107話 満月の夜
「アイリスさんの、ピアス?」
クロードさんが左耳につけている紫色の菱形の魔石をつけたピアス。そういえばピアスの魔石も引き寄せの魔法だったはず。
「あぁ。元々はアイリスのもので両方揃っていたんだ」
「クロードと別れる時に私が渡したのよ。アイリス様と別れることになるからその片割れだけでも一緒にいてあげてって渡したの。クロードが寂しくないようにね」
「余計なお世話だ」
なんて言いながらも優しい顔でピアスに触れるクロードさん。相当大切なものなんだ。…そういえばトレイダ街でピアスを私に預けてくれたよね。そんな大切なものをなんで一時的にとはいえ私に預けてくれたんだろう。
「クロードさん」
「ん?なんだ」
「トレイダ街でそのピアスを私に預けてくれましたよね。そんなに大切なものなら私に預けないほうが良かったんじゃないですか?」
「それは……」
「嘘!?クロードがピアスをリリィちゃんに預けたの!?」
「あの時はお前に預けるのが1番良かった。それだけだ」
「へぇ〜本当にそれだけなの〜?」
「うるさいぞ。俺はもう寝る」
「あっ!ちょっと〜!!」
クロードさんはローザさんに背を向けながら横になって寝る体制にはいっちゃった。でも、もう夜も遅いし私も眠くなってきたかも。
「ふわぁ…ローザさん、私ももう寝ますね。おやすみなさい…」
「え、リリィちゃんも寝ちゃうの!?」
「ぼ、僕ももう寝ます。明日のために体力を少しでも回復させないといけないので」
「ヴァイス、おいで…」
「クアァ…」
「え〜!みんなもう寝ちゃうの?も〜つらないんだから」
****
翌日の朝、私たちは再びエルフの里を目指して歩き始めた。途中私たちを魔物や魔獣が襲って来たけどそのほとんどがローザさんとアルバさんがやっつけていた。私たちの魔力にもビビらないで襲ってくる魔物たちだったから他の魔物たちに比べて少し強そうだったけど、そんなこと関係ないように簡単に倒していた。
「はぁっ!!」
ドォーン!!!
「うん、なかなかの威力に命中精度ね。上達してきたじゃない」
「ローザさんのおかげです。魔球を撃つ時間も短くなってきましたし精度もぐんっと上がりました!」
「私は少し教えただけ。リリィちゃん派やっぱり魔法の才能があるわね」
時々ローザさんたちの後ろで襲ってきた魔物たちを私も魔球で対抗していた。まだローザさんたちみたいに一撃で倒すことはできないけど、何発か当てれば倒せるぐらいまでには上達してきた。ローザさんに魔力の素早い集め方を教えてもらったおかげでどんどん上手くなってきてる気がする。
「す、凄いですねリリィさん。さ、流石銀髪。や、やっぱり今まで触れてこなかったとはいえ才能は段違いなんですね」
「アイツ、少し一緒にいなかっただけで強くなったな」
「ウァン!」
「防御魔法も障壁を貼るのが最初に比べて速くなったし強度も増してきてるわね」
防御魔法もコツを掴んで今では戦いの最中でも使えるぐらいまでには上達した。攻撃の方はあんまり力にはなれないかもしれないけれど、防御ならなんとか力になれるかも。
「私たちの目的はあくまでも精霊の森。エルフの里での戦闘は免れないけどなるべく戦闘は最低限にして一直線に精霊の森に向かうわ。だから今回はリリィちゃんの防御が必要になってくるかもしれないわね」
「はい!精いっぱい頑張ります!」
「うん、やる気は十分ね。ならもっと特訓するわよ!リリィちゃんは魔力の心配はいらないからビシバシいくわよ!」
「お願いします!」
「ロ、ローザ様気合い入ってますね」
「アイツは結構世話焼きだからな。あの屋敷に大勢匿ってるのだってアイツが世話焼きの気質なんだろ」
