105話 謎
「や、やっと着いた……!」
歩いてトレイダ街を目指すこと3日、ようやくトレイダ街に到着した。今はちょうど昼間で太陽が真上に上がっていて眩しい。
「さて、正面からじゃ入れないから隠れ道を通るわよ」
「隠れ道、ですか?」
「そう、私とアルバが初めてこの街に来た時に見つけた隠れ道、っていうよりは抜け道って言った方が正しいわね。街を覆ってる壁に人1人が通れる穴があってそこから出入りしてるの」
そう言って歩き出したローザさんの後ろを着いていく。私の身長の何倍もある壁はトレイダ街を囲っていて外部からの侵入を防いでる。こんな壁に抜け道があるの?
「み、見つけたっていうより作ったって言った方が正しいような…」
「え?」
「リリィちゃんここよ」
ローザさんに手招きされて壁に近づく。壁の近くに草木が生えていて足元の方が隠れてる。ローザさんがしゃがむように言われていう通りにしゃがむと壁に人が1人通れそうな穴が空いていた。
「これって!」
「そ、これが抜け道よ」
「でもこの穴なんか壊れてるっていうよりは溶けてる穴が空いた様な…」
「ロ、ローザ様の毒で溶かした穴なんですよ…」
「え、でも見つけたって」
「せ、正確には人がよりつかなくて穴が空いててもバレそうなところを見つけたってことなんです」
「え、えぇ…」
「抜け道には変わりないんだからいいじゃない。この抜け道を抜けて少し歩けばすぐに隠れ家に着くわよ」
やっぱりローザさんってアルバさんが前言ってた通り少し脳筋なのかもしれない…。
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「はぁ〜!やっと戻って来たわね!」
「日に当たりすぎて僕、ちょっと……」
「少し休んで来なさい。夜まで時間はあるから」
「は、はい…そうします…」
通り道を通って何事もなくローザさんたちの隠れ家の戻ることができた。隠れ家に戻ってすぐに沢山の人たちに囲まれて手厚い歓迎を受けた。みんなローザさんが戻ってきて嬉しそうだった。アルバさんはずっと日に当たった影響で体調が優れないらしく部屋へと戻っていった。街の方は少し騒がしくて指名手配の話で持ちきりだった。どうやらフォーメン街でローザさんたちが団長と戦ったことがもう出回ってるらしくてローザさんたちが本格的に指名手配されたらしい。そのことで街の人たちは魔王が何かしようとしているのではと噂していた。
「さて、クロードの様子を見てこないと。今日の夜に出発するわよ」
「クロードさん元気ですかね…」
「どうかしら。毒の後遺症は結構酷かったからね」
ローザさんに着いて行ってクロードさんの部屋まで向かう。精霊の森の癒しの泉…噂程度の話だけどもしこれが本当だったらきっとクロードさんは前みたいに元気になるはず。クロードさんが動けない今、私が頑張らないと。
「あ、そういえば少し気になってたことがあるんですけどいいですか?」
「えぇ、いいわよ。なに?」
「アイリスさんが封印された後って誰が魔王になったんですか?街で魔王の話を聞いてちょっと気になって」
さっきの街の噂。今まで気になってなかったけど、今ってアイリスさんの代わりに誰が魔王になってるのか全然知らなかった。話も聞いたことなかったしクロードさんも言ってなかったから考えもしなかった。
「…それが私も知らないのよね」
「え、そうなんですか!?」
「本来ならすぐにでも耳に入ってくるはずなのにここ10年聞いたこともないのよ」
「そんなことあるんですか?」
「いいえ、魔王ってのはどの国にも重要なこと。魔王が変わればどの国にも情報が出回るはず、なんだけど。不気味なほどに情報が出てこないのよ。何か意図があって隠してるのかしら。だとしてもその意図が分からないのだけど…」
