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第6話 バイト初日

 次の日は丸一日井戸作りに専念した。

 井戸作りと言っても、元々ある井戸の四方に骨組みして屋根を作り、井戸の上に来る様滑車を付けて縄の両端に桶を付けるとつるべ井戸の完成だ。

 ロックと二人で朝から取り掛かったのだが、出来たのは夕方だった。でもこれで少しは水汲みが楽になったと思う。毎日水の入った重い桶を引っ張って持ち上げるのは本当に大変だったので満足している。



 そしてその翌日、ユリアさんの店に初出勤の日となった。

 俺とロックは朝から町に行くと、真っ直ぐユリアさんの店に向かった。ユリアさんは起きて店にいてくれていた。

 ロックは俺を送ると、また夕方迎えに来ると言って店を去る。どこに行ったのかは不明だ。


「じゃあ今日からよろしくね。ルース君にはお店の鍵を渡しておくわ。一階の扉はこの鍵で開けられるから、次からは私が来ていない時もこの鍵で入ってきてね」

 そう言って店の鍵を渡してくれたので、鍵を受け取る。

「ありがとうユリアさん。とりあえず今日の予定を聞いてもいいかな?」

「ええ。まず今日は商品の受け取り予定が三件入っているわ。出来ている商品はこの棚に置いてあるの。名前と品物と値段は商品の下にメモを置いてあるから、これで確認してね。後の接客は大丈夫みたいだったから、そのままでお願い。私は基本この奥で作業しているから、困った事があれば声をかけてくれるかしら?」

 カウンターの奥に行って、商品がある棚の位置や品物の確認をし、更に左奥にある作業スペースを教えてくれた。

「うん、分かった。それから後一つだけ。俺は雇われてる身という立場をはっきり示すため、お客さんがいる時は店長として敬語を使うけど、それは許してよね」

「了解! それから、カウンターに防犯機能があるからスイッチを入れておいて。あ、カウンターまで飲み物を持って行っていいからね。そこの簡易台所を使って何か作って飲んでいいわよ。飲み水はこの水差しの中の水を使って。じゃあよろしく」

 ユリアさんはそう言うと作業スペースに引っ込み、俺も何か作るかと台所に行った。


 台所は簡単なシンクと壁に棚があり、棚の上にはコーヒー・紅茶・薬草茶と種類が豊富だった。

 そして七輪の様な物の上にやかんが置いてあり、横には魔石が付いている。魔石に指輪の魔力を流すと中の炭に火がついた。この魔道具は携帯コンロみたいで便利そうだなと思った。

 早速お湯を沸かし、紅茶を作るとユリアさんにも持っていく。

「ユリアさん。紅茶作ったんだけど、どこに置いたらいい?」

「あら、ありがとう。そこに置いておいて貰えるかしら。こっちは道具があるから私が飲みに行くわ」

 ユリアさんが指をさしながら言っていた場所に紅茶を置くと、自分の分も入れてカウンターに行き、防犯機能のスイッチを入れると、そのまま座って店番を始めた。


 それから暫くして、予定していた商品を受け取りに来た来客に精算して商品を渡していたのだが、そこに突然一人の男が入ってきた。

「いらっしゃいませ。少々お待ち下さい。こちらがご予約頂いた商品となります。ありがとうございました」

 前半は入ってきた男に対して、後半は支払いを済ませたお客様に商品を渡していた時だ。

 今来た男は突然俺の胸ぐらを掴み、「誰だテメェは、ユリアはどうした!?」と言い出したので、迷惑客系の人だと認識した俺は、とりあえず先にお客様を店から出すと、「私はここの従業員として雇われていますが、ご予約のお客様でしょうか?」ととぼけて聞いてみる。まあまず違うと言うだろうけどね。

 案の定、男は「客じゃ無い、俺はユリアの男だ!」と言い出したので、「ああ、そうでしたか。それは失礼致しました。では、閉店後にまたお越し下さい」と返答する。

「は!?」

「店長の男なら、わざわざ営業時間内じゃなくてもお会い出来ますよね。違いますか?」

「それはその……きゅ、急用なんだよ!!」

「そうでしたか。ではお名前と住所をお教え頂けますか?」

「はぁ!?」

「申し訳ありませんが、店長が貴方の事をご存知でも私は知らないので、誰が来たとお取り次ぎ出来ません。ですから、お名前と住所を……」

「あーもういい!! 直接……」

「あ、ちょっとお待ち下さい。おきゃ……」

 無理矢理カウンターの中に入ろうとした男と、それを止めようとして声をかける途中で、男に電流が流れた。男がその場に倒れる。

 ……うん、防犯機能付いてるからオンにしとけと言われてたけど、気を失う程の電流が流れるとは聞いてないよユリアさん!!

