千里眼は幻を覗く
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────風が髪を靡かせ古の狐、焔、雫が見守る中「幻渡り」の修行が始まった。
「幻渡り」即ち、音速で障害物を避け場所を移動するその上、気配を増幅させ相手を撹乱し戦闘を優勢に持っていくための幻術。これを行使するには並外れた身体能力と幻術を行使できること、不揃いな木々と歪な障害物をいち早く認知して避ける能力が必要とされた。狐宵は半狐になった影響で身体能力は異常な程に伸び人並み外れていて、歪な木々を移動するのは容易いことだった。
しかし、問題は別にあった。幻術を行使し気配を増幅させ欺き、対象の背後を取ることにある。幻術を使えるとはいえ、そう簡単にはいかないものだった。そのうえ、今回の対象は「千里眼」が使える古の狐と修行には向いているが、反面厄介な者だった。
「始めましょう」
開始を宣言し、狐宵は地面を蹴り跳躍して木々の中に姿を消した。木々を徘徊してできるだけ気配を増幅させ、相手を撹乱させることを意識し古の狐の背後を取ろうとする。
「師匠の幻渡りはすごいものでした…けど、創造ができない…どうやればいいのか、音速で移動しそれだけでは残像が残るだけですぐに見破られてしまう、とにかく…気配を残すことだけを意識して動くしか…」
歪な木々、障害物の中を目に止まらぬ速さで移動する。常人にはすでに追えない程の技術だった。しかし…
「そこね、黒く高い木のとこにいるわね」
開始してから数分、狐宵の居場所をズバリと当てる古の狐、そこには狐宵が潜んでいた。見破られ、母親からの助言を受けるため一旦降りる。母親はできていなかったことを指摘する。
「バレバレよ、意識しているのはわかるわ。けどそれだけね、まだ足りないわ。気配を増幅させるのはもちろんけど、増やしただけでは気配を察知するのに長けた者にはすぐ見破られるわね。意識することはその気配をいかに本物と撹乱させるか、いた場所に偽の存在を残すかなの」
母親からの助言の中にあった、気配を察知するのに長けた者とは今後統率していく古の森に生息する種族を指している。主に、鎌鼬などの気配に敏感な種族にはとても通用しないものだった。故に、千里眼を欺ける程になる必要があったのだ。
「気配を残す…これはイマイチピンとこないのです」
「やり方などないわ、これに限っては感覚ね。幻術を行使して移動するというよりも私を欺くことを第一に意識しなさい、焦ることはないのよ」
やり方を学べると思った狐宵は自分が望んでいた答えを得られず少し不満を覚えたがこれ以上は得られることはなさそうだったので、深く考えず没頭することにした。気配を増幅、かつその場にできるだけ偽の存在を残し相手を撹乱させることを脳頭に置き、気配をかき乱しつつ徐々に古の狐に接近する。
「いい感覚ね、けど、もう少し。そこね」
だんだんと形になりつつあるがまだ、古の狐の千里眼を欺くのには遠く及ばなかった。修行は何時間…日が沈み…日が登りと気が遠くなる程の間続いた。新月の夜、霧が月光をも遮断し辺りは暗闇で静まりかえっていたそんな中、風を切る音だけが響いていた。数えきれない日と失敗があり、位置がバレるまでの時間がだんだんと伸びている。そろそろ折れてしまうと思われたその時…
「決めます…」
目を瞑り、息を吸い吐く…解き放つオーラが変わる、そして歪な木々に入っていき次々と音速で移動する。次第に気配が撹乱する程に増え、千里眼で終えきれない程になる至る場所に狐宵の気配があり居場所が不明となった。
「これは…」
古の狐は悟り、千里眼を精一杯に行使するが追いつけず焦りが出る。ふとした瞬間後ろに…
「決まりですね」
狐宵が背後に立っていた、長い日々、数えきれない失敗の上成り立ちついに「幻渡り」を習得した。
「ふぅ…長かったです…少し疲れましたね」
その場に仰向けに倒れ込む狐宵、その姿を古の狐は見るが暫く呆然と見るしかなかった。
「あの感覚…初めて感じたわ、あの程の気配の増幅に初めて背後を取られた感覚、ヒヤリとしたわね。全く育てがいがありすぎるわよ…」
ぽつりと聞こえない程の声で古の狐は呟き、仰向けに疲れ切って寝てしまった狐宵を体にのせ住処に戻るのであった───
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