第11話 新たな依頼
俺は家に帰ってから、ロックに町での一日を夕食時に話すのが日課になっていた。
今日もいつも通り家に帰ってから、錬金道具が無事に渡せた事を話した。
「そうか、良かったな。やっぱりルースは戦闘より物作りの方が合ってるんだろうな。いまだにどの魔物も攻撃が当たらねえし」
ロックのその言葉に、俺は苦笑いを返すしかなかった。
そう、魔物狩りの方も教えてもらっているのに、俺は今もまだ一度も魔物に攻撃を当てる事が出来ていなかったのだ。
最近じゃ外出中に襲われた時に魔物を狩るのはもう半分諦めていて、外を一人で出歩くのに魔物避けが必須になっている。
ユリアさんの作った魔物避けはとてもよく効いて、使い始めてからただの一度も魔物に襲われた事がない。
道沿いに歩く分には魔物に遭遇しにくいとは聞いていたのだが、全く襲われないという事はそれだけ魔物避けの威力が強力だからだろう。
「それでもやらないといざという時に危ないから、また練習に連れて行ってよ」
「そうだな」
魔物避けだけに頼らず、いつかは攻撃が当たる事を信じて、俺はまたロックと魔物狩りの練習に行く約束したのだった。
◆◇◆
初めて修理の手伝いをしてから、さらにニか月が経った。
この期間に俺はユリアさんから様々な薬の作り方を学び、魔道具屋と錬金道具屋の基礎である薬品作りを覚える事が出来た。
ユリアさん曰く、薬品作りはコツを掴めばそれなりに早く習得する事は出来るけど、そのコツを掴むのに三か月程度はかかるらしく、一般的に大体五ヶ月から半年程度の期間が必要らしい。三か月程で習得した俺はとても優秀だと褒められた位だった。
ただ、一つだけ作り方は習ったものの、俺には作れない物があった。それがオリジナルの魔法インクである。
魔法インクとは、魔法陣や魔法式を書く時に使う専用のインクで、前回錬金道具を修理する際に使ったインクでもある。
魔法インクを使う事で魔力を通すと魔法を発動出来る、魔導士や錬金術師の生命線とも言えるアイテムである。
作ったインクに自身の魔力を加えて、オリジナルの魔法インクが出来るのだが、俺には魔力がない。そのため、指輪の魔力を使って魔法インクを作ってもオリジナルにはならないのだ。
前回使った魔法インクは、俺が今使っている指輪の魔道具で出ている魔力と同じで、個性のない練習用の魔法インクで、誰にでも扱えるインクでもある。
ただし一般的には魔法インクを売っていなくて、見習いを持つ師匠となる人が魔法インクを作り、魔法陣や魔法式を書く時の練習に使わせるらしい。
自分の魔力を持たない俺は、この練習用のインクまでしか作れないのである。
文字さえ分かれば誰にでも作れそうな魔道具や錬金道具も、この魔法インクを手に入れる術がないと作れないため、誰かに師匠となってもらい道具作りを教えて貰うしかない。
その中で有名になるには、かなりの腕と実績が無いと難しい。
だからこそ腕利きの魔導士や錬金術師はとても貴重で、国や上流貴族が抱え込む事が多いという事だった。
少々話が逸れたが、オリジナルの魔法インクが作れないため、俺は正規の魔導士や錬金術師としての登録が出来ないという事だった。
まず、この世界には魔道具や錬金道具を作る事の出来る人を登録し、仕事の依頼や人材を紹介している錬金ギルドがある。
錬金ギルドでは、錬金文字が分かるかの確認をして魔法インクとともに登録し、仕事の依頼を受けると掲示板に貼り付け、フリーの魔導士や錬金術師に依頼を紹介し、フリーの魔導士や錬金術師はその依頼を受けて顧客を持ち、独立までのサポートを受ける。
こうして人材を管理している錬金ギルドにオリジナルの魔法インクを登録する必要があり、登録をする事で一人前の魔導士・錬金術師と名乗れるのだ。
もし白狐が俺を探し出してくれたら魔力の件も何とかなるのかもしれないが、あの森に落ちてからもう三か月以上の月日が経つのだ。流石にもう探すのを諦めていると思う。というか俺が待つのを諦めた。
だから魔力の方はもうどうしようもないので、今は一通り道具作りを覚えたらユリアさんの助手として店を手伝おうかと考えている。いまだに魔物狩りも出来ないしね。
