第9話 錬金道具の修理
ユリアさんと作業部屋へ来た俺は、作業台に錬金道具を置く。
今回俺たちが預った錬金道具はアイテムバックだった。
俺はユリアさんの持っているアイテムバックの魔法陣と比較して、違いを見てみたいと言うと、ユリアさんは快く了承してくれて、二階から持ってくると言って部屋を出ていった。
その間、やりかけていた解毒薬を濾す作業をしようと俺も部屋を出る。
部屋から出る時に、錬金道具を持ってきて棚に置いておいた。預った商品が目に見えない場所にあるのは流石にまずいかと思っての事だった。
もう慣れた作業で、容器に布袋をセットして解毒薬を流し入れると、口を閉じて持ち上げる。
布で濾された液体がドボドボと容器の中に落ちてきた。
紐で閉じた口を縛って吊るし、しっかり濾せるようにした所でユリアさんが二階からアイテムバックを持って降りてきた。
俺は預り品のアイテムバックを持ってユリアさんと作業場に戻ると、アイテムバックを隣り合わせに置いて見比べられる様にした。
「確認作業をする前に、まずは魔道具を作る流れと魔法式の事を教えるわね」
そう言うと、ユリアさんは魔道具作りの流れを教えてくれた。
まず、どんな魔道具を作るのかという方向性が決まると、魔道具の基本型をある程度作りあげるか、魔道具にしたい商品を用意する。
それから、魔力伝導プレートという物に魔法式や魔法陣を書き、プレートに魔力を通してみて上手く魔力が通るかの確認をする。
魔力伝導プレートは名前の通り、魔力の通りが視覚で分かるプレートで、魔法式や魔法陣に上手く魔力が流れているかを確認出来るので、魔道具や錬金道具を作る上での必需品でもある。
魔道具を作る場合、この伝導プレートに書かれた魔法式や魔法陣を魔石に転写させて(魔石に転写させる事が出来る魔道具が別にある)、準備した品物と魔石を組み合わせ、最後に火属性や水属性など、必要な種類の魔力を魔石に注入すれば完成、という流れだ。
これが錬金道具となると、プレート上に書いた魔法陣を直接道具に転写して、種類を問わずに魔力を流せば出来上がりらしい。凄いな錬金道具。漢字を使うだけで随分と簡略化出来るものなんだなと思った。
これは文字の数に関係がある。
この世界の文字はマジャ文字といい、日本語でいうひらがなの様な文字だ。
そのため、文字数が比較的多めに使われるのだが、漢字を使う事でそれを減らす事が出来るのだ。
基本、魔法陣は文字数が少ない時に使われ、文字数が多くなると魔法式を使って魔道具を作る。
なので、魔道具と錬金道具は魔法陣でも魔法式でも作れるのだが、魔法式のほうが文字数が増え複雑なものが出来るのが分かる。
そして魔法式の作成方法であるが、どの様に作用するかをイコールで表す事で作用させる。
さらに魔法式はイコールの左右が同じ文字数である様にしなければならないという決まりがあり、文字数が違うと作用しないらしい。
ただし、この文字数を合わせるためなのか、文言の決まりは特になく、意味が分かれば多少の変化にはあまり左右されない汎用性はある様だ。
ひとつ例を挙げると、マジャ文字の場合はひらがなで『ぞくせいまほう=ひかりぞくせい』の様に表すのだが、錬金文字として漢字を使うと『魔属性=光魔法』の様に文字数を省略する事が出来るのだ。
ただし属性は基本、錬金道具に記されても魔道具には使用されないのが常である。それは文字数を減らして属性の魔力を使う事で補っているからであり、必ず魔力を使うからこそこの使用方法になったと言われている。
魔法陣の場合も文字数を合わせるという制限はあるが、二重丸の外円と内円の間に結果の方のみを記入する事で文字数を減らし、更に円の中心に三角や四角、星型等で式の数を表現するために魔法陣の方が使い勝手がいい。その中には必ず属性も書き込まれるため、魔力を流し込めば属性魔法を認識してくれるのだという。
そのおかげで、属性がいらない錬金道具は重宝されているのである。何せ、手持ちの属性ではない物も錬金文字を使う事で錬金道具を作る事が可能なのだから。
ただし失われた錬金文字を再修得する事が出来ず、錬金術師は現在までの復元出来た錬金道具を作る事と錬金文字の研究が主な仕事となっている。
「大体こんな感じなのだけど、ここまでは理解できたかしら?」
ユリアさんは簡単に文字や魔法式と魔法陣の事を教えてくれた。
ちなみに俺は、なぜかこの世界の文字であるマジャ文字は、ひらがなとして認識する事が出来る。
書いてある文字自体も違うし、ひらがなで書こうとしてもマジャ文字を書いているという状況なのだが、認識の違いが気持ち悪い程度で読み書き自体には困っていないので、これはそういう物だと随分前に全力でスルーする事にした。
「多分大丈夫だと思う。でもまた分からない事があればユリアさんに聞くと思うから、その時に教えてくれるかな?」
「ええ。勿論構わないわよ。それじゃ、早速アイテムバックの魔法陣を見てみましょうか。どちらから見てみる?」
