6話 追憶
「ねぇクロード」
「なんだ」
こいつが溜めに溜め込んだ書類を片付けていると、俺の仕事机に腰掛けてきた。いい加減自分で書類ぐらいやってくれないか。
「あいにく俺は今、お前が溜め込んだ書類を片付けるのに忙しいんだが。それにちょっと前に森から変な果物も持ってくるし。少しは仕事しろ」
「えーいいじゃん少しぐらい話しても」
「じゃあ自分で書類をやったらどうだ」
「ごめんなさい。いつも助かってますクロード様」
「手のひら返しやがって」
こいつは暴れるだけ暴れてその後のことは俺たち四芒星に任せっぱなしだ。そもそもこいつが強すぎるんだから四芒星って必要か?一応親衛隊なんだが。
「まあまあ、それやりながらでもいいから話だけでも聞いてよ」
「で話ってなんだ」
「最近ね魔獣ちゃんたちが人間を襲っているんだって」
「最近っていうかずっと昔からだろ。こればかりは仕方ない。あいつらは本能に従って人間を襲ってるんだ」
「でもね私自身は魔獣たちが人間のみんなを襲うのやめて欲しいんだよ」
「お前は相変わらずだな。だが今回は流石のお前でも無理だ。魔獣は俺たちの言葉なんて通じない。だから人間を襲わないよう説得なんてできない」
「うーん……」
「それにあいつらも生きる為にやってるんだ。俺たちとは違って魔獣は食べ物を作ることはできない。だから襲うんだ」
「生きる為に襲うね…でも人間も必死に生きてるんだよ。必死に生きてきたのに他の人が生きる為だって自分が殺されるのは嫌でしょ」
「それは、そうだが…」
「でしょ!それにメイちゃんも魔獣が怖いって言ってるし」
メイというのは最近アイリスが持って帰ってきた人間の子供のことだ。仮にも魔族の王が人間の子供を連れて帰ってくるなんてどうなのかと思うがこいつのことだからそんなこと気にしていないんだろう。そのメイは人間の5歳くらい。小さくそして脆い。そのメイが最近街を襲ってきた魔獣を見て泣きべそをかいていた。十中八九それが今回の原因だろう。アイリスはメイを猫可愛がり、娘の様に扱っている。俺にはよく分からん。
そのアイリスが俺に同意を求める様に人差し指を立ててこちらに向ける。
「指さすな」
俺にむけた人差し指をグニッと曲げる。
「いでっっ!!」
アイリスは人差し指をふーふーと息を吹きかけている。こいつ、ドラゴンに叩きつけられても骨が1本も折れなかったくせに痛がりすぎだろ。
「魔獣に人間を襲わせたくないというのはわかった。だがその後はどうする。国で魔獣全員を世話できるほどの金はねぇぞ」
「むむむ……」
アイリスは顎に手を添えて悩んでいる。世の中そんなに簡単じゃない。取捨選択が必要だ。何かを得る為には何かを捨てなくてはならない。
「あーー!!!」
「うおっ!?なんだ急に大声出して」
「考えすぎて頭混乱してきた!少し外出てくる!!」
そう言って窓から外に飛び出していった。ここ、地上から5メートル以上はあるんだが…
あいつが外に飛び出していってから1時間以上経った。目の前の書類を片付けるのに忙しい過ぎて他の奴にアイリスを探させてる。アイリスの場所は教えておいたからそろそろ見つかる頃合いかもな。
「大変ですクロード様!!」
「どうした。そんなに慌てて」
城のメイドが部屋に駆け込んで来る。普段は部屋に入る前は必ずノックをするはずが今回はしなかった。それほどのおおごとか。
「いなくなった、アイリス様を、探しに行ったローザ様から、連絡が、あったの、ですが……はぁはぁ…」
「落ち着け。ゆっくり喋るんだ」
「はぁはぁ…ア、アイリス様が魔獣を全員制圧してしまったと報告が!!」
「ハァ!?何やってんだあいつは!」
「ど、どうしましょう!」
「とにかくアイリスの元に行くぞ!」
「はい!」
