104話 友達
「なんか面白いことないかな〜」
最近なんか退屈っていうか、刺激的なことがない。クロードと魔王倒すって決めたのはいいけど、私とクロードの2人だけじゃまだまだ道のりは遠いっていうか。でも良さそうな人もいないんだよなぁ。
「おい、あっちで喧嘩だってよ!」
「喧嘩なんていつものことだろ」
「それが魔王の部下たちが喧嘩をふっかけたらしいぜ!」
「おい、それを早く言えよ!面白そうじゃねぇか!!」
魔王の部下…。どんな人かちょっと見てこようかな。どれくらい強いのかも気になるし。それにいい暇つぶしになりそう!
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「この前はよくやってくれたな!」
「また貴方?今度は仲間をぞろぞと連れてきてなんのつもり?リベンジマッチでもする気?」
「お前に負けたままでは俺の面子が丸潰れだ!」
「仲間を呼んで助けてもらう方が面子丸潰れじゃない?」
「うるさい!!」
さっきの人たちについて行くと確かに今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。それでどっちが魔王の部下なんだろう。魔人の男に女の人。女の人は見た目は人間だけど魔力の感じが魔族だ。変身魔法か何かで変わってるのかな。見た感じ男の魔人が女の人に一方的に喧嘩を売ってるみたい。それも大勢仲間を連れて。相当女の人にボコボコにされたのかな。
「まったく、何度やったって結果は変わらないのに」
「お前らやれー!!!」
「さぁてどうなるかな?」
****
「まったく時間の無駄だったわ」
「くそっ…!」
「この俺が一度ならず二度までも…!」
「はぁ…しつこい男は嫌われるわよ」
結果は一目瞭然。女の人があっという間に全員を倒しちゃった。戦いを見てたけどいい身のこなしに面白い戦い方をしてた。やっぱり女の人の方が魔王の部下なのかな。
「ねぇ!君強いね!」
「ん?誰、貴女」
「私はアイリス!ねぇ君って魔王の部下なの?」
「魔王の部下?それは私じゃなくてあっちで寝てる方よ」
「あっちがそうだったんだ…」
そっか。あれが魔王の部下なんだ。魔王の部下だって気になってきたけど、あの程度なんだ。なんだか期待はずれだなぁ。
「それで貴女いきなり何?」
「いや〜魔王の部下が喧嘩してるって聞いてさ。それでどれくらい強いのか気になって見に来たんだけど、期待はずれだったかも」
「まぁ、アイツは魔王の配下の中でも下の方だしそんなものよ」
「でも君は強いね!あの数を一瞬で倒しちゃうなんて!」
「それはありがとう。そういえば名乗ってなかったわね。私はローザ。よろしく」
「ローザ!いや〜私同性の女友達いなかったからなんか嬉しいね!」
「友達?」
「うん」
「私と貴女が?」
「そうじゃないの?」
「ふふ…あはは…あーはっはっはっは!!!ふ、ふふ…出会ってまだ数分しか経ってないのにもう友達って!」
いきなりお腹を抱えて笑い始めた。笑いすぎて涙も流してる。そんなに面白いかな?
「友達になるのに時間は関係ないでしょ」
「あ〜笑った、笑った。それもそうかもしれないわね。私、育ってきた場所が場所だったから友達なんてつい最近までいなかったから新鮮だわ」
「そうなの?でも私もそうかも。クロードに会う前は私も友達って言える人はいなかったかも」
「クロード?貴女の友達?」
「うん!最近友達になったんだ。ローザにもいつか紹介したい…」
「アイリス!!」
「痛っ!!」
いきなり頭に衝撃がきて後ろを振り返ると、息を切らしたクロードが拳を握り締めてた。うげっもう見つかっちゃったんだ…。
「お前どこ行ってたんだ!」
「散歩」
「なら一言言ってから行ってくれ。俺がどんだけ心配したと思ってんだ」
「ごめんなさい…」
「はぁ…次から気をつけろよ」
「はーい…」
「えっと、貴方がクロード?」
「そうだが。お前は誰だ」
「お前って…私はローザ。どうぞよろしく」
「アイリスが迷惑をかけたみたいだな。すまない」
あら、意外と礼儀正しいのね。お前とか呼ばれたからどんな奴だとは思ったけど案外いい人ね。それにしても顔整ってるわね〜。下まつ毛長いわね。私よりも長いんじゃない?
