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22 王都騎士団


「イオリ殿、少し時間をもらえないだろうか? ちょっと寄ってほしいところがあるんだ」


 食事が終わった後、ヴォルフさんが申し訳なさそうに僕に言った。


 これまでの会話や態度から、ヴォルフさんが誠実な騎士だということがよく分かった。


 食事中も、何度も何度も僕に感謝の言葉を伝えてくれた。


 一方で王国の現状や王女殿下の窮状を嘆いており、とても忠誠心にあふれている人物だということも見て取れた。


「部隊長、午後は合同訓練の予定で……我々の運命が……」

「大丈夫だ。忘れているわけじゃない」


 ブリギッテさんの言葉を遮って、ヴォルフさんは「どうだろうか?」と僕に再度問いかけた。


「ええ、かまいませんよ。ジルヴィもいいかな?」

「うん、イオリちゃんと一緒ならどこでもいい」


 ヴォルフさんは「ありがとう」と言うと早速馬車を手配した。


 馬車に乗って10分ほど経っただろうか。すぐに目的地に到着したらしく馬車が停車した。


「さあ、着いたぞ」

「ここは……」


 馬車を降りると近くに大きな王城が見えた。そして、僕が立っている場所は王都騎士団の本部の目の前だった。


「ようこそ、王都騎士団“王の盾”へ」


 そう言いながらヴォルフさんは僕を建物の中に案内してくれた。


 栄えある王都騎士団の施設というだけあって、外観はとても立派な造りをしており内部も整然としていた。


 しかし、普段ならたくさん詰めているであろう騎士たちの姿が全く見えない。


「もうみんな訓練場に集まっているようですね。私たちもすぐに向かいましょう」


 ブリギッテさんが急かすようにして僕たちを先導しようとする。


「今日は“焔の間”で良かったか?」

「はい、“王の剣”の連中も来ているはずです」


 ヴォルフさんにそう返答した彼女の顔は苦虫を噛み潰したようだった。


 今の会話に出てきた“王の剣”は、ヴォルフさんたちの所属する“王の盾”とともに王都騎士団を構成している。


(同じ騎士に対して彼女のあの表情。騎士団の組織内にも対立があるということだろうか?)


 こうして訳のわからないまま中に案内されたのだが……この後、僕の想像以上の出来事が待ち受けていたのだった。


◇◇◇


(実直さを信念とするヴォルフ部隊長が言うのだから間違いはないのだろうが……)


 私にはこの華奢な少年がヴォルフ部隊長の命の恩人ということがにわかには信じられなかった。


 そして部隊長に言わせると、この少年の実力は団長にも勝るという。


(フェリクス団長の剣技は王都でも随一……この少年がそれ以上だと?)


 私のすぐ後方を歩く様は隙だらけで、とてもではないが一流の剣士のようには思えない。


(ということは、何か特殊なスキルが使えるのかもしれない……)


 もしもそれがヴォルフ部隊長を誑かすような類のものであれば、私はこの少年をすぐに斬らねばならない。


 少年は美しい黒髪と瞳に、まるで女性にも思えるような中性的な顔立ちをしている。


(さぞかし女性に人気のあることだろう)


 現に少年の隣にいる派手な格好をした女性は、彼の腕にくっついて離れる様子が一切ない。


(もしや“魅了”のスキルか!? それならば現在の状況にも説明はつくが……)


 他人を魅惑し虜にしてしまうスキルが存在するというのは話に聞いたことがある。


 この少年がそのスキルの使い手ではないという保証はどこにもないのだ。


(まずはこの少年の正体を確かめなければ。試しに斬りつけてみるか?)


