第12話 冒険者ギルド
ユリアさんとロックは、とりあえず話を聞きに冒険者ギルドの方へと向かう事になった。
「悪いな、ルース」
ユリアさんが支度をするため二階へと上がり、ロックと待っていると、突然謝られた。
「え? 何が?」
「お前の事を守ってやれなくて。本来ならとぼけるなり断るなりするべきなんだろうと思ったんだけど、相手がギルマスじゃ俺が伝言役を断ったらギルマスが直接店に来て、お前の存在すらバレそうだったから俺が言いに来たんだ」
首を傾げて聞いてみると、ロックは冒険者ギルドのギルドマスターからの頼みを断りたかったようだ。ただ、ここに直接ギルドマスターが訪ねてくる事態を避けたくてロックが伝えに来たらしい。
「ロックが謝る事じゃないよ。むしろ、ユリアさんと色々話を合わせられるから良かったんじゃない? 俺は特に困らないよ。それに、二人には普段からお世話になりっぱなしだから、恩返し出来る機会があるならちゃんと返したいしね」
俺は二人を手助け出来る事なら全然構わなかったので、気にしてない事をロックに伝えた。
「それよりも、ちゃんと修理が出来ればいいんだけど。ロックはどんな錬金道具かとか、聞いてないの?」
「ああ、聞いてないな。ユリアになら何の道具か話すと思うけど。とりあえずギルドに行ってみないと分からねえな」
「そっか」
修理する錬金道具が何なのか、まだ分からないからこそ俺が今出来るのはお店の留守番だけだ。気持ちを切り替えて留守番を頑張ろう。
それからすぐにユリアさんが二階から降りてくると、ロックと共に店を出て行った。
ー side ロック ー
「ユリア、どう思う? お前はルースの事バレてると思うか?」
ユリアの店を出てすぐに、俺は冒険者ギルドに向かいながら、ユリアと話をしていた。
「分からないわ。確かに店の従業員としては知ってるかもしれないけど、一応カウンターから奥は防音魔法を掛けているから、声は外に漏れる事は無いはずよ。薬作りを教えてる従業員兼弟子辺りまでならバレても構わないし、流石にそれ以上は分からないと思うけど?」
「だよなぁ。とりあえずギルマスにあいつの事は俺の親戚だって言ってあるから、話を合わせてくれ」
「分かったわ。それと、修理は受ける可能性もあるけど、そこは怒らないでよ」
「分かってる。そこには俺も出来るだけ同席するつもりだ。なるべく引き剥がされない様、援護してくれ」
ユリアは頷くと、それ以上は何も言わずに冒険者ギルドへの道を歩く。
ルースは異世界から来たという訳ありの人物だ。こっちの世界の事もルースが気になった事位しか教えていないため、下手な人物に会わせて捕まりでもしたら厄介だ。俺とユリアであいつを護らなければ。
俺もユリアに並んで足早にギルドへと向かった。
「呼び出してすまんな、ユリア。よく来てくれた」
冒険者ギルドに着くと、俺とユリアは受付でギルドマスターに取り次いでもらった。
ラムダの町にある冒険者ギルドのギルドマスターであるアベラルドは、執務室にある応接用のソファーを勧めると自分も向かいに座る。
「ご無沙汰しています、ギルドマスター。それでご用件は?」
「その前に、ロック。もういいぞ」
「いいえ、ロックには悪いけどここに居てもらいます」
退室を促すアベラルドに向かって、ユリアは毅然とした態度で伝える。
「もしロックが居ると話せない程のお話だと言うのなら、私も話を聞かずにこのまま帰ろうと思います。私は一般人ですから」
「ジュリア……」
「その名前は捨てました」
アベラルドに対して一歩も退かずに受け答えするユリアに対して、アベラルドはため息を吐くと、ロックに対してソファーを勧める。
「なあヴァロック、ジュリアってこんなに冷たかったっけ?」
「何言ってんだアベラルド、ジュリアは元々こうと決めたら徹底的に貫くぞ。諦めろ」
「ギルドマスター、ロックもその名前は捨てています。気が緩むとすぐ口にするから、特に気をつけて言わせない様にしているので使わせないで下さい。ロックもすぐに乗らないで」
ギルドマスターに対して気安く答えるロックに対し、きつく注意するユリア。
「ちょっと位いいだろう。昔のよしみだ」
「今は立場が違います。昔話がしたいのでしたら、私が帰ったあと冒険者であるロックとどうぞ」
全く態度を崩さないユリアにとうとう折れて、アベラルドは話を始める事にする。
「分かったよ。……小耳に挟んだんだが、先日ユリアは錬金道具を修理したとか。これは本当か?」
「そうですね。偶然が重なって何とか」
「偶然?」
「はい。持ち込まれた錬金道具がアイテムバックだったので、手持ちのと照らし合わせて修理したのです。そうじゃないと文字が分かりませんから」
「なるほど……」
ユリアの言葉にアベラルドは頷くと、さらに畳み掛けてきた。
「ユリアは店に従業員がいるだろう? そいつはどうなんだ?」
「彼には弟子として教えていますけど、今はまだ初歩の薬作りの段階なので道具作りは出来ませんよ」
「作れなくても独自で錬金文字を学んでいる可能性もあるだろう?」
