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第15話 馬車での移動

 翌日、まだ薄暗い日の出前に俺達は町を出る準備をしていた。

 今回は俺が初めての遠出になる事を考慮して乗り合い馬車は使わず、貸し馬車を使う事にしていた。

 これはパーティーのみで国内の移動をする際によく使われている手段だそうだ。


 この世界には貸し屋という物があり、王国が認知する町や村ならどこでも設置されているらしく、そこでは住む所や馬、馬車や御者(運転手)等も借りる事ができる。

 そしてこれらを返さない場合は、馬車どころか二度と何も借りられなくなるらしい。

 とは言え、馬車等は旅の道中で何があるか分からないため、死亡時には全滅の場合当然免除されるし、魔物の襲撃で破損した等、返しようがない場合は罰金を支払い、予定より遅くなって返却した場合は延長料金を支払う事で免除されるとの事だった。

 異世界にレンタル業者みたいな物がある事に驚いたが、そもそも貸し屋は王国が関わっている国営の事業であり、稼ぎのいい人以外は住む家もレンタルの人が多いとの事で、一軒の家を購入するまでの家にしたりと、上流階級の人以外はほぼ全ての人がなんらかの物を借りて利用している様だ。


 貸し屋に着いて予約していた馬と馬車を無事に借りると、ロックが荷物を馬車の荷台に乗せてから御者台に乗り込んだ。

 馬車の運転はロックがするらしい。

 ユリアさんが荷台の方に乗り、続いて俺も乗り込むと、それを確認したロックが馬に鞭を打った。いよいよ出発だ。


 ゆっくりと町中を走る馬車は、俺達がいつも帰る方向とは逆にどんどん町の奥へと向かう。

 見覚えのない景色を楽しみながらしばらく進んでいくと、町の出口が見えてきた。

 いつもなら開いている門が閉じており、門番の人が立っている。

「よう、ロックじゃないか。町を出るのか?」

「ああ。ギルドの依頼でな」

「朝っぱらからご苦労なこった。今門を開けるからちょっと待っててくれ」

 ロックと門番が短く会話した後、閂の角材を取り両開きの門を開けてくれる。

「ありがとな」

「おう、気いつけてな」

 短く挨拶したら、馬車は町の門をゆっくりと潜り抜けた後、徐々にスピードを上げて走り出した。


 町の外に出てから暫くすると、太陽が顔を出して薄暗かった景色を明るく照らし出す。

 道を走る馬車は問題無く順調に進んで行くのだが、舗装されていない道をタイヤやサスペンションのない馬車を使って走る事で、振動が身体にダイレクトに来る。

 これが想像以上にとても辛かった。

 初めの方こそ景色を楽しんだりしていたのだが、蓄積された振動の負担がだんだん増していき気分が悪くなる。

 一時間もすると乗り物酔いでグッタリし、まだ予定した休憩時間でもないのに馬車を停めてもらう。

 自作の酔い止めの薬を飲んで木陰に横になりながら、文明の利器って凄かったんだなと改めて実感した。一応酔い止めを作っておいて良かった。


「それにしても、ルースがこんなにも乗り物に弱いと思わなかったな」

「ごめん、俺も予想外だったよ」

「それは仕方ないわよ。だって記憶が無いんだもの」

 ユリアさん、それは違うよ。絶対に馬車の乗り心地が悪いせいだから。この世界の乗り物を否定する事になるから言わないけど。


「でもどうするかな。このままじゃ、予定の場所まで行くと夜中になるぞ」

「日程を増やしてもいいんじゃない? どうせ村の滞在予定は長めに取っていたんだから」

「それもそうだな」

 ロックとユリアさんが、これからの行程を話し合い、酔いやすい俺のせいで予定していた行程よりもゆっくり向かう事になった。

 何とかしてもう少し乗り心地が良くなれば何とかなりそうだけど……無理だよな。

 暫く休んで体調が良くなってきた俺は、また馬車に乗り村に向かって走り出した。



 予定の時間を超えて暗くなるギリギリまで馬車を走らせ、今日の野営予定地の三分の二ほど来た所で止まる。

「今日はここまでにしておくか」

 そう言って荷台から馬を外すと、ロックは馬の世話をしに少し離れた場所へ行き、ユリアさんは荷台から荷物を下ろして火をおこし、食事の準備を始める。

 俺は馬車の揺れによって完全にダウンしていた。やはり金属の車輪による直接の振動を受け続けるのは、流石に身体へのダメージが大きかった様だ。


 荷台に横になって体調が回復するのを待っていると、馬の世話を終えたらしいロックが戻ってきた。

「ルース、大丈夫か?」

「うん、ありがとう。もう少しじっとしてたら大丈夫だと思うから、落ち着いたら手伝うよ」

「気にすんな。準備は俺達に任せてゆっくり休んでろよ」

 笑ってそう言うと、ロックはタープを張る道具を取ると荷台から離れていく。

 それからは晩ご飯が出来るまでいつの間にか眠っていた。



