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17 襲撃


「イオリ、遅かったじゃないか……ん? その連中は一体どうしたのだ?」


 西地区で合流したゼアヒルトは、僕の後ろに並んでいる100名の若者を見て怪訝そうな表情をした。


「待たせてごめん。彼らはフォルカーを討つために立ち上がってくれた反乱軍だよ」

「大丈夫か? 命の保証はできないぞ?」


 ゼアヒルトが腰に手をあてながら少し不安そうな面持ちで僕を見た。


「うん、彼らも覚悟の上だよ。最初は僕たち“女神の蹄鉄”だけで何とかしようと思ったんだけどね。民衆の力でこの街を取り返すことが大事だと判断したんだ」

「なるほど、確かにイオリの言うとおりだな。人は自ら勝ち取ったものでなければ執着を持たないものだ……ただし、連中はちょっと不躾が過ぎるな」


 確かにゼアヒルトの言う通り、若者たちは彼女の姿を見て口々に興奮の声を上げていた。


 みんなの気持ちは分からなくもない。騎士鎧を身に纏った美女が凛と立っていれば、それはもう一種の芸術作品だ。しかも、それが白薔薇と称えられる人物であるならばなおさらだ。


「ところで、西地区を襲っていた衛兵たちはどうしたの?」

「ああ、そこの家の裏にきれいに並べてある。それで、私が知り得た情報だが……」


 ゼアヒルトは衛兵隊長グースから入手した情報を分かりやすく僕に説明してくれた。


 その情報の中には、レイノルド公爵の使者がこれまでに何度かフォルカー男爵の下を訪ねていたというものもあった。


「フォルカー男爵とレイノルド公爵がつながっている?」

「フォルカーは貪欲な男みたいだな。グースの話では奴は伯爵の地位を狙っているらしい」

「ということは……フォルカーの狙いはツェーザル伯爵の失脚……」


 フォルカーは表向きはツェーザル伯爵に忠誠を誓う一方で、実際はその地位を虎視眈々と狙っていたというわけか。


「さらに面白い情報がある。ツェーザル伯爵は亡くなったべルティーナ王女殿下の父君と交友関係にあったようだ」

「……それならば、ツェーザル伯爵は王位継承争いで王女派として動く可能性が高い」

「つまり、レイノルド公爵とフォルカーの利害は一致するという事だな」


 以前にグリゴアがオルトヴァルド辺境伯領を狙っていた構図と全く一緒である。まさかこの都市の悪政が王位継承問題につながるとは想像もしていなかった。


 そして今回も事件の背後にレイノルド公爵の姿があった。やはり僕と公爵はいずれ相まみえる存在なのだと確信できた。


「王女殿下のためにもここでフォルカーを討たなきゃいけないね」

「そういうことだな。それと……イオリにこれを渡しておこう」


 そう言ってゼアヒルトは僕に単眼鏡を差し出した。僕の手よりやや大きいその単眼鏡には、とても美しい波紋の装飾が施されていた。


「これはどうしたの?」

「グースから受け取った魔道具だ。ほら、昨日アーシェの存在を見破られただろう?」


 今回の騒動の中ですっかり忘れてしまっていた。姿を消していたはずの妖精アリューシャの存在を、なぜか衛兵たちに気づかれてしまったのだ。


「その単眼鏡は魔力を注ぐことで一定の間だけ特殊な効果を持つようだ」

「特殊な効果?」

「単眼鏡を通して対象を見ることで、隠された真実の姿を知ることが出来る」


 なるほど。確かにそういう魔道具ならばアリューシャが見つかったのも納得だった。例えばこの単眼鏡を用いてディアナを見れば、きっとエルフの姿の彼女を目にすることが出来るのだろう。


(……それはちょっと見てみたいな……)


 僕がディアナのエルフ姿を想像していると、その妄想を打ち消すかのようにゼアヒルトが話を続けた。


「それはフォルカーのコレクションの一つだそうで、どうやらグースに貸し与えていたようだな」

「コレクション?」

「奴は古代の魔道具を集めるのが趣味のようだ。民衆から搾り取った金を相当つぎ込んでいるらしい」


 ということは、フォルカーと対峙したときに何らかの魔道具を使われる可能性があるということだ。奴の魔法だけでなく、魔道具にも注意を払わなければならない。


「その単眼鏡はイオリが使ってくれ。イオリなら魔鉱石を使わなくても簡単に活用できるだろう?」


 単眼鏡をよく見ると側面に小さな四角い蓋がついており、蓋を開けると中には輝きを失った小さな魔鉱石が収められていた。


 かつての人族ならば自身の魔力を魔道具に込めて不自由なく利用していたのだろう。おそらく、この単眼鏡は魔力を失った現在の人間でも使えるように改造されたものである。


 当然のことだが、現在の人族の国で作られている魔道具は、そのすべてが動力源として魔鉱石を用いることを前提としている。つまり、魔鉱石がなければそれら現行の魔道具はただのガラクタである。


「ゼア、ありがとう」


 そう言って僕は単眼鏡を≪ストレージ≫の中に入れようとしたのだが……その時、遠くから誰かの叫ぶ声が聞こえてきた。


 何事かとみんなが一斉に声のする方を振り向いた。すると1人の若い男性が必死の形相でこちらへ走ってくる姿が目に映った。


「た、たたた大変だ!! あ、新手の衛兵が平民街に向かっているらしいぞ!!」


 その若者の言葉に一同は大きな衝撃を受けた。今から領主フォルカーを討とうというのに、逆に平民街が衛兵に攻撃を受ける可能性があるというのだ。


 僕が予想していたよりも早く情報がフォルカーに伝わったようだ。そして、フォルカーが守りではなく攻めを選択したことに少し驚いた。


 身辺に衛兵を置かないということは、フォルカーは自分の魔法に相当な自信があるということだろう。


「おい、こりゃあどういうことだ!?」

「今度の奴らは何人だ!? 10人か? それとも20人か?」

「どこの地区が狙われているんだ!?」


 次々とみんなが質問を投げかけるが、ここまで全力で駆けてきたであろうその若者はまともに返答することができない。


 僕はすぐに≪ストレージ≫から果実水を取り出して彼に差し出した。


「ぜえっ、ぜえっ……うおっ、つ、冷てぇ!!」


 果実水を一気に飲み干した若者は、ようやく呼吸を落ち着けて質問に答え始めた。


「俺にもよく分からないんだが、すごい数の衛兵の連中がこっちに向かっていて……目撃者の話によると、どうやら西地区以外のすべてが狙われているらしいんだ」


 彼の話す内容の深刻さが伝わり、反乱軍のみんなに動揺が広がっているのが手に取るように分かった。


「これは大事だぞ……もう終わりだ……」

「残してきた家族は大丈夫なのか!?」

「何でこんなことに……誰がフォルカーに反乱の情報を漏らしやがったんだ!!」


 この状態では反乱軍はまともにフォルカーと戦うことは出来ないだろう。


 さて、これからどう動くべきかを迅速に決断しなければならない。


(うーん……どうしたものか……困ったな……)


 何か妙案がないかと考えたが、何も思いつかず僕は下を向いて小さくため息をついた。


 そして僕がふと視線を上げると、少し離れた所からこちらを真っ直ぐに見つめているエルドウィンと目が合ったのだった。

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