ローザさんでも知らないってなるとクロードさんもきっと知らなかったのかも。魔王が誰なのか分からない…魔王って本当にいるんだよね…なんて変なこと考えちゃった。
「クロード、起きてる?」
考え事してたらローザさんがクロードさんの部屋のドアをノックして声をかけてた。部屋の中からクロードさんの返事が聞こえてから部屋の中に入る。
「クロードさん!」
「お前、無事だったのか」
「はい!もう元気もりもりです!」
「思ったよりも体調は良さそうね」
ベットに横になりながら視線をこっちに向けるクロードさん。やっぱりまだ顔色は悪いし声に覇気がない。後遺症が相当酷いみたい。
「ゲホッ…それでなんか手がかりはあったのか?」
「まぁね」
「本当か…!」
「リリィちゃんのおかげよ。リリィちゃんが見つけてくれたおかげで僅かだけど希望が見出せた」
「わ、私はたまたま…」
「そんなことないわよ!もっと自信を持って」
「それで、治療法は…」
「精霊の森の癒しの泉。噂程度の話でしかないけど、毒に蝕まれて魔力も失った貴方を治す方法はもうこれくらいしかない」
「…今は少しの可能性でも確かめたい。ゴホッ…また俺が戦うにはそこに行くしかないんだろう」
クロードさんは本気だ。アイリスさんの為なら噂程度でも可能性が少しでもあるなら確かめたい。クロードさんとアイリスさんの絆はそこまで固いものなんだ。私はアイリスさんとクロードさんがどこまでの関係なのかは知らない。でもクロードさんがここまでして助けたい人なら私も少しでも力になりたい。私だって短い期間かもしれないけどクロードさんと一緒にいた。クロードさんが私を外に連れ出してくれたから今の私がいる。なら少しでも恩返しがしたい。
「精霊の森まで私とヴァイス、ローザさんにアルバさんが必ず守ります!」
「ワン!!」
「そういうこと。出発は今日の夜、闇に紛れてこの街を出るわよ」
「わかった…ゴホッ…それまでできるだけ体力を温存しておく」
「それじゃあ夜に迎えに来ますね」
「えぇ。あ、リリィちゃん、私ちょっとクロードと話たいことがあるから先に戻っててくれないかしら」
「分かりました。それじゃあ先に部屋に戻ってますね」
「ごめんなさいね。もう大丈夫だとは思うけど部屋まで気をつけてね」
クロードさんの部屋から出て自分の部屋に戻る。ローザさんクロードさんと話したいことってなんだろう。2人にしか分からない話かな。あ、フォーメン街で戦った団長のことかも。それなら私がいても仕方ないよね。
****
リリィちゃんを1人で先に部屋に戻らせてクロードと二人きりになる。クロードに少し話したいことがあったし、リリィちゃんがいると少し話しにくい内容だからね。
「それで何の用だ」
「いえ、大した話でもないわ。まずはアイリス様の左腕を取り戻したわ」
「本当か!!ゲホッ!ゴホッゴホッ…!」
「ほら、急に大声を出さないの。このあと身体を戻しにいくわ。でもやっぱり不思議ね。アイリス様の身体、今じゃもう元の形になってる」
左腕を取り出すと腕は筋肉がついてた男性の腕ではなくて細くてしなやかな女性の腕に戻っている。やっぱり魔法か何かで形を移植した人間に合わせていたのかしら。
「何でかは詳しいことは私には分からないけど、何かタネがあると思うのよね」
「あぁ…俺が取り戻した右脚も最初は男の脚だったが何日か経ったら姿が変わっていた。何かあるのは間違いない」
「やっぱりそう思うわよね」
「…それで、本題はなんだ」
「あら、気づいてたの?」
「わざわざアイツを部屋から追い出してする話じゃないだろ」
「やっぱりお見通しね。それじゃあ本題。クロード、貴方リリィちゃんのことどこまで知っているの?」