 私がそのようなことを考えながら歩いていると……


「おいおいブリギッテ、どこまで行くつもりだ?」


 後ろを歩くヴォルフ部隊長が私に声をかけた。


 どうやら考え事をしている間に目的地を過ぎようとしていたようである。


「そう眉間に皺を寄せるな。やはり団長のことが心配か?」

「な、なんでもありません。さぁ、中に入りましょう」


 私は慌てて取り繕うと、目の前にある“焔の間”の大きな金属製のドアを開けた。


(良かった。無事に間に合ったようだ)


 整列する顔なじみの騎士たちの隣に、憎き“王の剣”の面々が並んでいるのが見える。


 名目上は合同訓練なので当たり前の光景なのだが……


(やはり奴らには騎士としての品格を全く感じない。そう、我々があんな奴らに負けるはずがない)


 私は気合を入れるため、目を閉じて自分の頬を両手で強く叩いたのだった。


◇◇◇


 “焔の間”はとても広い室内訓練場で、そこにざっと数えて200人近い騎士たちが整列していた。


 ちょうど団長らしき人物が訓示を終えたようで、騎士たちが解散している所だった。


(この後に合同訓練が始まるのかな? それにしてもこの空気は……)


 なんとなくだが、室内の雰囲気がひりつく様な緊張感に包まれているのを感じた。


「さあ、こっちだ」


 僕はヴォルフさんに連れられて、先程みんなの前で話をしていた男性の所へ案内された。


 銀色の長髪を一つに束ね、優男の雰囲気を漂わせるこの男性こそが“王の盾”の団長なのだろう。


 ひと際立派な騎士鎧を身にまとい、ゆったりと椅子に腰掛けている。


 しかし、その様には一分の隙もなく、さすがは王都騎士団を束ねる長だと思える風格が漂っていた。


「ヴォルフ、君が遅刻するとは珍しいね」

「団長、申し訳ありません。どうしても団長に紹介したい方が……」

「もしかして、以前に君が話していた人物かな?」

「はい、私の命の恩人です」


 座っていた男性はすぐに立ち上がると、僕に右手を差し出して握手を求めた。


「私は王都騎士団“王の盾”の団長を務めているフェリクスです。私の部下の危機を救ってくれたようで心より感謝します」

「冒険者のイオリです。お会いできて光栄です」

「貴殿にお礼をしたいのですが、何か要望はありますか?」


 そう言われても思いつくこともなく、僕は首を振って謝礼を断った。


「謙虚なのですね。では、後でも良いので何か思いついたら教えてください」

「はい、ありがとうござ――」

「おい! こっちの準備はとうに終わってるんだ。早くしやがれ!」


 突然大きな声が周囲に響き、それと同時に1人の男性騎士が僕たちのすぐ側にやってきた。


 ブラウンの短髪を逆立てているその男性はかなりの大柄で、フェリクス団長と同じような立派な騎士鎧を装備していた。


「イグナーツ、まだ開始まで時間はあるはずですよ」

「へっ、お前が怖くなって逃げ出したんじゃねえかと思ってよぉ!」


 このイグナーツという名の男は騎士団長でありながら、同じ立場のフェリクスさんとは対照的な言葉づかいや立ち居振る舞いが印象的だった。


 ジルヴィーナは彼の粗野な言動が気になるのか、僕の隣で綺麗な顔をしかめている。


「おめえには悪いが、今日をもって“王の盾”は我らが“王の剣”に統合される。これは軍務卿の意向である!」

「黙れっ!! それは試合で我々が負けたらの話だ!!」


 ヴォルフさんが毅然とした態度で言い返すが、イグナーツ騎士団長はそれを全く意に介していないようだった。


「おおっと、俺たちに勝つつもりかよ! くくっ、笑わせやがるぜ! 明日からこの小汚え建物は俺たちのもの。そしてお前らは俺の部下だ」


 そう言って彼は不敵な笑みを浮かべたまま去って行った。


「恥ずかしいところを見せてしまって申し訳ありません」


 フェリクス団長がそう言って謝罪するが、僕は騎士団に何が起きているのかを知りたかった。


 王都騎士団はその名の通り王都を守護することが使命だ。それが何か問題を抱えていれば、それは国家の中枢である王都が揺らぐことになってしまう。


「よろしければ事情を話していただけませんか?」

「身内の恥をさらすようで情けない話なのですが……」


 フェリクス団長はみんなの椅子を用意すると、部外者の僕たちにも分かりやすく現在の状況を話してくれたのだった。

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