39話 いい魔族
後ろからいきなり魔獣特有の魔力が迫ってきた。背後からの攻撃を避けられたが、1人完全に避けきれなかったみたいだ。アイツを2人のところに移動させ、上空に飛んでいる魔獣を見上げる。アイツが起こす風のせいでフードが脱げそうだ。フードが脱げない様にフードをおさえながら戦うしかないが、みた感じアイツの魔石はさほど大きくはない。魔獣は保有している魔石の大きさで大体の強さが分かるが、アイツの魔石を見ればそこまで強くないのが分かる。
「グギキャアァァァ!!!」
魔獣が大きく鳴き俺を睨んでいる。まさか俺をやれるとでも思っているのか。随分と舐められているな。
「まずは打ち落としてやろう。その上から目線が気に入らない。」
ボガァン!
「ギャアア!!」
「ム」
地の第三呪文:ロックブラスト。岩の弾丸を作り出し相手にぶつける。それまでは良かったが、やはり無口頭魔法だと威力が落ちるし、精度が下がるな。翼に当てて撃ち落とそうと思ったが狙いが外れて胴体に当たった。魔力が減ってから無口頭魔法が上手くいかない。
無口頭魔法は呪文を唱えずに魔法を使う技術。普通に呪文を唱えて魔法を使うより相手に何の呪文を使うのか、魔法をはやく使えるメリットがある。だがそれだけ無口頭魔法を使うには難易度が高い。魔力が減る10年前までは上級魔法までは無口頭魔法で扱えたんだが今は初級魔法でギリギリだ。現に今も初級魔法のロックブラストで狙いを少し外した。また魔法の訓練をした方がいいかもな。
「グギャギャギャギャァ!!」
「水の第三魔法:マリンブークリエ」
水の第三魔法で水の盾を作り魔獣の攻撃を防ぐ。この攻撃は風魔法か。あの魔獣の魔石には風属性の魔力が封じられているらしい。あくまで魔獣は魔石に封じられてる魔力を使って魔法を使う。魔石の魔力を全て消費させてもいいが時間がかかる。
「本当の風魔法はこういうもんだ風の第二呪文:ゼーデルヒープ」
「ギャアアァァ!!」
ドサッ!
第二呪文:ゼーデルヒープでかまいたちを作り片翼を断絶する。翼を片方失い魔獣が落ちてくる。地面に魔獣の血が広がる。さてこれで高さというアドバンテージは無くなった。まあこれくらいなんてことなかったが。
「さて、よくも時間と魔力を消費させてくれたな。俺は先を急がなきゃいけないんだ」
「グギャア……」
「といってもこれ以上魔力を使いたくはないが、ここまで弱れば初級魔法で十分だろう」
「グガガ、ガ……」
雷の第一呪文:スパークで体を感電させ完全に息の根を止める。少し魔力を消費したが、これくらいならこの先でも支障はないだろう。俺には怪我1つない。さて、と…。
「あ、クロードさん!あの鳥倒しちゃったんですね」
「あれくらいは朝飯前だ。それよりも」
「ん?なに?」
怪我をした女の方を見る。思ったよりも傷が深かったみたいだが血は止まってるな。これくらいなら魔法で治るだろう。
「傷、見せてみろ」
「もしかしてクロードさんエルカちゃんの傷治せるんですか?」
「まあ、あんまり得意じゃないがこれくらいなら傷は塞がる。ほら見せろ」
「いてて、どうぞ。うわ、結構グロいなぁ…」
腕に巻いていたハンカチが解かれると腕がざっくり斬られてる。俺は戦いの中で見慣れてしまったが、こいつらにとってはそうじゃないんだよな。さてさっさと治すか。
「水の第四呪文:ルメッドドロップ」
呪文を唱えれば雫が傷口に落ちて傷をジワリと塞いでいき、やがて完全に傷が塞がる。
「これでいいだろう。どうだ、まだ痛むか」
「いや、全然痛くない…」
「よかったぁエルカちゃん」
「ありがとうございます。クロードさん」
「いや、村では世話になったからな。恩を返したまでだ」
事実この2人には随分と世話になった。恩を受けっぱなしていうのも何だか癪に障る。これくらいで恩を返せたかは知らないが。
「…そうですか。それじゃあ改めて私たちは村に戻りますね」
「エルカちゃん傷は…」
「クロードさんが完璧に治してくれたから大丈夫!それにいつまでもここにいたらまた魔獣に襲われるかもだし」
「う〜ん…。それもそうね」
「だ、大丈夫ですか?村に戻るまで間に襲われたりは…」
「この付近にはもう魔力を感じないから大丈夫だ。すぐに村に戻れば大丈夫だろう」
「それじゃあ私たちは村に戻りますね。早く帰らないと村長たちに心配されちゃいますね」
「それじゃあ本当にお別れですね…」
「そうね…。リリィちゃんどうか元気でね」
「はい。レナさんもお元気で」
2人が別れの言葉を交わし抱き合っている。短期間でよくここまで仲良くなったものだな。
「クロードさん」
「なんだ」
「クロードさんって噂に聞いていたよりもいい人なんですね」
「噂?なんだそれ」
俺の噂…まさか………。
「“混沌のクロード”。冷酷な人物だって聞いてたんですけどね」
「……知ってたのか」
「確信を持ったのはついさっきですけどね」
「それを知ってお前はどうするんだ」
「別にどうもしませんよ。もしかして誰かにバラされるの気にしてましたか?そんなことしませんよ。村の救世主様なんですから」
「それは助かるが…。お前は止めないのか」
「…魔王のことですよね。別にどうもしませんよ」
「そうか」
「まあ今回のことで魔族にもいい人はいるんだなって感じましたよ」
そう言ってどこか遠くを見つめている。おそらくあの手紙の人間だろう。あの人間はあの大戦で魔族に殺されたらしいが、こいつはそこまで魔族自体を恨んでいない。俺が魔族だと分かってなお俺を見る目を変えていない。こいつは俺よりも随分と人としてできているな。俺の方が長生きしてるはずなんだがな。
「エルカちゃーん!そろそろ帰りましょー!!」
「あ、じゃあレナが呼んでるんで」
「あぁ」
「それじゃあ最後に」
「なんだ?」
目の前で手を組み目を閉じた。まるで神に祈るかの様に。
「クロードさんたちの旅にどうか女神様の祝福がありますように」
「女神、か。魔族の俺に祝福なんかくれるかね」
「くれますよ。だってクロードさんはいい魔族ですから」
(いい魔族、か。)
俺は沢山の命を奪ってきたのにな……。




