112話 人間と魔王
「うえぇーん!うぇーーん!!」
子供の鳴き声?いったい何処から?クロードの目を逃れて城から抜け出して国のはずれ森を散歩してたら何処からか子供の鳴き声がしてきた。子供の鳴き声を真似して獲物を誘き寄せる魔物じゃないよね。まぁだとしても私なら大丈夫か。
「おーい!!どこだー!」
「うぇーん!!」
「うーん…子供だから魔力を感じずらい。うーん……こっちか!」
鳴き声を頼りに森の中を走っていく。走っていくうちにどんどん泣き声が大きくなってきた。こっちの方で合ってるね。そのまま走っていくと木の陰でバスケットが捨てられていて中で赤ちゃんが1人で泣いてた。
「君だったのか。随分と大きな鳴き声だね。元気があってよろしい!」
「うぇぇ…ぐすっ…」
「お、泣き止んだ。うーん??君人間だね。どうしてウォルトカリアに捨てられたの?」
「うぅ…」
「そっか喋れないよね。まぁ仕方ないよね。うーん…どうしようかなぁ。このまま見殺しにするのはなぁ…。よし!!私が育ててあげよう!」
「…ふぇ?」
「よしよし大丈夫だよ。ふふっパパとママもこんな感じだったのかな」
あ、またパパとママって言っちゃった。気をつけてるんだけどな。どうしても1人の時はこうよんじゃう。とりえず今はこの子を城に連れて行かないと。クロードに色々言われそうだけど、それは後で考えよう。
「うーん…移動魔法じゃ身体に負担かかっちゃいそうだし歩きで行くか。なるべく人目のつかない場所を歩いていくか。よっと…ちょっと我慢しててね」
「う?」
「よーし、しゅっぱーつ!」
赤ちゃんの入ったバスケットを抱えて森の中を走っていく。そのまま森を抜けて人目につかないように街の建物の上をとびのっていく。赤バスケットの中の赤ちゃんは楽しそうに笑ってる。なかなかの肝っ玉だね。
「もう少しだからもうちょっと待っててね」
「きゃっきゃっ!」
「君は将来大物になりそうだね」
孤児なんてこの国じゃ珍しくはないけどサナティクト王国じゃどうなのかな。ウォルトカリアに近いサナティクト王国の村は結構貧しいらしいけどこの子もその村の子だったのかな。口減し…はぁ…やだなぁ。
****
「とうちゃーくっと」
城に着いてこの後どうするかを考えながら廊下を歩いてるとクロードにばったり会う。クロードは私が抱えてたバスケットを見るなり私に詰め寄ってきた。
「おい、アイリス!どこに行ってたんだ!それになんだその籠は」
「クロード!何処って…魔石で場所なんかすぐわかるでしょ」
「分かるが勝手に抜け出すなって何度も…おい、その籠の中身赤ん坊じゃないか!」
「この子?拾った」
「拾った、じゃない!それにそいつ人間じゃないか!さっさと返してこい!」
「でもこのまま見殺しにはできない」
「………人間はこの国じゃ生きづらいぞ」
「生きられないとは言わないんだね」
なんだかんだクロードは子供に甘いからなぁ。特に弱ってる子供とかには。だからうまく言いくるめばなんとかなりそうな感じ。
「ね、いいでしょ?ね〜?」
「……だからなぁ」
「あら、アイリス様!戻って来てたのね」
「ローザ!ローザからも言ってやってよ!」
クロードと廊下で話し合ってたらローザがこっちに歩いてきた。ローザはバスケットの中の赤ちゃんを見ると驚いた表情で私の肩を揺らしてきた。
「隠し子!?ねぇ!隠し子なの!!??」
「え、違うよ。拾ったの」
「なんだ…びっくりした…。もし隠し子だったら相手の男をどうしてやろうかと考えてたわ…。こんにちは、貴女人間ね」
「う、ぁ」
「あら顔隠しちゃった。」
話しかけられたらかかってたブランケットで顔を隠しちゃった。。恥ずかしがり屋だなぁ。私がこれくらいの時ってどんな感じだったっけ?昔過ぎて覚えてないなぁ。
「とにかくこの国じゃ人間はいられない!サナティクト王国にいた方がコイツも幸せだ」
「だけどこの子はその国に捨てられたんだよ?ならまた捨てられちゃうかもしれないよ?だったら私が責任持って育てて幸せにするから!」
「だが………」
「いいんじゃないクロード。私だってサポートするし、この子が自分で考えられるようになるぐらい大きくなるまで面倒見てもいいんじゃないかしら」
「……まぁそれなら。だが、俺たちは人間の赤ん坊の育て方なんて知らないぞ」
