巫女アスカ、ローム誕生
アーノルドは1本の青色のポーションを持って来た。
「アトル王、このポーションを持って行ってください。」
「義父上、このポーションは!!」
「エリクサーです。娘をよろしく頼みます。」
「ありがとうございます。」
「アーノルド、さっきは何に驚いたのだ。」
「ナシル、誰にも言わない約束だったろう。」
「それは!!」
「 義父上、先生を責めないでください。先生は私の為に!!」
「アトル、良いのだ。」
ナシル、ロビナはアーノルド、ベラドンナの前で土下座をした。
「この通りだ、すまなかった。」
「ふふふっ、お前がそこまでするなら、許してやろう。
だが、俺との約束をまた破ったら、2度目はないぜ。」
アーノルドはナシルの手を取って立たせた。
「早く帰ってティアナを頼む。」
「任せておけ。」
「ナシル。」
「何だ。」
「お前も驚け。俺はサンターナ、ゴールドと会った事がある。」
「えーーーーっ、それは本当か!!」
「ふふふふっ、もっと驚け。俺は今でも彼女と会っている。」
「えーーーーーーーーーーーーーっ、嘘だろ。」
「俺がお前に嘘をついた事があるか!!」
「いや、失礼いたしました。何処で会っているのだ。」
「彼女は1年に1回ぐらいだが、ここへ、ルナ、モスラの粉末とニルンルート草を買いにくるのだ。」
「サンターナ、ゴールドは今、何歳なのだ。」
「この日記は200年前の物だぞ。200歳ぐらいのおばあさんなのか!!」
「それが絶世の美女なのだ。」
「またまた、アーノルド、お前は冗談が上手いな。」
「いや、本当に20歳ぐらいの女性で、超美人なのだ。
最初に俺に教えてくれたのは、妻のマリリン、ベラドンナ35歳なのだ。」
「マリリンも知っているのか!!」
「あっ、サンターナは妖精なのだな?」
「ナシル、御伽噺じゃないぞ。彼女は人族だ。」
「先生、話の途中ですが、帰りませんか!!」
「おう、そうだった。
アーノルド、この話はまた今度、ゆっくりしよう。
今日はこれでお暇する。
マリリンにもよろしく言っといてくれ。」
「ポーションの効果は知らせてくれ。」
「ああっ、直ぐ知らせるよ。それではな。」
「義父上、失礼します。」
「ティアナを頼みます。」
アトル達は夜通し舟を走らせ夜明け前に王都ロームに着いた。
直ぐ、ティアナにエリクサーを振り掛けた。
ティアナから黒い靄が出て来て、白い靄に変わり消滅した。
ナシルがサーチを放つと、ティアナの状態が正常になっていた。
それから1年後、ティアナは妊娠して実家のベラドンナに帰っていた。
そして女の子を産んだ。
アトルは急いでナシル、ナバンと共にベラドンナへやってきた。
そして3人共、驚いた。
その子供がうす青色の光の粒を発していたのだ。
「義父上、これは如何したのでしょう?」
「アトル王よ、文献によれば、その子は巫女です。」
「巫女?あの伝説の巫女、アドリアナ姫のような巫女なのですか?」
「アトル王、巫女とは神ムーン シルバー様の声が聞える者の事ですよ。」
「どんな神の声を聞いているのでしょうか?」
「いや、今はまだ無理でしょう。それよりも、この娘に名前を付けてあげてください。」
「名前はアスカです。
ティアナと2人で決めていたのです。
男の子ならアデル、女の子ならアスカと。」
「では、この子の名前はアスカ、ロームですね。
アスカちゃん、おじいちゃんですよ。
笑ってください。」
「おばあちゃんですよ。」
アスカ、ロームは周りから可愛がられて、すくすくと育ち3才になった。
この時からアスカの周りで異変が起こりだした。
風が吹いたり、水で床が濡れていたりした。
決定的だったのは、夜の部屋に灯かりが灯った事だ。
メイドがアスカの部屋に行くと、アスカの真上に光りの玉が浮かんでいたのだ。
この日からアスカはナシルの弟子になった。
しかし普通の弟子とは、まったく違ったのだ。
アスカは最初から魔法が使えた。
「アスカちゃん。」
「何じぃじぃ。」
「じいちゃんが今から言う言葉を言って見てね。」
「あいっ。」
「風の精霊よ、我が願いを受け、風を現し給え、ウインド。」
「風のちぇいれいよ、我が願いを受け、風をあらわちたまえ。ウインド。」
「アスカちゃん、少し呪文が違う?えっ、発動するのか!!」
風がそよそよと吹いた。
それでナシルはアスカが無詠唱で魔法を発動しているのだと考えた。