本当に何やってんだ!あの馬鹿は。呆れて言葉もでねぇ。とにかく急いでアイリスの元に向かわねぇと。
移動魔法でアイリスの元に向かうと、魔獣の山が出来上がっていた。
「あ、やっときたのね。クロード」
「一体どうしてこうなったんだ…」
ローザも珍しく焦っている様で額に冷や汗が浮かんでいる。
「まさかアイリス様を探しに行ったら、こんなものが出来上がっていたなんて。流石の私も酔いが覚めちゃったわ」
「あ、みんなー!」
アイリスがこちらに気づいたらしく、満面の笑みで手を振りながらこちらに来る。表情と現状が噛み合ってない。
「何やってんだよお前!頭使いすぎてついに狂ったかのか」
「違うよー心外だな。私なりに考えた結果だよ」
「まあ、2人とも一旦落ち着いて。魔獣たちは誰も死んでないみたいなんだから」
「そうだよ誰も殺してないんだから問題なし!」
「よくねぇよ!」
「イタッ!!」
アイリスの頭を叩くとスパンッといい音が鳴った。死んでなかったからいいものの、最悪1つの種族が絶滅するところだったんだ。アイリスならやろうと思えばできてしまう。
「もー叩かなくたっていいじゃん」
「2人とも喧嘩はダメよ〜」
「お前、最悪魔獣を絶滅させるところだったんだぞ」
「ちゃんと力抑えてたんだから大丈夫だよ」
「そういうことじゃなくてだな…」
だめだこいつ。全然話が通じない。
「そもそも何でこんなことしたんだ。もしかして魔獣が人間を襲わない様に全員のしたってことか?」
「ちがうよー。だってさ魔獣って一番強い個体をリーダーにするんでしょ。だったら私が1番強いって分からせたら、私がリーダーってことになるでしょ」
「流石!無茶苦茶するわねアイリス様♡」
「た、確かに一理あるが…」
たまにこいつは突拍子のないことを考える。だが考えることは大体こいつにしかできない無茶苦茶なことだ。
「で、この子達が国のお手伝いをして、その対価にこの子達のお世話をしてあげるっていうのはどう?」
「だが、そんな世話をするほど国に余裕はないぞ」
「それがねいい方法があるの」
「何?」
「ちょっと前に私が持ってきた果物があったじゃん」
「ああ、あれか。味はものすごく酷かったがな」
アイリスが少し前に仕事から抜け出して、森に行った時に持ってきたみたことのない果物のことか。試しに俺が食べてみたが、舌が千切りたくなるほど不味いものだった。あの果物がどうかしたのか?
「それでね、その果物にキリアが興味持って。最近新しい発見があったんだって」
「なんだって?」
「そ、実はあの果物魔力で味が変わるんだって」
「な、そうだったのか…」
「そ。キリアが言うには果物にじっくり魔力を与えて育たせるとすっご〜く不味くなるけど、一気に魔力を与えるとすごく美味しくなるんだって」
成る程。自然には魔力が存在する。だが果物を育たせると程の魔力を一気に送り込める程じゃない。だが完全に育ちきる前に人の手で一気に魔力を送り込む。そうすればあの不味い果物にならないのか。
「それでその果物を使えば魔獣たちの食料問題解決するんじゃない?」
「確かに、労働の対価に食料を補償する。これで魔獣たちは食料のために人間を襲う理由もなくなる」
「で、私がリーダーになったから魔獣ちゃんたちに人間を襲わない様に命令できる。これで魔獣たちの問題も解決よ!」
「まさに一石二鳥ねぇ」
「流石ですアイリス様!」
「はっはー!もっと褒めたまえ!!」
「魔王の器に相応しいお方!」
「もう褒めすぎたってローザ!も〜照れちゃうじゃん」
2人でよく盛り上がってるな。だが、本当に魔獣問題が解決するなんてな。最近魔王に就任したアイリスが、ずっと昔からあった問題を解決するなんて。アイリスはこの先もずっと語り継がれる魔王になるかもしれない。