57話 1番嫌いな生物
街の外側に来てみれば案の定中央より治安が悪そうだ。ここの裏路地になら金がないような人間がうろついてるだろう。
「やっぱりな」
裏路地には酒に大量に煽っている奴に、地面に寝そべってる奴がいる。金でも渡せば少しは話を聞けるだろう。
「おい」
「あぁ?なんだぁテメェ?」
酒臭いな。ずっと酒を飲んでるのか酔って顔が赤いし息もアルコールの匂いがする。服もボロボロだ。本当に昔からこんな場所は変わらない。人間も、環境も。
「話を聞きたい。金ならある」
「ハハッ!そりゃあいい。ヒック、金をくれりゃあなんでも話すぜ」
「金は後払いだ。内容による」
「チッ……まぁいい。で、何が聞きたいんだ」
「魔王アイリスのことだ。お前でも知っているだろう」
「魔王アイリスだぁ!?ふっざけんなよテメェ!魔王の名前なんて出しやがって!酔いが覚めちまった。せっかく人が気持ちよく酔ってたのによぉ」
「………すまん」
やはりこういう反応をされるか。街中でこんな反応をされたら面倒なことになるところだった。それにしてもアイリスはお前たち人間に何をしたっていうんだ。アイリスが魔王になってから俺たち魔族は人間に害を与えなかっただろう。そこまでなぜアイリスを憎む。
「金もらえんだ。いいぜ。分かるだけのことは話してやるよ。そもそも俺は魔王のせいで人生を滅茶苦茶にされたんだ」
「どういうことだ」
「なんだよ…。んなおっかねぇ顔すんな。とにかく俺はあの大戦のせいで最悪な目にあったんだ」
「そこまでのことがあったのか」
「お前若いのに知らねぇのかよ。徴兵だよ徴兵。俺は多少魔法が使えたから徴兵されたんだ。そのせいで戦いに巻き込まれてほら見ろよ」
「!!」
男がズボンを捲り上げるとあるはずの脚がなかった。座っていて足元まで見ていなかったから気づかなかった。確かにこの男からは魔力を感じる。魔法が使えると言ったのは嘘ではないようだ。
「この通り俺は片脚を無くしちまった。そのせいで退役したあとは碌に働けなくなっちまってこの有様だ。クソっそもそも国王の野郎が急に魔王に挑むなんて言い出したからだ」
「それなら魔王はなんも悪くない」
「んな訳あるか!魔王はよぉ。魔獣を俺たちにけしかけてきて大量に殺したんだよ!それにそもそもアイツが大人しく殺されてりゃ…。なんで勇者は封印なんて甘いことしたんだ。完全に殺しちまえばよかったのによ」
「その魔獣は本当に魔王がやったのか」
「当たり前だろ!魔王は魔獣を統率してたんだ。魔獣を指揮できるなんて魔王だけだ」
「魔王は人間を襲うような奴じゃない。魔獣は自分たちの意思に従っただけだ」
「お前に何がわかんだよ!お前と話してるとイライラする……」
つい頭に血がのぼって考えなしに話してしまった。少し冷静にならないといけないな。それにしてもこの国の王は徴兵までしたのか。何故そこまでしてウォルカリアと戦争をしたかったんだ。アイリスはサナティクト王国にとって不利益なことはしなかった。それに魔王と挑むなんて無謀なことをする人間なんてここ数百年現れなかったぞ。
「後は、そうだな。魔王の体はバラバラになって封印されたって知ってか?」
「あぁ。勿論だ」
「そのアイリスの体を研究してるって話を騎士団で療養してる時に聞いたんだ。その研究してる研究者が騎士団の中でもマッド寄りの奴だったからどんな研究をしてたんだろうなぁ。アッハッハッハ!!」
「マッド、か」
「そうだ。そいつはキメラを作ろうとしてたり中々問題がある奴だったみたいだ。でも腕はいいから研究所にいれたみたいだぜ。ま、これも誰かから聞いた話だからよ。本当かは知らないぜ」
キリアも蘇生やゾンビについての研究をしてたな。それに人体に関してならローザも詳しい。体の一つでも取り返せれば二人に頼んで復活の目処が立つかもしれない。その為に何としてでも団長からアイリスの体の行方を無理矢理にでも聞かないといけない。
「これ以上俺は知らねぇぞ。ほらさっさと金をよこせ」
「あぁ。そうだったな。あと二日後に来る団長のことを知ってるか?」
「団長?あぁセリオスか。国王の駒使いだな。そういやそろそろ来る時期か。俺は知らねぇよ。俺が所属してた団じゃねぇからな。もういいか?俺は酒を買いに行きてぇんだが」
「すまないな。これは駄賃だ」
「へへっ!太っ腹だなぁ」
コイツに金を渡せば満足そうに笑って手のひらで硬貨を弄っている。
「きゃあーー!!!」
「何だ」
「人攫いじゃねぇか?」
「チッ…やっぱりまだいんのか」
本当に変わらない。相変わらず腐ってる…。
「助けて!誰かー!!」
「クソッ……!」
「あ、おい!」
声が聞こえてきた方に走っていく。フードが外れないように走るのは億劫だがこればっかりは仕方ない。巻き込まれてる奴は俺の知らない奴だ。だがこればっかりは見逃せない。人攫いなんて腐った真似しやがって!