「あ!それならキリアに教えてもらおうよ!キリアって人間だったんでしょ。だったら子供の育て方知ってるんじゃない?」
「あら、いい提案ね!キリアならさっき実験部屋にいたから行きましょうか」
「はぁ…育てるなら責任を持てよ。俺は仕事があるからもう行くぞ」
「じゃあねクロード!」
「お前も仕事溜まってるからな」
「うぐっ……」
クロードめ〜去り際に嫌なこと嫌なこと言い残してぇ…。あとでクロードに手伝ってもらおっと。
****
「キリア〜いる〜?」
「だからお前はここに来るなっていつも言ってるだろ!!」
「暇なんだから仕方ねぇだろ」
「暇なら外にでも行ったらどうだい?君がここにいると邪魔なんだよ。ここには壊れやすいものが多いんだ。君の無駄にデカい身体がぶつかったらどうしてくれるんだい?」
「テメェはチビだからなぁ。いっつもこんなところに引きこもってるからチビなんだよ」
「なんだと!!??」
「お、お〜いキリア〜?」
キリアの研究室に来たけど、部屋にいたジャッカスと喧嘩してる。本当にこの2人は仲が悪いなぁ。出会ってからずっと仲が悪いのは逆に凄いよ。2人ともヒートアップして私の声聞こえてないし。
「2人ともちょっと落ちつきなさい!」
「がはっ!」
「うぐっ!」
ローザが2人の頭に拳骨を落とすと喧嘩してた2人が大人しくなった。相変わらずローザは脳筋だなぁ。まぁ2人が落ちつてくれたらまぁいっか。
「なにすんだよ蛇女!!」
「力加減ってものを知らないのか!?」
「2人が喧嘩してるからでしょ。それにジャッカス、私はローザっていう立派な名前があるの。ちゃんと名前で呼んでって前から言ってるでしょ?」
「あぁ?俺がなんて呼ぶかは俺が決める」
「まったく……わがままなんだから」
「それでアイリス様とローザはなんのようですか?まぁなんとなく分かるけどね」
「やっと話を聞いてくれた。そう、この子なんだけどね」
「人間の赤ちゃんだよね。どうしてこんなところにいるの?」
「あぁ人間??」
「うえぇぇええん!!!」
ジャッカスがバスケットの中を覗き込むと泣き出しちゃった。まぁジャッカスってデカいし額に角生えてるから迫力あるもんねぇ。小さな子にはちょっと怖かったかも。あやしてあげるとようやく泣き止んでくれた。
「それでどこで拾って来たんですか?」
「国のはずれの森」
「捨て子…口減しですかね?」
「多分そうかな。それでこの城で育てようと思うんだけど、私人間の子供の育て方知らないからキリアに教えてもらおうと思って」
「育てかたって言われても…僕だって詳しくは知りませんよ」
「でも私よりは知ってるかなって」
「この人間を育てんのか?非常食か?」
「そんなわけないでしょ。小さい子をこの国に放っておいても野垂れ死にしちゃうでしょ。このまま見捨てるのは目覚めが悪いからこの城に置くのよ」
「まぁ俺には関係ねぇか」
「とりあえず服とか着替えさせた方がいいですよ。大分汚れてますし。それと風呂ですね」
「それもそうだね。メイドちゃん呼んで任せよっか」
魔道具でメイドちゃんたちの部屋に呼び出しをしてこの部屋に来てもらう。ちょっと時間はかかるからこの部屋で少し待つことになるかなぁ。
「この子女の子よね。名前どうするの?」
「うーん……ハナコちゃんとか」
「却下」
「流石にそれはないよ」
「え〜!」
「もう少し真剣に考えなよ」
「ジュナイダー王国じゃよくある名前らしいんだけど」
「ここはジュナイダー王国じゃないのよ。それに名前は一生ものなんだからもっと考えないと」
「じゃあみんなはどうやって名前つけてもらったの?」
「私の群れでは毒に関する名前をつけるのよ。私の名前ローザは別の意味で薔薇って意味なの」
「薔薇って毒あるっけ?あんまイメージないけど」
「薔薇自体には毒はないのよ。でも種子には毒があるの」
「物騒な名前の付け方だな」
「魔物なんてそんなものよ。逆に魔物で名前をつける方が珍しいのよジャッカスだってゴブリン時代は名前なかったでしょ」
「確かにそうだな」
毒かぁ。ナーガは毒を作るのが得意な魔物だからそんな名付けになるのも納得かも。それにローザの言った通り魔物が名前をつける方が珍しいもんね。そもそも名前をつけるほどの知能がなかったり名前をつける文化がないからナーガみたいな魔物がよっぽど貴重なんだよね。
