102話 鉄と血
「魔法のせいで近づけない…なんとかして間合いに入らないと」
ローザ様のもとまで吹っ飛ばされ再び鎧の女戦士のもとまで戻ってきた。口もとの血を拭って舐めとる。今は少しの血も無駄にはできないからね。ローザ様から授かった御守りと称した液体の入った小瓶。中身はなんとなく予想はついてる。
「ローザ様から託された御守りをうまく使わないと」
「えぇい!!」
「よっと!本当に油断も隙もないな」
魔法によって作られたゴーレムが大剣をふるってきたのを咄嗟に避ける。さっきのゴーレムとは違って鎧を着込んで片手には大剣、もう片方には盾を持っている。地第六呪文クレイゴーレム。属性魔法には珍しい魔法士によって魔法が変化する魔法。故に強いゴーレムを作れるのは優れた魔法士という訳。魔法士によっては上級魔法にもなり得る伸び代がある。
「ブラッドウェポンズ、大剣」
血液で大剣を作りだして構える。血液を多く使うが致し方ない。一気に踏み込んでゴーレムの方に向かい切りつける。攻撃を受ける瞬間に盾で防がれて弾かれる。あの盾、見た目以上に固い。
「ゴーレムちゃん、やっちゃって!」
「くっ!」
再び大剣を振りかざしてきた。攻撃を避けて風魔法で矢を放つ。全てを盾では防ぎきれずに何本か貫通する。やはり数は防げない。あれほどの巨体なら自力で避けるなんてできないだろうしね。
「…!!穴が塞がっていく!」
「ゴーレムちゃんは土。自分が魔力をあげ続ければずっと動き続けられる。…粉々にされちゃったら流石に無理だけど……」
魔法士本人を倒そうにもゴーレムが邪魔してたどり着けない。……そうだ!あのゴーレムは土。ならそれを逆に利用してやる。
「ブラッドウェポンズ、弓矢!」
矢を真上に打ち上げて一本の矢を分裂させて矢の雨を降らせる。ゴーレムは盾を頭上に掲げて矢の雨を防ぐ。だがあの巨体を盾一つで防ぎきれなくて何本か刺さる。刺さった矢を液体状に戻してゴーレムの身体に浸透させる。
「何をやっても無駄だよ!どんなに攻撃をしてもゴーレムちゃんは……」
「ブラッドウェポンズ、棘」
指を鳴らせばゴーレムから棘が生えてきて身体がボロボロと崩れていく。思った通りうまくいったね。うまくいきすぎて怖いくらいだ。
「ど、どうして!?魔力も受けつけない!!」
「僕の血液が邪魔をしているんですよ」
「血液…?もしかしてさっきの矢で!」
「察しがいいね。血液を土に染み込ませてゴーレムの内部から棘を作って身体を崩壊させたんだ。所詮土、液体には弱いからね。僕は水魔法が使えないけどこういった芸当ができるのは吸血鬼の特権だよね」
これでゴーレムに関しては完全に攻略できた。あとは岩魔法の牽制に気をつけながら間合いを詰めていって……。
「あぁ!!!」
ローザ様の声!!
「ローザ様!!」
ローザ様が糸に囚われて地面に叩きつけられ伏している。あの人間!!ローザ様になんてことを!!!
「よそ見しないでよ、ねっ!」
「くっ…!」
ハンマーで殴りかかってきたのを血の盾で防いだけどあまりの勢いに身体が持っていかれる。空中で身を翻して体勢を立て直す。
「早く倒してローザ様のもとへ向かわないと…」
ローザ様ほどのお方なら大丈夫だと分かってはいるが、どうしても不安になる。もしローザ様に何かあったらと思うと…。
「ああああぁぁぁぁ!!!!!」
「ローザ様!!貴様ぁ!!!」
ローザ様の叫び声で目の前が真っ赤になる。そのままの勢いであの男のもとへ向かおうとしたらとてつもない衝撃が俺を襲う。
「ガハッ!…くそっ!」
骨が何本か折れたなこれ…。懐から血液の入った試験官を取り出す。これで最後の血液のストックだけど仕方ない。栓を抜いて一気に飲み干す。骨がバキバキと鳴ってくっついていくのを感じる。
「いたた…容赦ないなぁ…」
「戦いの最中でよそ見する方が悪いんだからね」
「あはは…。ごもっとも」
横目でローザ様を見るといつのまにか糸から抜け出している。流石ローザ様!やっぱり俺なんかが心配するほどではなかったかな。
まさか
「ブラッドウェポン、槍」
自分の血液で槍を作り構える。ストックの血液がなくなったから自分の血液を使わないといけない。使いすぎで貧血にならないように気をつけないと。
「いっけぇ!!」
掛け声とともにハンマーが振り翳されると大岩が一斉に襲いかかってくる。それを走り抜けながら岩を避けながら槍で粉砕していき、地面から生えてくる岩を飛び越え空中で一回転してから着地し再び距離を詰めそのまま通り抜けながら右腕を切りつける。
「うわっ!びっくりしたって…嘘…溶けてる…!なんで!?」
「流石ローザ様の毒。効き目はバッチリだ」
「毒って、いつの間に…!」
「俺の槍に血液と一緒に毒を混ぜたんだ」
「この鎧を溶かすほどの毒なんていつの間に…」
槍で切りつけた右腕の鎧が液体の様に溶け始め、煙が少し上がる。ローザ様から渡された御守りと言われた小瓶、その中身は強力な毒。その毒を血液に混ぜたことで槍で切りつけた鎧が溶け始めたってことだ。それにしても最初は溶かせなかった鎧を溶かせる毒を作るなんて流石ローザ様だ!!