詠唱が少しでも違えば魔法は発動しないのだ。
後ナシルでも分からない魔法があの灯りだ。
「アスカちゃん。」
「な~にっ、じぃ~じぃ。」
「あの灯りを出してくれないかい?」
「いいわよ。」
一瞬、間があり、それからアスカの前方、斜め上に灯りが灯った。
「アスカちゃん、その魔法の言葉は分かるい?」
「ことば、あっ、このへんなもじぃね。
えっーーと、かみ、むーん、ちるばーのなにおいてめいじぃる。
ひかりのちぇいれいよ、あかりをともちぇ。
らいと。」
こんな呪文、ナシルは聞いた事もなかった。
ここでナシルはアスカを広い練習場に連れ出して、アスカがどんな魔法を使えるのか?調べる事にした。
ナシル、ロビナ42歳は天才と言われた小さい頃から、先代の宮廷魔術師長だった父から魔法を習った。
そして近年では最高の魔法使いと言われていた。
4属性魔法はLv7まで使え、氷魔法はLv1、雷魔法もLv1、回復魔法はLv3、聖魔法Lv3、そして空間魔法Lv1が使えるのだった。
先ずは自分が得意な4属性魔法について調べた。
なんとアスカは4属性魔法をLv5まで使えたのだった。
次自分がやっと40才になって覚醒した雷魔法について調べた。
アスカはまだ使えなかったが、5つの呪文を言ったのだった。
何故まだ使えないかは何となく分かった。
自分でも最近になってスタン、つまりカミナリを理解してスタンの魔法が使えるようになったのだ。
カミナリは水魔法の液体操作と風魔法ウインド ストームを同時発動すると起こるのだ。そして雷魔法に覚醒する。
氷魔法は水魔法の液体操作から温度を上げたり、下げたりすると覚醒した。
つまりアスカは雷とは時々空に光るイカズチしか知らないので、今は発動が出来ないだけなのだ。
自分がアスカにスタンの魔法をその身で受けさせたなら、Lv5までの雷魔法が使えるのだろうと思った。
実際はまだアスカは小さいので、出来る物ではない。
こうして調べた結果、アスカは自分の知っている魔法をLv5まで使える事が分かった。これは最早天才と言える物ではない。
自分達とは何か違う魔法使いだ。
可愛いけど。
ナシル、ロビナは魔法を教えるのは止めて、自分の知る知識を教え出した。
2年間、しっかりと教えた結果、アスカはLv5までの魔法を5才児にして使えるようになった。
ナシルは初め、3才児に、こんな危険な魔法を教えて良いものか?迷った時期があった。しかしアスカは悪戯や遊びでは決して魔法を使わなかったのだ。
魔法を使う時は、人々が困った時だけだったのだ。
王宮で怪我をした人を見たら回復魔法Lv2ヒールで癒した。
驚きは、馬車でロビナ領に向かっている時に3首ヒドラに襲われたのだ。
アトルとティアナが馬車から降りて、近衛兵と一緒に戦おうとした時、天空から巨大なカミナリが落ちてヒドラを一撃で倒したのだった。
アトルは嬉しさよりも逆に心配になった。
それで師、ナシルに相談した。
「アトルよ、アスカの魔法は人を害したのか?」
「いえ、人は無事でした。」
「それでは、問題なかろう。」
「いえ、あの魔法を3才児が放つのです。いつ、人に向けられるか心配なのです。」
「アトル、お前はアスカが、この1年で人に魔法を放った所を見た事があるのか?」
「いえ、ございません。」
「それなら、問題なかろう。」
「アスカは3才児ですよ、本当に安全なのでしょうか?」
「アスカはお前の子供だぞ。」
「しかし?」
「しかしもかかしもない。
わしはアスカをずっと見て来た。
このわしが言うのじゃ。
アスカが魔法を使う時は、人々が困っている時だけなのだ。
怪我した人、病気の人、食べ物が無く苦しんでいる人の為だけに魔法を使っている。
また魔物に苦しめられている人を見た時だけ、魔法を使うのじゃ。
それ以外で、魔法を使った所を見た事がない。
わしはこのような人物を1人だけ知っている。」
「それは誰でしょうか?」
「伝説の巫女、アドリアナ姫だ。
聖女アドリアナだ。
アスカは聖女アドリアナの生まれ変わりだとわしは思っている。
きっとこのローム王国の国民を幸せに導いてくれるだろう。」
こうしてアスカ、ロームは5才になった。
5才の誕生日にベラドンナから爺さん、アーノルド、ベラドンナ47歳がやって来た。
「パパ、アスカに何を教えているのですか?」
「いや、ちょっと歌を教えているだけだ。」
「それ人魚姫の歌でしょう。」
