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04 ゴブリン討伐戦


「ゼア! そっちに2匹だ!」

「ああ、まかせておけっ! はあっ!」


 ゼアヒルトの高速の連突が、2匹のゴブリンをあっという間にズタズタにした。風魔法で強化されたゼアヒルトの剣は、僕でも目で追うのが難しいほどの速さである。


 この日、僕とゼアヒルトはゴブリン討伐の緊急依頼を受けていた。あわせて、奴らに襲われた女性2人の救出も依頼されている。これが新パーティー“女神の蹄鉄”として初の仕事となる。


 エミリアの「ゴブリン討伐は女性にはおすすめしません」というアドバイスもあったが、ゼアヒルトがこの依頼を受けると言って譲らなかった。おそらく、ゴブリンに捕らわれた女性を助けてあげたいという思いが強かったのだろう。


 ゴブリン種やオーク種などの魔物はオスの個体しか存在しない。そのため、仲間を増やす目的で奴らは他種族のメスや人間の女性を攫うのだ。早急に奴らを殲滅して女性たちを解放しなければ、彼女たちの心と体は壊されてしまうことになるだろう。


 一方で、パーティーのシンボル的存在であるアリューシャは参加を拒否した。理由は「汚らわしい」という単純明快なもので、僕らは笑ってそれを受け入れた。


 こうしてアリューシャは留守番となり、僕ら2人だけでゴブリンの巣穴に到着すると、女性の気配を感じたのか次々と飛び出してくる奴らを退治していった。そうして30分ほどが経ち、巣穴の周りには大量のゴブリンの死骸の山ができあがった。


「よし、収納完了。それじゃあ巣穴の中に入るけれど……ゼアは大丈夫かい? ここに残った方が……」


 巣穴の中は凄惨な状況になっているのかもしれないので、彼女を心配して僕はそのように提案した。


「いや、問題ない。それとも、ここは乙女らしく怯えるのが正解かな?」


 ゼアヒルトは冗談めかして言うが、僕は彼女が無理をしているのではないかと思い、もう一度ここに残るよう提案した。


「ふふふっ、イオリに心配されるというのは嬉しいものだな。なに、大丈夫さ……それに、ちょっと心配なことがあってね……」


 そう言ってゼアヒルトが笑うので、結局2人で一緒に巣穴に入ることになった。ただ、彼女が呟いた心配なことについては、うまくはぐらかされて教えてもらうことはできなかった。


 巣穴の中は何らかの肉片や液体がいたるところに落ちていて、不快なすえた臭いが充満していた。僕は≪ライト(照明)≫で辺りを照らし、≪クリーン(浄化)≫を唱えながら奥へ進んだ。


 時々生き残っていたゴブリンが死角から襲い掛かってくるが、すぐに≪絶影≫が反応して返り討ちにした。これは本能なのだろうか? ゴブリンたちは明らかにゼアヒルトを優先的に狙って攻撃していた。


「便利なスキルだな。女神様の加護か……イオリが女神様に愛されるのは当然なのかもしれないな」

「どういうこと?」

「他者に対する無償の愛。誰にでも真似できることではない」


 傲慢な考えだと分かってはいるが、僕は手の届く範囲の人を可能な限り助けたいと思っている。これは幼少期の体験の影響が大きいのだろう。


「ただ、誰にでも優しいというのは、ちょっと悔しいかな……!」

「――グェッ!!」


 ゼアヒルトの細剣がゴブリンの額の中央を寸分たがわずに貫通した。


「それに、不安でもある。アーシェやアリアなど、イオリの周りには魅力的な女性が多いから……その……私のことなど忘れてしまうのではないかと……」


 こんなにも強く美しく魅力的な女性が、僕のことをこれほどまでに思ってくれている。異世界に転生できたことを本当に感謝しなければならない。


「ゼア、僕は君を手放さないよ。悪いけれど君は僕のものだ……誰にも渡さない」


 僕の図々しい言葉にゼアヒルトは頬を赤く染めて固まっている。


「ふふっ……すごく嬉しい。でも、できれば別の素敵な場所でもう一度言ってほしいかな」

「はははっ……そうだね。こんな無粋な所で言うセリフじゃないね」


 僕がそこら中に≪クリーン≫をかけると、綺麗になった壁面の鉱石が灯りに反射してキラキラと輝き出した。これで舞台は整ったと考えて良いだろうか?