   ❇︎ ❇︎ ❇︎



 結局二日の予定が、丸三日かけてナナル村に着いた。

 遠くに見える村は柵に覆われており、村の奥の方には大きな川が流れているらしい。

 らしいと言うのは、増水対策のためなのか三メートルほどの高さがあり、川岸や川面が見えなかったのだ。

 村の出入り口にあたる門扉も柵の扉で、ラムダの町よりかなり簡素な作りとなっており少々心許ない印象を与える。

 それでも村の柵や門は、大体どこもこの様な作りになっているとロックが教えてくれた。


 茜色に染まる村に向かっていると、門を閉めようとしていた門番の人が俺達の馬車に気付いて、門を閉めるのを待ってくれている。

 門の近くまで来ると一旦止まってから門番に声を掛けようとしたが、まず中に入る様に言われて中まで入る。

 中まで入るとすぐに門を閉めてから、こちらの方へ門番がやってきた。


「ナナル村へようこそ、旅の人。もう遅い時間なんで、用事があるなら明日にして、まずは宿まで案内しましょっか?」

「宿の場所は分かるから大丈夫だ。親切にありがとな」

「そうですか。じゃあお気をつけて」

 それだけ言うと門番は街中に歩いて行った。

 門の側に駐在できる場所がない事から、閉門当番だったのかもしれない。

 その後、馬車をゆっくり走らせながら俺達はこの村の宿である『みなも』に着いた。


 厩にいる厩務員に馬車と馬の世話を任せて宿の中に入ると、カウンターには二十歳位の女性がすぐに「いらっしゃいませ、お食事ですか? 宿泊ですか?」とやって来た。

「宿泊で、二部屋頼む」

「ご利用ありがとうございます。何泊のご予定ですか?」

「とりあえず二日で」

「一部屋一泊五千リルになりますので、二日で二万リル頂戴いたします」

 ロックが代表して対応し、財布から小銀貨を二枚渡す。

「それでは、こちらの宿帳にご記帳下さい」

 ロックが記帳をしている間にその女性は鍵を準備している。

 記帳が終わってペンを置くと、「それではご案内いたします」と言ってカウンターの横にある階段を登っていった。

 宿屋の女性に三人は続いて階段を登り、女性は部屋の前に着くと足を止め、振り返る。

「それでは、こちらの二部屋をお使い下さい。鍵は宿を出る度に預けて頂きます。一階には食堂がありますが、会計は宿代とは別になっておりますので、ご利用の際はお気をつけ下さい」

「分かった。ありがとう」

「では、お部屋の鍵をお渡しします。ごゆっくりお過ごし下さい」

 部屋の鍵を渡すと、女性は頭を下げて去って行った。


 部屋を開けて二部屋を見てみると、両脇の壁沿いにベッドがあるだけのシンプルな部屋だ。

 部屋には差がなかったので、皆で階段側に入りドアを閉める。

「ふー、やっと一息つけるな。お疲れさん」

 実はずっと乗り物酔いのままで行動していたので、ただついて行くだけだった俺は、片方のベッドに横になる。

「ギルドに行くのは明日にするから、ゆっくり休んでいいぞ」

「いや、着いてすぐ動いてたからか、大丈夫そうだからいいよ。それに今日はベッドでゆっくり眠れるしね」

「そうか。でも無理すんなよ」

「うん」

 横になって少しすると、大分体調が戻ってきたので、ご飯のためすぐ下の食堂へと向かう事になった。


 食堂にはメニューが置いてあり、川沿いの村というのもあって魚系の食事が多かった。

 焼き魚定食を三人前頼んで支払いをして、席に座ると程なくして運ばれてくる。

 三日ぶりのまともな食事を堪能して部屋に戻る時、さっき部屋を案内してくれた宿屋の女性にばったりと会った。

「お客様、ご不便などはありませんか?」

「ええ、ゆっくりさせて頂いてます」

「もしよろしければ、別料金となりますが大衆浴場等もございますので、ご利用の際はお声掛け下さいね」

「えっ!?」

 ユリアさんが女性の人と話をしだしたのを聴いていると、お風呂がある事を聞いて俺は過剰に反応してしまった。

「入るか?」

「うん、入る!!」


 急遽入浴の料金を支払って浴場に行く準備のため、着替えを取りに部屋に行く。

 その途中で、ユリアさんに謝る。

「ごめん、ユリアさん。勝手に入浴する事を決めて」

「いいわよ。お風呂も気持ちいいしね」

 三人揃って階段側の部屋に入り荷物を取ると、ユリアさんは「奥の部屋使うわね」と言って鍵を持って出て行った。

 早速風呂場に向かうと、髪と体を洗って久しぶりに湯船に浸かる。

 ふうーっと、全身の疲れが吹き飛ぶ様な心地よさに息が漏れた。

「風呂、好きなんだな」

「うん。前の世界では毎日入ってたんだ」

「じゃあ帰ったら風呂場作るか?」

「本当!? それは嬉しいな」

 ゆっくりお風呂に浸かってロックとそんな話をし、部屋に戻るとぐっすりと眠って旅の疲れを癒した。


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