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12 追及と自白


「アリューシャ、いったいどういうこと?」

「もう、伊織は肝心な所で鈍いんだから……」


 女神の姿に戻ったアリューシャが両手を腰にあてて怒っている。しかし、一方で目元は笑っているようにも見える。


「それでは問題です。今、エリックが死んで一番困るのは誰でしょう?」

「……エルガーさん……は違うか」

「そうね。跡継ぎがいなくなるという点では困るかもしれないけれど、息子を失う悲しみに比べたらそれは些細なことね」

「同じ理由でゼアも違うから……グリゴア子爵?」

「正解よ。じゃあ、その理由は?」


 アリューシャがパチパチと手を叩く。その可愛らしさがなぜか悔しい。


「ええっと、エリックが亡くなると長男ゴッドフリートとゼアヒルトの結婚が破談になる」

「その通りよ。表現は悪いけれど、エリックは常に瀕死の状態であることがグリゴア子爵にとっては最良なの。エリックの命をつなぎとめられるのは自分だけという状況を作り出すことができるわ」


 その結果、グリゴア子爵の要求によりゼアヒルトの縁談は断れない状態にある。


「そうして強引に縁談を進める。でも、エリックが呪いで死んだら困るんだよね。ということは、犯人は……グリゴア子爵ではない!?」

「もう、どうしてそうなるのよ! よく考えなさい!」


 アリューシャに怒られて、僕はこれまでに得た情報をもう一度整理してみた。


 犯人はグリゴア子爵で魔道具を用いてエリックに呪いをかけた。ただし、呪いでエリックが死んでは本末転倒。そして定期的に医師の往診が行われていて、その医者はグリゴア子爵と懇意にしている。


 エリックに症状があらわれたのは1年前の誕生日から。ロケットは魔道具ではなかったが、そのロケットは誕生日にグリゴア子爵から贈られた。


 僕がエクスタイン家に招待されたときにはエリックは苦しんでいた。しかし、少し前に医者の往診があってエリックは症状が改善している。


「エリックは呪いに苦しんでいて……医者の往診で症状が改善。僕らがロケットを確認したら魔道具ではなかった……」

「ほら、もう一息じゃない!」


 ロケットを魔道具と仮定して、以前は呪いで苦しみ今は落ち着いているということは……


「医者がロケットをすり替えた?」

「その理由は?」

「エリックが呪いで衰弱死しないようにするため」

「大正解よ! つまり、ロケットを調べたのが数日前ならば、間違いなく私たちは証拠をつかむことができたのよ」


 どうやら僕たちが調査した時は、すでにロケットはすり替えられた後だったようだ。


「医者が定期的に往診する度にロケットを交換し、呪いの発動と解除を繰り返していたんだね」

「次に医者がエクスタイン家を訪ねるのはいつかしらね」

「クロードさんに確認しに行こう!」


 さっそく僕は立ち上がり部屋を出ようとした。しかし、僕の手をアリューシャがつかんで引きとめる。


「どうしたんだい、ありゅ――!」


 突然、アリューシャが僕に抱きついてキスをしてきた。それは、これまでに僕が経験したことのない激しいものだった。


「正解のご褒美よ。それと……誕生日プレゼントを私だけ何も渡せてないから……」


 そう言ってアリューシャは妖精の姿になり、いつものように魔法で姿を消したのだった。


◇◇◇


 3日後、僕はエリックの部屋で医者を捕縛した。僕が部屋に踏み込んだ時、まさしく医者はエリックのロケットと偽ロケット(呪術用の魔道具)をすり替えようとしている所だった。


 僕らの仮説については、医者の往診の直前にエルガーさんに打ち明けている。エルガーさんは驚いていたが、「合理的な結論だ」と言って納得してくれた。


 その時にエルガーさんが見せた鬼のような表情を、僕は一生忘れることはないだろう。


 医者は手足を縛られて地下室へ運ばれた。地下室には僕とエルガーさんとクロードさんがいる。どうやらエルガーさんはクロードさんには事情を伝えたようである。ちなみにゼアヒルトは今日も騎士団の仕事に追われていた。


「お前の知っていることを全て話せ」


 クロードさんが長剣を医者の喉元に突き付ける。医者は震えていて、剣先が皮膚に触れたのかわずかに血が流れていた。


「な、ななな何のことでしょうか? 私はいつも通りにエリック様のご様子を……ぎゃあああああ!」


 クロードさんの長剣が医者の右肩を貫いた。その痛みに医者はぎゃあぎゃあと叫び声を上げながらのたうち回る。しばらくしてようやく医者は静かになった。


「エリック様はご病気ではなく、貴様の用いた魔道具の呪いに苦しんでいた。間違いないか?」

「……は、はい」


 クロードさんの気迫に完全に怯えていた医者は、躊躇いながらも首を縦に振った。


「それをお前に指示したのはグレゴリ子爵……間違いないか?」

「……それは……」


 クロードさんは無言で医者の左足を剣で貫いた。地下室内に再び医者の叫び声が響く。


「は、はいいぃぃ。そ、そうですぅ。ず、ずべでグレゴリ子爵のご命令なのですぅ……」


 医者は魔道具を用いて1年前からエリックに呪術を用いていたことを自白した。


 そして、グレゴリ子爵自身がゼアヒルトを求めていることや、騎士団を掌握して領都オルデンシュタインを支配することなど、グリゴア子爵の計画について医者は涙を流しながら仔細を語った。


「クロード、すぐにアレグリア様に面会の約束をとってくれ。私が直接説明に出向く」

「かしこまりました。この医者は証人として、地下牢に入れておきます」


 クロードさんは気を失っている医者を引きずりながら部屋を出て行った。


「君には助けられてばかりだな。ありがとう」

「いえ、礼には及びません。それよりも、これからどうされるのですか?」


 グリゴアを許すことは絶対にできない。どうすれば奴に鉄槌を下せるのか、エルガーさんの考えを尋ねた。


「まずは辺境伯に事情を説明せねばならぬ」

「ええっと、アレグリア様ですか?」

「うむ、アレグリア・オルトヴァルド辺境伯だ。この国で唯一の女性の上級貴族であるが、実に聡明で辣腕家だ」


 オルトヴァルド辺境伯について、僕は精悍な壮年の男性をイメージしていたが、実際はそうではなく若い女性ということだった。


「グリゴアは腐っても名門シュレヒテ家の当主。正義はこちらにあるとはいえ、簡単に手を出せる相手ではない。まずはアレグリア様の裁可を仰ぐ必要がある……」


 そう言ってエルガーさんは悔しそうにこぶしを握り締め、「ギリッ」と奥歯を噛み締めた。


「わかりました。何か僕にできることがあれば仰ってください」

「では、すまないが早速1つお願いするとしよう」


 エルガーさんは先ほどまでの鬼気迫る表情を一転して僕に笑顔を向けた。


「ゴッドフリートとの婚約は破棄だ。娘を……ゼアヒルトをよろしく頼む」


 こう言ってエルガーさんは僕に頭を下げたのだった。

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