115話 勉強の時間
「そ、その精霊王のティターニアさんが私になんの用があるんですか?」
「ティターニアさん…くくっ私をさん呼びか!」
「リ、リリィ様!ティターニア様にご無礼です!」
「よい。特段気にはしていない」
ティターニアさんと呼ぶと隣のメイさんに怒られてしまった。ティターニアさんは口元に手を当てて上品に笑っているけど凄く迫力を感じる。確かに凄く偉そうな人だから次からはちゃんとティターニア様って呼ぼう…。
「何も用は私だけではない。他の精霊たちもリリィに会いたがっていた。だがまずはここまで来たことを褒めよう。よくやったな」
「は、はい。ありがとうございます…?」
「私はずっとリリィを見てきた。あの赤子がここまで大きくなるとは時の流れとは早いものだな」
「私のことやっぱり知ってるんですね」
「無論だ。私は精霊王。1人の人間を見ることなど造作もない」
この人私が赤ちゃんの頃から知ってるんだ。でもなんでわざわざ私のことを見てたんだろう。別に特段変わったことがある訳じゃないのに。
「何故私がおリリィを見ていたのか疑問に思っているようだな」
「な、なんで分かったんですか!」
「私は精霊王だからな。理由としてはリリィほど面白い人間はいないからだ」
「面白い?」
「アイリスやそこにいるキリア・ヴィンセントもなかなか面白い生を送っているが、今はリリィが1番興味深い」
「僕の人生なんて面白くないですよ」
「なかなかに興味深かったぞ。これからも様々な苦難が待っているが…私が言うことではないな」
興味深い??うーん…ティターニア様が何を考えてるのかよく分からない。私特段面白くも興味深い人生を送ってるとは思えないけど。他人から見ると案外面白かったりするのかな?
「リリィ。よく聞け」
「は、はい!」
「リリィ、お主はこの世に生を受けてから運命の中心にいる。これからもお主は運命に振り回される。それがリリィにとって良い方へ向かうか悪い方へ向かうかはリリィ次第だ」
「運命?私が運命の中心にいるってどういうことですか」
「それほどリリィは特異点ということだ。リリィの行動次第で運命は大きく変わると言っても過言ではない」
「私次第で……なんで私が…」
「それはリリィ自身で考えるのだな。さて、これからリリィ、お主はどうする。癒しの泉にいるクロード・モンステラが目覚めるまで時間が沢山ある」
確かにクロードさんがいつ目を覚ますか分からない。その間何もしないのも勿体ない。私が今できること……。私に今ないもの……。そんなのひとつしかない!
「キリアさん!」
「ん?なんだい?」
「私に魔法を教えてください!」
「ぼ、僕がかい?別に構わないけど。でもなんで急に…」
「私ここに来るまで守られてばっかりだったんです。私にもっと力があったらクロードさんはあんなことにならなかったかもしれない。ローザさんにもアルバさんにもヴァイスにも守られてばっかり…。もう守られてるだけは嫌なんです!私には魔力が沢山あるんですよね!だったら私だってみんなの力になれるかも知れない…。これからは私がクロードさんを、みんなを守りたいんです!」
「うーん………」
キリアさんは腕を組んで唸って悩んでる様子だ。私なんかに魔法を教えたってなんのメリットないもんね…。キリアさんに断られたら自分で頑張って特訓しよう。
「リリィ様…。その気持ち私にも分かります。私も幼い頃からアイリス様たちの為に力になりたいとずっと思っていました。お師匠様に体術をキリア様に魔法を教わりました。私も皆様を守れるようになったんです」
「メイさんも同じだったんだ……」
「キリア様。リリィ様に魔法を教えていただけないでしょうか」
「うーん……僕も忙しいんだけど……。まぁメイがそこまで言うなら仕方ないか。いいよ。僕が教えてあげられる程度なら教えてあげる」
「ありがとうございます!キリアさん!!」
「よかったなリリィ」
「ティターニア様もありがとうございました」
「なに、私はなにもしてはいない。むしろ森の入り口で精霊たちがすまなかったな」