「それは知りません」
「錬金文字に興味がある素振りだったと聞いているぞ」
「そこまでだアベラルド」
黙って成り行きを見守っていたロックが突然話に割って入った。
「何でそんなに詳しく知ってるんだ? 小耳に挟んだレベルじゃないだろう。アイツの事を調べたのか?」
「調べて分かる人物なら良かったんだけどな。彼はどこにも属していない、ある日突然町にやって来た不審な奴だ。ロック、お前の親戚と言うのも多分嘘だろう? お前からそんな話は昔から聞いた事もない」
「俺は昔からどの親戚もベラベラと喋った覚えはないけどな」
徐々に険悪になっていくロックとアベラルドに対してユリアはため息をつく。
「二人ともいい加減にして下さい。ギルドマスター、結局何が言いたいんですか?」
暫く睨み合っていた二人だが、ユリアの言い方的に、これ以上話が逸れると本当に帰りかねないと悟ったアベラルドは、直球で伝える事にした。
「実は、ある錬金道具を修理してもらいたいと思っているんだが、錬金文字を知らないと直せるか分からない代物なんだ。ユリアの所の従業員を少々調べて、錬金文字を修得していればと思ったんだが、そいつを調べれば調べるほど何も出てこない。そこでユリアの安否のためにも従業員の身元の確認と、修理の依頼をと思って呼んだって訳だ」
アベラルドはルースの事を調べたから不審に思っている事が分かった。だが、ルースが来て数か月だ。身分証になる物は何も作ったり作らせたりしていない。あいつには魔力が無いため、カードに個人の魔力を通して作るギルドカードが出来ないのだ。
ギルドには冒険者ギルドや商業ギルドなど色々なギルドがあるが、ギルドに登録をするとギルドカードを発行される。
ギルドカードを作れない年齢の子供には、町や村に届け出れば身分証を発行出来るのだが、その人物の身元保証人が必要で普通なら親が届け出を出して獲得する物であり、ギルドに所属出来る年齢に達していれば、ギルドカードを作るのがこの世界での常識なのだ。つまり、大人でどこのギルドにも属していないルースは不審人物として認識されているという事だった。
「彼は仕事も丁寧で、しっかり言う事も聞いてくれるし大丈夫ですよ。それよりも錬金道具の修理の件ですが、文字の比較も出来ないので私には出来ないと思います」
いくらルースが文字を分かったとしても、錬金道具作りは素人なのだ。出来れば関わらせたくない。
「今回の錬金道具はギルドに無くてはならない物なんだ。何とか引き受けて欲しい」
ユリアが断ると、アベラルドはとても苦々しい口調で修理を受ける様に頼んでいる。
「その錬金道具とは何なのですか?」
「……通信玉だ」
核心に迫るユリアの質問に、アベラルドは渋々といった感じで答える。
通信玉は、冒険者ギルド間で連絡が出来る通信用の魔道具で、冒険者の依頼や緊急時の連絡等、冒険者ギルドに無くてはならない錬金道具である。
流石にそんな物が壊れているのが知られるのはかなり不味いだろう事を察知した俺とユリアは絶句した。
「本来なら即刻買い直すべき物だが、物が物だけに来るまでの間が数年単位でかかるだろう。修理が出来るならそれに越した事はない。もし文字が比較対象出来れば何とかなるのなら、引き受けてくれないか? 頼む、ユリア!」
一度口にして踏ん切りがついたのか、アベラルドはユリアに向かって真剣に頼み込んだ。
「重大事項なら話を聞かないとあれほど言ったのに……」
「俺にはもうこれしか手段がないんだ。ユリアなら信頼も置ける。必死になって頼みもするさ」
「では、比較する魔法陣はどうするのですか?」
「隣の村にある冒険者ギルドの錬金道具を見せてもらえる様に頼むつもりだ。もちろん手紙も持たせる」
話を聞いて、既に断れないと判断したユリアは暫く考えた後、アベラルドに対して伝える。
「では、受けるための条件を上げます。一つ目、ロックを村までの護衛として往復の依頼を受けてもらう事。二つ目、従業員の彼にも秘匿を条件にこの話をして一緒に来てもらう事。三つ目、魔法陣を見る事や内容が分からずに修理を断念した場合、速やかに再作成と発送の手続きを行う事。どうですか?」
「……ユリアの店の従業員を連れて行く必要はあるのか? 店の開店の為にも町に居てもらった方がいいだろう?」
「その間、店は閉めます。どんな風に依頼を受けているか見せるチャンスでもあるし、護衛としてロックがいれば、身分証を発行して持たせておくのもいいと思ったからですね。つまり、彼を省くのは無しです」
条件を聞いたアベラルドは、ルースに伝えて行動を共にする事を躊躇しているが、ユリアは聞き入れなかった。
それに対して苦虫を噛み潰した様な顔をしつつも承諾したアベラルドは、明日ロックの依頼を出すからそれを受けてから村に行く事と、帰ってきたらその従業員も含めて報告に来る事を伝えてから俺達を解放した。
俺とユリアは冒険者ギルドを出ると、ルースに話をするため、ユリアの店に帰っていった。




