えっ私が転生するんですか?
「はぁ……明日も仕事か…」
信号を待ちながら私はため息を吐いた。
今日はクリスマス・イブ。
沢山の恋人達が仲睦まじそうに見つめ合いながら信号を待っている中で、哀愁漂わせているその姿はかなり目立つ。
そして仕事の疲れか、ボサボサの髪、くまが酷く、化粧すらしていないその顔は人に見せられるものではなかった。
ブラック企業に務めてから4年。
毎日が苦痛だった。
それでも辞められない。
そしてこれからも続くのだろう、地獄の日々が。
「もう嫌だな。」そう思いながら歩き出した瞬間、目の前が光に包まれる。
人の悲鳴が聞こえる。一瞬の痛みの後、何ともいえない心地良さが体をつつみ、私は目を閉じた。
*****
「……?ここは?」
目を開けると一面白の空間の中に私はいた。
『お目覚めになりましたか?』
…誰だろう?
「はい。あなたは?」
『私は…そうですね。あなたたちからは神と呼ばれる存在です。』
…あれ?私とうとう幻覚が見えるようになったのか?なんか自分のことを神だとかいう人に出会っちゃったわ、これ。
『全部聞こえていますよ。連続出勤13日目の新派見梃子さん。』
っ人の心が読める!?これは下手にいろいろ騒がないほうがいいな…
『そうですね。物分かりが早くて助かります。
見梃子さんに今の状況を説明するとですね…あなたは不慮の事故でお亡くなりになり、私の力によりここに呼び寄せました。』
「なぜだか理由を聞いても?」
『あら、ずいぶんと落ち着いているんですね。少しはわめくかなと思ったのだけれど。
実は理由は特にないんです。ただ私があなたという存在にたまたま気づき、気に入ったので私の世界に呼び込もうかなと思っただけで…』
「だいぶ自分勝手ですね…要は自分の娯楽のために私を呼び寄せたということですか?」
『なんと人聞きの悪い!私はあなたにもっと人生を謳歌してほしかったんですよ。お気に入りの子が急に死んじゃったら、生き返らせてもっと楽しませてあげたいあわよくば自分の世界で生きてほしいって思うでしょう?』
「あなたの考えは理解できませんが・・。とにかく私はあなたが支配している世界に行けばいいのでしょうか?でも、急に呼び出されてそのまま異世界へgoなんて言ったら私すぐに死んじゃいますよ?」
『大丈夫です。そこら辺の対策はしっかりしてあるので、まずは私の世界に行ってもらいたいと思います。』
どうせもう死んでるんだし、次の人生が人であるのかも分からない状況で来世が確保されてる時点で良いことだと思うべき…だよね。
「…わかりました。衣食住が確保されているならなんだっていいです。」
『そこらへんもばっちりですよ。ではいってらっしゃい。』
その声が聞こえた瞬間、真っ白な光に包まれ私の思考は視界とともに奪われていった。
*****
っは!?ここはどこだ、というか今何時?これで十時ですとか言ったらシャレになんないんだけど・・
いつもよりも温かい日差しを浴びた私は会社に遅れることを予期し、その場で飛び起きた。
上司へ謝罪と言い訳の電話を入れるため、スマホを手に取ろうとあたりを見回した瞬間異変に気付いた。
草…?木…?そして土のにおい…?
そうだった・・私は異世界転生したんだ!
でもひとつ言わせてくれ…どこが衣食住ばっちりだゴラーー!!
一通り自称神への文句を言ったら段々と冷静になってきた。
取り敢えず辺りを見回すが緑、緑、時々おかしい位の原色チックな物(きのこかな…?)が見えるだけで、完全な森の中というところだ。
人は全く見えないし、動物がいる気配すらない。
こんな状況でどうやって生きればいいというのか。
まず食べ物の心配もあるし、服も歴史の教科書に出てくるような麻の上下で到底現代のものとは比べ物にならないくらいの質だ。
自称神が考えるちゃんとした衣食住の基準は何なのだろうか……。
色々と考えている内に辺りが暗くなってきた。今日のところは食の心配はないが今後このような状況で生活する不安は計り知れないほど大きい。
何せ前世で培ったスキルなんて人の顔を伺ってその場を上手く収めるくらいしかなかったのだ。
サバイバルゲームすらやったことの無いアラサーに何を求めるのだろうか。第一何で自称神は私を気に入ったんだ?……分からない。
「はぁ…もう今日は考えるのやめよう。とりあえず明日から辺りを探索して人を見つけるか、落ち着ける場所を探さないと…このままじゃ死んじゃうよ……」
今までとは全く違う状況についていけてない身体はすぐに疲れを訴え始める。私はそれに素直に従い、目を閉じた。
*****
『あらあら、楽しんでもらおうと思ってわざわざあの場所にしたのですが、気に入って貰えなかったみたいですね…。でも大丈夫です。この先きっと面白いことがたくさんあなたを待っているはずです。汝に輝の導きがあらんことを…。』