 早速ユリアさんを呼びに行く。

「困った客その一で間違いないわね。とりあえず縄で縛って、一日外に置いておくわ。ありがとうルース君」

「いえ、それよりも防犯機能の強力さに驚いているんですけど」

「そりゃ強力にするわよ、当たり前でしょ。普段は私一人でストーカー(こんなの)に対応するんだもの」

 確かにそうだ。店から動けないユリアさんに、来れば必ず会えると分かっているストーカー(こいつら)というただでさえ分が悪い状態で、そいつがユリアさんを見て話せれば気が済むとは限らないのだ。そりゃ身の危険を感じて強力にはするか。

 とりあえず男を縛って、『ユリア魔道具店に迷惑行為をしているのは私です』と書いたプラカードを背中に付けて外に出されていた。実力行使までして来た奴には容赦なく辱めを与えるらしい。つ、強い。

 そこで前後に看板を挟むサンドイッチマンスタイルを教える俺も俺だけど。


 また別のお客様に予約商品の受け渡しをしていた時に男が入ってきたが、「いらっしゃいませ。少々お待ちください」という言葉に素直に従っていたため、今度は迷惑客では無い様だ。

 商品を持って帰っていく客を見送り、「お待たせ致しました。ご所望の品をお伺い致します」と聞くと、「こちらの店は完全受注生産と聞いたので、注文をしたいのだが」と言われた。

「はい、それではあちらの椅子に掛けてお待ちください。ただいま店長を呼んで参ります」と、商談用スペースに案内すると、奥の部屋にいるユリアさんに、「店長、発注のお客様がご来店です」と伝えた。

 ユリアさんが顔を出し、「お客様は?」と聞いてきたので、「商談スペースにご案内しています」と伝えて、台所に行ってお茶を二杯入れる。

 カウンターの外に出るためにユリアさんが防犯機能を切って外に出ていたので、そのまま商談スペースにお茶を持っていくと、「失礼します」と言ってお茶を出し、カウンターまで戻る。

 暫くすると、商談は成立したのか二人は椅子から立ち上がり、「では、よろしくお願いします」と言ってお客様が帰っていく。

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしています」と声をかけると、「お茶、ありがとうございます。ご馳走様でした」と言って扉を開けて帰っていった。

 お見送りした後、カウンターから出て、

「真っ当なお客様だから勝手にお茶を出したけど、良かったかな?」とユリアさんに聞くと、

「ええ、勿論。ありがとう」と言われた。

 次からも発注の客にはこのやり方でいいと言われたので、注文客の接客の流れも決まった。


 途中で期限切れのポーションを売りにきた客がいたのでユリアさんに聞いてみると、一本50リルで買い取ってくれと言われた。

 後で話を聞くと、薬草で作ったポーションは期限が切れるとポーションとして役割を果たさないので、そのポーションを買い取って薬草茶にして飲んでいるという。

 ポーションは一本500リルするらしく、期限が切れると効果がないためほとんどの人が捨てるらしいが、ここでは持ち込んだ場合一本50リルで買い取っているらしい。

 ポーションの薬草茶は、作ったお茶にポーションを混ぜるだけらしくて簡単なのだが、少量入れるだけなのでポーションの量が減らないため、味は美味しくなるが不人気なのだと言われた。

 ならば、ポーションを使った薬草茶を商談の際に出す様にしてみればと提案すると、その案を採用されて期限切れポーションも台所に置く事になった。


 こうして一日が終わり、夕方にロックが迎えに来ると、俺の初のバイト初日が終わった。

「ありがとうルース君、とても助かったわ。やっぱり他に一人いると全然違うわね。作業も捗るし」

「役に立ってたなら良かった。色々勝手な事もしてたし、ちょっと心配してたんだけど」

「勝手な事って、お客様にお茶を出しただけじゃない。そんなの勝手とは言わないわ。一人じゃそんなサービスも出来ないし、これはルース君がいる時の特権としてこれからも活用していくつもりよ」

 ユリアさんも喜んでくれているし、バイトを申し出て良かったなと思った。

「それで今日一日の仕事の料金なんだけど、一万リルでいいかしら?」

「え、そんなに貰えるの!?」

 正直一日のバイト代はその半額位かと思っていた俺は驚いた。

「従業員として働くと大体六千から八千リル位だけど、仕事ぶりは申し分なくて新鮮な案も出してくれるから凄く助かるし、内情を知ってるから私も気楽で他に流れて欲しくないのよね。だからちょっと奮発するわよ」

 凄く条件がいいんだけど、それなら甘んじて受ける代わりに条件を出そう。

「ありがとうユリアさん。じゃあそのうち半額はユリアさんの借金の返済にあてて、半額の五千リルを手取りって事でどうかな?」

「え、それでもいいけど、それでいいの?」

「勿論。だってずっと借りっぱなしも気になるしね」

 ユリアさんに了承して貰い、初めてのバイト代で大銀貨一枚を貰った。

「よし、それじゃあ俺からはこれが就職祝いだ!」

 ロックはそう言うと、一枚の布袋を渡してきた。

「給料貰うなら財布がいるだろう? これに金を入れて財布として使ってくれ」

 ロックはそう言って財布を俺にくれた。

「ありがとうロック!! 財布は全く考えてなかったから、凄く嬉しいよ」

「まあこれからは元手が入るから自分で売り買い出来るしな。あって困る物でもないだろうから遠慮なく使ってくれ」


 俺がこの世界に落ちて一人で森の中にいた時、初めに見つけてくれたのがロックで本当に良かった。

 ロックからしてみれば森に一人でいる凄く怪しい人物で、連れて帰るのも嫌だっただろうに、こんなに親身に親切に対応してくれて、ロックが信頼するユリアさんにまで会わせてくれた。

 ユリアさんも凄く優しくて、魔道具を作ってくれただけじゃなく、俺の事を店に雇ってくれた。

 本当に二人には感謝してもしきれない。

 少しでも二人の恩に報えるよう、俺も出来るだけの事はしようと心からそう思った。


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