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22 白薔薇と赤薔薇


「……というわけで、グリゴアとゴッドフリートの処刑は決まったわ。また、シュレヒテ家に連なる者も15歳以下の者を除いてすべて連座とします。15歳以下の者はすべて貧民街の孤児院へ強制移住させなさい。なお、次に家名をあげる貴族はシュレヒテ家と共謀の罪で……」


 シュレヒテ家による一連の事件について、アレグリア辺境伯が決定事項を次々と述べる。私は父の代理として、大会議室にて貴族たちの末席に加わっていた。シュレヒテ家と懇意にしていた貴族たちは青い顔をして下を向いている。


「没収した財産の一部は犠牲者の弔慰金に充ててちょうだい。騎士団の再建と国境警備の拡充は……」


 アレグリア辺境伯は若干21歳とは思えないような差配を見せる。こうやって領主として振る舞う彼女は、私より一つだけ年上とはとても思えない。


「……私からの話は以上よ。何か異議のある者はいるかしら? ……そう、じゃあこれで会議は終わりよ。ええっと……ゼアヒルトはこのあと残ってちょうだい」


 会議の最中、辺境伯はちらちらとこちらの様子を窺うようにしていたので何かあるかもとは思っていたが、名指しで残るよう指示されるとは思わなかった。辺境伯の命令に逆らう理由もないので、他の貴族たちが引き上げる中、私は一人椅子に座ったまま辺境伯を待ったのだった。


 30分ほど経って、慌てた様子でアレグリア辺境伯が部屋に入ってきた。


「遅くなってしまってごめんなさい。シュレヒテ家と共謀関係にあった連中が「冤罪だ!」「減刑を!」って、うるさいったらない。証拠は十分そろっているのだから、無駄な抵抗をしないでほしいものだわ……。あ、そういえばエルガー卿の体調はいかが? 最近は朝方は少し涼しくなってきたから……」


 私の知る辺境伯はおしゃべりな女性だが、今日はいつになく饒舌だ。スタンピードや獣人国の侵攻を鎮め、そしてシュレヒテ家の陰謀を阻止できたことで気分が高揚しているのだろうか? いつもならばまず要件を端的に述べる辺境伯が、いきなり最初から世間話とはめずらしい。


「閣下、ご用件をお伺いいたします」

「もう……ゼアちゃん、2人きりの時に閣下はやめてよ」

「……アリア、要件は何?」


 私の父エルガーとアレグリアの父ルードルフ前辺境伯は昵懇にしており、私とアレグリアは幼馴染として一緒に育てられた。アレグリアは私のことを「ゼアちゃん」と呼び、私は彼女を「アリア」と呼んでいた。


 もちろん成人してからは分別をもって接しており、私が「アリア」と呼ぶのは人目の無いときだけである。上級貴族で年上の彼女を「アリア」と呼ぶのは何だか不思議な感じがするが、アレグリアはそう呼ばれるのが嬉しいようなので気にしないことにしている。


「ええっと……ゼアちゃん……ごめんなさいっ!!」


 突然アレグリアが私に頭を下げた。私は訳が分からず首をひねるしかない。


「アリア、急にどうしたんだ?」

「ええっと……ゼアちゃんお気に入りの男の子、イオくんのことなんだけど……」


 私のお気に入りと言えば1人しかいないが……一体どういうことだろうか? いや、それよりも気になるのは……イオ……くん?


「アリア……今、イオくんと言ったか?」

「……あっ!? ……てへ……」


 アレグリアが恥ずかしそうにしながら、綺麗な赤髪を指にクルクルと巻きつけている。昔から彼女はどこか抜けている所があった。ちなみに、彼女が髪を指に巻きつけるときは、何かやましいことがある時だ。


「ほら、はっきり言いなさい」

「……怒らないでね?」

「それは話の内容次第だ」

「ええっと……私も……イオくんを好きになっちゃった……ごめんなさい!」


 再びアレグリアが私に頭を下げる。一介の騎士風情に頭を下げる辺境伯が他に存在するだろうか?


