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狐が鳴く月夜に嘆くわ伝説  作者: 謎の作家
交じり行く世界歪みゆく均衡
52/53

忘られた過去の夢

連日投稿とはいきませんが、この展開は書きたかったので投稿します!!

本編はノイズを表すために、アンダーバーを用いて書かせていただきます。

ご理解した上で本編を読んでいただければ嬉しく思います。それではどうぞ。

────────シエルの我が儘に仕方なく付き合うことにした狐宵。もはや、どちらがお世話をしているのかわからなくなる。シエルの膝枕を堪能しながらも照れ隠しのためにぼやく。


「ところで、何故急に膝まくらを?」


「他の方々に自慢するためです…!狐宵様に私は膝枕をしたのですよ!と!」


「はぁ…」


呆れた、まさかそんなこととは。思わずため息をつく、そういえば輝夜様に「大好きです」と言ったときも何人反応していたことを思い出す。他にもシエル達のような人がいるのかと思うと全く困った者達である。

 撫でられて心地よかったこともありだんだんと眠気が襲ってくる。


「いいわすれ…ていましたが、寝顔撮ったら…リエル…に…言いつけ…ますから…ね」


「え…」


そう最後に言い残し狐宵は完全に眠りに落ちた。その直後に何やら一悶着あったようだが意識が薄れていったので気づかなかった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


─────────夢を見た。それは知らないはずなのに知っているかのような誰かの記憶を見ているかのような奇妙な夢。


目の前の霞が晴れ、視界が鮮明になる。何が起きているのか状況を理解するために辺りを見回す。

造りをみるに木造でところどころ天井は雨漏りの跡があり木板を継ぎ足し貼り付けて何とか凌いでいる状況。広さにして約8畳の和室だった。

しかし、嵐が来てしまえば簡単に吹き飛んでしまうようなボロい家だった。

 視線は動かせるが、体が自分の思い通りには動かないまるで自分との意志を隔離され、一人の少女に憑依したかのような感覚だ…知らない場所なのに、居心地の良さを感じるのだから不思議な気持ちだ。

 そうこうしていると扉の方に足音が近づいてくる、次第に足音が大きくなり扉が開いた。そこからは一人女性が入ってくる。


(誰だろう…この女性は…)


心にはそう思っても声にならない。

その女性は妖麗な白く肩にまで届く長い髪を一つに束ね、瞳孔は黄色と緑の虹彩異色オッドアイでどこか見覚えのあるような───────


「ただいまぁ…!_____!すぐご飯にするからね!いい子に待ってた?」


ただいまの後の言葉が聞こえない、まるでその部分だけノイズが入りよく聞こえない。自分の意志とは関係なく

先ほどまで声が出なかったのに、目の前の女性と会話を交わす。


「おかえり!_____!いい子にしてたよ。やったぁ!ご飯だ!お腹すいた!」


「今日はお米が手に入ったから塩握りにしようね」


まただ、何かの言葉を発するときにノイズが入る。


「わぁい!_____のおにぎり大好きだから嬉しい!早く食べたい!」


この女性は誰に向けて話しているのか、この女性と会話を交わす自分は誰なのか…様々な疑問が脳を支配する。

自分との感情などお構いなしに時は進む。


「はい、お待たせ。ごめんね…毎日満足に食べさせてあげられなくて…」


目の前に並んだのは、小さめのおにぎりが2つ、少量の漬物と、けして裕福とはいえない食事だった。


「んぅん、_____は悪くないよ。_____はいつも頑張ってるから、気にしないで!」


そういいながら頬張る、少女を目の前の女性が寂しげな表情で頭を撫でる。狐宵の性格として初対面の者からスキンシップを取られるのは苦手なのだ。しかし、何故だろう。心の底から受けれている自分?がいる。これは憑依した少女の感覚なのか…はたまた自分なのか…。

 気づけば、目の前に並んでおにぎりを一つあっという間に平らげてしまう。それを見かねた女性は1つしかないおにぎりを分けようとしてくる。


「_____、_____のことは気にしなくていいから、これも食べなさい」


「ダメだよ、_____の分がなくなっちゃう。そうだ、ん…これで一緒の数だよ」


2つ目のおにぎりを半分にわり、女性にわたす。一度断られたがもう一度渡し受け取ってもらえた。


「いいの…?お腹すいてるでしょ、無理しなくていいのよ」


「ん〜ん、いいの。ご飯は_____と一緒に食べた方が美味しいから!」


「なんて…いい子に…おいで_____」


「わ…_____?どうして泣いているの?」


少女の一言に女性は涙を流し少女を抱き寄せる、心の底から温かみを感じた。全てを包み込んでくれるような感覚。

どこか懐かしいような…知らないはずなのに、どうして…どうして?包み込まれる温かみと裏腹に妙な居心地良さ、

沢山の何故?どうして?という感情が渦を巻く。

 二人が抱き合うなか、外からまた音がする。草履を履き地面と擦る音、その直後知らない男性が入ってくる。


「帰ったぞー!!」


「お、おかえりなさい…あなた」


また知らない男性だ…でも…何故、何故、何故体が震えているのだろう。これは恐怖?本能に刻まれた恐怖なのだろうか?震えが止まらない。


「よぉ…_____。飯を食っていたのか…あんっ…?また餓鬼が飯を食ったのか。食費がかかるだけで迷惑千万だというのによ!泥水啜ってればいいんだよ!!」


「あなたやめて!!!っ!!!」


暴力を振るわれそうになる、体は恐怖に支配され避けることもできない。殴られる痛みがくると思われたがそれは来なかった。何故だろう恐る恐る目を開ける、そこには自分を庇う女性がいた。