「…油断しちゃった。でも近づかないと鎧は溶かせないよね。ならもう近づかせなければいいんだよ!」
「できるものならやってみな」
「むっ!言ったな!鳴り響け、地面よ!!」
「地震!?クソッ…!」
突如立っていられないほどの揺れが起こる。地の第七呪文…!まさか上級魔法まで無詠唱で発動できるとは。風魔法で宙に浮いて地震の影響を受けないようにする。どうやら地震が発生しているのは俺たちの周りだけでローザ様の方は地震が発生していない。ここまで細かく範囲を指定、それも無詠唱でここまでとは。やはり相当な魔法士だ。それに比べてあの怪力。まさか人間でここまでの実力者がいるとは。
ガラガラガラ…
「!!建物が崩れて…!」
地震の余波で建物が音を立てて崩れ始める。もしや建物を崩壊させるために地震を起こしたのか!?頭上に降ってくる瓦礫を血の矢で粉砕する。小石状になった瓦礫が頭にぶつかって地味に痛い…。
「いてて……。ブラッドウェポンズ、弓矢」
矢を下に放ち雨の様に降らせるが、土の壁をドームのように曲げ矢を防がれる。これも防がれるのか。やっぱり遠中距離じゃ部が悪い。距離を詰めて一気に勝負をつけた方がいいな。そのまま風にのって距離を詰める。
「ブラッドウェポンズ、大剣」
勢いにのって大剣を振り下ろす。寸前にかわされて大剣が地面にぶつかる。そのまま身体を捻って大剣を持ち上げ剣を振る。攻撃を防ぎきれずに鎧の腹のところに横一文字に傷がつき傷あとから鎧が溶け始める。やっぱり急な接近と攻撃に対処するのが苦手みたいだ。
「うわっ!」
「解放!」
圧縮された血液の大剣を一気に解放し血液を破裂させる。超近距離からの血飛沫に対応できずにもろに血を被った。これで鎧はドロドロだ。一気に鎧が溶けたことで煙が上がり視界が少し塞がれる。刺激臭のする煙を吸い込まないように少し離れて様子を伺う。これでずっと隠れてたお顔が拝見できるな。
「!?い、いない…!!」
煙がようやく収まったと思ったらそこには溶けた鎧しか残っていなかった。まさか鎧と一緒に溶けた?いや、血が流れていないからそんなことはない。どういうことだ?まさか最初から鎧の中身なんてなかったのか?操り人形の様に誰かが遠くから操作していたのか?いや、そんなはずはない。鎧の中身に魔力を感じていた。必ず鎧の中身はいた筈だ。まさか逃げたのか?この一瞬で!?
「一体どこに…?」
あたりを見回しながら魔力探知で本体を探すがそれっぽい魔力も姿が見当たらない。
「うわぁぁああああ!!」
団長の男の叫び声!声のした方を見るとローザ様が下半身を本来の姿に戻し団長に巻きついている。そして何よりもローザ様の手には左腕が。どうやらローザ様が団長の左腕を切断したことで叫び声を上げていたみたいだ。
「大丈夫よ。毒が効いているから痛くはないわ」
「ローザ様!」
「アルバ!そっちは片付いたの?」
「そう、ですが…実は鎧を着ていた本体が見つからず…」
「クリスタ……!」
「!なに?この大きな魔力?何かが近づいてきてる…!?」
そう言うとローザ様は空を見上げる。俺もつられて空を見上げるとローザ様の言う通り空から大きな魔力がこっちに近づいてきている。目を凝らすと大きな物体が降ってきている様な…。
「ま、まさか…隕石!!??」