「よう、ルース。お疲れさん」
「あれ、ロック。どうしたの?」
仕事中、ロックが突然お店まで来た。営業中に店に来る事はほとんど無いので珍しい。今日お店に来るとは家にいる時にも聞いていなかったんだけどな……。
「ちょっと話があるんだ。ユリアも呼んでくれないか?」
「あ、うん。分かった」
俺は奥に行くとユリアさんに声をかける。
「ユリアさん、今お店にロックが来てるんだけど、ちょっと話があるから来てくれって」
「え、ロックが? 今行くわ」
ユリアさんが店内の方に向かったので、俺がポーション茶を入れていると、ロックがこっちの部屋に入って来た。
「あれっ? ユリアさん、こっちでいいの?」
「ええ。ちょっと他の人に聞かれるとマズい話みたいだったから」
ユリアさんはロックの話の内容が他の人に聞かれない様にこっちに連れてきた様だ。
俺は出来上がったポーション茶を二人に渡すと、自分の分を持ってカウンターの方へ行こうとしていた。だがユリアさんは、俺が行くのを手で制してロックに問いかける。
「それで、錬金道具の修理の件って何かしら?」
「ああ、以前錬金道具を修理して直した事を知って、冒険者ギルドのギルドマスターがユリアに錬金道具の修理を依頼したいと俺に伝えて来たんだ」
「「冒険者ギルドのギルドマスター!?」」
この町に冒険者ギルドなんてあったんだ!!
「冒険者ギルドがあるなんて聞いてないよ。何で今まで教えてくれなかったの?」
「「そっち!?」」
初耳だった俺はついロックに責めるように聞いたら、ロックとユリアさんの両方に驚かれた。えー、だって冒険者ギルドがある事を知らなかったんだから仕方ないじゃないか。
冒険者ギルドなんて、異世界での定番ギルドだから、テンション上がるじゃん! それって俺だけなの? 違うよね?
「私は錬金道具の修理をした事が他に漏れてる事と、その相手が冒険者ギルドのギルドマスターだった事で驚いていたんだけど……、ルース君が驚くのはそこじゃないのね」
「俺も、確かに冒険者ギルドがある事を伝えては無かったが、まさか伝えてない事自体を責められるとは思わなかったな」
ユリアさんは少し疲れたような顔で、ロックは苦笑しながらそれぞれ答える。
「悪いな、ルース。俺達も最初に色々と教えても良いが、ルースの知りたい事を少しずつ知って貰って、この世界を好きになって貰いたいと思ってな。だからこういったすれ違いがまたあるだろう」
この時に俺は、ロックとユリアさんの気持ちを初めて聞いた。まさか、俺が知りたい事を色々と教えて貰っている裏で、そんな事を考えていたなんて思ってもいなかった。
「ごめん、ロック。俺、そんな事思って貰ってるなんて考えてなかった。これからもロックの考え通りゆっくりでいいから、また色々教えてくれるかな?」
そう言うと、ロックは「おう」と、大きく頷いてくれた。
「じゃあ、話を戻すわよ。ギルドマスターは私達の店が錬金道具を直したのをどこで知ったのかしら?」
「本人からだと。雑用依頼に来たついでの話だそうだ」
「あーもう、だから貴族は信用ならないのよね……」
「え、あの人貴族なの?」
黙って話を聞いていたら、以前錬金道具を持ってきた男性客が貴族と聞いて驚くと、ユリアさんは即否定した。
「いいえ、あの人は貴族の家で雇われた人だから、本人じゃないわよ」
「ああ、そうなんだ。邪魔してごめんね」
俺は話を続けるよう手の平をユリア達の方に少し差し出してどうぞと促す。
「貴族の話を聞いたギルマスは、自分で裏取りして俺に言って来やがった。とりあえず一緖にギルドまで来てくれないか? 店番ならルースに任せられるだろう?」
「ルース君が居れば開けててもいいけど、その前にルース君自身に聞きたいわ。ギルドマスター直々に声を掛けてきたって言う事は、多分修理を断れないんじゃないかと思うのよ。その場合、ルース君に参加してもらわなきゃいけないわ。どう、ルース君。受けてもいいかしら?」
ユリアさんがそう聞いてきたので、俺はしっかりと頷いた。