「・・・・_____、り…____。りつ…。_____だい…じょうぶ?」


恐怖に支配されていた体は動き出し必死に呼びかける、身代わりとなった女性は今にも意識を失いそうになっていた。


「_____!_____!お_____さん!!」


その声は周りに響きわたり、農具などを持った村人が家におしけて来て暴力を振るった男を取り押さえる。

暴れ、抵抗するも抵抗虚しく男は村人に連れられていった。


「絶対…逃がさないからな」


そう吐き捨てるように言葉を残しながら。


「ごめんね…こんな_____で…り…つ…鈴月りつき愛している…わよ」


「_____!おか_____!お母さん!!!」


「おか…あさん??」


お母さんとポツリと呟きながら狐宵は覚醒する。頬には熱い何かが伝う。


「涙…?どうして私は泣いているのでしょう?それに…さっきの夢は…」


「狐宵様…?大丈夫…ですか?」


「…ごめんなさい、大丈夫です、少し疲れていたみたいです…夜風に当たって来ますね…」


そういい、体制を起こし先程起きたことを整理するため和室をでる。その様子を見てシエルは後をついていこうとするのだが…


「狐宵様…」


「ごめんなさい、少し一人にさせてください…」


「わかりました…何かあればお呼びください。すぐに参ります…」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


その言葉に狐宵は答えることはなく思い詰めた表情をして一人和室を出ていく。

和室を出て、今度は人気のない縁側に向かう。昼寝をしていたらいつの間にか空には三日月が昇っていた。

月光に照らされながら、先ほどみた夢について考える。


「知らない記憶…あの女性は…?そもそもあれは何だったのでしょうか…。あの男性を見た瞬間体が震えて…そうです…あの女性は鈴月りつきと言っていましたね…あの誰かの記憶には何か続きがあるのでしょうか…」


月を眺めながら思いつめていると両方からもふもふとした慣れしたんだ感触がくる。


「あら…ついて来ちゃったのですか?もう…仕方ないですね」


「えへへ…狐宵様に甘えたくて」


「狐宵様は一人じゃないですよ…」


 焔はいつものことだが、雫の一言にはっとさせられる。自分は一人じゃない一人で悩む必要なんてないのだ。

夜叉が言っていたことはこういうことだったのかと…そんな簡単なことに気づかせてくれた二人に自分は感謝しなければならないと思ったのであった。


 二人を愛でながら月を眺めていると、後ろに気配を感じた。振り向いているとそこにはシエルがいたのだ。

狐宵を心配して我慢できずについてきてしまったのであろう。


「シエル、そこにいるのですよね。もうバレバレですよ…仕方ないですね、隣に座っていいですよ」


「気づいておられましたか…では、失礼して」


以前までの狐宵ならこのままシエルを追い返していたかもしれない、しかし「他の人をもっと頼ってもいい」ということに気づいた狐宵は甘んじて受け入れた、シエルは隣に座ると思ったのだがなぜか後に周り三人を包み込むように抱擁する。


「シ…シエル?どうして抱擁を…」


全てを包み込んでくれるような感覚、どこかで…シエルは囁くような優しい声で問いに答える。


「私は…狐宵様を守りたいのです…」


「シエルが私を…ですか?私の方が強いじゃないですか」


その言葉に狐宵は不思議に思い反論するが、シエルはさらに抱きしめ頭を撫でる。


「狐宵様…守るというのは武力だけではないのですよ。こうやって狐宵様の弱い部分に寂しいという感情も全部私が包み込んで守ってあげます」


優しく全てを許してくれるような…心から安心して…今まで溜まっていた何かがスッと消えていくような….

気づけば、涙が溢れていた。止まることのない熱い涙…心の底から泣いたのはいつぶりだろうか…今は泣いて泣いて…泣き止んだから。


「狐宵様、もう大丈夫ですか?辛くなったらまた私がこうして抱きしめてあげますからね…」


「…ふふ、好きにしてください」


「はい…好きにさせていただきますね」


ひとしきり泣き、今まで詰まっていた何かを出し切り心が少し軽くなった気がする。

狐宵は照れ隠ししながらポツリと零し、それにシエルは微笑みかけ我が子のように優しく包み込む。それはまるで

母親のようだった。


「…狐宵様、もう寝ましょうか。輝夜様がお布団を用意してくださっているので行きましょう」


その言葉に静かに頷き、和室に戻り眠りに着くことにした。


 夜は更け、虫の音色が静かな夜叉御伝に響き渡る。

あの見た夢は…誰かの記憶なのか────狐宵の向き合うべき過去なのか────。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

またの更新をお楽しみに。

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