13話 誘拐
「それにしてもあんな大きい魔物を倒しちゃうなんて凄いですね」
「周りに気を使わなかったらもっと早く倒せたな」
「え、さっきよりも早く?」
「それに俺も全盛期ほど弱くなったからな」
「あれで弱くなったなら全盛期は一体……」
「何ブツブツ言ってんだ」
ピシ、ピシシ…
「え、何の音ですか?」
「へぇまだ動けたか」
「どういうことで…」
バリィーン!!!!
「グアァァ!!」
「キャァ!?氷破っちゃいましたよ!」
「氷の第八呪文を破るとは。流石に予想外だ」
「グルルル……」
「大層お怒りの様子だな。さてどうするか」
「どうするって…キャアァァ!!??」
「オイ!お前誰だ!!」
アイツがいきなり誰かに拐われた。背格好からして男の様だが、一体誰なんだ。
「クロードさん!」
「グァァァ!!!」
「チッ。おい、そこを退け。アイツに何かあったら俺が困る」
「ガァァ…」
アイツを横脇に抱えられ連れ去られてしまった。足が速くてすぐに見失ってしまった。だがアイツがいなければ気にせず魔法を使える。
「退く気がないならそれなりの覚悟をしろよ」
「グアァァ!!!」
「覚悟は充分ってところか。手加減はしねぇ。精々死なない様に気張れよ」
「ウァァ!!」
ブンッ!
「腕を振り下ろすしか脳がないのか?」
「グァ!」
「おっと、あぶねぇ」
大木の様な腕を避ければ次は足蹴りを繰り出した。風を切る音が聞こえる。パワーもあればスピードも一級品か。オーガは魔法を使わない上位種。フィジカルだけで上位種なんだ。それだけはあっちの方が上かもな。
「水の第八呪文:クラウドバースト」
「グ、ウゥ」
「へえこれも耐えるか。中々しぶといなお前」
クラウドバーストは弾丸の雨を降らせる魔法。威力は高いはずだが、アイツは耐えてる。現に地面に弾丸の雨がめり込んでる。だが、片膝ついて何もできないみたいだ。
「ア、アァァア…」
「いくらしぶとくてもこれで終わりだ。雷の第五呪文:エレクトロランス」
「ガアァァァア!!」
雷の槍がオーガの体を貫く。クラウドバーストをくらってノーダメージって事は無い。弱った体にエレクトロランスがオーガの腹を貫いた。中級魔法が効くのはゲイルアローで検証済みだ。
「ァ……」
「もう動け無いだろ。死にたくなかったらこれ以上向かって来ない事だな」
これでオーガはもう襲って来ないだろ。結構魔力使ったな。速くアイツの後を追わなければ。
「チッ。どこ行ったあの男」
男が走っていった方を探す。足跡があったが途中で途切れていた。木の上を飛び移って行ったのか?人を1人抱えながら木の上を飛び移れるのは相当な身体能力の持ち主みたいだ。
「こんな事ならアイツにあれ渡しとくんだったな。まぁ今となってはどうしようもないか。これからのことを考えよう」
アイツを探そうにも手がかりがない。あの男には魔力が感じられなかった。だから後ろから近づいて来たことにも気づけなかった。いや、アイツには魔力があったな。それも莫大な。アイツの魔力を探知できれば見つけられるんじゃねぇか?だがあの足の速さで逃げたのなら結構遠くにいる可能性がある。集中して探知しないねぇと。
「フゥー……」
目を閉じて魔力探知に全神経を集中させる。頭の中で魔力の流れが感じられる。自然に満ち溢れている魔力が多い。もっと遠くまで意識を集中させろ。自然の魔力じゃない。もっと大きな魔力を探せ。
「……ハァ……」
額に脂汗が滲む。探せ、探せ。
「…………。見つけた」
ここから1キロ以上だろうか。大きな魔力を見つけた。アイツの何処か懐かしく感じる不思議な魔力、間違いなくアイツのものだ。
「いそがねぇとアイツが危ない」
魔力を感じた方に真っ直ぐ走って行く。オーガと戦ったばかりだから少し疲労を覚えているが関係ない。草木を掻き分け走って行く。速くアイツの元に急がねぇと。