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魔王復活目録  作者: わか3
フォーメン街編
103/117

103話 隕石


「なんで隕石が!?」

「クリスタだ…こんなことができるのは…」

「クリスタってあの鎧のレディか」

「クリスター!隕石落とすの待って!!」


 団長が大声で女の子の名前を呼ぶ。だけど、アルバが鎧の女の子がいなくなったって言っていた。何処かにはいるとは思うんだけど…。でもこの付近にいたら自分たちも隕石の衝突に巻き込まれない!?まさか自爆覚悟で私たちを巻き添えにする気なの!?


「ごめんバロン!!もう止められない!!」

「クリスタ〜!!」

「ごめんなさーい!!!」

「声が…!一体どこから……」

「アルバ!今はそんなことよりもあの隕石をなんとかするわよ!このままじゃここら一帯吹き飛ぶわ!!」

「分かりました……うっ…!」

「ちょっと大丈夫?」


 アルバが頭を抑えてふらついたから身体を支える。肌色が悪いわね…。もしかして貧血?


「すみません…血が、足りなくて……」

「血液のストックは?」

「それがもう使い切ってしまって…」

「まったく仕方ないわね。ほら、さっさと吸いなさい」


 シャツの首元を緩めて首筋を露わにする。吸血されるのは変な感覚なのよね。痛くはないけど…なんて言えばいいのかしら。


「で、ですが……」

「ほら、さっさとする。時間がないのよ」

「それでは…失礼します……」

「んっ……ぁ…」


 アルバの牙がぷつりと首筋に食い込んでいく。溢れ出した血をアルバがジュルジュルと音を立てて喉を鳴らしながら血を啜っていく。


「…ふっ……はぁ……ご馳走様でした」



 最後に傷口をひと舐めすると溢れ出していた血がピタリととまった。アルバが離れて口元を手で雑に拭う。私も緩めたシャツを直して頭上を見上げる。


「はい、お粗末様。それじゃあさっさとあの隕石なんとかするわよ」

「分かっています」

「む、無理ですよ!あの隕石を破壊するなんて!!」

「無理でもやるしかないのよ。このままじゃ私たちどころか、この辺一帯吹き飛ぶわよ」

「だけど…!!」

「そもそも貴方の連れが起こしたことなんでしょう。貴方たち騎士団は民を守るのにこんな民を巻き込む様なことしちゃ駄目でしょ。貴方はそこで指でも咥えて待ってなさい。腕は一応止血したから死にはしないはずよ」


 さて、あの隕石をどう破壊しようかしら。私の水魔法と氷魔法じゃあの隕石を破壊するほどの威力はでない。毒を飛ばすにもあれを全部溶かすにはちょっと手こずりそうね。だとしたら……


「アルバ、できる?」

「全部の血液を使えばなんとか…。ですが、その後血液不足で動けなくなると思います」

「その後は私がなんとかしてあげる。今は後のことなんて考えずにやりなさい」

「かしこまりました。ブラッドウェポンズ、弓矢(アロー)(ランス)(ソード)(アックス)!」


 アルバが血液で次々と武器を作り出して何百本もの武器が生まれる。これだけあったら隕石を破壊できるかも知れないし、できないかも知れない。


「行けっ!!!」


 アルバの掛け声ひとつで武器たちが一斉に隕石へ向かっていって勢いよく隕石に衝突する。目を凝らして見ると隕石にヒビが入っていって隕石が崩壊を始めて崩れた隕石が雨の様に降ってくる。こうしてみると幻想的で綺麗ね。


「よくやったわアルバ!!」

「後は…お願い、します……」


 それだけ言い残して意識をなくして倒れ込んだ。倒れ込んだアルバを支えてそっと地面に寝かせる。地面が硬いから起きた時に身体を痛めそうね。


「さて、大仕事ね」


 身体を軽く伸ばして準備運動をする。あそこまで小さくなった隕石なら私の毒で溶かせるはず。でも結構広範囲だから頑張らないとね。私も結構体力が限界に近いし、ここが正念場になりそうね。


「最大濃度、毒のベール(ギフトシュライアー)!!!」


 毒のベールで降ってくる隕石のかけらを受け止めてかけらを全て溶かしていく。広範囲で毒を貼ってるから体力を消耗する…。


「凄い…。あの数の隕石のかけらが跡形もない…!」

「はぁ…はぁ……これで全部…!」


 全部のかけらを溶かしきって肩の力が抜ける。体力を使いすぎて正直後のことを考えたくはない。アルバも血を使いすぎて貧血で倒れてるし、目の前に腕を取られたとは言えまだ魔力が残ってる団長の男にまだ居場所が分からない女の子もいる。ここから無事に逃げ出せるかしら…。移動魔法で短距離なら移動できるけど、そう簡単に逃がしてくれるかしら…。


