第22話 転写機の使い方
メラニーさんが町に来た翌日、ユリアさんの店に仕事に来た俺は、メラニーさんにアイテムバックをねだられた。
「お前さんの師匠が持ってるんだから、大師匠に作っても罰は当たらないだろう?」
……と言われているんだけど、どうしよう?
ユリアさんに目を向けると、眉間に皺を寄せて目を瞑り、「バックがありませんから」と言うと、メラニーさんも「わたしが持ってきたバックでいいんだよ」と言う。
俺は別に作ってもいいんだけど、ユリアさんはメラニーさんにアイテムバックを作るのを躊躇っている感じだった。
こういう時はいつも、こちらの世界の常識に疎い俺は、ロックやユリアさんの判断に従う事にしていた。
今回もユリアさんの判断に任せる形で、黙って成り行きを見守っている。
ユリアさんはため息を吐くと、メラニーさんに許可を出す。
「分かりました。ルース君にアイテムバックを作ってもらいましょう。ただし、ルース君は魔法陣の転写をまだした事が無いのです。なので転写技術を師匠が教えてあげて下さい。師匠も自分のアイテムバックになるので、妥協せず教えられるでしょう?」
そして魔法陣の転写をメラニーさんが教える様にという交換条件を出している。
「まだ薬作りの練度を上げる段階じゃないのかい? 魔法陣の事を教えてたら、薬の方が行き届かなくならないかねえ?」
「大丈夫です師匠。ルース君は薬作成の過程をマスターしています」
ユリアさんがそう言うと、メラニーさんが驚いた様に俺を見た。
「へえ、そうかい。孫弟子は随分と優秀なんだねえ。まだ四か月位なんだろう?」
「ありがとうございます。ユリアさんにはコツを掴むのが早いと褒められました」
「じゃあ先にそのお手並み拝見しようかねえ」
メラニーさんに向かってお礼を言うと、先に薬を作れと言われてしまった。
「それじゃあ、まずはいつも通りやりましょうか。ルース君は明日受け取り予定の薬類をお願いね」
店を開けた後、翌日受け取りに来る予定のお客様の薬を作り、ユリアさんは道具系の作成で作業部屋で作業をするのが仕事のルーティンだったので、まずはいつも通りに薬系を作る事にした。
「はい、分かりました。それじゃあメラニーさん、こちらへ掛けて下さい」
とりあえずメラニーさんに椅子を出して座ってもらい、俺は台所へ行ってお茶を淹れる。
メラニーさんにお茶を出し、作業部屋へお茶を持って行くと、俺は依頼書を見て薬を作りだす。
「ずいぶんと丁寧に作っているんだねえ」
材料の重さを計っている時、メラニーさんは呟いた。
「効能や味が落ちない様に、いつもしっかり計ってから作っています」
作業をしながらメラニーさんに告げると「なるほどねえ」と返ってきた。
ささっと作ってから味見すると、出来上がった薬をメラニーさんの所へ持っていく。
「一部、作業工程が違っていたけど意味はあるのかい?」
「そうですね、出来た後の味が違います。今回出来上がり寸前に蜂蜜を入れて少し味をまろやかにしています。どうぞ、味見をお願いします」
少しの量を入れた味見用のスプーンをメラニーさんに渡すと、そのまま小分け作業をする。
「効能は気にしても、薬の味見をするとか初めてだよ」と言いながらメラニーさんも薬を口にし、「うん、飲みやすいんじゃないかい」という好印象な言葉を頂いた。
俺も「ありがとうございます」と言ってスプーンを返して貰うと、洗い物を置いた所に持っていく。
そんな感じで数種類の依頼の薬を作っては味見をお願いしていた。
薬作りはその効能のみを重視しており、味までは考えられておらず、ある程度作れる様になったら味を研究していた俺の薬は、お客様に好評価を貰っていると思っている。
効果を消さずに味を変えるのは結構大変だったがそれは楽しくもあった。
依頼分を作り終えた後、メラニーさんにどうだったかを聞いてみたら、メラニーさんも褒めてくれた。
「良く出来てたよ。正直驚いた。これなら魔法陣の転写を教えても構わないかねえ」
そう言って魔法陣の転写転写を教えて貰える事になった。
アイテムバック用の魔法陣を書くのに魔力伝導プレートを取り出し、自作のインクを出すと魔法陣を書き出す。この辺は自分達の財布を作る時に何度も書いたから慣れたもんだ。
途中、ユリアさんに大きさを相談しようと思って聞きに行くと、ユリアさんのバックと同じでいいと許可を貰い、一平方メートルの方を作る事になった。
それを聞いたメラニーさんは「大きい方がいい」と主張し、ユリアさんも「分かる中では一番大きいですから」と宥めている。
もっと大きな容量も作れるが、勿論俺は黙っている。
一応納得したメラニーさんに、ユリアさんのアイテムバックと同じ自動収納付きの魔法陣を書き上げると、魔力を通してメラニーさんにこの魔法陣が機能する所を見せる。
いよいよ、魔法陣の転写だ。
ナナル村の時には携帯用転写機を使って転写していたのだが、今回のは店にある転写機を使っての正式な転写となる。
