5話 家の結界
「ここが私の家です。どうぞ入ってください」
ここが人間の家か。森の中にぽつんとたっている。見た感じ普通の家だ。
家の中も少し広いくらいで普通だな。まあ家族で暮らしてたって言ってたから、家族で暮らすぐらいならちょうどいいくらいか。
「私、お茶淹れてきますね。椅子に座って待っててください」
人間がキッチンの方に行くとカチャカチャと茶を準備する音が聞こえる。せっかくだから椅子に座ると椅子がギシッと音をたてる。長く使われているんだろう。
だがこの家はおかしい。見た感じは普通だが、その見た目にそぐわない程の結界魔法が張られている。俺は小難しい魔法は苦手だから詳しいことはわからない。
こういう魔法はキリアの得意分野だったな。あいつは独自の魔法を開発してた。俺も少し興味があって話を聞いてみたが、よくわからなかった。天才は俺たちとは違う脳の作りでもしてんのかもな。
だが高度の結界魔法だが魔族の俺が入れる。結界魔法の効果がよくわからない。そもそもこんな高度な魔法誰がかけたんだ。あの人間は魔力は多いが魔法は使えない。あの人間がこの結界を張ったとは考えられない。
あの人間の魔力量が遺伝だとしたら、人間の親が魔術師だったのかも知れない。だとしてもこんな結界魔法を使えるのは魔族でもそういないぞ。
「お待たせしました。お茶にお砂糖入れますか?」
考えごとしてたら人間がお茶淹れて持ってきたらしい。ちょうどいい。こいつに親がどんなやつだったか聞いてみてもいいかもな。
「いや、そのままでいい。だがお前に少し聞きたいことがあるんだがいいか」
「はい。いいですよ」
「お前の親、魔法は使えたか?」
「魔法ですか?いえ、私の家族はみんな使えませんが…なんでそんなことを?」
「いや、ただの興味だ」
「そうですか」
人間はよくわからない顔をしている。それもそうか。いきなりお前の親は魔法使えるか、なんて会ったばかりのやつに聞くことでもないか。それならこいつの魔力量は突然変異ってことか。
魔族でもよくある話だ。両親の魔力量はは並程度だったが、産まれた子供は魔力量が両親よりも倍以上あったという。魔族軍にもそういう奴はたくさんいた。
「私のことは聞かないんですね」
「どういうことだ」
「だってこんな森で1人で暮らしてるなんておかしな話でしょ」
「気になってはいたが、聞いていいことと悪いことがあるだろ。俺にだって聞かれたくないことが沢山ある」
「気になってはいたんですね。よかった」
「は?」
「だって初めて会った人に私のこと気になってない、なんて言われたら悲しいでしょ」
「そういうものか」
「そういうものですよ」
こいつと話してると調子が狂う。こいつは他の人間と違って俺を魔族という括りではなく、俺自身として見てくる。
「お前、名前はなんて言ったか」
「あ!やっぱり聞いてたなかったんですね。私リリィです。あなたは?」
「…クロード・モンステラだ」
「クロードさん!改めて、私を助けてくれてありがとうございました!」
「俺のことは他のやつには喋るなよ」
「なんでですか?」
「なんでもだ」
俺のことはまだ言わない方がいいだろう。いくらこいつが他の人間と違うとはいえ、俺のことを売らないという確証はない。
「後1つ、聞いてもいいか」
「はい、もちろんです。命の恩人ですから」
「魔王の体について知ってるか」
「魔王の体??」
この反応は知らないな。髪の色が同じだから何か知っているかと思ったが、やはりただの偶然。何か運命を感じた俺が馬鹿だった。
「クロードさん魔王のこと知ってるんですか?」
「当たり前だ。魔王アイリスのことを知らない魔族なんて存在するか」
「そうなんですね。私も魔王のことは両親に聞いただけで詳しくは知らないんです」
「お前俺が魔族だと知った時といい、魔族に興味があるのか?」
「はい、そうです。」
「人間が魔族に興味があるなんて珍しいな」
「そんなことないです。知らないことを知ろうとするのは当たり前ですよ」
こんな人間がいたなんてな。アイリスが知ったら喜ぶだろうな。
「それに私の両親は昔、魔族に救われたらしいんです」
「そうなのか。珍しいこともあるんだな」
「はい。それから両親は魔族の人と仲良くなったらしく、いい友達だったってよく言いってました」
魔族といい友達だったか。今では考えられないな。
「あの、良ければなんですが私に魔王のこと教えてくれませんか?」
「魔王のことをか?」
「私、魔王のこと知りたいです。両親が仲良くしてた魔族のその王様について知りたいです」
人間が魔王のことを知りたいか。こいつには色々聞いたから少しぐらいなら話しても構わないだろう。
「お前には色々聞いたからな少しぐらいなら構わない」
「本当ですか!」
「ああ。で、何について聞きたいんだ」
「そうですね…。じゃあ魔王に人柄について聞いてもいいですか?」
「わかった。そうだな、魔王アイリスは誰にでも慕われた王の器があるやつだった」
今でも昨日のことの様に思い出す。アイリスの声に仕草、あの笑顔も。