第20話 ユリアさんの師匠
ユリアさんに続いて作業部屋へと行くと、部屋には大きめの荷物が置いてあった。
「ルース君、悪いけど明日この荷物を私の師匠の家まで届けて欲しいんだけど、頼んでもいいかしら?」
「ユリアさんの師匠ですか?」
「ええ。メラニーという名前で、町中に住むのが嫌だからって離れた所で一人で暮らしているのよ。高齢でもあるから様子見がてら、たまに食料とかを配達していたの」
明日もその配達をする予定だったが、魔道具の依頼が急遽入ってきて、配達日と被って打ち合わせを予定に入れてしまっているらしい。
「休みの日にまで頼んで申し訳ないけど、引き受けて貰える? あ、もちろん当日分の給金も出すから。どう?」
配達に行くのは構わない。でも、町から離れた家まで一人で配達に行くのは心配だったので、ユリアさんに聞いてみる。
「そのメラニーさんの家って、俺一人で行っても大丈夫ですか? 町からは離れているんですよね?」
「ええ。魔物避けを持って行けば大丈夫だと思うけど、もし心配ならロックを誘ってみたらどうかしら」
そうか。ロックに予定が無かったらついて来てもらうのは心強い。
「そうですね。じゃあ、今日帰ったらロックに聞いてみます。ロックがダメなら俺一人で行きますよ」
「ありがとうルース君。明日よろしくね」
「はい。明日、荷物を取りに店に寄ります」
ユリアさんも喜んでくれているし、俺も普段とは違う場所に行けるのが楽しみだった。
「ねえロック、明日何か予定ある?」
「明日? 明日は何も無いからギルドの依頼でも見にと思ってた位で、特に予定はないな」
「そっか。じゃあさ、明日町外れのメラニーさんの家に配達があるんだけど、ロックも一緒に来てくれないかな?」
「メラニーって、ユリアの魔道具作りの師匠とかいうばーさんの家か。別にいいぞ」
「ホント! ありがとう!」
配達について来てもらうため、ロックに聞いてみると快く了承してくれた。
これで万が一何かあっても安心だ。
「でもユリアがルースに外の配達を頼むなんて珍しいな」
「それがさ、配達があるのを忘れて、お客さんと魔道具作成の打ち合わせを予定に入れちゃったんだって」
「ああ、なるほどな。なら仕方ないか」
「うん。町の中は一人で配達や集金に行った事あるけど、外は初めてなんだ」
今までは町の中、それも店の常連さんや冒険者ギルド等の顔見知りのいる所ばかりだった。
ユリアさんの師匠であるメラニーさんとは会った事もないので、正直緊張している。
それもあって、ロックが来てくれるのは本当に心強かったのだ。
これで、明日はロックと一緒にメラニーさんの家に行く事になった。
翌日、ロックと一緒にラムダの町にあるユリアさんの店に来た。
今日は開店時間に合わせず、少しだけゆっくりして行ったため、店はもう開いていた。
扉を開けるとカランコロンとドアベルの音がして、ユリアさんがカウンターに出てくる。
「ユリアさん、おはようございます」
「おはよう」
「二人ともおはよう。ロック、急に悪かったわね」
「暇だったから気にするな」
朝の挨拶を交わして、ユリアさんがロックにお詫びをするが、ロックは手をヒラヒラさせて気にしてないと示す。
「荷物は外の荷車に乗せて用意してあるの。料金は次回纏めて貰うつもりだから、これが受取証と請求書。あと一応、もし支払いをした場合の領収書がこれよ。じゃあお願いするわね」
「はい。行ってきます」
ユリアさんは俺に各種書類を渡すと、またカウンターの奥に戻っていく。
俺はその書類を財布に仕舞うと、ロックと一緒に店を出た。
店から出て荷車に入っている箱を見る。
昨日、配達する分と言われた荷物の他に、食べ物も入っている。おそらく、ユリアさんが町外れにいて買い物が出来ない師匠のために用意した物だろう。
「じゃあ行こうか」
と言って荷車の持ち手側に行こうとすると、ロックが「それは俺の役目だ」と言って先に持ち手側に周り込み、荷車を引きだした。
「えっ!! いいよ、これは仕事だから俺が引くよ」
と言ってもロックは「俺の方が体力あるからいいんだよ」と返し、変わってくれなかった。
