18話 救世主
「まぁ今はそんなことどうでもいいか。とにかくお前、山の近くの村襲うのやめさせろよ。それがアイリスの情報を知るための条件だ」
「俺はなんもしてねぇよアイツらが勝手にしたことだ。まぁアイツらが村を襲うようなら力尽くでもやめさせてやるよ。お前と戦えた少しもの礼だ」
「すまんな。そいえばお前これからどうするつもりだ。俺らは一旦村に戻るが」
「俺はオーガの様子でも見に行く。殺してはないが少し心配だからな」
「そんなにオーガのこと気に入ってるんですか?」
「まぁ俺の一番弟子だからな。俺の訓練についていけるのはアイツぐらいだ」
確かにあのオーガ結構しぶとかったな。あんなにしぶとかったらジャッカスの訓練にも耐えられるかもな。
「その後はこの山を離れるつもりだ」
「ジャッカスさんここから離れちゃうんですか?」
「まあ俺とクロードがどんぱちやって国の兵士がかぎつけて来るかも知れねぇからな。今は人間には見つかりたくねぇからな。いろんなところをまわりながら武者修行でもすることにするわ」
「そうですか…気をつけて下さいね」
「こいつだからいらない心配だ」
「オイどういうことだよ!」
「お前は強いから心配いらないってことだよ」(適当)
「なんだ!そういうことかよガハハハ!」
ちょろいな…
「すっかり夕方になったな。俺らはそろそろ村に戻る」
「ジャッカスさんご無沙汰で!」
「おう気ぃつけろよ」
移動魔法を発動して村に転移する。一度行った場所に転移するのは簡単だからな。
「村に着いたぞ」
「やっぱり凄いですね魔法って。一瞬で場所を行き来できるなんて」
「村長は広場の方にいるのか?」
「行ってみましょう」
広場の方でに歩けばところどころ破壊された家が何件も目につく。ゴブリンの被害は結構深刻だったみたいだな。俺たちがこの村に今日来なかったら村人たちは無謀にもゴブリンに挑み村は滅んでたかもしれないな。だがここまでの被害がでてるのに何故国の兵士は動かないんだ?
「あ、村長さん!」
「おぉ無事だったか!」
「ゴブリンは退治して来た。対価として魔王アイリスの情報を教えろ」
「なんと!あの数のゴブリンを退治してしまったのか!確かにお主たちが消えてから村にゴブリンが襲って来なかったのう」
「俺は嘘はつかない。その代わりにお前が知ってる魔王アイリスの情報を教えてもらうぞ」
「もちろんじゃ。噂程度ではあるがのう。だがその前に村の全員で感謝を伝えさせてくれ!」
「おい!どこ行くんだ」
村長が走って他の村人がいるであろう家の方に走って行ってしまった。どこにあんな元気があるんだ…。
「村長さんよっぽど嬉しかったんでしょうね。凄い嬉しそうでした」
「最初のやつれた顔とは大違いだな」
「「旅人さん!!!」」
「うお何だ」
「凄い人ですね!」
村長が走って行った方から沢山の人間がデカイ声だしながら走って来る。なんなんだ一体。
「旅人さん本当にゴブリンたち退治してくれたんですか!?」
「私たちこのまま餓死するかゴブリンに襲われて殺されて終わるものかと…」
「貴方たちはこのカシワ村に救世主じゃ!」
「是非ともお礼をさせてくれ!」
「一気に喋るな何も聞き取れないだろ」
「あわわわ…囲まれちゃいました」
村人がたくさん集まり囲まれてしまった。泣き出す奴、感謝を伝える奴いろいろだ。何かの衝撃でフードが落ちないようにしっかり押さえないと。もし外れたら大騒ぎだ。
「これお前たち!救世主様が困ってるだろう!」
「ほら離れろ」
「みんな一旦離れろ!救世主様がお困りだ!」
「救世主ですってクロードさん」
「なんか慣れないな。こそばゆい」
「いいじゃないですか。素直に感謝の言葉受け取っときましょう」
村長の一声で囲んでた村人が離れていく。魔族が人間に感謝されるなんて変だな。まぁこいつらは俺を人間だと思ってるからな。だがたまにはこういうのも悪くはないかもな。
「救世主様、この度は我々の村を家を命を救ってくださりありがとうございました」
「その救世主様ってやめてください」
「確かに救世主様って変な感じですね」
「だったら名前を教えてくれないかのう?」
名前…。俺の情報がどこから漏れるかわからない。こいつらに名前を教えてもいいのか?
