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16 説得


 民衆に決起を呼びかけるにあたり、僕の名前や身分は伏せてもらった。幸いなことに、僕はまだこの都市で区長たち以外に正体を知られていない。


 今後の王女護衛の件もあり、できれば目立たずにこの反乱を成功に導きたい。区長たちの民衆への説明では、僕のことはこの反乱に協力するB級冒険者とだけ伝えてもらった。


 民衆による反乱軍の編成には時間がかかった。区長たちは人々を集めて必死に説得したが、彼らの反応はあまり良くなかった。


 それはそうだろう。フォルカーの怖さを人々は身に染みて知っている。


 そして、この民衆の中にはフォルカーと繋がっている者もいるはずだ。平民街で反乱が起きたという情報はすぐに男爵の下へ届けられることだろう。


「それでは皆様、ご主人様よりお話がありますのでご清聴くださいませ」


 エルドウィンが凛とした声で集まった民衆に声をかけた。それと同時に彼女の目は一瞬だが殺気を帯び、それに気づいた人々は会話を止めてすぐに静かになった。


「僕は偶然この都市に立ち寄ったわけですが、ここはかつてとても活気のあった良い街だと聞いていました」


 近年、平民の生活が大きく様変わりしたことを確認すると多くの人々は頷いた。


「冒険者は困っている人々を助けることを生業の一つとしています。大きなお世話かもしれませんが、皆さんの力を結集してこの街の悪政を打破したいと考えています」


 僕の言葉に民衆は困惑しているようだったがそれも当然だろう。もしも反乱が失敗すれば、今以上の過酷な生活が彼らを待ち受けているのだ。


 正体のよく分からない冒険者に自身の運命を預けるのは無謀というものだ。


「急にそんなこと言われても……失敗すれば皆殺しにされるぞ! それに、もし成功したとしてもツェーザル伯爵が黙っちゃいねぇ!」


 意を決したように一人の若者が大声を出した。それに対してエルドウィンが何かを言おうとしたが僕はそれを押しとどめた。


「残念ながら犠牲者が絶対に出ないとは言えません。しかし、必ずフォルカーの首を取ります」


 それでも僕は民衆の力を借りてフォルカーを討つという決意を固めていた。それがこの国の改革につながると信じていたし、女神アリューシャがそれを望んでいるのだから。


「そ、そのあとはどうするんだ!? 伯爵が出てくるぞ!!」

「フォルカーの悪政を公表し、オルトヴァルド辺境伯に都市ポルトロップの庇護を求めます。そうすればツェーザル伯爵も簡単には動けないでしょう」


 僕の提案に民衆はざわつき始めた。ここでいきなり辺境伯の名前が出てくるとは想像していなかったのだろう。


「オルトヴァルド……あ、赤薔薇か!?」

「本当にそんなことが可能なのか!?」

「確かにアレグリア辺境伯が噂どおりの人らば……」


 アレグリアのことを知っている人がいるのか、民衆の中にはわずかだが納得したように頷く人の姿が見えた。


「あ、あんたがこの街を手に入れたいだけじゃないのか!?」


 初老の男性が声を上ずらせながら発言した。それに対してエルドウィンが目を吊り上げて短剣を抜こうとしたが、僕が首を振りながらそれを制止すると彼女は涙目になった。


「この都市をフォルカーから解放した後は、ローマン男爵に領主として復帰してもらうつもりです。もちろん彼がまだ生きていればという条件付きですが」


 僕の発言に民衆はこれまでで一番大きな反応を示した。


「ローマン様!!」

「ああ、どうかご無事で……」


 やはり前領主のローマン男爵はとても民衆に慕われているらしい。ここはアリューシャからの吉報に期待しよう。


「でも、なぜ反乱が失敗しないと言えるんだい? フォルカーは強力な魔法を使うという噂だし、あんたは冒険者ということだがその実力を私たちは知らない。軍隊を引き連れているわけじゃあないんだろう?」