「……別に……問題ない」

「え!? ……ほ、本当に!?」

「しょうがないだろう。好きになったものを止めろとは言えない」

「いいの? 本当にいいの?」

「鉄壁のアリアを攻略したイオリを尊敬するしかない」

「いやいや、ゼアちゃんを落とす難易度に比べたら私なんて雑魚同然よ」


 アレグリアが満面の笑みで私に近づいてくるので、私は両手でそれを押し留める。私やアレグリアのように、イオリの魅力に惹かれる女性は五万といるだろう。


 パートナーを何人選ぶかはイオリの自由だ。そしてイオリほどの実力者ならば、この国のためにもたくさんの子孫を残すべきだと思う。もちろん、私が一番に選ばれるよう全力は尽くすし……私もイオリの子が……


「じゃあ、ゼアちゃんが正妻で私が第2夫人だね!」

「まったく……辺境伯が第2夫人は不味いと思わないのか?」

「私はぜんぜん構わないよ! これでゼアちゃんと家族になれるね!」


 今日のアレグリアはとても無邪気ですごく幼く見えた。普段のアレグリアを見ている貴族たちがこの姿を見たら、おそらく失魂落魄するに違いない。


 やはり父が暗殺されていたという事実は、アレグリアに大きな心理的影響を及ぼしたのだろうか?


「アリアはイオリを落とす自信はあるのか?」

「うーん、きっと大丈夫だよ。イオくん、私の裸を見て少し嬉しそうだったし……」

「なっ!? アリア、詳しく説明するんだ」

「ええっとね……」


 イオリに出会ったことでアレグリアは安心したのだろう。自分を護ってくれる信頼に足る男性の存在が、彼女を少し退行(幼児化)させたに違いない。もちろん家臣の前ではそんな素振りは一切見せないが。


 そして、アレグリアの気持ちは私にもよく分かる。なぜなら実際に私がそうだったのだから。イオリと一緒にいると心から安心できて、自分の弱さをさらけ出すことが出来るのだ。


「私からもアリアに話があるんだが」

「ん?」

「近いうちに騎士団を辞めようと思う」

「えーっ!? どうして? エクスタイン家はどうするの?」


 今回の一連の出来事を通して、私は自分の実力不足を痛感した。先日、イオリから女神様の加護について話を聞いた。そして、妖精……アーシェが側にいることにとても驚かされた。


 イオリの隣に立つためにも、現在の環境に満足せずに精進しなければならない。冒険者になることをイオリに相談したら、一緒にパーティーを組むことを快く了承してくれた。


「私は……冒険者になる。幸いにもイオリのおかげで父は一命を取り留めたし、弟も少しずつだけど元気になっている」

「ふーん……そういうことか……」


 アレグリアがニヤニヤしながら私を見ている。昔から、彼女の洞察力と勘の良さは本当に優れている。


「き、騎士団の仕事に誇りは持っている。だが、誇りだけでは守れないものがあることを今回の一件で思い知ったのだ」

「そうよね~、分かるわよ~♪」


 アレグリアのニヤニヤが止まらない。こうなったらもうはっきり言うしかない。


「私はイオリの側にいたい。だから騎士団を辞めて冒険者になる!」

「……素直でよろしい。それならば許可しましょう」


 私とアレグリアはお互いに笑みを浮かべて思いっきり抱き合った。私にはこんなに信頼できる親友がいるのだ。遠慮せずにエリックのことを早く相談するべきだったのかもしれない。


 抱き合いながら私がそんなことを考えていると、アレグリアが私の耳元で小さく囁いた。ボソボソと聞こえてくる小さな声の告げる内容に、私はその場にひっくり返りそうになった。


「ゼアちゃんいいなぁ……私も辺境伯……辞めちゃおうかなぁ……」


 このあと、私はアレグリアの説得と説教に1時間を費やしたのだった。

評価して下さった皆様、ありがとうございます。

とても嬉しく、本当に励みになります。

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