「僕は…まぁあの父親が意味を考えてるとは思えないかな」
「俺の名前って誰がつけたんだっけか?」
「確かクロードだったっけ?」
「じゃあ意味はクロードしか知らないか」
「じゃあアイリス様は?」
「私?」
「確かに気になるね」
「俺はどうでもいい」
「うーん…アイリスって花の名前なんだけどその花言葉が希望なんだ。お父さんとお母さんは私が世界の希望になるような存在になって欲しいって意味をつけて名前をつけたらしいよ」
「素敵じゃない!」
「世界の希望って結構大きいけどね」
コンコン
「キリア様失礼します」
研究室のドアがノックしてメイドちゃんの声がドアの向こうで聞こえてきた。思ったより早く来てくれた。キリアが入っていいようにいうとメイドちゃんが研究室に入って来た。
「アイリス様!それにローザ様にジャッカス様まで!!み、皆様集まってどうされたのですか?」
「頼みたいことがあるんだけどね。ちょっといいかな?」
「は、はい!もちろんでございます」
「この子をお風呂に入れて綺麗な服に着替えさせてくれないかな?」
「この子?」
「うん、この赤ちゃん」
抱えてるバスケットの中の赤ちゃんを見せる。赤ちゃんと目が合うと目を見開いて凄く驚いてる。まぁ無理もないよね。
「に、人間!どうして人間の子供がここにいるのですか!?」
「拾って来たからここで育てることにしたの」
「……わ、分かりました。アイリス様が決められたのなら私が逆らう訳にはいきません。言われた通りこの子供を綺麗にしてまいります」
「うん、よろしくね〜」
「大丈夫だからゆっくりしてきな」
メイドちゃんに引き渡すと大人しくメイドちゃんに運ばれて行った。いきなり知らない人に連れて行かれても鳴き声ひとつあげないなんて、相当大人しい子だなぁ。いつ捨てられたのかは知らないけど、お腹も空いてるだろうしな。街に行くときにたまに赤ちゃんを見ることがあるけどあんなに可愛いくて自分でなにもできない子を捨てるなんてどういう考えなんだろう。
「それでは失礼します」
赤ちゃんを連れてメイドちゃんが研究室を出ていく。さて、2人が戻ってくるまで時間かかりそうかな。それまでに名前考えておかないと。
****
「ポチ!」
「却下」
「犬じゃないのよ」
「ぐごぉおおお…!」
名前を考え始めてから1時間以上。出していく名前にローザとキリアに却下されていくから名前のレパートリーがどんどんなくなっていく。というかほぼない。ジャッカスは飽きちゃっていびきかきながら寝ちゃってる。
「お前らなにしてるんだ…」
「クロード!」
「メイドにアイリスがここにいるって聞いたんだが、全員ここにいたんだな」
「聞いてよクロード!2人が虐めてくるんだよ〜」
「人聞きが悪いわね」
「僕らは当たり前のことをしてるまでだよ」
「それで、なにがあったんだ」
クロードに私が子供の名前を考えていること、名前の提案をローザとキリアに全部却下されてることを話すとクロードは納得したような顔になる。
「あー……なんとなく分かった。アイリス、多分お前が悪い」
「え〜!なんでよ〜!!」
「お前のネーミングセンスは昔から壊滅的だからな。なんとなく察しがつく」
「そんなことないと思うんだけどなぁ」
コンコン
「失礼します」
「はーいどうぞー!」
「ここ、仮にも僕の研究室なんだけど」
キリアの代わりにドアの向こう側のメイドちゃんの呼びかけに返すとメイドちゃんがゆっくりとドアを開けて研究室に入ってくる。赤ちゃんはさっきまでのバスケットには入ってなくて綺麗なおくるみに包まれている。今はぐっすり眠ってる。色々あって疲れちゃったのかな。
「ひとまずは体を清め着替えさせました。一応ミルクを飲ませたのでしばらくは大丈夫だと思います」
「色々ありがとね〜」
「それでは私はこれで失礼します」
メイドちゃんは綺麗な礼をしてから研究室を後にする。うちのメイドちゃんは教育がしっかりしてるなぁ。
「とりあえず持病があるかどうか僕の方で診察しておくよ。この国に人間を診れる医者は少ないからね」
「そしたら私も手伝うわ。一応医術には精通してるもの。この子になにかあれば頼りになると思うわよ」
