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07 出会いと誘い

 

 私の名前はエミリア。冒険者ギルドで働き始めてはや5年。この仕事にも慣れ、領都オルデンシュタインの冒険者ギルドの受付長を任されるまでになりました。受付は特に朝と夕方の時間帯は冒険者で込み合います。今日の夕方も、次々とやってくる冒険者たちの報告を受けていました。


 ようやく最後の一人になりました。長い時間待たせてしまっていますので、おそらくイライラされているに違いありません。少しだけ憂鬱な気持ちでしたが、それではいけないと気合を入れ直します。


「お待たせしました……ふわっ!?」


 ここで私は人生最大の奇跡を目にすることになったのです。

 

 こんなにも美しい男の子を初めて目にしました。待たされて怒っている様子など微塵もなく、とても素敵な笑顔をしています。見惚れてしまい、つい変な声が出てしまいます。眼鏡もずれ落ちてしまいました。変な女だと思われなければいいのですが……


 気を取り直して受付業務を進めます。彼の冒険者登録をすることになりました。お顔も服装も冒険者らしくない気がしますが、口に出すわけにはいきません。名前はイオリ様、15歳のようです。私の5つ下ですか……年上の女性は大丈夫なのかしら。


 そして、鑑定の水晶を用いてイオリ様の加護を確認することになりました。3属性の魔法が得意だなんて普通は嘘だと思うのですが、なぜか全くそんな気持ちにはなりませんでした。こんなに素敵な男の子ですから、きっと精霊様の加護があるに違いありません。


「――ふえっ!? 何これ……女神アリューシャ様の加護……」


 ところが、結果は私の想像をはるかに超えるものでした。なんと女神様の加護があったのです。またまた変な声が出てしまいました。きっとはしたない女だと思われたに違いありません。


 しかし、私もプロの受付嬢、ここでくじけるわけにはいきません。なんとか気持ちを立て直し、仕事を完遂するために頑張ります。素材の買取りをきっちり行い、仕事のできるお姉さんをアピールしなければなりません。


「れれれれれ……れ、レッドムーンベア!! 収納魔法!? 空間魔法も使えるなんて……」


 私の完敗でした……次元が違いすぎて気持ち良いくらいです。不覚にも私は尻もちをつき、またしてもイオリ様に失態をお見せすることになったのです。


◇◇◇


 明日の朝、副ギルドマスターと面談をするということになった。とりあえず今日の宿代を確保するためレッドムーンベアを1匹買い取ってもらったが、毛皮や爪などの利用価値が高いということで、金貨1枚という驚きの結果になった。金貨1枚は僕の世界のおおよそ10万円ほどの価値がある。


 エミリアさんの話では、この世界の貨幣はどこの国でも共通して用いることができるようだ。そして、各貨幣の価値はおおよそ次の通りである。


 鉄貨1枚=約100円

 銅貨1枚=約1000円

 銀貨1枚=約10000円

 金貨1枚=約100000円

 聖貨1枚=約1000000円


 目的の宿代を無事に手に入れ、僕はほくほく顔で冒険者ギルドを出て宿探しに向かった。ところが、冒険者ギルドを出てすぐのところで呼び止められてしまった。


「ねぇ! 君、ちょっとまって!」


 僕より少し年上に見える3人のお姉さんたちが、素早く僕を取り囲んだ。3人とも冒険者の出で立ちをしているが、女性特有のとてもいい匂いがした。


「あたしの名前はエルマ。もし良かったら、私たちとパーティーを組まない?」


 剣を腰に下げて戦士の格好をしたこの女性がパーティーのリーダーらしい。身長は僕と同じで160cm程だろうか。赤髪のサイドテールが可愛らしく、上半身は動きやすさを重視した革製の鎧、下半身は短いスカートを穿いている。


「ディアナよ。あなたレッドームーンベアを倒したんでしょ!? すごいわね」


 右手にロッドを持つこの女性は魔導士。身長は僕よりやや高く大きな胸が存在を主張している。紫のロングの髪も美しく妖艶さが漂っている。ノースリーブのワンピースに黒いストールを羽織り、ロングブーツを履いていた。


「僕はリーリカだよ! 収納魔法見たよ~、驚いちゃった!」


 弓を背負う金髪ショートのこの女性は弓術士。身長は僕よりも頭一つ低く幼い印象があり、体全体から元気があふれている。ショートパンツからは、白く健康的な美脚が伸びていた。


 美しい3人の女性冒険者たちは、僕の周りでわいわい盛り上がっている。色々な意味でとても魅力的な提案ではあるが、さすがにここは慎重になるべきだろう。僕はまだこの世界、この国、この街のことを何も知らないのだから。


「すいません。しばらくはソロで活動しようと思っています。またの機会にお願いします」

「えーっ! そんなぁー……あうぅ」

「そう、残念ね……はふぅ」

「突然でごめんね~……がっくり」


 3人ともすごく落ち込んでいて、とても申し訳ない気持ちになる。


「あの、僕はまだこの街に来たばかりで冒険者についても分からないことだらけです。もしよければ、色々教えてもらえませんか? お礼に晩御飯をご馳走しますので……」

「「「……よろこんで!!!」」」


 こうして僕は3人の女性とともに、少し早い晩御飯をとることになった。女性たちに腕を組まれ、彼女たちのおすすめのお店に案内されるのだったが……


『さっきからデレデレしちゃって……あとで覚えておきなさい!』


 突然聞こえてきたアリューシャの声に、僕は戦慄したのだった。

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