2話 喪失と現実
次に目に写ったのは青空だった。背中には柔らかい感触。辺りに満ちる土の匂い。どうやら俺は森の中で眠ってたようだ。
「夢か…まだあんな夢を見るなんてな。俺もだいぶ未練があるな」
アイリスは10年前に死んだ。いや封印された。
突如攻めてきた勇者と人間共にアイリスは封印され、国は人間に奪われた。勇者は圧倒的な力で国を攻め込みそしてアイリスを封印した。流石の勇者もアイリスを完全に殺すことはできなかったんだろう。アイリスは角、両目、両手足、そして心臓に分け封印され勇者に持っていかれた。
国では多くの血が流れ、大切なものを全て奪われた。ジャッカスもキリアもローザもメイも10年経った今も行方は知れない。あいつらのことだ。そう簡単に死んではいないだろう。
俺は今でもアイリスの体を探している。封印されたアイリスの体は今でも人間が持っている。いきなり襲ってきた人間どもに俺らはなすすべがなかった。必ずアイリスを人間共から解放する。たとえどんなことをしてでも。
アイリス体は十中八九、人間のお偉いさんが持ってるのだろう。だが魔族の俺が人間の街に入るのも難しい。一応魔法がかけてるローブを着て人間には見えるようにしているがいつバレるかわからないからな。
それに国の上の奴に会うためには城下町に入るしかないだろう。城下町には強力な結界も貼ってある。魔族の俺が入れるのかもわからない。
魔族が人間に負けてから魔族は生きにくくなった。魔族の多くは目立つ角がある。魔族は簡単に人間の街に入ることもできない。人間の中でも魔族は恐ろしいものという考えが染みついている。一度染みついた考えは簡単に変えられない。実際俺も10年前から人間共が嫌いだ。そういう考えは種族関係ないんだろう。
魔族は住む場所を奪われ、数も少なくなっている。俺も家はなくただ放浪してるだけ。だからこうして森の中をさまよっている。
「キャーー!!」
なんだ女の声か?なんでこんな森に女がいるんだ。森の中には野生化した魔獣もいるのに…。仕方ない少し様子を見に行くか。