「あぁ…あれですか。でも久しぶりにお兄ちゃんに会えた気がしたのでちょっと嬉しかったです」
「あぁ……そうか………。そうだリリィ。また夜にここに来い。まだ話したいこともあるしな」
「今じゃ駄目なんですか?」
「2人だけで話したいんだ。それにその方がリリィの為にもなる」
「よく分からないですけど…分かりました。今日の夜にまた来ますね」
「あぁ待っているぞ。特訓存分に励むことだな」
そう言い残してティターニア様は命の樹に戻っていってしまった。精霊だからなのか本当によく分からない身体の構造だなぁ。身長も自在で身体は樹の中に入れる。うーん…本当に不思議だ。
****
「さて僕が教えるんだから中途半端は許さないよ。覚悟はできてるかい?」
「は、はい!お願いします!」
キリアさんの家の方まで戻ってきて早速キリアさんから魔法を教えてもらうことになった。家の外でいい感じの石に腰をかけてキリアさんの話を聞く。キリアさんは本気の様子で手加減をする様子はない。少しでも早く強くなりたい私としては凄くありがたい。メイさんは昼食の準備の為に森で食糧を調達する為に出かけてしまった。ヴァイスは心地良い日差しを浴びながらお昼寝している。
「まずは基礎から話そうか。魔力の構成は人間と魔族で違うんだけどそれは分かるかい?」
「はい。魔力感知で違いが分かるので」
「じゃあもっと詳しく教えようか。人間と魔族は魔力を生成する器官を持っているのは同じなんだ。人間と魔族の魔力の構成が変わるのはその器官が少し違うからなんだ」
「器官が違う?」
「そう。僅かな違いなんだけど魔力を生成する器官が違うんだ。その違いが魔族と人間の魔力の違いを生んでるんだ」
「なるほど……。クロードさんの角は魔力を生成する器官なんですよね。でも私には角が生えてないのにどうやって魔力を作ってるんですか?」
「あぁクロードは魔人だからね。魔族はそれぞれ種族によって魔力を生成する器官の場所や構造が違うんだ。特にクロードの種族の魔人はその魔力を生成する器官が他の種族に比べて発達しているんだ。魔人の角は他の種族と違って自然の魔力を取り込んで自分の魔力に作り変えるんだ。だから魔人は他の種族と比べて魔法を扱うのにたけているんだ。人間は内臓のように魔力を生成する器官が体内にあるから角がなくても魔力を生成することができる。これはほとんどの生物と同じなんだけど…分かるかな?」
「え、えと…はい。なんとなく……」
凄い勢いで説明してもらったけど正直半分ぐらいしか理解出来なかった。でも質問したことを一瞬で答えられるキリアさんって凄い。クロードさんが前にキリアさんは頭が働くって言ってたけど想像以上だ。
「まぁそこまで大事な話じゃないから。人間と魔族は魔力が違うってことが分かれば問題はないかな」
「分かりました」
「ティターニア様から聞いたけど最近まで家の敷地から出たことがないって本当なのかい?」
「はいそうです。それにしてもティターニア様って本当に私のこと知ってるんですね」
「僕もどこまで知ってるかは聞いてないけどね。なるほどね…そしたら魔法以外でも基礎的なことを教えた方がいいね。知識は戦いにも役に立つ」
「え、そこまでしてもらわなくても。キリアさんにそこまで迷惑かけられません」
「一応ティターニア様に君のことを最大限サポートする様に言われてるからね。僕たちもティターニア様にここに置かせてもらってる身だからティターニア様の言うことは聞かないといけないんだ。だから気にしないで」
「あ、ありがとうございます!」
ティターニア様そこまで私のことを気にかけてるんだ。なんでそこまでしてくれるんだろう。私とティターニア様ってなんか関係あったりするのかな?私は覚えがないんだけど。夜にまた会うからその時にちゃんと聞いてみよう。
「まずは、そうだな…。種族についてはどこまで知ってる?」
「えーっと…種族は人間、魔族、エルフ、獣人、エルフに分けられてるんですよね。ここまでは分かります」
「うん。そこまでは分かるんだね。じゃあ魔族の分類については?」