 僕たちはお互い顔を見合わせて微笑んだ。そして、我慢できなくなった僕は彼女に近づきキスをしたのだった。


◇◇◇


 イオリの言葉を思い出して口元の緩みが止められない。さっきのキスを思い出して顔の火照りがおさまらない。男性に愛されることが、こんなに幸せなことだとは思わなかった。


 だめだ……集中しないと。まだゴブリンが潜伏しているのかもしれないのだ。しかし、あまりにも嬉しすぎて心を落ち着けるのが難しい。


「ゼア、どうやら着いたようだよ」


 イオリの声で我に返り、彼の右手が指さす方を見た。そこには意識を失って地面に横たわる女性2人と、それを護るように4匹のゴブリンが立っていた。


「ギギ! ギギギ!」

「ギャギャ!」


 ゴブリンたちは汚い鳴き声をあげながら粗末な武器を振り上げ威嚇している。


 喜べ、今の私は人生で最高に機嫌がいい。できるだけ苦しまないように地獄へ送ってやるとしよう。


「イオリ、ここは私にまかせてくれないか?」

「うん、分かった。ゼアの剣捌きを見学させてもらうよ」


 よし、しっかりとイオリの期待に応えなければならない。しかし当然だがゴブリンといえども油断は禁物だ。


 私はいつものように少し腰を落として剣を構え、ゴブリンに対して真っ直ぐに高速の突きを放った。


「はあっ! ――……な、何だとっ!?」


 しかしその瞬間、私は自身の身体に強烈な違和感を感じた。


 あまりにも……あまりにも身体が軽いのだ。私の気分が高揚しているためそう感じるのだろうか?


 いや、これは勘違いなどではない。試しにもう一度ゴブリンを攻撃してみるが、やはり私の動きにはこれまでにないほどの速さと鋭さがあった。


 戸惑いながらもようやく身体の動きに私の感覚が慣れた頃には、4匹のゴブリンは完全に息絶えていた。それを見て、イオリがパチパチと拍手をしながら笑顔で近づいて来る。


「ゼア、すごいじゃないか! 剣筋が速すぎて、全然目で追えなかったよ!」

「あ、ああ……ありがとう。イオリ、私に何か強化魔法でも使ったか?」

「いや、ゼアの実力があればゴブリン相手にそんな必要はないさ」


(確かにそうだが……これはまるで初めて精霊シルフの加護を得た時のような感覚だ……)


 一体どういうことかと私が困惑している間に、イオリは倒れている女性に近づき回復魔法を唱えて毛布を掛けていた。


(まったく……貴重な魔法をそんなに簡単に使って……)


 すぐに若い女性2人は意識を取り戻し、助けが来たことに涙を流しながら喜んでいた。


「あ、ありがとうございます!」

「魔法が使えるなんて! そんなに若いのにすごいですね!」


 女性たちが毛布を投げ捨て、あられもない姿でイオリに抱きついている。


「よかったら私たちと3人で楽しいことをしませんかぁ?」


(おいおい、顔が近い! 私のイオリに胸を押し付けるんじゃあない!)


