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第18話 お風呂に楽に入るには

 ユリアさんは冒険者ギルドで散々切れて説教をし、更に魔法陣の写しをナナル村からきちんと譲り受けた所を見せ、修理が出来なかったにも関わらず成功報酬をもぎ取った。

 そして今回の成功報酬は何と二千万リルだった。前回の報酬から考えると、通信玉の値段は最低でもニ億リル……!!

 通信玉ってめちゃくちゃ高かったんだな。日本での電話機だと思うと、流石に誰も持たないよ。

 だけどこちらの世界だと、連絡手段が手紙位しか無いのだ。そう考えると、直接会話のやり取りが出来、タイムラグのない通信玉が高額になるのも仕方ないのかもしれない。

 ちなみに魔法陣の紙を入れた箱に掛けた保護魔法のワードは〝アベラルド、アホだろう〟だった。なかなか酷い。



 ユリアさんの店に戻ってきたら、報酬の分配の話を始めた。

 今回の依頼は成功報酬をもぎ取ったユリアさんの功績だからと、俺は折半とするのを断固として断った。

 乗り物酔いで往復の時間を大幅に変更し、魔法陣の写しを貰うのもただその場にいただけ。

 漢字を読んで注意箇所の指摘はしたものの、結局修理出来る状態ですら無かったのだから半分も貰える訳がない。

 俺は経費で旅行に行けたと思えば報酬なんていらなかったのだが、それだとこれから頼みたい時に頼めなくなるというユリアさんの言葉に従い、失敗報酬の予定だった二百万リルを貰う事になった。

 それをまたユリアさんに渡して魔道具代にあてて貰うと、魔道具代が完済したと言われた。

 そして、余るから返すと小金貨一枚、大銀貨三枚を貰った。百三十万リル、という事は、残りは七十万リルだったのだと分かる。

 一気に所持金が増えてしまったが、財布が重くならずに持てるから、以前ほどは拒否感が無くなったので、ありがたく頂戴する。


「それで、魔道具代の返済は終わったけど、ルース君はこの後どうする予定なのかしら?」

 ユリアさんが恐々と俺に聞いてきた。

「この後って?」

「お店の手伝いは魔道具代の返済って事で始めたでしょう? だから、返済が終わったらどうするのかなって思って」

「ああ、そういう事か。それならユリアさんさえ良ければ、今後も続けて仕事させて貰いたいと思ってるけど、どうかな?」

「えっ、本当に!?」

「うん。だってせっかく魔道具作りの基礎の薬品作りが終わってこれからなのに、ここで辞めたら勿体ないじゃん。それに、面白くなってきた所だからまだ色々教えて欲しいしね」

 そう言うと、ユリアさんは満面の笑みで頷いた。

「分かったわ。それなら道具作りの方もどんどん教えていくからね」

「うん。よろしく、店長!」

 こうして、俺の従業員続行が正式に決まった。




   ◆◇◆




 冒険者ギルドへ依頼報告に行ってから一か月が過ぎた。

 今は魔道具を作るために、魔道具に使える道具を作っている。それは給湯器だ。

 この世界ではお風呂が源泉かけ流しの温泉かナナル村の様に水源がある町や村の名産、後は貴族等の上流階級の家にある程度で、そもそも水を汲んできて湯を沸かし、浴槽に入れる事を繰り返す作業をしないといけない。


 ロックの家には今、俺の我儘で風呂が作られている。

 そして当たり前だが、風呂に使う用の便利な道具など存在しておらず、入るためにはお湯を沸かして湯船に入れるしか手段がない。

 風呂に入るために毎日往復を繰り返すうち、風呂用の給湯器が欲しいと思ったのが今回のきっかけだ。

 でも、元々風呂に入る文化を持たないロックやユリアさんに給湯器の事を説明しても、あまりピンと来てなかったので、給湯器の作成は俺一人で試行錯誤するしかないのだ。

 

 給湯器は水を温める場所がいる。そこをどうやって作るのかを考えてみた結果、とりあえず魔法陣だよりでお湯を温めようと思い、俺は温める魔法陣を作っていた。

 魔法陣を作る上で大事なのは、まず水を加熱する為の火魔法。これを4文字で表すとなると、火炎魔法でいいのかな?

 そして火炎魔法でどうするかは、水を温めてお湯を作る事だから、水温加熱でいいか。

 そしてお湯の温度は45度位にしよう。

 とりあえず決めた魔法陣の文字は『火炎魔法』『水温加熱』『肆拾伍度』で描いてみた。

 この魔法陣に魔力伝導プレートを使って魔力を流してみると、魔法陣は光るから何らかの効果を発揮すると思う。

 

