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一話

 ホームルーム十分前に教室へたどり着いた俺は憂鬱な気分が訪れながらも机の合間を横切り、窓際にある自分専用席に腰を下ろす。


 学校は勉強するためだけに用意された箱詰め。


 決められたカリキュラムをこなすのに一日の大半を浪費し、クラスメートの耳障りな会話にも疲弊する。


 良いことの一つもありはしない。


 隣の席に座る女性徒のクソビッチが後ろを向きながら喋り、最近学校へ行くのが楽しくなってきたんだと楽しげに語っているが、ド派手なギャルは頭も花畑なのだろうか。


 俺とは学校に対する認識がこうも違うらしい。ここは勉強するだけの場所である。


 心の底から本心で学校に通う日々を楽しいと言えるのなら、それはリアルが充実しすぎて学校も楽しいと錯覚しているだけなのだ。


 もしくは、周りが馬鹿すぎて安心感を感じているか、どうでもいいことを持ち上げてくれる同性に承認欲求が満たされているのか。


 俺はどれも感じたことはない。独りぼっちだから。


 取り留めのないことを考えるのをやめ、俺は雑多な耳障りなクラスメートの声を遮断するべく、ポケットからスマホを取り出す。ついでにイヤホンを両耳に突っ込んだ。


 ――ホームルームが始まる隙間時間。


 ガヤガヤと騒がしい教室内でスマホの画面をスクロールし、好きな配信者の切り抜き動画を漁る。


 昨夜に見た生放送の切り抜かれた場面があり、動画を流す。


 最近ハマっているのはバーチャルユートゥーバー。略してVtuber。


 可愛いイラストに配信者の声を乗せ、Live2Dと呼ばれている技術で絵を立体的に動かし、動画配信をしている。


 基本的に生放送がメインだが、動画の内容は様々だ。Vtuberそれぞれの個性を活かすために活動しており、リスナーと雑談するのがメインだったり、ゲーム配信や歌ってみるなど多岐に渡る。


 俺が見始めたVTuberは昨夜からゲーム配信がメインになった。


 スマホ画面の右下に映るイラストがぴょこぴょこ動き、口を開く。


『こんツム~。ニーテンゴジ所属、自称清楚担当のツムギでーす。今日はですね~雑談をしたいと思ってたんですけど、近々開催されるゲーム大会に呼ばれたいこともあって練習しようかなって思ってます』


 ――こんツム~

 ――流行りのアレ?

 ――大会に初心者呼ばれなくね?


『まあ、神ゲーと呼ばれてるバトルロワイヤルですね。初めてのゲームなので、ちょっと操作も手探りなんですけど……えーと、こうかな? 画面ちゃんと映ってるよね? では、さっそくチュートリアルやっていこうと思いまーす』


 すぐに待機画面から切り替わり、ゲーム画面が映し出された。始まったものは近未来を舞台にしたバトルロワイヤル。FPSというジャンルのゲームだ。


 流行っているゲームで新規も多く、アクティブユーザーが1500万人を超えている。


 因みに俺もリリース当初からやっているゲームである。


『チュートリアルは教官に従えばいいんだよね? えっと武器を装備して~このボタンね。で、銃を打つと……』


 ――フラトラ強い

 ――カービン派

 ――次丸グレ。上向いて投げると当たるよ


『……当てるのムズっ。まあ、いいや。これは要練習だね。次はグレネードを投擲して的に当てるだって。おっけー、これ三種類のどれでもいいのかな。コメントの丸グレって丸いやつ? 手裏剣とか赤いやつじゃなくて?』


 ――そう

 ――上向いて投げないと当たらないよ

 ――赤い線目安で


『ありがと。じゃ、やってみる。そいっ!』


 コメントを拾いながら操作するツムギが自キャラの視点を真上に動かし、グレネードを投擲する。


 勢い任せにマウスを操作したのか、感度が合っていない視点は一気に真上を向いた。そのまま爆発物を投げるのだが。


 ――あ

 ――これは死ぬ

 ――チュートリアルクリア出来ない奴おるん?

 ――草

 ――初心者乙


 コメント欄が急激に加速し、グレネードが真上から振ってきた。


 直下グレネード。


 対人戦でよく使うやつである。普通に投げた場合はゲームシステムで注意喚起が画面に映り、避けることも容易だ。


 しかし、上に投げたグレネードは落下と同時に爆発し、注意喚起のマークは出てこない。


 ――爆発音を響かせ、訳も分からずにツムギが操作していたキャラが死んだ。


 画面はチュートリアル前に戻っていた。


 チュートリアルのやり直しである。


『……ん? 今ので死んだの? なんで? もしかして、このゲームってクソゲー?』


 ――はい、炎上

 ――神ゲーだし

 ――チュートリアルで死ぬ配信者初めて見た


 小さな声で呟いたものはマイクが拾い、多くのリスナーが反応した。


 先ほどまでよりコメント欄が加速する。


 非難だったり、擁護だったり。


 流れるコメントに慌てるツムギ。めちゃくちゃ可愛い。弁解するツムギは必死なのだが、それを見ていると微笑んでしまう。


 声も凄く好きな耳障りの良い声だ。クラスメートの馬鹿みたいな声とは次元が違う。


 天使の声というものが現実にあるのならば、彼女こそ相応しいのではないだろうか。


「なんかニヤニヤしてんの気持ち悪くね? ただの絵見て笑ってるとかキモいんだけどー」


「それなー。沙希も隣のやつこんなんだと嫌じゃない?」


「え、いやー。わたしは別にかな……はは」


 声が聞こえてきて横をチラリと確認するとクラスメートの女子生徒が三人居た。


 隣の派手なギャルと取り巻き達だ。


 名前は何だったか。覚えていないが、陽キャ集団の中でもカースト上位の三人組だったはず。


「ちっ」


 ケラケラと笑う女共へ舌打ちを返す。


 動画はイヤホンをしているから誰にも迷惑は掛けていない。むしろ、このビッチの姦しい声は教室内に響いて迷惑だ。


 俺は声を聞くだけでイライラする。なんで、ツムギの声は常に聞いていたいレベルなのに、こいつらの声は癪に触るのだろう。


 女性でこんなにも違うものなのか。


「舌打ちされたんだけどー、まじウケる」


「沙希、気を付けてね。こういう陰キャみたいなのって逆恨みしてくるから」


「え、うん。別に大丈夫だと思うけどさ……」


 言いたい放題されてイライラが止まらない。だが、何かを発する前に担任が教室に入ってきた。


 ホームルームの始まりだ。今日も一日、クソみたいな日常を送ってしまう。


 本当に憂鬱だ。

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