 女性たちの気持ちは分かる。これまでさんざんゴブリンたちの玩具にされてきたのだ。その記憶を何か別のもので上書きしたいと思うのは当然だ。


 しかも、自分を救ってくれたのが若く美しい冒険者ならばこれはもう渡りに船だ。彼女たちがこのチャンスを逃すはずがない。


(やはり、ここまでついてきて正解だったな)


 彼女たちには申し訳ないが、ここは街に戻るまでは我慢してもらうとしよう。


「ゴホンッ! すまないがここは娼婦街ではないのでそういう行為は遠慮してもらえるかな?」


 彼女たちの目に私は全く映っていなかったようで、私の存在に初めて気が付いた彼女たちは慌ててイオリから離れて毛布を身にまとった。


「ほら、日が暮れないうちにさっさと帰るぞ!」

「「……は~い」」


 私の声に女性たちが力なく返事をする。イオリもなんだか悲しそうに見えるのが気に入らない。


◇◇◇


 ゴブリン討伐の帰り道、僕らの背後からは「あの人ってもしかして白薔薇?」「あの2人、どういう関係なんだろ?」という会話が聞こえてくる。


 一方、僕の隣を歩くゼアヒルトは口数が少なく、なんだか不機嫌そうに見えた。


 なんとなくだが理由は察している。救出した女性2人への対応がまずかったからだろう。正直な所、とても積極的な2人にどう対応してよいか分からず困惑してしまったのは事実だ。


 僕が反省しながら歩いていると、ゼアヒルトが小声で話しかけてきた。どうやら後ろの2人には聞かれたくない話らしい。


「……イオリ」

「どうしたの?」

「さっきの件だが……」


 ゼアヒルトが真剣な表情でこっちを見ている。ここはしっかりと謝っておくべきだろう。


「ゼア、さっきはごめんね」

「うん? あっ、いや、違うのだ……そういうわけではなく……先ほどの私の攻撃について……」


 なぜかゼアヒルトが慌てている。何かを言いたそうにしているので、僕は黙ってゼアヒルトの言葉を待つことにした。


「その……イオリは健全な男性で……ああいうことに興味があるのは理解できるというか……何というか……」


 ゼアヒルトは顔を真っ赤にしながら、まるで子どものようにたどたどしく話をしている。


「ただ……どこの馬の骨ともわからない女性とそういう関係を持つのは……良くないというか……悔しいというか……悲しいというか……」


 普段の凛とした姿とのギャップが本当に可愛いと思う。ちなみに、ゼアヒルトは恥ずかしがっているときに、少し涙目になるという癖に最近気が付いたのは内緒だ。


「も、もしもイオリが望むのならば……その……私が相手しても良いのだが……」

「ん? ゼア、よく聴こえなかったんだけど?」

「…………」


 ゼアヒルトの声があまりに小さく聴き取りづらかったため、僕は聞き返したのだがなぜか彼女は黙ってしまった。


 しばらくの間、僕たちの間に沈黙が流れた。後ろからトボトボとついてくる女性2人も、雰囲気を察してか静かにしている。


「い、イオリっ!」


 突然立ち止まったゼアヒルトが僕の名を呼び、何やら緊張した面持ちでこちらを見ていた。


「ど、どうしたの?」


 僕が困惑していると、ゼアヒルトは大きく深呼吸をして一気に捲し立てるように僕に告げた。


「きょ、今日はゴブリンの巣穴の探索でとても汚れたから、帰ったら一緒に……おおおお風呂に入るぞ!」


 ゼアヒルトは相変わらず涙目で、顔は今まで以上に真っ赤になっていた。


「うん、わかった。そうしようか」


 ここで≪クリーン(洗浄)≫したから大丈夫と答えるのは野暮なので、僕は笑みを浮かべてゼアヒルトの提案を了承した。


 ただ、ゼアヒルトの声はあまりに大きく、後ろの2人には会話の内容はすべて筒抜けだった。


「白薔薇、自分だけずっるーい!」

「よかったら私たちも混ぜてくれませんかぁ?」


 納得できないという表情で2人は不満の声を上げた。


「黙ってろ、オークの巣に放り込むぞ」


 冷たく低い声でゼアヒルトは告げたが、顔は笑みを必死に押し殺しているような表情をしていた。それに対して女性たちは、街に着くまで姦しく抗議を続けたのだった。

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