「た、確かにそうかもしれません。で、ですがそれがローザ様のいいところですから」
「そうかもな」
****
「うん、いい感じね。弱い魔物や魔獣ならもうリリィちゃん1人でもなんとかなるんじゃないかしら」
「本当ですか!!」
「えぇ。魔力の操作も良くなってきたし、身を守るぐらいなら大丈夫じゃないかしら。でも無理は禁物よ。危ないと思ったらすぐに逃げるか助けを呼ぶこと。いいわね」
「分かりました」
「よろしい」
エルフの里へ向かいながら魔法の練習をしていた。ローザさんから魔法が上手くなってきてると言われて自信がついてきた。確かに魔力を練る速度も魔球の威力も増してきた気がする。防御魔法も発動するのに慣れてきたかも。
「ロ、ローザさん。も、もうお昼になっちゃいましたよ。そ、そろそろ先に進みましょう」
「あら、いけない。あんまりゆっくりしてると時間に遅れちゃうものね。さ、先に進みましょう!」
「ウァン!」
ここまでゆっくりと進んでいたせいかもう太陽が真上に昇っていた。気づいたらもうこんな時間になっちゃったんだ。満月まで残り二日。急がないと。
****
「さぁ着いたわ。ここがエルフの里よ」
二日間歩き続けてローザさんがエルフの里に着いたと言い出した。辺りは木々に囲まれて野生動物の気配が沢山感じる。ここまで川を越えたり、荒れた道を通ったりして結構険しい道のりだった。魔物や魔獣も全く襲って来ないって訳でもなかったから凄く大変だった。太陽は沈みかかっていて辺りは暗くなり始めている。
「と言っても正確には里の近くね。ここからはなるべく魔力を消していくわよ。エルフたちに気づかれないようにしないとね」
「俺とローザ、アルバは大丈夫だがお前らは大丈夫なのか」
「ウァン!」
「私も魔力の隠し方をローザさんに教わったので大丈夫だと思います」
「なら大丈夫ね。もうすぐ日が完全に落ちて夜になるわ。闇に乗じて里に潜り込んで一気に精霊の森へ向かうわよ」
「あ、あくまでも戦闘は最低限に、ですよね」
「そう。特にこっちは戦えないクロードがいるからね。なるべく戦闘は避けたいけど、結局バレて戦うことにはなるわ。そうなったら倒すよりもさっさと逃げて1人でもいいからクロードを精霊の森に連れていくのが最優先よ」
「すまないな、俺のせいでこんな面倒なことに巻き込んで…」
「よそよそしいあんたは珍しいけど、アンタに謝られる筋合いはないわ。アンタがこのまま戦えなくなって困るのは私たちなんだから。
「そうですよ。クロードさんが謝る必要はないですよ」
「ウァン!」
「…それもそうかもな」
「ほら、もうすぐ夜になるわ。準備はいいわね」
ローザさんに言われて準備がちゃんとできてるか確認する。すぐに取り出せる様に懐にナイフを仕舞って、ノアさんに作ってもらった指輪もちゃんと指にはまってる。身体のどこにも怪我はないし体力も十分。身体の調子は絶好調!
「ぼ、僕は大丈夫です」
「私も大丈夫です!」
「よし、それならいつでも行けるわね」
「あ、クロードさんこのままだとヴァイスが走った時に落ちちゃいませんか?」
「確かにそうかも知れないわね。そしたらこの紐で落ちない様に縛っておいて」
ローザさんが空間から紐を取り出してアルバさんに渡す。アルバさんはクロードさんに失礼しますと言ってから紐でヴァイスの身体とクロードさんをキツく結ぶ。これでヴァイスが思いっきり走ってもクロードさんは振り落とされない。
「うん、これで大丈夫ね。いつでも里に潜り込めるわ。作戦の実行は太陽が完全に落ちてから。闇夜に紛れて里に侵入するわよ」
「はい!/は、はい/ウァン!」