「私別に迷惑かけてないんだけど…」
「じゃああそこで寝てる奴らはなんなんだ」
「ごめんなさい。そいつら私に用があってね。ちょっと寝てもらってたの」
「……アイリスじゃないのか」
「ほら〜!!」
「すまない…てっきりお前がまた何かやらかしたのかと」
「失礼しちゃうね!」
随分と仲が良さそうね。男の方、クロードも私に向けてた無表情じゃなくてアイリスには笑顔を向けてる。相当信頼しているのかしら。
「ローザさーん!!こ、ここにいたんですか!!」
「あら、アルバ。そんなに息を切らしてどうしたの」
「ロ、ローザさんを探してたに決まってるじゃないですか!す、少し目を離したら見失ってて驚きましたよ!ってだ、誰ですかこの方たち…」
「うーん、友達かしら?」
「な、なんで疑問形なんですか…」
私を探してたアルバが息を切らしながらこっちへやってきた。わざわざ私を探しに来てくれたのね。まさかちょっとよそ見をしてたらアルバがいなくなってたんだから驚いたわ。
「わー!!ね、君ってもしかして吸血鬼!?日光に当たっても消滅してないってことは純血!?」
「え、えと…!」
「落ち着け」
「はっ!いや〜ごめんね。吸血鬼なんて初めて見るもんだから興奮しちゃって」
「い、いえ。だ、大丈夫です」
「紹介するわねアルバ。女の子の方はアイリス、それで男の子の方はクロードよ」
「アイリスです!」
「クロードだ。それと俺は男の子と言われるほど子供ではない」
「あら、それは失礼したわね」
「私も子供って歳じゃないんだけどなぁ」
「そういえばアイリスっていくつなんだ?」
「内緒」
「あ、えっと僕はアルバです」
「アルバね。よろしく!!」
アイリスがアルバに手を差し出して握手をする。随分人懐っこいわね。ここまで人がいい魔族ってのも珍しいわね。それにこの子銀髪なのよね。この4人の中で、いやここら一帯の人たちよりも魔力が多い。戦いは魔力だけじゃないとはいえこの子の底の知れない雰囲気、きっと只者じゃない。そんな子が下を見下さずにこんな性格なのは珍しいわね。
「仲良くなったところ悪いが、一旦ここを離れた方がいい。こいつらの仲間が来ないとも限らない」
「それもそうね」
「うーん…どうやら手遅れみたいだよ」
こっちに大勢やって来る魔力を感じる。どうやら私が倒した仲間が増援に来たみたい。誰かが魔王軍に報告したのか結構な数が来てるわね。流石に私1人じゃ手こずるかしら。
「よーしやるぞー!!」
「まさか戦うつもり?」
「もちろん!」
「で、ですが相手は魔王軍ですよ!あ、貴方たちも手を出せば魔王軍に狙われてしまいます!」
「そういえば言ってなかったな。俺たちは魔王ヴィルクを倒したい。そして…」
「私が次の魔王になる!」
魔王ヴィルクを倒す…?つい最近まで魔物として街の外で過ごしてた私ですら知ってる。この実力主義のウォルトカリアで100年以上国を治めてる奴よ。それに噂だとヴィルクも銀髪、底知れない魔力の持ち主。そんな奴を倒すですって?そんなの、そんなの……
「すっごく面白いじゃない!!」
「ロ、ローザさん!?」
「ねぇ!私にも一枚噛ませてくれないかしら」
「もちろん!実は今一緒に魔王を倒してくれる仲間を探してたんだ!今私とクロードの2人だけでさ〜」
