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08 紅の乙女

 

 おすすめのお店は居酒屋のような庶民的な所だった。もちろん、これまで高校生だった僕は居酒屋に入店したことはなく、当然お酒もほとんど飲んだことはない。


 店は多くの客で賑わっていたが、運良く4人席が空いていた。何をどう注文すればいいのかさっぱり分からないので3人に丸投げした。


「イオリ君ね、いい名前だね」

「15歳……弟君って呼んでもいい?」

「イオっちだね!」


 若い女性に囲まれて食事をするのは初めてなので少し緊張したが、3人との会話は初めて耳にすることが多くとても楽しかった。ちなみにアリューシャは姿を消したまま、さっきから一言も口を開いていない。


 3人には異世界転生のことを伝えるわけにはいかないので、田舎から出てきて冒険者登録をしたばかりであることや、亡くなった祖父母に幼い頃から剣術や魔法を習っていたという作り話を伝える。


「ねえねえイオリ君、あたしとリリーは幼馴染でね、この街でディアと出会って、女3人で冒険者パーティー“紅の乙女”を結成したの。この前、なんとDランクパーティーに昇格したのよ!」


 リーダーのエルマさんが嬉しそうに、自分たちのパーティーについて説明する。3人とも年齢は18歳で、この街で生活を始めて2年ほどになるそうだ。冒険者には個人とパーティーで、それぞれランク付けがなされている。最高がSランクで、最低がFランクだ。エミリアさんによると、僕の個人ランクは明日には副ギルドマスターから伝えられるらしい。


「イオっちが加わってくれれば、百人力だったんだけどなぁ……」

「弟君を困らせてはだめよ、リリー」


 いつの間にかイオっち・弟君と呼ばれるのが当たり前になっていた。少し恥ずかしいけど、温かさを感じとても嬉しい気持ちになった。


「この街について教えてもらえませんか?」

「いいわよ。簡単に説明するから、分からないことがあったら質問してね」


 ディアナさんがストールを外し、美しい肩を露わにして説明を始めた。さて、このディアナさんだが、初めて会った時から僕は何か違和感を感じていた。とても美しい人だが“何かが違う”のだ。これについては後でアリューシャに確認しよう。


「この街の人口はおおよそ5万人程度かしら。中央に辺境伯の館があって、その周りに貴族街があるわ。貴族街と庶民が生活するスペースは完全に区切られていて、区画の境には衛兵がいるの。だから貴族街へ入るには許可がいるのよ。一方で、貧民街もあるの。そこは治安もかなり悪いから注意した方がいいわ」


 ディアナさんによると、街の人口構成はおおよそ次の通りである。


 貴族 :  300人(男爵以上の爵位を持つ者)

 従者 : 2000人(貴族に仕える執事やメイドなど)

 聖職者: 1000人(国教は女神アリューシャ教)

 商人 : 2000人

 職人 : 2000人

 専門職: 2000人(裁判官・教師・医者など)

 兵士 : 3000人(騎士を含む)

 冒険者: 1500人

 労働者:10000人

 農民 :10000人

 貧民 :12000人(奴隷を含む)


「農民の数が少なく感じますが、食料は大丈夫なのですか?」

「この街の南の方にたくさん村があるの。オルトヴァルド辺境伯領だけで、村は約150あったかしら。辺境伯領全体で人口は15万人はいるはずよ。各地から毎日のように、穀物などの農畜産物が運ばれているわよ。東の漁村からは定期的に魚介類も届くわ」


 なるほど、言われてみれば当然のことである。死の樹海と領都との間には村はないが、それ以外の場所ではたくさんの人々が村で生活をしているらしい。それと、この世界の住人は魚介類も普通に食べるようだ。テーブルにも魚や貝を使った料理が並べられている。


「この領都“オルデンシュタイン”は、この国で何番目に大きい都市なのでしょうか?」

「国王領にある王都“グロースブルク”、公爵領にある水の都“エーベルクヴェレ”に次ぐ3番目の大きさね。ただ、冒険者たちがどんどん集まっているから、この街はさらに大きくなるわ」

「“死の樹海”ですね」

「そうなの。魔物がたくさんいて大変だけど、冒険者にとっては宝の森でもあるわ」

「この街の城壁が強固なのも、魔物対策でしょうか?」

「私はまだ経験したことがないけれど、かつてスタンピード(魔物があふれ出てくる現象)があったときは大変だったみたいよ」


 ディアナさんは博識で、僕の質問に次々と答えてくれる。この後もたくさんの質問を投げかけて、この世界の常識を教えてもらうことができたのだった。ディアナさんといいエミリアさんといい、今日は素敵なお姉さん2人出会えて幸せである。


「ちょっとリーリカ! それあたしのよ、勝手に取らないで!」

「いいじゃーん、エルマ食べ過ぎると太るよ~」


 一方、エルマさんとリーリカさんは難しい話は苦手なようだ。僕らの話に加わるのを早々にあきらめ、2人はから揚げの取り合いをしていた。


(……ディアナさんがいてくれて本当に助かった)


「ふふふっ、エルマとリーリカは面白いでしょ? こう見えて2人とも戦闘の時はすごいのよ。エルマの剣技は騎士にも負けないレベルだし、リリーカの索敵と狙撃で私たちは何度も助けられてるの」


 このパーティーはどうやら役割分担がしっかりできているようだ。お互いが信頼し、お互いが補い合う素晴らしい組み合わせのパーティーだ。結成してわずか2年でDランクというのは異例のことらしい。


「ところで皆さん、おすすめの宿はありますか? あまり手持ちはないのですが……」

「あるよあるよー! “夏の星亭”が僕の超おすすめ!」

「うんうん、あそこはいいよね! イオリ君もそこに泊まるといいよ」

 

 リーリカさんが元気に手を上げて答え、エルマさんは腕を組んで頷いている。


「ディアナさん、夏の星亭はどんな宿なんですか?」

「ええっと、清潔で値段も安くてとてもいい宿よ。食事もおいしいわ。そして……」

「そして?」

「私たち3人もその宿に泊まっているのよ」


 3人のお墨付きの宿というわけで、それならば安心である。僕も今夜はそこに泊まることに決めた。


「ただ、夏の星亭は人気があるから、弟君の分の部屋が空いてるかしら?」

「「大丈夫だよ、ディア。その時はあたしたち(僕たち)の部屋に、一緒に泊まればいいんだよ!」」


 喧嘩するほど仲がいいということだろう。エルマさんとリーリカさんの声は見事にシンクロしていた。

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