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06 冒険者ギルド

 

 冒険者ギルドに入る前に、僕はパーカーのフードを被った。この世界で黒髪・黒目はめずらしいようで、あまり目立つのも良くないと思い、フードで隠すことにしたのだ。アリューシャも再び姿を消している。


 夕方ということもあり、冒険者ギルドはたくさんの冒険者で賑わっていた。受付は依頼の報告を行う冒険者たちで行列ができており、壁に貼られた依頼文書を見ている者も多い。受付の奥には2階へ昇る階段が見えた。


『ほら、きょろきょろしない』

「うん」

『お腹が空いてきたから早く列に並ぶわよ』


 アリューシャが姿を消したまま話しかけてくる。どうやらアリューシャの声は僕以外の人には届いていないようだ。きっとこれも何らかの魔法なのだろう。


 受付は4ヵ所あり、僕はその中の一つの列に加わった。かなり時間がかかってようやく僕の受付順がくる頃には、ギルド内の冒険者の姿はまばらになっていた。フードを被ったままでは失礼かと思い、僕はフードを脱いで受付に進んだ。


「お待たせしました……ふわっ!?」


 受付のお姉さんになぜかいきなり驚かれてしまった。この世界の常識をよく知らないため、何かまずいことをしてしまったのかと不安になる。それとも、黒髪・黒目に驚かれたのか……


「ご、ごめんさい。私は当冒険者ギルドの受付長を任されているエミリアです。こちらのご利用は初めてですね」

「はい、そうです。よろしければ素材を買い取ってほしいのですが」

「それでは、最初に冒険者ギルドへの登録をお願いします」


 受付カウンターに1枚の書類が置かれたので、僕はペンを取り必要事項を記入した。名前はイオリ、年齢は15歳、性別は男、種族は人族、出身地は……どうしよう。


「イオリ様ですね。若いですね、まだ15歳ですか。出身地が空欄ですが……」

「自分の生まれた場所がよく分からなくて……」

「よくあることなので大丈夫ですよ」


 そう言って受付のお姉さんはふわりと笑った。どうやらこの世界では名前のない小さな集落が多く、戦乱に伴う移住なども頻繁にあるため、自分の故郷が分からないまたは故郷が存在しないということは普通のことらしい。


 エミリアさんの身長は僕より少し高く、ふんわりとしたエメラルドグリーンのセミロングの髪がとても綺麗である。年齢は20歳前後だろうか。美人で眼鏡がとても似合っていて、スタイルがよく胸も大きい。間違いなくこの冒険者ギルドで一番人気の受付嬢に違いない。


「では、イオリ様の出身地は不明で登録しておきますね。それと、特技を教えてください」

「特技ですか?」

「はい。大剣なら負けないとか、薬の知識があるとか、罠解除が得意とか、なんでもいいですよ。イオリ様が自慢できることを教えてください」

「ええっと……魔法ですかね」

「ま、魔法ですか!? 火魔法ですか? 水魔法ですか?」

「火と水と風は少し自信があります」

「す、すごい!! ご存じだと思いますが魔導士は貴重なんですよ! しかも3属性も使えるなんて期待の新人ですね!」


 以前アリューシャが教えてくれた通り、人族は女神の恩寵を徐々に失い、魔法を使える者は少なくなっている。また、複雑な上位魔法の多くは失われてしまっている。


「魔法が得意ということは、きっと精霊様の加護持ちですね。いや、3属性も得意ということは複数の加護があってもおかしくありません! 加護を鑑定したことはありますか?」


 エミリアさんはとても興奮しており、やや鼻息が荒くなっている。僕が加護を鑑定したことはないと答えると、それが当然だというように頷いた。


「それでは、こちらの水晶に手をかざしてください」


 エミリアさんは書類をしまい、水晶を丁寧に僕の目の前に置いた。さっき城門で見た水晶と同じものに見える。


「犯罪歴の確認ですか?」

「いえいえ、こちらはイオリ様の加護を判別する魔道具です。現存数が少なくて、とても貴重なんですよ」


 どうやら先ほどの水晶とは種類が違うようだ。確かによく見ればこちらの方がやや大きく、色も少し違う気がする。


(結果は想像できるけど、女神の加護がバレても大丈夫なのかな……)


 アリューシャの反応が特にないということは、バレても問題ないということだろう。僕はエミリアさんに言われた通り、水晶に右手をかざした。


「さあ、どの精霊様の加護が……ええっと……この紋様は……――ふえっ!? 何これ……女神アリューシャ様の加護……」


 エミリアさんは“女神アリューシャ様の加護”の部分については声を小さくして伝えてくれた。おかげで、周りの冒険者たちに知られることはなかったようだ。


「珍しいのですか?」

「わ、わわ、私も見るのは初めてで……に、200年前にいたという記録は残っているのですが」


 エミリアさんはひそひそと小声で説明を続けてくれた。僕も声量を落として質問する。


「普通はどのような加護があるのですか?」

「加護がない人が大半です。時々精霊の加護持ちの方がいたり、稀に天使様の加護持ちの方がいます」


 風の精霊の加護があれば風魔法が得意になり、水の精霊の加護があれば水魔法の能力が向上する。精霊の上位とされる天使の加護があれば、更に高位の魔法を使えるようになったり、特殊なスキルを用いることができるようになるそうだ。


「た、大変申し訳ありませんが、明日もう一度お時間をいただけませんか?」

「明日、ですか?」

「はい、現在ギルドマスターは王都へ出張中、副ギルドマスターは領主様の館にいます。明日には副ギルドマスターが応対できると思いますので……」

「女神様の加護について、ですよね?」

「そうですね。なんせ200年振りのことですから、事情を詳しく伺うことになると思います」


 しばらくはこの街を拠点にして生活をしたいので、さすがにこの要請を断ることはできそうもない。僕はエミリアさんの要求を二つ返事で承諾した。


「それで、素材の買取りをお願いしたいのですが」

「あ、そうでしたね。すいません。ですが、イオリ様は手ぶらのようですが……」


 ようやく僕たちは声の大きさを元に戻して話をすることができた。


 僕は≪ストレージ≫の魔法を唱え、とりあえずレッドムーンベア1匹を取り出す。一瞬で巨大な熊の死体が冒険者ギルドの床に出現した。偶然それを目撃した数名の冒険者たちが驚いて騒いでいる。


 そして、肝心のエミリアさんは……


「れれれれれ……れ、レッドムーンベア!! 収納魔法!? 空間魔法も使えるなんて……」


 美しいお姉さんキャラにふさわしくない大声を出しながら、驚きのあまり尻もちをついていたのだった。

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