「えーっと…前に確かクロードさんが言ってた気がする…。なんだっけ……」
確か私の家の森を出てすぐに出会った馬車の人と一緒に話してた気がする。えーっと……思いだせ。確か3種類くらいだった気がする。うーん……。
「……………あ!思い出した!確か亜人、魔物、魔獣ですよね!」
「そう。魔族はおおまかにその3種類に分けられる。僕は亜人系の屍人に分類される。魔物と亜人の分類は難しいんだけど簡単な見分け方は一定の知能を持ってるかで分かる。一定の知能を持っていると亜人系。持っていないと魔物に分類される。まぁたまに知能をもつ魔物もいるけど、そこは別で説明するよ」
「魔獣は確か魔石を使って魔法を使う獣ですよね」
「魔獣の元は普通の動物なんだけど、魔石を取り込むことによって魔獣に変化してしまうんだ。魔石の影響で身体も変化して凶暴になるんだ」
「魔石って怖いですね…」
「普通に扱う分には全然大丈夫だから。魔道具を作るのに必要不可欠だからね。それに君が右手につけてる指輪も魔道具だろう。見た感じ相当いいものだね。魔石の錬磨も丁寧で指輪のデザインも凝ってる。誰が作ったんだい?」
キリアさんが私の右手についてる指輪を指差す。ノアさんが作ってくれた指輪を褒めてもらえるとこっちも嬉しくなる。ノアさんにも伝えたいな。手紙を出そうにも郵便屋さんもいないから手紙出せないからな。ノアさんが持ってた鳥型の魔道具があったらいつでも魔道具があったらな。
「前に行った街のお店で作ってもらったんです。クロードさんのループタイの魔石もそこのお店の人に直してもらったんです」
「へぇ。やっぱり人間の技術力は凄いね。日々進化してる」
「キリアさんの眼帯も魔石が付いてますよね。それも何か魔法がかけられてるんですか?」
「あぁ…これね。僕、10年前に右目を失明しててね。それで眼帯をつけてるだ。で、この魔石は石に写ったものを視界として脳に伝達する魔術を魔石に込めてるんだ。でもこれでも右目の視界は悪いんだ。まぁないよりかはマシだね」
「失明…。すみません…無神経で……」
10年前ってことは大戦の時だよね。あー……またやってしまった……。馬鹿…本当に私の馬鹿……。何回やったら私は学ぶんだろう…。
「あぁいいんだよ。別に気にしてないから。さて、次はエルフについてだけど」
「いやというほどエルフのことは思い知りました……」
「だろうね。エルフは精霊と契約してその精霊の力を使うんだ。だから普通の魔法とはまた違う力ってのが厄介なんだけど、エルフは里からほぼ出ないから戦うこともほぼないね。僕もこの森に来るまでエルフ見たことなかったから」
「そこまで珍しいんですね」
「プライドが高い種族だからね。自分たちが1番優れた種族だって思ってるっぽい。それに僕たち魔族の折り合いも悪いし」
「ローザさんから聞いたことがあります。昔に魔族がエルフの里を襲撃したって」
「まぁね。僕も生まれる大昔だから真実は知らないけどね。さて、あとは獣人だね」
「獣人!私も全然知らないんです」
正直獣人のことはまったく知らないんだよね。ジュナイダー王国ってところにいるのとウォルトカリア王国と友好関係を築いてるってことだけなんだよね。魔族やエルフは会ったけど獣人は1回も見たことないんだよね。1回だけも会ってみたいな。
「獣人もジュナイダー王国から出てこないからね。サナティクト王国じゃ見ないだろうしね。前に言ったけどジュナイダー王国はウォルトカリア王国と友好関係を築いてるんだ。だけど今はどんな状況か分からないけどね…。まぁ今はその話はおいといて。獣人も魔法みたいな力を扱うんだ」
「魔法、みたいな?」
「妖術って言われる力だ。魔法は自信の魔力を使うけど、妖術は外界の魔力を使うんだ」
「外界の魔力ですか?えっと、空気中に漂ってる魔力を使うんですか?」
確かに至るところに魔力を感じるけどちゃんとは把握できない。魔力があるかもってうっすら感じるぐらい。ここは魔力が濃いからはっきり感じるけど他の場所だとうっすら感じるぐらい。そんな魔力を使うってこと?