「本当に隕石をなんとかしちゃった…」

「はぁ……尻拭いをしたんだから私たちのこと見逃してくれる?」

「確かにあのままじゃ街にも人にも甚大な被害がでてた。でもそれとこれとじゃ話が違う」

「やっぱりそうよね〜。はぁ…どうしようかしら」


 ひと睨みすると怯えた様に身体がビクッと反応した。この子に戦う意志はなさそうだけど…。


「バロンから離れて!!」

「やっぱり貴女は諦めてくれないわよね」


 下から生えてきた岩を軽く避ける。あの鎧の子の魔法ね。でもそれっぽい魔力が見つからないのよね。一体どこに隠れてるのかしら。


「戦うのは構わないけど、このままじゃ団長の子はどうなるのかしら。一応止血はしたとはいえ簡易的なもの。それに腕を切断の大怪我よ。このまま長時間放っておいていいのかしら。早く医者に見せないとまずいんじゃない?」

「……バロン!ここはいったい退こう。確かにその通りだもん」

「クリスタ…」

「それじゃあまたね!!」

「!スライム!?」


 足元からスライムの様な液体が集まってきて団長を包み込んで消えてしまった。もしかしてあのスライムが鎧の女の子?確かにあそこまで散らばってたら魔力が分散されて魔力感知で特定もできない。でも魔物のスライムではなさそうだったし、祝福でスライムに化けていたのかしら。


「まぁ今はそれどころじゃないわよね」


 壁の向こうから沢山の人の魔力がこっちに集まってきてる。あの隕石のせいで他の騎士団が集まってきたみたい。早くアルバを連れて街の外に出ないと。


『ローザさん、聞こえますか?』


 頭の中でリリィちゃんの声が響く。使い魔を通して話しているのね。


「聞こえるわ。その様子じゃ無事に脱出できたみたいね」

『はい!で、でもさっき街の方に隕石が降ってくるのが見えてローザさんたちは大丈夫でしたか?』

「えぇ平気よ。今からアルバと一緒にそっちに向かうわ。リリィちゃんはそのまま人に見つからないように隠れておいて」

『分かりました。あ、でも場所って分かりますか?』

「使い魔の魔力を辿れば場所は分かるわ。ありがとうね」

『それならよかったです。それじゃあ待ってますね』


 その言葉を最後に使い魔との交信が切れた。リリィちゃんは私たちと別れてから無事に街の外に出られたみたい。無事でよかったわ。もしリリィちゃんに何かあったらクロードに怒られるところだったわ。


「よし、それじゃ行きましょうかね」


 寝ているアルバの肩を担いで土の壁を毒で溶かす。それにしてもアルバ重いわね…。身長もあるし、鍛えてるから余計に重い…。まったく私も疲れてるっていうのに。


「魔族を探せー!!!」

「この街から逃すなー!!」


 私たちを探してる声が聞こえてきた。どうやら結構近くまで来てるみたいね。早くここを離れないと。でもアルバを担いだままじゃ流石に限度があるし、移動魔法で転移するにも体力が足りない。体力があまりない状態で2人を転移すると何が起こるか分かったものじゃないもの。できるだけ危険を犯したくはない。


「ん?あら!ちょうどいいわね!借りていきましょ!」




 ****




「ローザさーん!!」

「リリィちゃん、お待たせ」

「ど、どうしたんですか?その馬?」

「ちょっと借りてきたの。ここまでありがとうね」


 街の外でヴァイスと一緒に待ってたら馬にローザさんとその後ろにアルバさんが乗ってやってきた。遠くから見てた時にまさかとは思ってたけど本当に馬だったとは…。馬から降りたローザさんは後ろにいたアルバさんを下ろす。アルバさん、もしかして寝てる?怪我もしてるみたいだし大変だったのかも。


「貴女もありがとうね」


 ローザさんから預かってた使い魔の蛇を渡すと頭を優しく撫でて褒めている。蛇も嬉しそうに目を細めてローザ服の中に潜っていった。


「アルバさん、大丈夫ですか?」

「今は体力と血液を使いすぎて眠っているだけよ。夜になったら起きるわ。それよりもここを離れましょう。いつ追手がくるか分からないわ」

「そうですね。ヴァイス、アルバさんを乗せてあげて」

「ウァン!!」


 ヴァイスにアルバさんを乗せて落っこちない様に紐で括りつける。これでよし、と。それから歩きながらローザさんに別れてからのことを聞く。特にあの隕石のこととか。


「ローザさん、さっきの隕石ってなんだったんですか?街の方は大丈夫だったんですか?」

「街は大丈夫よ。隕石が落ちる前になんとかできたからね。それと意外な収穫があったわ」

「収穫?」


 そう言うとローザさんは布に包まった何かを取り出した。結構な大きさで魔力を感じる。いったいなんだろう。


「なんですか?それ?」

「アイリス様の左腕」

「!!団長と戦ったんですか!?」

「えぇ。まさか本当にアイリス様の身体が移植されてたなんて…。アイリス様の身体とあの団長じゃ移植なんてできないはず。でも今持ってる左腕は女性のものじゃなくて男性の腕。前にもリリィちゃんが疑問に思ってたけど、本来女性の身体を男性に移植できるはずないのよ」

「でもそれじゃあなんで…」

「きっと魔法かなにかね。魔法でアイリス様の身体になにか細工をして男性の身体に移植できる様にした。とでも考えた方がいいわね」

「そんなことができる魔法があるんですか?」

「少なくとも私は知らないわね。身体の形を変える魔法なんて聞いたことないもの。そういうマッドな魔法は私は詳しくないのよね。それとも………」

「なんですか?」

「いいえなんでもないわ」


 なにか言いかけてたみたいだけど途中でやめちゃった。言わなかったってことは大した内容じゃなかったのかな?


