4話 興味と混乱
「(こっちで間違い無いな)」
悲鳴が聞こえてきた方に歩みを進めると、今にも魔獣が女を襲おうとしている。見た感じ女の方は人間か。だが人間にしては魔力が多い。
それにあいつの髪、アイリスと同じ銀色の髪。
魔族の中で魔力が多い者は稀に髪が銀色になる。魔族の中では銀色の髪というだけで、特別扱いされる。
だがあいつは人間だ。人間で魔力が多いやつは数が少ない。それにしても人間にしては魔力が多すぎる。もしかしたら、あいつはアイリスと何か関係があるのかも知れない。助ける価値はあるだろう。
「(炎の第1呪文:フレイム)」
炎の魔法で魔獣を燃やす。最近の魔獣は野生化して昔より凶暴らしいが、所詮この程度か。
「あの、あなたが助けてくれたんですか?」
人間の女が俺に話しかけてくる。どうやら俺が助けてくれたのか確認しているらしい。
自分が死にそうな時にもこいつは魔法の1つも使わなかった。アイリスと何か関係あると思ったが、期待外れだったか。
「た、助けてくれてありがとうございます。私リリィって言います。あなたは?」
俺に名前を聞いてくるが、あいにく人間に名乗る名はない。それに俺はお尋ね者だ。どこから俺の居場所がバレて、人間に襲われるかわからない。まあ人間ごときに負ける俺では無いがな。
人間に背を向けて歩き出す。後ろで何か叫んでいるが関係ない。俺は1秒でも早くアイリスの情報を1つでも手に入れなくてはいけない。人間ごときに構っている暇はない。
急に服を引っ張られ、少しよろける。その勢いでフードが外れてしまった。
「え、」
フードは被ってる間だけしか魔法は発揮しない。フードが脱げれば俺の頭に生えてる2本の角は現れる。見られていい気はしない。
俺の角は片方折れてる。10年前の戦いで折られた。角は魔族にとって魔力の源。角を折られた俺は昔より魔力は減っている。折れた角は俺が負けた証だ。だが、そこら辺のやつには負けやしないだろう。
人間の驚愕した様な声が聞こえる。
所詮人間はこんなものだ。魔族だと分かった瞬間、人間は俺たちに罵詈雑言を浴びせる。こっちが歩みを寄ろうとしても、人間は突き放してくる。
アイリスもそうだ。アイリスは無類の人間好きだった。だから人間に歩み寄ろうとした。人間と魔族が仲良く暮らせる世界を作ろうとした。
そこを人間に裏切られ、封印された。人間は平気で裏切ってくる。そういう奴らだ。
「あなた魔族だったんですか」
人間は目を丸くしながらこちらを見てくる。こいつもそうだ。俺が魔族だとわかった瞬間突き放してくるんだ。
「す、すごい!私、魔族初めて見ました!!」
「…は、」
「わ〜話に聞いてた通り本当に頭に角が生えてる!」
人間が鼻息を荒くしながら至る所をキョロキョロ見回してくる。
「(なんなんだこいつ)」
思わず頭を抱えてしまう。他の人間と違ってこいつは魔族だと知った途端、離れるどころか近づいてくる。今までの人間と違う反応してくるこいつに混乱する。魔獣は怖い癖に魔族は怖くないのか。
まあ魔族と魔獣は全く違う。魔獣は魔族と違って知識も理性も少ない。人間どもは魔族と魔獣が同じ存在だと思い込んでる。
10年前アイリスは魔獣を力で押さえ込み、支配していた。アイリスがいなくなった今、魔獣たちはかつての様に野生を取り戻し人間を襲いはじめた。人間共は自分たちの行いで魔獣を解き放ち自分たちが襲われた。自業自得だな。同情の余地もない。
しまった、こいつがおかしな反応するせいで現実逃避していた。こいつはそーっと手を伸ばしている。
「おい、何しようとしてんだ」
「ごめんなさい!つい、出来心で」
こいつは俺のこと珍獣かなんかと思ってるのか。
「はぁ。俺は忙しいんだじゃあな」
「ま、待ってください!せめてお礼だけでも。私の家この森にあるんです」
「お前この森に住んでるのか」
「はい。生まれたときから家族と一緒に住んでたんです」
住んでたか…こいつも何か訳ありか。めんどくさいから深くは聞かないでおこう。しかし、これはチャンスか。こいつにアイリス関係のことを聞いてみるのもいいかも知れない。俺と違ってこいつは人間と情報は繋がってるかも知れない。
それにこいつの髪色と異常な魔力量。アイリスとは関係ないとは思うが少し探ってみるのもいいだろう。
「仕方ない。家に案内してくれ。森を歩きっぱなしで少し疲れてたんだ」
「本当ですか!ここから私の家遠くないので案内しますね」
せっかくだ。こいつを出来るだけ利用してやろう。