私が本当に知りたかったのはリリィちゃんのこと。正直あの子は謎が多すぎる。まだ少ししか一緒にいない私でもわかるあの子の異質さ。私よりも長く一緒にいるクロードならリリィちゃんのことを何か知っていると思ったのだけど。
「俺も多くは知らない…。分かってるのは人目のない森で1人で住んでいたことと、実の兄を探しているってだけだ」
「それは私もリリィちゃんに聞いたわ。だとしてもおかしな話よ。あの歳で魔法をつい最近まで知らなかったのもそうだし、あの膨大すぎる魔力。とてもただの人間とは思えないわ」
「魔力に関しては突然変異って可能性があるだろ。だが正直魔法を知らないって点は俺も引っかかることがある」
「何か心当たりあるの?」
「アイツの家には高度な結界が貼られていた。効果は薄れつつあったが並大抵なものじゃない。しかもアイツの両親は魔法師ではないときた。なら誰が結界を張れたんだ?」
「結界?それは初耳ね」
「結界の効果は詳しくは分からないがおそらくは認識阻害の類だと思う。確信はないがな」
家に認識阻害の結界?何故そんなものを家に貼る必要があるの?森に住んでいたってこともあって相当人目を気にしていたのかしら。でも何の為に…?リリィちゃんもなんで森に住んでいたのかはきっと知らない。なら人目を気にする必要があったのはリリィちゃんの両親の方?でも魔法師でないなら結界は張れない。一体どういうこと?
「クロードの話を聞いてますます分からなくなったわ」
「俺も正直アイツのことは詳しくは知らない。まだそこまで長くはいないからな」
「まぁいつか聞いてみることにするわ。まぁこれで話は終わり。また夜に迎えにくるわ。それまでちゃんと休んでおきなさいね」
「あぁ…迷惑かけてすまないな」
「あっはは!!アンタが謝るなんて珍しいことがあるものね!」
「…俺だって謝るさ」
「正直クロードがあんまり変わってなくて安心したわ。アイリス様と1番長くいたのはクロードだったもの。アンタが1番取り乱してるんじゃないかと思ったけど意外とそうでもなさそうね。それもリリィちゃんのおかげかしら」
「なんでそこでアイツの名前が出てくるんだ」
「だってリリィちゃんとアイリス様ってちょっと似てるじゃない」
「……似てない、とは言い切れない」
「そうよね〜。見た目もちょっと似てるし何より魔力の感じが似てる。不思議なこともあるものね。それじゃまた後で」
クロードの部屋を後にして自分の研究室に戻る。クロードの毒についてちょっと気になることがある。あの毒を解析して分かったことが1つ。あの毒には私が作った毒と同じ特徴がある。
私の毒は解析されても簡単に解毒できないように複数の弱い毒をトラップの様に織り交ぜて作る。私は毒の作り方を他人に教えない。たとえアイリス様にさえも。だけど1人、1人だけ毒の作り方を教えた子がいる。私がまだナーガとして群れにいた時、私に懐いてくれたあの子。
「ジュリア…」
あの子が作ったとはまだ確信はできない。あの子が他の奴らに作り方を教えたのかもしれない。そもそもナーガの毒が人間の手に、それに騎士団の連中の手に渡る理由が分からない。正直私たちは今ウォルトカリアの情勢に詳しくない。アイリス様の後釜が誰になったかさえも。ナーガの群れに関しても私が抜けてから一切関わってない。
「もう少しウォルトカリアについて知らないとダメね」
かといってウォルトカリアに帰る訳にもいかない。アイリス様の親衛隊だった私たちはきっと今の魔王軍に命を狙われる。今の魔王がより権力を示すために私たちはうってつけ。なら今のウォルトカリアを知っていそうなところと言えば…。
「まぁあそこぐらいしかないわよね。とにかく今は解毒の研究を進めないと。また同じ毒を使われたらたまったものじゃない。それに…同じ毒を作るものとしてこのまま負けっぱなしって訳にもいかないのよね」