだろう。
「クロードさん怪我の手当しましょう。ひどい怪我ですよ」
「あぁそうだな。この脚じゃまともに歩けそうにないな」
「私包帯持ってます!」
そう言うと鞄から包帯を取り出した。そう言えばこの脚どうしようか。ローブの下に隠しながら持って来たが空間魔法が使えない今何処にしまおうか悩むな…。
「クロードさん傷見せてください。…クロードさんなんですかそれ??」
「あぁ脚だ」
「脚?」
「魔族の脚だ」
「へ?」
「だから魔族の…」
「わー!!聞こえてましたよ!ちょっと混乱しちゃって…。てか、なんてもの持ってるんですか!?」
「色々事情があってな」
「どんな事情で脚を拾うんですか!」
「…まぁお前には話しておくか」
「??」
「この脚は団長から奪ったものだ。団長たちは全員魔王の身体を移植されているらしい。それがこの脚だ」
「え…じゃあそれがアイリスさんの……う、うぅ…」
無理もないな。今まで普通に暮らしてたやつがバラされた人体を見て平静でいられる訳がないな。俺も正直アイリスのこの身体を見るのは精神的にキツい。今までいくつもの死体を見てきたといえ知り合いの、ましてやアイリスのこんな状態は見たくはない。一刻も早く全ての身体を取り戻さなければ。
「で、でもこれでアイリスさんの身体の行方は分かったんですね」
「あぁ。大分いい情報だ。適当に暴れればいずれは団長が…」
「ダメですよそんな!今でさえボロボロなのに他の団長と戦ったら今度はタダじゃ済まないかも知れないんですよ!!」
「………」
今回ばかりは何も言い返せないな。ただでさえ今こんな状態だ。魔力をほとんど使い果たし身体はボロボロ。他の団長はさっき戦ったアイツよりも強いかも知れない。それに戦うには団長だけじゃない。竜の騎士団全体を敵に回すんだ。俺1人じゃ厳しいかも知れない。
「…お前の言う通りだな。まずは魔力と傷を治すのに注力しよう。何処かに身を潜めて数日もすれば良くなるだろう」
「数日…クロードさん。私伝えなきゃいけないことがあるんです」
「なんだ」
「その……」
随分と言いづらそうだな。俺と別れいる間に何かあったのか。
「…ノアさんが攫われて、クロードさんの魔石も一緒に持っていかれちゃったんです」
「な、まさか人攫いか!?」
「いや、副団長のルイさんです。クロードさんが魔族だって分かってて、関わりがあるノアさんを連れていっちゃたんです。ルイさんはノアさんを連れて行く時こう言ったんです。トレイダ街のオークションにノアさんを連れて行く、五日後までに来ないとノアさんがどうなるか分からないって…」
「トレイダ街のオークション会場…!」
クソっ!なんでよりにもよってあんなところに連れて行かれたんだ!五日後…そう言うと言うことは五日後にオークションが始まってしまうのだろう。なら五日後までに助けに行かなければアイツがオークションにかけられるかもしれない…!なんのためにそんなことをするのか分からない。だが、助けに行かなければ!
「分かった…。すぐにでもトレイダ街に向かうぞ」
「クロードさん!そんな怪我じゃ無理ですよ!それにトレイダ街が何処にあるかなんて…」
「ワン!ワオン!!」
「ヴァイス何、この紙?地図?」
ヴァイスは鞄を漁って何やら紙を取り出して来た。地図のようだがなんの地図だ?
「クロードさんこれ見てください!」
「なんだ。…ヒスイ街からトレイダ街への地図。お前何処でこんなものを」
「私も知りませんよ。いつの間に鞄の中に…」
もしやあの副団長の仕業か?人を攫った上でまるで助けに来いと言っているようなものだ。一体何がしたいんだ。まさか罠か?だが、たとえ罠だとしても行かない訳にはいかない。
「この地図通りなら今から出発すれば五日までにはトレイダ街には着く。行くぞ」
「でもその怪我じゃ…」
「俺なら大丈夫だ。ヴァイスに乗せてもらう。頼めるか」
「ワン!」
「………クロードさんがそこまで言うなら分かりました。でも無茶はしないでくださいね」
「あぁ。分かってる」
俺たちはトレイダ街に出発した。やっとアイリスの身体の行方が分かった。取り戻したのは右脚。残りの身体はまだまだある。なんとしでも全てを取り戻す。全てを取り戻すまで俺は死ねない。