「あら、それならちょうどよかったわ。それじゃあ2人追加ね」
「ぼ、僕もですか!?」
「いいじゃない。どうせ貴方暇でしょ?」
「うぅ…確かにそうですけど……」
「お前たち、話してるところ悪いが来るぞ!」
「それじゃぱっぱとやっちゃいますか!」
****
「へぇ〜!ローザってナーガなんだ!だから人間の姿にも化けられるんだね〜」
「そうよ。貴方たち2人は魔人よね」
「まぁそうだな」
「やっぱり魔人って多いのね。街を歩いてると大体が魔人だもの」
あの後無事に増援を全員倒して休憩とお互いのことをもっと知る為にそこら辺の酒場に入った。それにしてもアイリスとクロード、凄い戦いぶりだったわ。アイリスは魔法と魔剣で長距離、中距離、近距離の敵を全員倒してクロードは無詠唱の魔法で襲いかかってきた敵を全員薙ぎ払う。魔王を倒すなんて言うんだから相当な実力者だとは思っていたけれど、想像以上だったわ。
「でも2人強いね。身のこなしがなんていうかスマートでかっこよかった!」
「それにしても本当にいいのか?」
「何が?」
「俺たちと魔王を倒すと言っただろう」
「まぁそうね」
「魔王を倒すってことは国を敵に回すことになる。中途半端の覚悟じゃ…」
「あら、もしかして貴方には私とアルバが弱く見えたのかしら?」
「そういうことじゃないが…」
「それに私、今の魔王嫌いなのよね。なんていうか人間を必要以上に目の敵にしてるっていうか。まぁ魔族なんだから仕方ないとは思うんだけど」
「もしかしてローザ人間好き!?」
いきなり身を乗り出して私との距離を詰めるアイリス。なんだか嬉しそうな表情で目を輝かせてる。あまりの勢いに咄嗟に目線を逸らす。目線を逸らした先のクロードと目線がバッチリ合う。クロードはなんだか複雑そうな顔をしてるわね。
「え、えぇ。まぁ嫌いじゃないわ」
「よかった〜!もしローザが人間のこと嫌いだったらどうしようと思った!」
「アイリスは人間が好きなの?」
「うん!私の夢はね、魔王になって魔族と人間を仲良させることなんだ」
人間と魔族を…?長年争ってきた人間と魔族を仲良くさせるなんてまるで夢物語よ。でもこの子の目はとても冗談を言っている目じゃない。真剣そのもの。
「できると、思ってるの?」
「もちろん。魔族と人間が仲良くなれるって信じてるから」
「…やっぱり面白いわね。うん、私貴女についていくわ。そのほうがおもしろそうだもの」
正直、群れから抜けて街に出てきたけど正直アルバに出会うまでは面白いことなくて暇だったのよね。アルバに会ってからは多少退屈じゃなくなったけどなんだか物足りなかった。でもこの子について行けばなんだか面白いことになりそう。
「アイリスが魔王になるんなら私はアイリス様って呼んだ方がいいかしら」
「やめてよ〜!!普通にアイリスって呼んで〜!」
****
「ふわぁ…ん〜!よく寝たぁ」
あくびをしながら身体を伸ばして朝日を浴びる。ぐっすり眠って昨日の疲れが嘘みたいに消えた。そういえば夢を見てた気がするけど、どんな夢だったっけ?う〜ん…まぁ思い出すほどでもないかな。なんだか最近夢をよく見る気がするけど私疲れてるのかな?
