30話 アイリスの噂
「10年前の大戦で魔王アイリスがいなくなった後、空席になった魔王の玉座を巡って更に戦いが始まった」
「そんな…それでクロードさんはどうしたんですか?」
「俺はアイリスがいなくなった大戦で怪我を負ったから国から脱出してこっちの国、サナティクトで身を潜めてた」
「じゃああの森にいたのって…」
「単純に国境付近に近かったからな。たまたま通りかかっただけだ」
アイリスが封印された後、城の外にいた俺たちは国から脱出した。コイツに言ったように怪我を負っていた俺たちだったが、本来なら国内で怪我を治すはずだった。だが、アイリスがいなくなった後の後継の魔王を決める戦いが始まった。アイリス、前魔王に仕えていた俺たちも命を狙われる存在で国内いること自体が命の危険を伴った。普通ならそこら辺の魔族に負けるはずはないが、戦いで体力も魔力も消耗していた俺たちは逃げることが生き残るゆういつの手段だった。
コイツがいた森に来たのは本当にただの偶然だった。たまたま通りかかった森に異様に魔獣が多い気配がしたから気になって森に入っただけだったが、まさか人間が1人で住んでいたとは思わなかったな。
「そっか。じゃあ私たちが出会ったのは本当に偶然だったんですね」
「まあ、そういうことだ。俺のことはもういいだろう。それよりお前は兄のこと何かわかったことあったのか?この村のやつはお前が住んでた森にも近いから何か知ってたりしないのか」
「それなんですけど、レナさんに聞いてみたんですけど分からないみたいで。今のところはお兄ちゃんについての情報は何もなくって」
「そうか…まあそう簡単にはいかないだろう」
「でもいつか会えるはずです。諦めなければ不可能じゃないんですから!」
「そうか…まあまだ聞いてる人数は少ないんだ。数十人くらいに聞けば1人くらい知ってるやつは出てくるだろう」
「それもそうですね!街に行けば沢山人がいるはずですし、もしかしたらお兄ちゃんのこともアイリスさんのことを知ってる人もいるかもしれません」
コイツの兄のことはともかくアイリスのことはそう簡単に聞いていいものか。前に村長にアイリスのことを聞いたがあまり好ましくない反応だった。人間からすればアイリスは悪そのものみたいな存在のようだ。気に食わないがな。もしアイリスのことで過激になられでもして騒ぎを起こすのは避けたい。話を聞く相手は選んだ方がいいかもな。
そういえば村長からアイリスのことを聞く約束をしていたが、あの村長どこにいる。
「少し村長を探してくる。あいつからアイリスのことを聞きださないといけない」
「私も行きます!もしかしたらお兄ちゃんのこと知ってるかも!」
「まあ、好きにしろ」
さてどこにいるかだが、あいつは村長だし人が集まってるところにいるかもな。人が集まってるところ…ああ、あそこだな。年寄りが集まって談笑しあってる。行ってみるか。
「話してるところ悪いな。村長いるか?」
「おやクロード様にリリィ様じゃないですか。わしに何か用ですかな?」
「最初に言った魔王の件だ。まだ聞いてないからな」
「おお!そういえばまだでしたな。ここではアレなので少し移動しましょうか」
「なんだ?クロード様魔王なんか知ってどうするんだ?見た感じまだ若いのに10年前の大戦なんかに興味でもあるのか?」
村長の隣にいた眼鏡の年寄りが話しかけてきた。人間から見れば俺はまだ若く見えるみたいだが、俺自身そんなに若くはないんだがな。まあ適当に誤魔化しとくか。
「研究の一環で魔王について調べてる。10年前の大戦のことも俺自身詳しくないからだ」
「おお、そうなのか。てっきり強いもんだから国の元兵士だと思ったんだが違うのか」
「そういえばあの子も国為に戦ったんだよね…もう10年か。時の流れってもんは早いねぇ。特に私ら年寄りなんかはいっそうそう感じてしまうよ」
「…何かあったんですかね?」
「さあな」