「そう。獣人は感覚に優れてて外界の魔力も鮮明に把握できるらしいんだ。だから外界の魔力を扱えるんだ」
「なるほど。魔法と仕組みが違うから妖術って名前なんですね」
「妖術も魔法と同じ基本の属性で構成されてる。違うところは魔法と違って10の呪文がないこと。型に嵌まらない自由な力なんだ」
「なるほど……」
「さてここからが本題。人間の魔法についてだ」
「魔族と人間で魔法が違うんですか?」
「いやまったく同じさ。だけど魔族にはない人間しかない力がひとつある」
「人間にしかない力ですか?」
「祝福と言われる力だ。人間は15歳になったら教会で成人の儀をうけるんだけど、その時に選ばれた人間だけが祝福を授かるんだ」
「え、じゃあ私も祝福を授かれるかもしれないんですか?」
「おそらくね。でも教会の聖職者しか祝福を授ける儀式はできないからもし祝福を授かりたいなら教会に行かないと」
教会か。街でちらりと見たことはあるけど行ったことはなかったなぁ。もし祝福を授かれたらもっと強くなれるかもしれない。でも街での騒ぎで顔が割れちゃってるだろうから教会には行けないかも。残念…。
「そういえばメイさんは人間なんですよね。ってことはもしかしてメイさんは祝福を授かってるんですか?」
「そうだよ。メイの祝福は…」
「生まれ変わりです。触れたものの形を変える祝福なんですよ」
「メイさん!戻ってきてたんですか?」
「ちょうど戻って来たところです。祝福の話が聞こえたのでつい会話に入ってしまいました」
「メイおかえり。ちょうどいいところに帰って来たね。よかったらリリィに祝福を見せてくれないかな」
「勿論です」
メイさんは胸もとのブローチを手に取る。ブローチに魔力を込めると生き物のように蠢いてどんどん形を変えていって、動きがとまると手のひらサイズのブローチがメイさんの肩ぐらいの大きさの大剣に変わった。
「これが私の祝福です。質量以上のものには形を変えられないんですが、汎用性が高くて使いがってがいいんですよ」
「質量以上のもの……でもブローチは手のひらサイズでしたよね。そのブローチをそのサイズの大剣に形を変えるのは無理なんじゃ…」
「見た目だけだとそう思いますよね。少し持ってみてください」
大剣をまたブローチに戻して私の手にのせる。ブローチとは思えないほどずっしりとした質量で思わず身体も持っていかれる。こ、これをいつも着けてるの?
「お、重っ!!」
「見た目に反して質量は結構あるんです。素材もオリハルコンというとてもとても丈夫な希少な金属なんです」
「メ、メイさんはいつもこれをつけてるんですか?重くないんですか?」
「鍛えていますので。あとは慣れですかね?」
「え、えっと凄いですね」
「祝福は同じものは存在しないんだ。血縁関係があると祝福が似たものになるっていう事例もあるらしいけど、事例が少ないから分からないことが多いんだけど。クロードが戦ったっていう団長なら全員祝福を持ってると思う。団長以外でも祝福を持ってる団員は多いはず。だからもし戦うことがあったら祝福に気をつけて戦うことだね」
「分かりました!」
これからもクロードさんと一緒にいるならもしかしたら団長と戦うことになるかもしれない。祝福ってものがどんなものかよく分からないからもっと勉強しないと。