「おい、何してんだ」
「あ?なんだぁテメェ?」
「た、助けて…」
行き着いた先は行き止まりで男が女の腕を掴んでいた。女は涙を浮かべて男の片手には縄が握られている。明らかに人攫いの現場だ。
「おい。その手を離したらどうだ」
「テメェこの女のなんだよ」
「誰でもない。だが俺はこの世で1番嫌いな生物は人攫いなんだ」
「ハッ!正義のヒーローでも気取ってんのかよ!死ねや!!」
男が懐からナイフを取り出して俺の方に走ってきた。感情に任せた単調な攻撃だな…。男の腕を掴んで手首を捻る。
「グアッ!!」
痛みでナイフを落としたらそのまま男の腹に蹴りを一発いれる。痛みで腹を抱えながらしゃがみこむ。口から悶え声が漏れ出して苦しんでいる。いい気味だ。
「オエッ…ゲホッゴホッ……。クソッ調子に、のりやがって」
「これ以上痛い目に遭いたくなかったらさっさと俺の前から失せろ」
「ゲホッ……クソ、が…」
男は腹を抱えながら去っていった。強がっていた割には対したことなかったな。魔法を使えば目立つかもしれないから使わなかったがあの程度なら問題なかったな。
「あ、あのありがとうございました」
「別にお前を助けた訳じゃない。あの男が不快だっただけだ」
「それでもありがとうございます!あのお礼になるもの私持ってなくて……」
「礼はいらない。あと、こういう場所にはもう近づくな。また同じ目に遭うぞ」
「は、はい!本当にありがとうございました!!このご恩は一生忘れません!」
そういうと女は走り去っていった。あの男もう少し懲らしめればよかったな。今はもう人攫いは違法なんじゃなっかったのか。治安がいいと言っても裏ではこんなものか。
「さてこれからどうするか……」
アイリスのことは多少聞けたが肝心のアイリスの体の場所は分からなかった。研究者がアイリスの体を研究してると言ってたが、アイリスの体を研究なんかして何になるんだ。ただの亜人だぞ。他の人よりも魔力は段違いに多いが…。
「あとは団長の情報だが、こればっかりはあまり期待できないな。強者は自分の情報を隠したがるものだ」
それに団長ともなれば国の方が情報を隠蔽するだろう。10年前の大戦でいた団長なら少しは覚えてるが、どうだか…。
「こんなところじゃ考えは纏まらないか。一回宿にでも戻るか」
「さて、宿に戻ってきたが…」
宿に戻る途中で昼飯と紙をインク、ペンを買ってきた。机に紙を広げてペンにインク壺をいれる。
「今、分かってるとことはこれくらいか」
・アイリスの体は角、両目、両手足に心臓に分けて封印された
・ジャッカスの安否
・アイリスの体を研究している研究者がいた
「そういえばカシワ村の村長が、アイリスの力を取り出して国の兵士を強化したって噂があると言ってたな。それが研究の成果か?だがアイリスに特別な力なんてないだろ。魔力でも取り出したのか?」
アイリスの魔力はどの種族よりも多い魔力を持ってる。その魔力を何かに利用したとすれば確かに兵士の強化は可能かもしれない。
「いや、待てよ。そもそも何故アイリスを封印なんかしたんだ?」
裏路地にいた男も言っていた。何故アイリスを殺さずに封印したんだ。勇者には聖剣があったんだ。聖剣ならアイリスでも殺せたはずだ。
「なんで10年も俺は気づかなかったんだ……バカなのか…」
当時はそんなことを気にする時間なんてなかったが、今考えればすぐに分かることじゃないか。ウォルトカリアへの襲撃に部下が大勢倒れていったこと、そしてアイリスの封印。他にも色々あったが当時はあのアイリスが封印されたことが衝撃過ぎて聖剣のことなんて頭から抜けていた。
「だとすれば、聖剣があるにもかかわらず何故勇者はアイリスを封印なんてしたんだ」
聖剣。魔のものを討ち払う聖なる力を持った魔剣。当然その力は亜人にも当然効く。聖剣で斬られた魔族は悶え苦しむ。という噂がある。その力は魔族であるアイリスにも当然効くはずだ。何故だ?
「封印しなきゃいけない事情があった…。いや封印してもし何かあったら封印はリスクが高すぎる。何故そこまでしてアイリスを封印した。まさか、最初からアイリスの身体を利用する目的で…?いやそれはないか。そんな目的で徴兵までする理由が分からない」
紙にさらに書き込む。
・アイリスを封印した理由は?
→アイリスの身体を利用する為?(リスクが高すぎる)
→聖剣の力がアイリスに効かなかった?(魔族であるアイリスに効かない訳がない)
「アイリスに聖剣が効かないの仮説はまずあり得ないな。アイリスに聖剣の力が効かない理由が分からない。アイリスにそんな力があるなんて話聞いたことないしな」
紙に次の目的を書き込んでいく。
・アイリスの身体の行方を探し、全て集める
・王都の結界を突破する手立てを探る
・キリアとローザ、メイの行方を探す
・団長の力を探る
「こんなものか。あとは…………」
・リリィの兄を見つける
書き込んだ文字を見つめる。本当に必要なのか?こんなことしても俺に何もメリットはないし時間もかかる。だがどうしても見ないふりをするのはできない。アイツが兄を探してると言って俺と重ねてしまった。アイツも天涯孤独。つくづく俺と似てるな。
「重ねすぎか…」
書いた文字を黒塗りにして消す。アイツの事情はアイツでかたをつければいい。俺には関係ない話だ。
「疲れた…。久しぶりに頭を使ったな。今まで一人だったから考えることなんてなかったしな………」
ベットに背中から倒れる。ベットがボフンと大きな音をたてる。腹減ったな……。せっかく昼飯を買ってきたのに起き上がる気力がない。だがこのままだと昼飯がダメになる。
「はぁ……昼飯食うか…」