「くぁああ……」
「おはようヴァイス」
「ワン!」
私につられて起きたヴァイスの頭を優しく撫でる。毛に癖がついててどっちを下にして寝たのか一目で分かる。
「んぅ…あら、もう起きてたの?」
「ローザさん!おはようございます」
「おはよぉ…ふ、ふふっ!!リリィちゃんちょっとこっちおいで」
「は、はい?」
「凄い寝癖よ。直してあげる」
ローザさんに言われて頭に手を向けると酷い寝癖がついてるのに気づく。本当にいつも酷い寝癖…。ローザさんの近くに座るとローザさんはくしを取り出して水の球体を生み出す。水で軽く髪を濡らすとくしで優しく寝癖を直していく。
「すみません、ローザさん」
「いいのよ。人の髪をいじるのって結構楽しいもの」
鼻歌まじりで寝癖を直してるローザさんは本当に楽しそう。
「そういばリリィちゃんはクロードと会う前は何をしていたの?前に馬車で魔法にすら触れてこなかったって言ってたけど」
「私、ずっと森に住んでたんです。クロードさんと会うまではずっと森の外にも出たことなくて。だからクロードさんと会ってから初めてのことだらけで驚きの連続です」
「森?」
「はい。国のはずれの森です。そこで一緒に暮らしてたお兄ちゃんがいなくなっちゃって…。それでいなくなったお兄ちゃんを探すためにクロードさんと一緒にいるんです」
「そう…貴女も大変なのね。そういえば貴女のナイフのことだけど」
「ナイフ?これのことですか?」
懐からナイフを取り出す。お父さんから最後に貰った形見のナイフ。このナイフがなかったらシーサーペントに丸呑みにされてたかもしれない。
「それ、お父さんの形見なんでしょう」
「そうです。ってローザさんにこの話しましたっけ?」
「アルバから聞いたの。リリィちゃんのお父さんってどんな人だったの?」
「うーん…改めて言われると難しいですね…。強いて言えば優しくて強い人、ですかね」
「強い?優しいのは分かるけど、強いって?精神的な意味で?」
「そのままの意味ですよ。強くて優しい。それがお父さんです」
「そっか。お父さん、ね。私には縁のない話ね」
ローザさんお父さんいないの?ローザさんって魔物だからその辺の概念とか違うのかな。
「私にも一応両親はいるのよ。でも父は私が生まれる前にいなくなったし母は私が生まれてすぐに放置だったからね」
「えっと…その……」
まるで私の心を読んだようにローザさんが両親の話をしてくれた。でも、思ったよりも重い話だった。ローザさんの声色はいつも通りの明るいけど。
「魔物ってこんなものよ。正直家族の絆なんてないもの。たとえ家族でも弱かったら切り捨てる。魔物は完全な実力主義。私の種族ナーガもそうだったわ。いかに群れの中で強い毒を作れるかで群れの地位が決まるの」
「実力主義…」
「リリィちゃんはジャッカスに会ったんでしょう。アイツが分かりやすい例ね」
そういえばクロードさんが言ってた。ジャッカスさんはこの世は弱肉強食だと考えてるって。そっか、ジャッカスさんも昔はゴブリンで魔物だったからその考えだったのかも。
「魔王って立場もそうよ。強いから王になれる。でも玉座の奪い方は力ずく。魔王が気に入らなかったら魔王を倒して自分が魔王になる。魔物に限らず大体の魔族は弱肉強食の価値観を持ってるわ」
「クロードさんは嫌いだって言ってたような…」
「クロードは弱者から一方的に奪う強者が嫌いなのよ。正直私もクロードのこと深くは知らないから真意は知らないけどね。はい、終わり。綺麗になったわ」
話をしながら寝癖を直してくれたみたい。髪を触って確かめると寝癖ひとつない髪になってる。
「ありがとうございます。ローザさん」
「いいえ。結局話が逸れちゃったんだけど、リリィちゃんのお父さんってもしかしてサナティクト王国の王宮にいたことある?」
「王宮?いえ、聞いたことないですけど」
「そう…」
「どうしたんですか、急に」
「いえ、ちょっと気になってね。なんでもないから忘れてちょうだい」
お父さんが王宮にいたかなんて急に言われて驚いたけど、そんな話は聞いたことないからお父さんが王宮にいたことはないと思う。でもなんでいきなりそんなこと聞かれたんだろう。あれ?そういえばお父さんもずっとあの森にいたのかな?お父さんの昔話なんて聞いたことないし…。
「さ、準備ができたら早く出発しましょう。一刻も早くトレイダ街に戻りましょう」