「それもそうだね。それじゃローザ、お願いするよ」
「でもこの後どうするんだ。大きくなるまで育てるとはいえ、この城でも人間は苦労するんじゃないか?」
「うーん…確かに。大きくなってサナティクト王国に戻りたいって望むなら1人で生きていけるようにしないといけないもんね。そうだなぁ〜……。あ!だったらこの城のメイドにするのはどう?戦闘員として育てるのは人間だからちょっと不安だけど、メイドだったら問題ないんじゃない?メイドならサナティクト王国に戻った時もお金持ちの人が雇ってくれて生活にも不自由なさそうだし」
うんうん我ながらいい考え。この子なかなか見どころがありそうだから強く育つかも。それに大きくなったら私の理想を叶えてくれるかもしれない。
「確かにいいんじゃないかしら。人間だから苦労はしそうだけど、アイリス様の息がかかってるって分かってたら誰も変なことはしないはずよ」
「まぁ僕も反対はしないよ。アイリス様の好きにすればいいと思う。後は本人次第かな」
「俺はどっちでもいい。こんな弱っちいやつは俺は興味ないからな」
「それじゃ多数決で決まりだね。それじゃあ名前を決めないとね。将来メイドになるんだから……メイちゃんなんてどう!?」
「まぁ…今までのよりはマシね」
「そうだね。僕も今までで1番いいと思う」
「いいんじゃねぇのか。しらねぇけど」
「アイリスにしてはいい名前なんじゃないか?」
「よし!それじゃあ君の名前は今日からメイちゃんだ!よろしくねメイちゃん」
「ぅあ?」
メイちゃんの指を優しく触ると私の指をぎゅっと握った。まだ赤ちゃんだから弱い力。人間の子供ってどれくらいで大きくなるのかなぁ。魔族の子供、特に魔人は100歳で成人で、人間は15歳だっけ。15歳になったらどうするか自分で決めてもらおう。ここにいたいならいつまでもここにいさせてあげるけど、サナティクト王国に戻りたいっていうなら最大限サポートしてあげる。15年かぁ。あっという間だよねぇ。
「あ、そうだ。僕、研究の為にしばらく城を離れるから。この子の診察が終わったら城を離れるつもりだから」
「あらそうなの?どこに行くの?」
「色々。最近また各地でゾンビ騒ぎが出てるからそれの調査と各地の魂の調査。まぁ長くはなるかな。最近平和だけど人は毎日死んでるからね。たまに調査しないと何が起こるかわからないし」
「こればっかりは私もできないからキリアに任せるしかないんだよね。よろしくね!」
「まぁ僕の研究の為なんだけどね」
「はっ!こいつがいなくなってせいせいするな!」
「寂しくなって泣いたりするなよ」
「誰がするか。テメェみたいなガキじゃないんだからよ」
「だから何度も言ってるが僕は子供じゃない!何百年も生きてるんだ。もしかしたら君よりも年上かもしれないんだぞ!」
「俺は歳が上か下かで態度を変えたりしねぇ。俺より偉くなりてぇなら俺よりも強くなることだな」
「僕は君より強い自信あるけど」
「あ?寝言は寝てからいいやがれ」
「僕は正気だけど??」
「あ?やんのか??」
「あぁいいさ。今日こそ君に吠え面かかせてあげるよ」
「ふええぇぇええん!!!」
「ほらあんたたちが騒ぐから泣いちゃったじゃない!いい加減にしなさいよ!」
「ぐあっ!」
「ぐっ!」
また騒ぎ出した2人をローザが今度はお腹に拳を入れると2人はお腹を抱えながら蹲っちゃった。魔力をこめて殴ってたから相当痛かっただろうなぁ。咄嗟のことで魔力で防御できなかったからなぁ。
「そ、それじゃあこの後すぐに診察始めるから…。ローザ、手伝いよろしく」
「分かったわ。キリアがいない間なにかあっても私1人でこの子をなんとかできるようにしないといけないからね。キリアから人間の身体の構造をみっちり教えてもらわないと」
「アイリス、後はキリアとローザに任せよう。お前は溜まってる仕事を片付けるぞ」
「うげっ…」
「俺は外にで狩りでもしてくるか」
「ほら行くぞアイリス」
「あ〜!引き摺らないで!!」
クロードに襟を掴まれて引き摺られながら執務室まで連れて行かれる。デスクには大量に仕事が積まれていて長丁場になりそうな予感がする。クロードももう逃してくれなさそうだし大人しくやるしかないか。