「俺は…」
「クロードさん…。教えてあげてもいいんじゃないですか」
「何を根拠にそんなこと言ってるんだ」
「だってこの村の人たちいい人そうですよ。他の人には内緒にしてって約束すれば守ってくれると思います」
「……。」
確かにこいつらはいい奴らだ。一目見ればわかる。何も疑わない純粋な瞳、何も知らない俺たちを救世主と崇めてる。どうする……。
「………。1つ約束しろ」
「もちろんですじゃ。わしらは命を救われた身。約束の1つや2つ守りますぞ」
「…俺はクロード。この名前は誰にも教えるな。特に国の兵士とかにはな」
「私はリリィです。私はクロードさんと一緒に旅をしてて、ゴブリンを退治したのは全部クロードさんです」
「クロード様にリリィ様。おふたりの名前一生忘れませんぞ」
「私は大したことしてないですから、忘れてもらっても構わないんですけどね…」
「おふたりとも今日は村をあげて夜通し宴をしますぞ。といってもも村に残ってる食料は全然ないのですがな」
「クロードさん宴ですって!!」
「俺はそんなことしてる暇ないんだが」
「そうですか…そうですよね……」
あからさまに落ち込むな。なんもしてないのになんか悪いことした気分になるな。夜通しの宴か…。俺は一刻も早くアイリスに近づきたいんだが。どうするか…。
「ハァ…仕方ない。俺も魔力を使いすぎた。一晩くらいはこの村に滞在してもいいだろ」
「やったぁ!!宴宴!誰かとご飯食べるなんて久しぶりです!」
そうか。こいつも家族がいないからずっと1人で飯食ってたのか。俺も10年間1人で飯を食ってたが1人で食べる飯程味気ないものはないからな。
「村の食料少ないんだってな」
「そうじゃのぉ。何度もゴブリンに作物を荒らされ家畜も食い荒らされてしもうたからのぉ」
「それならこれやるよ」
空間魔法にしまってた魔獣の肉を全部を取り出す。せっかくの宴ならご馳走でも必要だろう。
「これは!?こんなにいいのですか!」
「構わない。宴なら肉のひとつでもないと盛り上がらないだろ」
「おぉ申し訳ない。ここまでお世話になってしもうて」
「これは俺が勝手にしたことだ。気にするな」
「ではありがたく頂戴しますぞ。おふたりは宴の準備ができるまで待っててくださいのぉ。誰か運ぶの手伝っておくれ!」
村長が村人に声をかけて肉を持っていく。結構な量があるからな何人かで運ばないといけないだろうな。それに空間魔法にしまってた魔獣の肉は全部あげたから後で魔獣狩りしないとこの先の食糧がないな。
「……。」
「どうした落ち着かない様子で」
「何もしてないと落ち着かないんですよね」
「まあ分からなくもないな」
俺もアイリスがサボった分の書類を片付け過ぎて過労で倒れて、周りに強制的に休まされたな。だが普段休まないから何もしなさすぎてこれでいいのかって逆に不安になったもんだ。
「そんなに落ち着かないなら手伝いにでも行ってきたらどうだ?」
「そう、ですね!私ちょっと手伝ってきます!」
アイツは宴の準備をしてる村人の方に走っていった。俺はお言葉に甘えて腰をかけて少し休ませてもらおう。それにしても今日は色々ありすぎた。森で人間の女に会って成り行きでカシワ村に来たと思ったら山でゴブリン狩り。だがこんなはやくにジャッカスに会えるとは思わなかった。これは嬉しい誤算だな。アイツは何処かに移るようだが、生きてることが分かっただけでも良かった。
にしても今日は魔法を使いすぎた。上級魔法に中級魔法をバンバン使って長距離の移動魔法も使って魔力を消費しすぎた。角が折れてない10年前だったらこれくらいで魔力が消費した気がしなかったんだがな。結構角が折れた影響は大きいみたいだな。
宴の準備の方はまだっぽいな。今は火をおこそうと頑張ってるみたいだな。火だけでもつけてやるか。