婆さんが独り言のように呟くと周りの人間の表情が少し曇った。察するにこの村に住んでたやつが国の兵士として戦って大戦で死んだんだろう。気の毒だとは思うが俺にはあまり関係ない話だ。
「ああ、すまんのクロード様。ささ、あちらに行きましょう」
「ああそうしよう」
あの場から移動して今は村長の家にいる。流石にこの村の中じゃ1番デカい家だな。中も綺麗に整ってる。
「ささ、どうぞおかけくださいな。本当はお茶でも出したいのですが生憎何もなくて」
「いえ!お構いなく。私たち村長さんからお話を聞く立場なのでそこまでしてもらわなくて大丈夫です」
「すまないのぉ。さて魔王のことだったのう。と言っても最初に言ったように噂程度のことしか知らんのだが」
「噂程度でも構わない。魔王のことはあまりにも情報が少ないんだ」
「そこまで仰るなら…。魔王が10年前に封印されたのは国中が知っていますが、その在処までは流石に村までは流れてきません」
「まあそうだろうな。流すメリットもデメリットもないしな」
「でも噂はあるんですよね」
「まあの。村といっても街とは完全に隔離されておるわけではないしの。たまに街の噂なんかは耳に入るんじゃ」
「で、その噂は」
「10年前の大戦の後から国の騎士団の団長たちが殆ど変わったんですよ」
「普通に考えればその大戦で団長の人たちが亡くなってしまったとかじゃないんですか?」
確かにあの大戦で周りの人間とはあきらかに強いやつが何人かはいた。それがその団長だっていうなら納得はいく。だが基本的に俺たちは人間は殺さないようにしている。アイリスが願ってるのは人間と魔族の共生だったから人間はよっぽどのことがなければ殺さないようにしてはいる。それでもあの戦いでそんな甘いことを言っている暇もなかったしきっと何人かは殺してしまったんだろう。言い訳ではないが人間が俺たちを殺しにきてたから俺たちも殺すぐらいの心持ちじゃなかったら死んでいた。実際さっき婆さんが言っていたやつは死んでいる。もしかしたら俺が殺したのかもしれない。
「それもあるかもしれないが、大戦が終わった一年後くらいに団が増設されて団長も増えたんじゃ。それに合わせて今いる団長の分だけ街が増えたんじゃ」
「あ、そういえばあの地図古いって言ってたのは街が増えたからだったんですか」
「普通に魔族の逆襲を恐れて守りを固めたんじゃないのか。街が増えたのも、もしまた魔族と戦いになった時に防衛拠点にもなるからとかじゃないのか」
「いや変わった団長たちがどうも不自然なんじゃ。普通なら副団長なんかが繰り上げでなるんじゃが、何故か今まで何の役職にもついていない兵士が選ばれたんじゃ」
「確かにそれは不自然ですね」
「そうじゃろ。だから街の人は魔王の力を取り出して兵士を強くしたんじゃないかって噂があるんじゃ」
「そんなことができるんですか!?」
「どうだろうなぁ。国の騎士団は国王直属の騎士団じゃからわしたちが知らないような技術でもあるのかもしれんなぁ」
「うーん…。でも噂ですしあんまり信用はできないんじゃないんですか?」
「まあそれを言ってしまえばおしまいじゃ。殆どの人は面白半分で聞いてるような話じゃからな」
「どうですかクロードさん。何かわかったことありましたか」
俺たち魔族が知らない技術…。ありえない話ではない。魔族は魔法によって栄え、人間は技術によって栄えたって話もあるくらいだ。それに人間には俺たち魔族には使えない魔法も使える。実際大戦では人間は俺たちが知らない武器も魔法も使ってきた。もし俺が知らない技術や魔法を使って、アイリスの体から力を抽出してその力を他の人間に与える。そんなことができれば普通の兵士がいきなり隊長にもなれるかもしれない。だがそれなら隊長や副隊長とかの役職がある兵士に与えればいい。何かしらの条件があるのか?
「あの、クロードさん?」
「ああ、すまん。少し考えごとをしていた。まあその噂はなかなか面白かった」
「おおそれはよかった!クロード様のお役に立てたなら何よりです」