俺は壊れた方より先にユリアさんのアイテムバックを見る事にした。
ユリアさんも快く了承してくれて、ユリアさんのアイテムバックの魔法陣を魔力伝導プレートに転写して渡してくれた。
そのプレートを受け取ると、俺は指輪を使って伝導プレートに魔力を通してみた。
プレートに満遍なく魔力が行き渡り、魔法陣が淡く光った。これが成功した状態だという事を確認すると、魔力を通すのをやめて魔法陣を見てみる。
魔法陣には『空間魔法』『空間収納』『壱立方米』『自動収納』と書いてあった。円の中も四角形が書いてあるので、この四種類で間違いないようだ。
まず、一つ目の『空間魔法』。これは属性が空間魔法を使っている事を指しているのだろう。
二つ目の『空間収納』。アイテムバックを作る原点である空間収納。この文言が無いと空間魔法で何をするのか分からないから、当然入っている文だ。
そして三つ目の『壱立方米』。これは多分バック内の容積量なのだろう。おそらく一立方メートルかな? でも容積の場合、リットルとかで表さないといけなかった気がするんだが、これも文字の汎用性に入るのか問題なく機能していた。
そして最後の『自動収納』。これはよく分からないので、ユリアさんに聞いてみよう。
「ユリアさん、文字の中に『自動収納』ってあるんだけど、心当たりある?」
「うわあ……本当に文字が分かるのね。えっと、自動収納ね。それは多分、バックの口に荷物を近付けると吸い込む様に入っていったじゃない? その機能だと思うわよ。大きい荷物だとその機能がないと、バックの容量があっても口より大きな荷物が入らないからね」
「ああ、なるほど」
そういえば、バックの近くに荷物を持っていくだけで自動的に入っていってたな。
この機能が無いと、確かにユリアさんの持っていたあのバックに買い物をした荷物が入りそうになかっただろうと思う。
それを知ると、自動収納の役割はアイテムバックにとても大事な機能だなと思った。
とりあえずユリアさんのアイテムバックに使われている四つの文と機能は大体分かった。
それをふまえて預かったアイテムバックの魔法陣を見てみよう。
「ユリアさん、次は壊れた方の魔法陣を見せてもらえるかな?」
「ええ。ちょっと待ってね」
壊れた方の魔法陣を伝導プレートに転写して貰い、受け取ると早速見てみる。
魔法陣は劣化しているのか、所々擦り切れていた。
魔力を通してみると、魔法陣の所が上手く伝わっていない。
この事からも、壊れた錬金道具がバックの方ではなく魔法陣の方が不具合を起こしている事がわかる。
改めて魔法陣を見てみると、ユリアさんの『自動収納』機能が着いていない三つの文言の魔法陣で、『空間魔法』『空間収納』『弐立方米』と書かれているのだが、『空間収納』の空の字はエの下、間の字は日の下の棒がそれぞれ消えていた。一番要である空間収納の文字が擦り切れた事で起こった不具合じゃ無いかと思われる。
「ユリアさん、ここちょっと見てもらえる? ユリアさんのアイテムバックにも同じ字があるけど、文字のここが擦り切れているから不具合を起こしてると思うんだ。それを書き直したらまた使える様になると思うんだけど、どう思う?」
俺は擦り切れている所を指差し、ユリアさんのアイテムバックの魔法陣と比較してもらいながら説明をした。ユリアさんも納得した様で、ひとつ頷く。
「それじゃあ文字を書き直すのはいいとして、ユリアさんのアイテムバックと違ってこのバックに自動収納の機能が無いから、同じ所に魔法陣を置いたらまた同じように劣化すると思うんだ。だから、魔法陣を移動したいんだけど、そんな事って出来るのかな?」
この問いにユリアさんは「ええ。それは修理した後なら可能よ」と言った。
魔法陣や魔法式は起動する事で道具と魔法を結ぶ独自の陣(式)となるのだが、壊れて修理をする場合はその陣(式)の個性を修理して取り戻すまで移動は出来ないとの事だった。
特にアイテムバックの場合、中に荷物が入ったままの可能性があるので絶対にやめておいた方がいいと言われた。
確かに、中身があれば修理にこだわるのも分かる。たとえ同じバックに新しい陣を書いてアイテムバックとしても、以前収納した中身は手元に帰ってこないのだから。
だから、修理の後に使用しても支障なさそうな場所をユリアさんに見て探してもらい、俺は専用インクを使って文字を書き直した。
魔力を通して魔法陣が光りだしたのを確認した後、ユリアさんにも確認してもらい、魔法陣を魔道具に戻してもらう。
魔道具に戻した魔法陣が淡く光り、すぐに戻ったのを見て、ユリアさんが修理は成功だと教えてくれた。
魔法陣の移動はユリアさんに任せると言うと、ユリアさんは魔法陣の移動はお渡しする時にお伝えして、必要ならば目の前で直接行うと言った。
それはそうだ。この錬金道具は修理を頼んできたお客様の持ち物なのだから。
そう思いながらも、俺は無事に錬金道具が修理できた事に安心したのだった。




