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23 模擬戦


「この国の上層部によって王都騎士団の統合が検討されていてね……」

「“王の盾”と”王の剣”が一つになるということでしょうか?」


 僕の問いに対してフェリクス団長は神妙な表情で頷いた。


「残念なことですが王都騎士団は危機的状況にあります。貴殿も実際に目にしたのではないですか?」


 フェリクス団長の言葉に今度は僕が頷く番だった。


 先日、僕はヴォルフ部隊長が仲間の騎士に殺されそうになっていた場面に遭遇している。そしてその理由についても先ほどの昼食時に詳しく説明されていた。


「貴殿には大変な迷惑をかけてしまい申し訳ありません。私の不徳の致すところです」


 そう言ってフェリクス団長は僕に頭を下げるが、それを見てヴォルフ部隊長は強く首を横に振る。


「団長のせいじゃないですよ。私が部下をしっかり教育すべきだった」

「それも違いますっ!! “王の剣”の連中のせいですよ!! あいつらは賄賂や悪事を見逃すことなどなんとも思っていません!!」


 興奮しながら突然大声を上げたのはブリギッテさんだった。


 彼女の話によると“王の剣”の堕落が他の騎士たちに悪影響を与えているとのことだ。


 若い騎士たちの中には、あえて“王の剣”への配属を希望する者すらいるらしい。


「王都騎士団に対する世間の風当たりはかなり厳しいものがあります」


 フェリクス団長はそう言って小さくため息をついた。


「“王の剣”は騎士団の精鋭を選りすぐって創設したはずなのですが……今では見る影もありません」

「それで王都騎士団の再編なのですか? それは少し短絡的では……それよりもイグナーツ団長を交替させるほうが効果的なのでは?」


 僕の言葉に大きく頷いたのはヴォルフ部隊長だった。


「イオリ殿の仰る通りだ。ところが上層部は諸々の原因がイグナーツにあることから目を逸らそうとしている」

「一体どういうことですか?」

「元々一つだった騎士団からイグナーツを抜擢して“王の剣”を独立させたのは今の上層部なのです。つまり、評判の悪いイグナーツを排除するということは、自分たちの見る目のなさを認めるのと同じことになります」


 上層部はこの期に及んでも保身に走り、イグナーツ団長を簡単には切れないということか。


「まったく……どいつもこいつも……」


 ヴォルフ部隊長が吐き捨てるようにつぶやいた。きっと彼も憤懣やるかたないのだろう。


 黒に白を混ぜて灰色に……そんな浅はかな手段で騎士団の再編を図ろうとする。


 そして上層部には本気でこの国を変革しようとする者がいない。やはりこの王国は限界が近いのだと思う。


「そこで問題となるのが新生王都騎士団の団長を誰に任命するかということです」

「……なるほど、事情はよく分かりました」


 今回の合同訓練は新団長を決めるために開催された。


 模擬戦で“王の盾”が勝てばフェリクス団長が、そして“王の剣”が勝てばイグナーツ団長が新しいリーダーとなる。


「我々は絶対に今日の模擬戦で負けるわけにはいかない!」

「そうです! イグナーツが新団長になれば王都騎士団の名声は完全に地に落ちます!」


 ヴォルフ部隊長とブリギッテさんは強く拳を握りしめて気合を入れている。


「おっと、時間のようですね」


 訓練場に響く大きな鐘の音に最初に反応したのはフェリクス団長だった。どうやら模擬戦開始の時刻らしい。


「イオリ殿、突然のお願いで申し訳ないのだが、あなたに我々の戦いを見届けてもらいたい。今日あなたに再会できたのは女神様のご配慮に違いない」


 そう言って唐突にヴォルフ部隊長が僕に頭を下げた。フェリス団長も納得した表情で立ち上がると同じ様に頭を下げる。


 一方、そんな2人とは対照的に、僕の実力を疑うブリギッテさんはその様子を見て戸惑っているようだった。


「よし、行くぞ!!」

「はっ!!」

「は、はいっ!!」


 フェリクス団長は柔和な笑みを浮かべ、ヴォルフ部隊長は怒りの顔つきで、ブリギッテさんは緊張した面持ちで……


 彼らは三者三様の表情で、運命を決める戦いの舞台へと向かったのだった。


◇◇◇


「ありがとう、ジルヴィーナ」

「えへへ~、どういたしまして」


 ジルヴィーナの強化魔法のおかげで、舞台上の彼らの会話を十分に聴き取ることができた。


「ふあぁ~……おまえたち3人がそっちの代表ってことでいいんだな?」


 イグナーツ団長が両腕を上に伸ばし、大きなあくびをしながら確認をしている。


 彼にとってもこの模擬戦は人生を賭けた重要な局面のはずなのだが、まるで勝利を確信しているかのような余裕があった。


「お互い3人の代表による模造剣を使った勝ち抜き勝負。負けた方が勝った方の傘下に入る。これで間違いないですね?」

「ああ、その通りだフェリクス。正々堂々、お互いの実力を比べ合おうじゃねえか」


 正々堂々、という言葉を吐いたイグナーツ団長は不敵な笑みを浮かべていた。


「……イオリちゃん、これって大丈夫なの?」


 隣にいるジルヴィーナが心配そうな顔で僕に話しかけた。


「彼らの期待に応えられるよう、しっかりとこの模擬戦を見届けよう」


 話を聞く限りでは正義は“王の盾”にあるように思える。もちろん一方の話だけを聞いて早々に断定してしまうのは良くないのだが。


(もちろん“王の盾”に勝ってほしいけれど、相手も何か勝算があってこの試合に挑んでいるはずだ)


 ――……先ほどまではそんな心配をしていたのだが、それはまったくの杞憂だったのかもしれない。


「どうだっ! これで2人抜きだっ!!」


 先鋒を買って出たヴォルフ部隊長は僕の想像以上の剣の使い手で、相手の騎士2人をあっという間に蹴散らしてしまった。


「ふふんっ! 毎日地道に訓練を重ねてきた私たちが負けるはずがないのよ。ヴォルフ部隊長! その調子です!!」


 ブリギッテさんが嬉しそうな表情で手を振って応援している。周りにいる“王の盾”の騎士たちも大きな歓声を上げていた。


 一方、当然のことながら“王の剣”の陣営は沈黙に包まれていた。


「まったく情けねえ連中だぜ。こんな奴に苦戦しやがって」


 怒りの表情を浮かべながらイグナーツ団長が舞台に上がる。


「安心しろ。貴様もすぐに同じ目に合う運命だ」


 冷たい目でそう告げるヴォルフ部隊長に呼吸の乱れは全くない。


 敵は王都騎士団の団長を任されたほどの人物だ。おそらく相当の実力があるのだろう。


 だが、ヴォルフ部隊長が簡単に負けるとも思えなかった。


「秒でぶっ殺してやるぜぇ!」

「これは模擬戦だということを忘れるなよ」

「へっ……ヴォルフ、お前も明日から俺の部下になるんだ。こき使ってやるから覚悟しなっ!!」


 イグナーツ団長の挑発にもヴォルフ部隊長は全く動じた様子はなかった。


「イグナーツ……以前のあなたは優秀だった。粗野な所はあれども部下思いで正義感があった……」

「……うるせえよ」


 突然のヴォルフ部隊長の言葉に対し、イグナーツ団長は少し戸惑った様子を見せている。


「あなたはもはやかつて私が憧れた騎士ではない! 新生王都騎士団はフェリクス団長の下で再生するのだ!!」


 力強くそう宣言したヴォルフ部隊長は前に足を踏み出すと、これまで以上の速さで眼前の敵に斬りかかったのだった。

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