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第21話 メラニーさん、町に来る

 メラニーさんの家でお茶を頂きゆっくり休憩していたが、そろそろ町に戻ろうと思いメラニーさんに声を掛ける。

「メラニーさん、そろそろ帰ります。お茶ご馳走様でした」

「あ、ちょっとお待ち! わたしも行くよ」

 帰ろうとしたらメラニーさんも俺達について来ると言う。

「どうせユリアの所に行くんだろう? ついでに連れてっとくれよ。あ、そのまま泊まるから身支度だけさせとくれ」

「分かりました。じゃあ洗い物しときますね」

「洗わなくていいよ、水が勿体ないから。代わりにクリーン掛けといておくれ」

 メラニーさんの支度中に、貰った飲み物の洗い物を済ませるつもりだったが、メラニーさんは生活魔法のクリーンを頼んできた。

「じゃあ俺がやっとくわ。ルースはばーさんの荷物を持ってきてやればいい」

 魔法を使えない俺をフォローしてロックがそう言うと、カップをお盆に乗せる。

「ありがとうロック。じゃあメラニーさん、準備が出来たら俺が運びますので教えて下さいね」

「ああ、言い方が悪かったかね。町に行く前にちょっと着替えたいだけなんだよ。荷物はそこのバックだ。頼んだよ」

 そう言って着替えに行ったメラニーさんは、暫くすると戻ってきた。

 さっきまでのメラニーさんは、普段ユリアさんが着ている様な黒いローブ姿だったのだが、綿シャツに麻のロングスカートという格好になっていた。どこにでも居そうな町の女性の服装だ。

