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19 南地区防衛戦


(女神アリューシャ様に心よりの感謝を。王都では必ず大聖堂を訪ねて祈りを捧げます)


 ご主人様の存在を知った時、ご主人様にお仕えすることが決まった時、そして王都への同行を認められた時……そのどれもが幸せな瞬間でしたが、ご主人様との接吻とは比べるまでもありません。


 私はこれまでの人生で最高に高揚した気分のまま南地区の防衛についています。


 区長たちの迅速な誘導もあり、住民たちの避難は順調に進みました。そして、私たち南地区の防衛軍20名は地区の入り口を塞ぐように布陣しています。衛兵たちが侵入する前に間に合って本当に安堵しました。


(気持ちを静めなければなりません。このままでは何か大きな失敗をしてしまいそうです)


 もしも南地区の防衛が不首尾に終われば、ご主人様はとても悲しむことになるでしょう。可能な限り犠牲者も出さないように、私の全身全霊をもってこの任務に当たります。


 私はご主人様に出会う以前の様々な出来事をあえてここで思い出しました。そうすることで心は氷のように冷え、冷静かつ冷徹に物事を考えることができるようになります。


「敵が来ました! 皆さん、作戦通りに動きましょう。何ら恐れるものではありません!」

「「「おう!!」」」


 私の言葉に防衛隊の皆は大きく頷き返事をしました。ここにいる20名は全員が南地区の住民です。家族を守るため彼らもまた決死の覚悟を秘めています。


「おいおい、雑魚がこんな所で何していやがる?」

「ほらっ、さっさと金と女を差し出しやがれ!」


 とても都市を守る衛兵とは思えないような悪態をつきながら彼らが近づいてきます。そして私たちが何も返答しないでいると、彼らは痺れを切らして一斉に襲い掛かってきました。


 100名の衛兵は私たちの5倍の数ですが、私たちが陣取る場所は狭隘地になっており全員で攻撃することは不可能です。


「構えなさい!」


 私の合図で防衛隊20名は横列に並んで大盾を構えました。突然の壁の出現に敵は驚き足を止めています。


 敵が戸惑った隙を私たちは逃さず、大盾の隙間から剣や槍を突いて衛兵たちを攻撃しました。安全な大盾に身を守られながらの戦いということで、戦闘に不慣れな平民たちでも安心して攻めることができているようでした。


 身を守りながら攻撃を続け、支えきれないと思ったら命を最優先にして撤退する。平民による急ごしらえの防衛隊の編成ということで、今回の作戦はこれだけの単純なものにしました。


「こ、こいつら!!」

「ぐあっ!!」

「くそがっ!!」


 特に指揮官もおらず統率の取れていない衛兵たちは、次々と私たちの堅実な攻撃で倒れていきます。


「やあっ!」 


 私もみんなに指示を送りながら、苦戦している所がないかを確認します。そして、スカートの中のガーターホルスターからダガーナイフを取り出して奴らを攻撃しました。


「ぐああっ!!」

「だ、誰か抜いてくれえぇ!!」


 面白いように衛兵の首や脇腹にナイフが刺さります。南地区の防衛戦は序盤はこちらが優位に戦いを進めることができているようでした。


(この調子である程度敵の数を減らせば、彼らもきっと無理をせず撤退するはずです)


 私たちの目標は敵を殲滅することではありません。確実に敵の侵攻を防ぐということを意識するように命じています。


(敵も命を投げ捨ててまで南地区の侵入にこだわる道理はありません。もうしばらく耐え抜けば、きっと我々の勝利に終わるでしょう)


 ところがそんな私の考えとは裏腹に、数に勝る衛兵たちは仲間の死体を踏み越えて次々と攻撃を仕掛けてきます。なぜそこまで彼らが必死なのか……さっぱり理由が分かりません。


(何かがおかしい!?)


 そのあまりにも無謀な攻めは、まるで何か狂気に支配されているかのようでした。


「ぐああああああっ!!」


 誰かが叫ぶ声に私が振り向くと、なんと首にダガーナイフが刺さったままの衛兵が仲間の喉元に噛みついていました。


 それは見たこともないようなとても恐ろしい光景でした。もはや同じ人間とは思えない行動で、私には何かの魔物に見えてしまうほどでした。


「コ、コ……ロス」

「ゲヘヘヘ……シネ……」


 慌てて辺りをよく見ると、いつの間にか他の衛兵たちも明らかに理性を失っているように見えました。


(これは……精神魔法!!)