 中年の女性の言葉に周りの民衆は「そうだ」「確かに」と頷いている。


 ここは僕の力をここにいる民衆にはっきりと示し、この反乱が成功するという根拠を示す必要があるだろう。


「おっしゃる通りですね。それでは皆さんの中から代表者を10名選んで下さい。今から僕と1対10で模擬戦をしてもらいます。もちろん僕を傷付けても構いませんし、僕が皆さんを怪我させることもありません」


 僕の発言に民衆は驚き固まってしまった。そこで、僕はさらに提案を続けることにした。


「もし僕に勝つことができたら、これを差し上げますよ」


 そう言って僕は≪ストレージ≫から金貨10枚を取り出した。これはこの国の平均的な家庭の年収のおよそ10年分である(月収が銀貨1枚程度)。


「まじかよ!!」

「う、嘘じゃないよな!!」

「よし、やってやる!!」


 目を輝かせた若者たち次々と手を上げて、あっという間に志願者10名が集まった。


 こうして僕は鼻息を荒くしている若者10名を相手に模擬戦をすることになったのだった。


◇◇◇


 当然のことですが模擬戦はイオリ様が勝利なさいました。そもそもご主人様は凡夫にどうこうできる存在ではないのです。


 勝負は一瞬、気が付けば10名の若者は全員が尻もちをついていました。


 ご主人様の戦う様子は本当に美しく優雅で、もはや一種の芸術作品を鑑賞しているかのようでした。それをこんなに間近で目にすることができたのは僥倖です。


 そして、戦いが終わった直後にご主人様が空に向かって放たれた魔法≪ファイアランス(炎槍)≫は……巨大な火の鳥が天に羽ばたいていくようで……本当に……本当に美しくて……私はしばらく涙が止まりませんでした。


 私は最近よく思うのです。イオリ様は女神アリューシャ様が遣わした神の子なのではないかと……


(私とご主人様との出会いは、きっと女神アリューシャ様のお導きに違いありません)


 ゼアヒルト様はゴッドフリートの婚約者を無理強いされていたようですが、私はゴッドフリートの奴隷になることが運命づけられていました。


 ところが、私がゴッドフリートに手籠めにされる直前に、奴が騎士団に捕縛されたという知らせを受けました。


 私は歓喜すると同時に疑問に思い、何が起きたのかを徹底的に調べました。そうして最終的にたどり着いたのがご主人様の存在でした。


 ゴッドフリートから解放されたという事実以上に、ご主人様の存在を知ることができたことに幸せを感じました。


 絶望の谷で彷徨っていた私の人生は、あの日を境に希望の光で満たされるようになりました。そして、私は自身の生涯をご主人様のために捧げると女神様に誓いました。


(きっと亡き父もそれを許し、英雄に仕える私の姿に喜んでくれていることでしょう)


 ……さて、こうしてご主人様による美しい模擬戦が終わり、それに感銘を受けた100名の成人男性が反乱軍に加わることになりました。


(率先して立ち上がったこの100名の連中は少しは見込みがありますわね)


 私としてはここに集まった男性全員が参戦するべきだと思うのですが、俗輩がご主人様の凄さを完全に理解することはできないということなのでしょう。


 ご主人様と一緒に戦うことができるという栄誉を手放すとはなんと愚かなのでしょうか。ご主人様の教えに従っていれば幸福になれるというのになんと浅はかなのでしょうか。


(まったく……そんな愚昧な連中は生きている価値など……)


「エル、それじゃあそろそろ出発しようか」

「は、はい!」


 私はすぐに思考を打ち切って、反乱に参加する人々を整列させました。そして、ご主人様が≪ストレージ≫から取り出した武器・防具を彼らに与えて出発の準備を整えました。


(もう少しだけご主人様と2人だけの時間を過ごしたかったのですが、仕方ありませんね……)


 私が詮無きことを考えていると、ご主人様がふと思い出したように懐から何かを取り出しました。それは先ほどの金貨10枚が入った小袋でした。


「これは西地区の復興に使ってください」


 そう言ってご主人様は惜しみなく金貨を西地区長にお渡しになりました。彼は驚いていましたが、私には想定通りの出来事でした。お優しいご主人様ならきっとそうなさるだろうと。


 こうして私たちは100名の反乱軍を引き連れて、ゼアヒルト様の待つ西地区に向かったのでした。

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