「何故、分かるのだ。」
「私も小さい時、散々おじいさまから教わったからよ。」
「そうなのか?」
「そうよ。そんな歌、5才児に教えてどうするのよ。」
「いや、この詩を歌うと好きな人に出会えるのだ。」
「何言っているのよ、私も信じて小さい時、歌ったけれど、素敵な王子様は現れなかったわよ。」
「お前の素敵な王子様とは、どんな勇者なのだ。」
「それは、なんか、こう素敵な王子様だわ。」
「では、今の言葉をアトル王に聞かせてあげなさい。」
「えっ、アトルに。」
「そうじゃ、アトルは王子の時からずっとお前の側にいて、そして今は王だぞ。
お前はずっと小さい時から一緒にいるので、忘れているけど、お前が人魚の歌を歌い出してアトルに出会ったのだぞ。」
「えっ、そうなの!!」
「そうなのだ。」
2人がこんな話をしている頃、アスカの歌を聞いたモノがいた。
ここはアメニア王都アイオーレ。
「ネオ、今歌を聞いたよ。」
「えっ、歌?」
「僕には聞えなかったよ。」
「それはそうさ。歌っているのはローム王国の王都だからね。」
「何て歌っているの? 」
「恋して遊ぶ青い波間、恋して遊ぶ若い2人、恋する2人には何もいらない、ただ肩寄せて見つめ合えば、あああ、今もあなたを待つわ。この浜辺で」
「凄く綺麗な女の人だよ。僕が聞いたと言う事は、きっとネオに届くように歌っているのだよ。」
「会いにいけるかな?」
「今は無理だね。でも、きっと会える事になると思うよ。」
「その時は、頼むね。アイオネス。」
「任せておきな。」
アスカは7才になった。
この年の夏、家族と一緒にベラドンナを訪れてバカンスを楽しんでいた。
まあ、ナシル、ロビナ先生の夏休みだ。
ナシルの授業は、今ではいろんな国々の情勢についてになっていた。
この夏、アスカはサンターナに出会った。
「こんにちは。」
「あっ、いらっしゃいませ。御用は何でしょうか?」
「ルナ、モスラの粉末、それとニルンルート草ね。後レース、プラントね。」
「えっ、何故知っておられるのですか?」
「40階層のボス、溶岩魔人を攻略した冒険者パーティがいるそうじゃない!!
なんだったからし、そうそう伝説のチーム名、ザ ナイツ オブ プリンセス ユリアならぬザ ナイツ オブ プリンセス アスカだったかしら。
何でもチームのメンバーが大怪我した時、アスカ王女に助けてもらって以来、このチーム名を名乗っているそうじゃない。」
「あのミドルポーションが作れるようになられたのですか?」
「いえ、まだだわ。でも良い機会でしょう。練習するのには。それとも、他に誰か買う人がいるの?」
「いや、いませんね。」
「それでいくらなの?」
「はい、ルナ、モスラの粉末とニルンルート草は金貨1枚です。レースプラントは金貨10枚です。」
「金貨10枚なのね。現代価格で300万円だ。はい、金貨12枚ね。」
「あっ、はい、ありがとうございます。」
「それにしても、ベラドンナ領当主自ら店員をしているなんて、誰も気づかないわね。私の知っている限りでは、アンリからずっとやっているのも不思議だわ。」
「アリンと言われますと、初代様の事でしょうか?」
「そうよ、アンリ、ロームの事よ。」
「おじいちゃん、ただいま。」
「お帰り、アスカ。」
「えっ、この娘がアスカ王女なの!!」
サンターナには、アスカの発するうす青色の光の粒が見えた。
それに青色がゴールドの発していた色に近いと感じた。
「あなた、お名前は?」
「はい、アスカ、ロームです。」
「アスカ、貴女サーチが使えるわね。私を見てごらん。」
アスカはサンターナにサーチを放った。
サンターナ、ゴールド947歳。
称号 使徒の眷属
レベル4,570。
アスカは驚いて手に持っていたブーゲンビリアの花束を落した。
「アスカ、私の家に来る気ある?」
「はい、ぜひお伺いしたいです。」
「アーノルド。」
「はい、サンターナ様。」
「何日か、アスカを連れて行くわよ。」
「いや、それは出来ません。アスカはまだ7歳です。1人で外泊はさせられません。」
「じゃあ、アスカに聞きましょう。アスカ、如何する?」
「おじいちゃん、大丈夫です。サンターナ様は使徒の眷属なのです。」
「使徒の眷属?」
「分かり易く言えば、女神様なの!!」
「女神様?確かに女神様のようにお美しいが!!」
「では、アーノルド、貴方に良い事を教えてあげるわ。」