「ありがとう、ロック」
「これは適材適所ってやつだ。気にするな」
ニカッと笑ってそう言って、軽々と荷車を引くロック。
そのままメラニーさんの家まで荷車を引いてくれた。
山の中腹辺りにある開けた場所にメラニーさんの家はあった。
山の避難所の様な小さな家は、腰辺りの高さの柵に囲まれている。
家へと向かい、扉をノックすると、家の中から「開いてるよ」という声がした。
その声に開けていいと判断した俺は、扉を開け「こんにちは、ユリア魔道具店です。配達に来ました」と声を掛ける。
声が意外だったのか、慌てて振り返るメラニーさん。
「見た事ない顔だね、誰だい?」
「初めまして。ユリア魔道具店の従業員をしています、ルースと申します。よろしくお願いします」
「へえ、ユリアの弟子かい。ならわたしの孫弟子だね。わたしはメラニーだよ。よろしくねえ」
そうか、ユリアさんの師匠という事は、俺の大師匠になるんだな。
そんな当たり前の事にも気付かず、配達だけするつもりだった自分が情けなくなった。
その事にちょっとだけ落ち込んだ俺の横から、ロックがメラニーさんに向かって声を掛けた。
「ばーさん、ルースは俺の親戚だ。もし何かあれば俺に言ってくれ」
「ええっと、あんたは……ロック、だったかね? 自分の後ろ盾ごと挨拶に来るなんて、孫弟子は抜け目がないねえ」
「いえ、そんなつもりでは……」
「ああ、責めてるつもりじゃ無いから気にするんじゃないよ。それに身元が分かるのはいい事さね。わたしもあの娘が変な弟子を取ってないって安心するしね」
そうか、ユリアさんの弟子として知らない人よりは安心感が違うよな。
「さてと、じゃあ荷物見せてもらうかね。今回のお題はどうなったか楽しみだねえ」
そう言うとメラニーさんは外に置いてある荷車に向かうため外に出ていく。
俺とロックもそれに連なり外へと出た。
それからは俺とロックがそれぞれに荷物を下ろして置く場所を教えて貰い、各々置いていった。
「やっぱり男手があるのはいいねえ。流石に片付けが進むよ」
師匠はいつの間にか荷物を置くついでに片付けもさせていたらしい。ちゃっかりしている。
ある程度片付けも終えて満足したらしいメラニーさんは、届け物の荷物の箱を作業場らしき場所の机に置いていた。
「この箱は中を片付けなくて良かったんですか?」
「ああ。これは弟子の成長を見るために出してるお題だからね。あんた達が帰ってからゆっくり見せてもらうよ」
そう言うとお茶を出してくれた。
「今回、店長からはお代はまとめて払う様に言われていましたけど、宜しいですか?」
「ちゃんと払うよ。持ち逃げなんてしそうに無いしね」
そして料金を渡してきたので、俺も財布から書類を出す。
すると、驚いた様にメラニーさんが俺の財布をまじまじと見ていた。
「……この財布、どうしたんだい?」
「あ、マジックバックの応用で作りました……けど……」
「ちょっと見せてもらえるかい?」
ユリアさんの師匠だから見られても大丈夫だと思っていたけど、失敗だったかもと思いつつ財布を渡すと、じっくり見た後に静かに返してきた。
それをそっと受け取ると、黙っていたメラニーさんがゆっくりと話しだす。
「……ぱっと見、マジックバックを使ってると分からない様に、中にあるポケット側に機能を付けた事といい、普段はバレない様な使い方をしているんだろう? よく出来てるよ」
「あ、ありがとうございます」
「売りに出したりはしているのかい?」
「いえ、これは俺とロックとユリアさんの三人しか使っていません。その中でもアイテムバックとして使っているのは俺だけです」
「実感ない様だから言っておくけど、その財布を売り出すだけで一生遊んで暮らせるだけのひと財産築ける程だからね。気をつけるんだよ」
えっ、そんなにするの!?
驚いてロックを見ると、ロックは難しい顔をしながらも首肯した。
これで高額な金額も持てると思っていたら、まさかの財布自体が一番高額だったよ。
……これまで以上にバレない様に使おうと決心した瞬間だった。