「さて、馬車でトレイダ街からフォーメン街まで一日かかったんだから歩きじゃ相当な距離よ。頑張りましょ」

「頑張ります……」




 ****




 それから歩き続けて日が落ちて夜になった。ずっと歩き続けたせいで足がパンパン…。


「そろそろ休みましょうか。ちょうどいいしね」

「疲れた〜!」

「お疲れ様。ずいぶん歩いたものね」

「筋肉痛になりそう…」

「あはは!それは大変ね。マッサージでもしてあげよっか?」

「ううん……ここ、は…?」

「あら、アルバ。起きたのね」


 今までずっと寝ていたアルバさんが目を覚ました。身体が痛そうに節々を伸ばしてる。ずっと不安定な姿勢で寝てたから身体を痛めても仕方ないか。


「ロ、ローザ様…ここは、いったいどこですか?」

「フォーメン街の外、今はトレイダ街に向かってる途中よ」

「だ、団長は、どうなったんですか?」

「無事に倒した、って言っていいのかは分からないけどアイリス様の身体は取り戻したわ」

「そ、そうですか!よ、よかったぁ……」

「アルバがいたからなんとかなったわ。ありがとう」

「い、いえ!そこまで言われることなん、て……」

「アルバさん!?だ、大丈夫ですか!?」


 アルバさんが急に頭をおさえてふらついた。倒れる寸前でヴァイスが支えてくれたおかげでなんとか倒れることはなかったけど…。アルバさんどうしたんだろう。


「す、すみません…」

「まったく血がたりてないんだから無茶しないの。ほら飲みなさい」

「あ、ありがとうございます」


 ローザさんから赤い液体が入った試験管を受け取ったアルバさんはそれを一気に飲み干す。


「ぷはっ!はぁ…生き返る…」

「ローザさん、アルバさんに血を飲ませていいんですか?確か緊急事態の時だけって…」

「今は極度に血が足りない状況だからね。その足りない分だけをあげたの」

「ご、ご心配おかけしてすみません…。い、今はもう夜ですし少し休めば体力も魔力も回復します」

「だ、そうよ。実際吸血鬼は夜型だしね。それに今のうちに休んで貰わないと。エルフの里ではもっと働いて貰うことになるんだから」

「は、はい。か、覚悟してます」

「リリィちゃんも休める時に休んでおきなさい。ここから先十分に休めるとは限らないんだから」


 確かにこれから先もトレイダ街に着くまで歩き続けるんだから休める時にちゃんと休んでおこう。正直今日は色々あって本当に疲れた。


「それじゃあお言葉に甘えてゆっくり休ませて貰います」

「そうしなさい。私たちはもう少し起きてるけど気にしないでね」

「それじゃあおやすみなさい。ヴァイスもおいで」


 ヴァイスを呼んで一緒に寝っ転がる。ヴァイスはあったかいから毛布がわりに丁度いい。ぼーっとしながら目を閉じてるとゆっくりと眠気が襲ってくる。


「ふわぁ〜……」


 自然とあくびが出てくる。意識がだんだんと朦朧としてきた。今日は疲れたからなぁ。ぐっすり眠れそう…。


「もう寝ちゃったのね。相当疲れてたのね」

「あ、あのローザ様」

「なに?アルバ。なにか言いたげだけど」

「じ、実は少し気になったことがあるのですが…」

「何よ。もったいぶって」

「リ、リリィさんが持っていたナイフなんですけど、実はナイフの柄にサナティクト王国の国章が掘られていたのです。も、もしやリリィさんってサナティクト王国の関係者なんじゃ…」

「ナイフに国章…?」


 どの国でも国章は王国が直々に製造したものか王国に深い関係がある者が持っている道具にしか刻まれない。偽造防止と王国の審査が通った正式なもの、王国の関係者という意味がある。でもリリィちゃんのナイフには国章が刻まれてる。ナイフを王国がわざわざ作るとは思えないし、もしかしてアルバの言う通りリリィちゃんはサナティクト王国の深い関係者、なの?でもそんな風には見えないし…。明日詳しく聞いてみようかしら。


「お、お父さんの形見だと…」

「確かに少し気になるわね。私ももう少しリリィちゃんのことを知らないと。せっかくならクロードからもっと聞いておけばよかったわ」

「そ、そうですね」

「さ、私たちももう寝ましょう。夜型だからと言ってまったく寝ないのは身体に悪いわよ」


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