転写機は作業部屋にあるため、ユリアさんはカウンターに移動してもらい、俺とメラニーさんは作業部屋を使わせてもらう。
作業部屋の隅に、コンビニに置いてあるコピー機の様な大きさの機械が置いてある。
「転写機はこれだね。これを使った事はないんだろ?」
「携帯転写機を一度使った事があるだけで、この様な正式な転写機は使った事が無いです」
メラニーさんの問いに答えると、メラニーさんは頷いた。
「だったら一度使ってみようかねえ。まず紙に転写してみるよ。元になる魔法式や魔法陣の書かれた物を、この場所に置くんだよ」
可動式の蓋の様な所の上に置くよう言われたので、その上に魔力伝導プレートを置くと、その蓋を上に持ち上げる。すると、水平になったまま持ち上がった。
「それじゃあ移す物をここに持ってくるんだよ。今回は練習だから紙を下に置いとくれ」
言われた通りに練習用として紙を置く。
「このままこのボタンを押すと、転写する魔法陣の陰影が移るから、このダイヤルで大きさを調節するんだよ。そして大きさが決まったらここのボタンで決定する。するとそこに写された様に転写されるんだよ。移す方の場所の移動も出来るからね。紙の端の方とかに入れる事もできる」
そう言いながらメラニーさんは紙を動かして、陣を端にやったり真ん中にやったりしている。
「ほら、やってみな」
場所を譲るメラニーさんの所に行って、紙の真ん中に大きめの魔法陣が来る様に扱い、転写ボタンを押して転写する。
「上手く出来た様だねえ。そうやって、魔法陣を起動する場所に転写して魔道具を作るんだよ」
魔道具を作るにあたって、この魔法陣の場所というのが重要なのだとメラニーさんは説明してくれた。
この場所を適当に設置した結果、上手く起動しなかったり劣化を早めたりするらしい。
そういえば以前錬金道具の修理を受けた時も、ユリアさんが荷物の出し入れに魔法陣が当たり、場所が悪いと言って魔法陣の移動を依頼主に推進していたなと思い出す。
魔法陣を置く場所もきちんと考えて設置するのはとても大切だという事が分かった。
「魔道具を買う時も覚えときな。三流の道具を掴まされるんじゃないよ」
と言われ、しっかりと頷く。魔道具の値段は高いので、きちんとした道具を見極める方法が分かったのはありがたい。
魔導士や錬金術師が三流道具を買わされるなんて、恥ずかしい事だ。騙されて変な物を買わない様に気を付けよう。
「それじゃあ、いよいよ本番だよ。わたしのバックをアイテムバックにする作業だ。まずは魔法陣の設置場所を考えてみな。ほら、これがそのバックだよ」
そう言って、メラニーさんは町に来る時持ってきたバックを俺に渡す。中身が入っていてズッシリと重い。
「メラニーさん、中身入ってますけど!?」
「いいんだよ、出すのは面倒だからねえ。大したもんは入ってないから見ても構わないさね」
了承の言質は取ったけど、開けるの結構勇気がいるなあと思いつつ、バックを開ける。
なるべく中身は気にせずに、どんな構造かを見ていく。
バックの中は両サイドに大きさの違うポケットが付いていた。
大きめのポケットの方が魔法陣は付けやすいけど、機能性を考えると大きい方がポケットとして使いやすい。
そして収納的にもその方が増えるのだが、どちらがいいだろう?
今は持ち主もそばに居るので、メラニーさんに相談すると、やはり小さい方に魔法陣を付けたいと言われた。
その言葉を聞き小さいポケットの中身と、そこに落ちてくる大きいポケットに入った最低限の物を取り、後は魔法陣を置く位置の事を教えて貰う。
しっかりと教えて貰った場所に魔法陣を転写するのだが、そこで待ったがかかった。
「じゃあ、この魔法陣を起動できる様、正規の転写をするよ。魔法陣を置いた上の場所にあるこっちのボタンを押して、書いた魔法陣を消すんだよ。それからはさっきと同じ様に魔法陣を転写する場所を決めて、転写するボタンの前にこのレバーを引いて起動する魔法陣を刻める様にするんだ。ほら本番だよ、やってみな」
転写手順を聞いて、魔法陣を説明の通りに転写してみると、先程までの練習とは違い、しっかりと魔法陣に魔力を流して起動できるアイテムバックが出来上がっていた。
「成功したね。それじゃあ上に置いた魔力伝導プレートを取ったら、魔法陣が消えているのを確認しな」
伝導プレートを取り出すと、伝導プレートに書いてある魔法陣が綺麗に消えていた。
「同じ様に魔法陣の書いてある物を上に置き、下に写したい物を置くと、魔法陣の移動も出来るからねえ。位置が悪い時はそうやって魔法陣の移動も出来るからね。覚えておくんだよ」
そう言いながらアイテムバックを手にしたメラニーさんは、ホクホク顔で出来たてほやほやのアイテムバックに一度出した荷物を詰め込んでいた。
無事に出来上がったアイテムバックをユリアさんに見せて合格をもらい、メラニーさんのアイテムバック作成は無事に成功したのだった。