 次にこの魔法陣を使って温める材料は、熱伝導率の高い銅を使ってお湯を作るつもりなのだが、まず肝心の銅が高かった。

 そりゃ硬貨に使うから銅自身の需要があるし、高いのは仕方ないと思いつつ、銅を筒状にする加工依頼して作って貰い、出来た物を店に持ってきたのだ。

 これに魔法陣を付与したら、きっとこの筒を通り抜けた時、お湯になっているはず。

 それを見せたら、ユリアさんが少々難しい顔をしている。


「ねえ、ルース君。これに水を通してお湯を作る魔法陣はどうするの?」

「それを作って付与するのをユリアさんに教えて欲しいんだよ」

「なら私はもう魔法陣を付与する位しか力を貸す事無さそうなんだけど」

「うん、その事なんだけど、魔法陣って付けたり外したり出来るから、それを元に最適な温度のお湯を出したり出来ないかなと思ってるんだよね。だからその検証に付き合って欲しいんだけど、ダメかな……?」

 さすがに内容もよく分かってないし、作ろうとしているのも未知の世界だから、ユリアさんにお願いするのは、完成までの検証の手伝いをお願いするしかない。

「じゃあ、それまでに何度も検証する可能性があるって事よね。分かったわ。なるべく付き合うわよ」

「ありがとう、ユリアさん」

 ユリアさんに了解を得てお礼を言う。

 これで思う存分検証させて貰えると思った俺は、とりあえず今回作った魔法陣を付けてみる。


 魔法陣をつけた銅管を起動し、これに水を通してみる。

 そしたら、予想外に温かいお湯が出てきた。まさかの一発で成功!?

「本当にお湯が出てる! 凄いわねルース君。まさか一回で成功するなんて」

「俺もこの結果には驚いたよ」

 二人して驚きつつも、お湯が出来た銅管を凝視する。

「ちなみに誰も作っていない新しい錬金道具だからね。簡単にバレたりしない様に設置場所には注意しないと駄目よ」

 ユリアさんにそう言われて気がついた。

 確かに漢字を使った魔法陣は簡単に流出できないや。

「うん、分かった。気をつける」

 お湯を触ってみると、お湯の温度も少し熱めだったが、お風呂に入れるとちょうど良くなりそうなので、温度も触らなくてよさそうだ。

 それじゃ、後は設置してみてからどうなのかだと思うし、家に帰ってからだな。



 今日の仕事も終わり、小銀貨の日給を貰うと出来た錬金道具を持って帰ってきた。

 持って帰ってきたと言っても、財布の空間収納に入れてだから、苦労はしなかったけど。

 入らない程大きな物以外は、こっそりアイテムバック化している俺の財布。

 最近はちょっとアイテムバックを作ろうかなと思ったりしているけど、漢字を使った魔法陣を作れる事が判明して以来、ロックとユリアさんから作る時は一声かけてからと言われているため、まだ作成していない。

 その前に魔法陣の付与方法も習っていないので、独断で錬金道具を作るのはまだ不可能だけどね。


 そんな事を考えながら家の扉を開けると、夕食の支度をしていたロックがいた。

「ただいま」

「おかえりルース。今日の晩飯は時間が無いからステーキだぞ」

「へえ、豪華だね。じゃあ荷物置いてくるよ」

 そう言って二階の自室に行くと、魔物避けを置いて一階に降りていく。

 その間にロックが配膳してくれていて、すぐにでもご飯に出来る様に準備されていた。

 手を洗って席に着くと、いただきますをして早速食べる。

「ねえ、ロック。この前言ってた給湯器にする錬金道具出来たよ」

「もう出来たのか? 早かったな。じゃあ早速明日にでも付けて使ってみるか」

「ポンプは上手くいくかなぁ」

「大丈夫だろう。試運転でちゃんと吸い出していたしな。後は水を止める所が上手くいけばどうとでもなるさ」

「そうだよね。明日付けてみないとね」

 そう言って明日、風呂の配管作業をする事が決まった。



 次の日、井戸から風呂までの区間を邪魔にならない様に配管していく。

 外側から浴室の中にまで通した管に、給湯器となる部分の銅管を取り付け、更に浴槽までの蛇口になる魔道具を取り付けると完成だ。

 簡単に言ってはいるが、配管作業にかなり時間を割き、実はもう夕方だったりする。

「よし、じゃあまずはポンプの方を動かしてみるからな。こっちで確認を頼む」

「うん、分かった」

 井戸の方に向かうロックに返事をし、蛇口の魔道具に魔力を通して水が来るのを待つ。

 暫くすると水が流れて来たので、ロックに水が来た事を告げる。

 その声を聞いてロックが戻ってきたので、蛇口の魔道具に魔力を通して一度水を止める。

「よし、一応魔道具の方も上手くいった様だな。じゃあ最後は給湯器と連動して上手く行けば完成だな」

 この二つに魔力を通して使う事で、何か不具合がおきるかもと少し危惧していた。

 まずは給湯器側に魔力を通してお湯を作ると、蛇口の魔道具に魔力を通す。

 そこからしっかりとお湯が出てきたのを見て、気楽にお風呂が入れる様になったことをロックと一緒に喜んだ。


 ちなみに今日の配管工事中に、ロックに「ねえ、コレ作って大衆浴場作ったら、ラムダにもお風呂入る文化が生まれないかな?」と聞いたが、「錬金道具作れる事がバレるから辞めとけ」と一蹴されたのだった。


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