「待たせたねえ。それじゃ、行こうかね」

 準備の出来たメラニーさんとともに、俺達はラムダの町へと戻っていった。



「し、師匠!!」

「久しぶりだねえユリア。元気そうで何よりだよ」

 ラムダまで戻ってきた俺達はユリアさんの店に入っていった。

 カウンターにいたユリアさんは、メラニーさんを見るなり大きく目を見開き驚愕の声を上げ、逆にメラニーさんは落ち着き払ってユリアさんに挨拶している。

 ユリアさんはとりあえずカウンターの奥の部屋に皆を招き入れる。

 部屋に入った俺は全員分のお茶を準備する事にした。


「どうなさったんですか師匠。町まで来るのをあんなに嫌がっていたのに」

「お前さんが弟子を取った事を隠していた理由を聞こうと思ってねえ」

「別に隠してなんかいませんよ。隠していたなら今日の配達も頼んでいません」

「そりゃそうだ。でも世間話にさえ出てこないのはおかしくないかい?」

「それは師匠が世間話もせずに私を即帰そうとするからじゃないですか……」

 気落ちした感じで言うユリアさんに、メラニーさんはカラカラと笑っていた。

 それぞれにお茶を出していき、俺はユリアさんに書類等を渡す事にした、

「えー、店長。歓談中失礼しますが、今日の配達書類とお金です」

「あ、ありがとうルース君。師匠も支払い済ませたんですね」

「そりゃあ、孫弟子となれば家族同然じゃないか。最低限の信頼は態度で示さないとねえ」

 その言い分から、普段メラニーさんの所に来る人は受け付けていない様だ。

 俺達はメラニーさんの家でしっかりお茶までご馳走になって帰ってきたので、俺はメラニーさんが人を避けているのは信じられなかった。

「もしかしてばーさん、ユリアですら遠ざけてたのかよ。そりゃユリアが悲しむぞ」

「何言ってんだい。わざわざ一日店を空けて来てるから、帰って開店再開しろって言ってたんだよ。弟子を取って店にいると知ってたら、わたしも家でゆっくり話しもするさね」

 あ、なるほど。ユリアさんがお店に一人だと思って、店のためにユリアさんを追い返していたのか。

 誰も寄せ付けない感じに聞こえたメラニーさんの話は誤解だったとホッとしたのだが、そうはさせまいと思ったのかロックが爆弾を投下する。

「ああ言ってるがな、ルース。ばーさんは基本、他人には自分の周りに人が居ない様に振る舞うからな。俺もお前やユリアのおかげで認識されてる様なもんだ」

「えっ!?」

「ばーさんの信頼は弟子のユリアと孫弟子にあたるお前位で、俺はユリアの友人でお前の親戚というだけの認識だと思うぞ。まあそれでも認識されて無いよりましだけどな」

 徹底した避け具合に驚くが、そもそもユリアさんの計らいで配達に行った俺も、一歩間違えばスルーされていたのかもしれない。

 スルーされている人を見た事ないから実感が湧かないけど。


「実は師匠って有名人だから、自分で付き合う人を選んでいるんですよ」

「いや、単に気まぐれなだけだろ」

「次から次へと人を紹介して、顔つなぎが出来たからって無理難題出す様な奴ばっかりだからねえ。わたしの知ったこっちゃない。年寄りに無茶言うんじゃないよ」

 そうか、メラニーさんはユリアさん家のゲストルーム利用予定者の一人なんだ。

 話の内容的に、メラニーさんは高名な魔導士であり、お偉いさんを多数紹介された挙句に依頼が殺到したとかの過去があるという事かな。

 だから町にいたらそんな事ばかり起こって、あの山の中腹に引っ込んだのかなと勝手に想像した。

 そんな感じだから町に来るのも嫌なんだな。

 ちょっとだけメラニーさんの事が分かった様な気がした。


 暫く世間話をしてから、俺とロックは家に帰る事にした。

「じゃあ、そろそろ帰るぞ」

「ユリアさん、また明日来るね」

「二人とも、今日はありがとう。ルース君また明日ね」

「明日まだわたしもいるだろうから、ちょっとだけ見てやろうかね」

「ありがとうございますメラニーさん。よろしくお願いします」

 挨拶をして俺はロックと家に帰った。




ー side ユリア ー



 ロックとルース君が家に帰ると店を出て行くと、私はカップを片付けた。

 普段はルース君に洗ってもらっていたが、師匠がいる時は生活魔法を使って片付ける事にしたのだ。

 すると、後ろから師匠が声を掛けてきた。

「それで。あの()()()を弟子にした経緯を聞こうかね」

「化け物、ですか?」

 師匠の言っている意味が分からず、間の抜けた返事を返してしまった。

「すっとぼけんじゃないよ。あのルースって子、欠片も魔力を持っていないじゃないか。他の者はともかく、わたしの目を誤魔化せると思ったら大違いだよ」

 しまった!! 確かに普通の魔法使いならまだしも、師匠は()宮廷魔導士のトップだ。

 国一番の実力者を誤魔化せる筈がない。

 仕方なく、私は師匠にルース君と出会った経緯を話す事にした。


「……実は、彼とはロックの紹介で知り合いました。魔力が無いのにそのまま町中に連れて行くと、魔法使いの目は誤魔化せないので、それ用の魔道具を作るために。人となりはその時に見ていて、あの通りいい人だったので後日店にも雇いました」

「正規の魔導士に成れないだろうに、弟子にしたのはどうしてなんだい。自分でも従業員だって言ってるじゃないか。道具作りを教えなくても良かっただろうに」

「そうですね。初めは薬作りに興味がありそうだったので、そこまでで辞めるつもりだったんです。ですが、錬金術師になれそうな才能がある事に気付いて、つい……」

「それがあの財布かい?」

「あの財布を見ていたんですね。その通りです。実はあの魔法陣、彼一人で書き上げたんですよ」

「へえ、そうかい。それで、あの子に魔力がない理由は分かっているのかい? まさか知らずに雇っているとか言わないよねえ?」


 魔力がない生き物なんていないこの世界で、魔力を持たないルース君を師匠が警戒しているのがよく分かる。

 恐らく、普段は全く町に来ない師匠がわざわざここに来たのも、その事を知るためだと気付かされた。

 ここで返答を間違えれば、師匠はきっとルース君の味方にはなってくれないだろう。

 一気に緊張しながら、私は誠心誠意答える事にした。


「はい、知っています。その理由はルース君自身の事のため、私からお話する事は出来ませんが、私とロックは教えて貰っています」

「他に知っている人は?」

「いません。なので今はロックと二人でフォローして、彼の生活の安全と平穏を守っている所です」

「それを聞く事は本人からしか出来ないって事だね。わたしがあの子に理由を聞いてもいいのかい?」

「話す話さないはルース君自身の問題なので構いませんが、内容を聞いたら師匠にも協力して貰いますよ」

 暫く考えていた師匠は、ふぅっと息を吐くと表情を和らげた。

「分かったよ。事情を知ってそれを受け止めているなら、これ以上は何も言わない。ただ、困った事があればちゃんと相談するんだよ。わたしはお前の師匠なんだからねえ」

「ありがとうございます師匠。その時はよろしくお願いします!」

 良かった! 師匠はルース君を受け入れてくれた様だ。


 師匠が受け入れてくれて嬉しかった。

 あのままだと師匠は、ルース君は魔力を持たない化け物だという認識でいたままだ。

 ルース君が違う世界から来た事は話せないけど、それ以外は彼は普通の人なのだ。

 化け物扱いのままも嫌だったし、師匠にもいい人だっていう事をきちんと知ってもらいたかった。

 師匠がルース君の生い立ちを聞くかは分からないけれど、もしそれを聞かれた時、ルース君が師匠を信じて話してくれればいいなと思った。


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