 兵士を狂乱状態にする魔法があると聞いたことがあります。狂乱状態になれば痛みを感じることなく、身体が壊れるまで戦い続ける狂戦士と化します。


(いけない!!)


 狂ったように前進してくる敵の攻撃により私たち反乱軍の陣形は乱れ、敵はさらに勢いに乗って攻めかかってきました。


「撤退します!!」


 私はやむなく防衛隊に撤退命令を出しました。私の命令を受けるとすぐに、防衛隊20名は傷ついた仲間を支えながら一斉に後退を始めました。


 両脇に古びた家屋がひしめく大通りを私たちは必死に逃げます。一方で敵も追いかけて来ますが、この街の構造を熟知している私たちはなんとか奴らと距離をとることができました。


 そして、私たちは普段は子どもたちが遊ぶという広場に逃げ込みました。


「はぁ……はぁ……」

「な、何なんだあいつらは……」

「まるで魔物のようだった……」


 慣れない戦闘と恐怖心で疲労困憊の仲間たちに、私はここで座ってしばらく休むよう命じました。


 一方で、私は広場の片隅にある台車に乗った木箱を入り口付近に運びました。そして、次々に集まってくる敵を一人で待ち構えました。


(こんな危険な奴らを野放しには絶対にできません!)


 私は目を瞑り、心を落ち着けて魔法の詠唱を始めました。その魔法はゼアヒルト様にお願いして教えていただいた風魔法です。


「望むは疾風の翠緑、悠久の空に舞う風の精霊シルフよ、汝我が魔素を糧に契りを結び……」


 木箱の中にはおよそ200本のダガーナイフが入っていますが、頭の中でそれらがゆっくりと宙に浮きあがる想像をしました。


 練習では3本のナイフでこの魔法を成功させたことが一度だけありました。もちろん、こんなに大量のナイフで試すのは今回が初めてです。


(ご主人様、女神様、どうかあなた方の神聖なる力をお貸しください!!)


 私が覚悟を決めて瞳を開きました。すると、かなりの数の衛兵が白目をむき雄叫びをあげながら、こちらに襲い掛かってくる姿が見えました。


「「「グルルルルァァァ!!」」」


 敵は眼前に迫っています。気を抜くと恐怖心で足が竦んでしまいそうです。


(落ち着いて……必ずできる……私にはご主人様の加護があるんだからっ!!)


 私の周囲に緑色の魔力を纏った200本のナイフが浮いています。私はゆっくりと両手を前方に突き出しました。


「お逝きなさい!! ≪シューティングスター(流星群)≫」


 緑の光を帯びたナイフが一斉に敵に向かって飛んでいきました。それらはまるで夜空を流れる星々のように美しく、次々と奴らの身体に吸い込まれていきます。


「ガアッ!」

「ギャァ!」

「グフッ!」


 敵は短い叫び声を上げながらバタバタと倒れていきます。しかし、運良くナイフが当たらなかった敵がそのままこちらに向かってきます。


(さあ、帰って来なさいっ!!)


 私は外れてしまったナイフに意識を集中しました。すると、私のイメージ通りにナイフが向きを反転させてこちらに戻ってきます。そして、今度は奴らの背中に次々と命中しました。


「グエッ!」

「グハッ!」


 すべてのナイフが敵に命中すると、敵は完全に沈黙して辺りは静寂に包まれました。


 しかしその直後、周囲にいる仲間や隠れて様子をうかがっていた平民たちが一斉に歓声をあげました。


「すげええええ!!」

「やったぜ!!」

「とんでもねえ魔法だ!!」

「お姉ちゃんすごーい!!」


 みんなが驚いて騒いでいますが、この魔法を使った当の本人である私が誰よりも一番驚いています。


 つい先ほどまでほんの少ししか魔力を持たなかった人族の私が、なんと200本ものナイフを風魔法で操ることが出来たのです。


(ご主人様、女神様、ありがとうございます! これが“使徒の加護”なのですね!!)


 こうして大きな被害を出すことなく、私たちは無事に南地区を守り抜くことが出来ました。


 しかし、どうやら魔力が切れてしまったのでしょうか。私は全身の力が抜けてその場に座り込んでしまいました。


 そして私はすぐに意識を失ったのですが、心は幸せな気持ちで満たされていたのを覚えています。

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