10話 荒れ果てた村
11月2日 編集しました。話の内容は変わっていません。
「2人ともーカシワ村の近くに到着しましたよー」
少し話をしていたらもう着いたみたいだ。馬車だと意外と近かったのか。
「ありがとうございます。こんなところまで送って頂いて」
「いいんだよ。でも本当に気をつけてね。この辺りは本当に危険だから」
「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫です!私の相棒とても強いですから!!」
俺の背中を強めに叩く。俺はお前の相棒じゃないんだが。ていうかなんでお前が誇らしげにしてんだ。
「ほー。兄ちゃん強いのか」
「自衛ができる程度だ。別にそこまでじゃない」
「謙遜しなくてもいいんだよ兄ちゃん。まあそれなら大丈夫かもな。じゃあ俺はこれで」
「ありがとうございましたー」
行商人に手を振るあいつを横目に見ながら辺りを見渡す。随分荒れている様だ。これも魔物の仕業なのか。
「クロードさん。さっきのおじさんによると、カシワ村はここを真っ直ぐ行ったらすぐみたいです」
「分かった。すぐに行ってみるか」
「そうですね。村を襲ってる魔物っていうのも私、気になります」
こいつ、魔獣であんなにビビってたのに魔物に出くわしても大丈夫なのか?
「言っとくが、魔物は魔獣よりも凶暴で強い個体が多いからな」
「え、私を襲った魔獣よりも強いんですか!?」
「ボーっとしてると殺されるかもしれないな」
「えーーー!?」
「言っとくが俺は命かけてまでお前を守りはしないからな」
「だ、大丈夫です。護身用のナイフも持ってますから」
自信げにナイフを見せてくる。至って普通のナイフだがこれで自分を守れると思ってるのか?いや自分でもよく分かってるんだろうな。まぁ無いよりかはましか。
「まぁ精々死なない様に気をつけるんだな」
「はい!!」
あれからまっすぐ歩いて2、3分くらいか。カシワと村と思われる所に着いたが。
「クロードさん。ここがカシワ村、ですか?」
「ああ、多分そうだろう。だが思った以上にこれはひどいな」
着いた村は村といえるほどの機能は果たしていない様な状態だ。畑は荒らされ、家は殆どが崩壊している。
「ここに住んでいる人、いるんでしょうか?」
「多分いるな。人の気配が少しする」
「本当ですか。そういうの分かるんですか?」
「そこそこ人間が集まっている様だから魔力が少し感じる」
「魔力、ですか?」
「人間は魔族に比べて魔力が少ないことが多いから魔力が感知しにくいが、人間がそこそこ集まっているなら魔力は少し感知できる」
普通の人間は魔力が殆ど無いから魔族と違って魔力感知がしにくい。だが人間が10人ぐらい集まってれば魔力感知は少しできる。塵も積もれば山となるというやつだ。
「この先に人間が集まってる様だな」
「行ってみましょうよ。この村に何があったか聞いてみましょう」
「分かった」
「すみませーん…誰かいますか?」
「確かにこのあたりのはずだ」
「何者じゃお前ら」
「うわ!?びっくりしたした〜」
「お前この村の人間か」
俺らの前に現れた人間の老人は痩せこけて随分やつれている。魔物に畑を荒らされて食料がないのだろう。
「ああ、その通りじゃ。お主らは旅人か?今この村に旅人を迎える程余裕はないぞ」
「大丈夫だ。長居するつもりはない」
「え、そうなんですか」
「当たり前だ。俺たちにこの村を助ける義理はない」
俺は一刻でも早くアイリスのことを助けなければならない。なんの思い入れもない村に何か施しをする程暇じゃない。
「で、お前らはわしになんの様だ」
「ただ話を聞きたいだけだ」
「何の話だ」
「魔王アイリスのこと知ってるか」
「当たり前だ。あの暴虐無人の魔王がいなくなったんだ。みんな勇者様に感謝しているよ」
「なんだと」
あのアイリスが暴虐無人だと?何を言ってるんだ。この人間は。今すぐこいつを殺してやりたいくらいだ。だが今ここでこの人間を殺せば情報は手に入らなくなる。自我を保つために強く握っていた拳から血がにじむ。
「クロードさん。聞いてたなら話と違うみたいですけど」
「何も知らない人間共はアイリスのことをそう思っているんだろう」
「クロードさん大丈夫ですか?顔が怖いですよ」
こいつに心配されるぐらい感情が表にでてたか。俺自身じゃ全く気がつかなかった。気をつけなければ。
「ああ、大丈夫だ」
「それならいいですけど…」
「それで魔王のことに聞いてきてなんなんだ」
「ああ、すまない。それで本題なんだが、魔王が封印された体について知ってることはあるか?」
「魔王の体…噂程度だが少しは知っとるぞ」
「本当か!」
噂程度でも構わない。少しでもアイリスについて知れるなら上出来だ。
「だが条件がある」
「条件、ですか?」
「あぁ。見ての通りこの村は荒れてとる」
「魔物の仕業だって聞いたが」
「その通りじゃ。この村はゴブリンの群れに度々襲われて食料が枯渇しておる」
「ゴブリン?」
「群れを組んで行動する魔物だ」
「なるほど。そのゴブリンっていう魔物がこの村を襲ってるんですか」
「そうじゃ。それでこれからわし達はそのゴブリンの群れを討伐しに行く」
「え!危なくないですか?」
「無理は承知じゃ。これ以上この村を荒らされる訳にはいかない」
ただの人間がゴブリンの群れに立ち向かう?そんなの死に行くだけだ。
「そのゴブリンの群れが俺たちに何の関係がある」
「わしたちと一緒に戦ってくれないか」
「私たちが戦うんですか!?」
「お前達が命をかけて戦わなくても国の兵士達に頼めばいいじゃないか」
「もちろん言ったさ。でも聞き入れてもらえなかった」
何故だ?王都から離れた村といえど国民の一大事だ。何故国が動かない。
「それで俺たちに戦えっていうのか。ただの噂話に俺たちが命を賭けると思っているのか」
「思わないさ。ただ少しでも村を救う可能性があれば何にでもすがる覚悟がある」
こいつの顔は覚悟に満ち溢れている。こいつは本当に村のために命をかける様だ。こいつと俺は少し似ているのかもしれないな。
「クロードさん、助けてあげましょうよ。クロードさん強いじゃないですか。それにお礼としてアイリスさんのこと教えてくれるみたいじゃないですか」
「………」
「クロードさん!!」
「はぁわかった」
「本当か!」
俺もつくづく甘いな。この人間の覚悟の表情につい揺らいでしまった。
「ただ条件がある」
「何じゃ?」
「ゴブリン達とは俺1人で戦う」
「え!?そんなの無茶ですよ」
「そうだ死ぬぞ!わしら村人全員が死ぬ気で戦おうとしたんだ。お主1人じゃ…」
「心配するな。それに1人の方が戦いやすい」
「しかし…」
「これ以上口出しするなら俺はお前らに手を貸さない」
「……。分かったこれ以上は何も言わん。じゃが本当に気をつけてくれ」
「俺は簡単に死ぬことはない」
「クロードさん、私はどうすれば…」
「好きにしろ。俺に着いてきてもいいし、ここで待っててもいい」
「…。私、クロードさんに着いて行きます」
「危険だぞ」
「構いません」
「勝手にしろ」
ゴブリンは魔物の中でも低級だ。俺が負けるとは思えないが、誰かを守りながら戦うことなんてなかったからな。