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11 解明


 朝になってようやく解放された僕は、夏の星亭の自室のベッドでまどろんでいた。隣ではアリューシャがすやすやと眠っている。僕は右手で胸のペンダントを触りながら、誕生日パーティーでの出来事を思い出していた。


(大変なパーティーだったけれど、本当に楽しかったし、みんなに祝ってもらえて嬉しかったな……)


 祖父母を亡くしてから、誕生日は毎年1人で過ごしてきた。誕生日を一緒に祝ってくれる人がいるということがこんなに幸せなことだったのかと、改めてみんなの厚意に感謝した。


(それに、誕生日にプレゼントを貰うなんて久しぶりだ)


 右手に触れるペンダントを見ると、ついつい笑みがこぼれてしまう。アミュレット(お守り)ということだったけれど、そういえば効果については聞きそびれていた。家内安全とか商売繁盛とか、日本のお守りのような意味合いがあるのだろうか。


(そういえば、エリックも誕生日に同じような物をプレゼントされていたような……)


 苦しそうにベッドに横たわるエリックの姿を思い出す。彼の胸元には銀色のロケットがあり、中には最愛の母からの手紙が入っているということだった。


(……幼くして家族を失うという点も僕に似ているなぁ)


 そんなエリックに呪いという更なる不幸が襲い掛かってきたのが10歳の誕生日だ。それからおよそ1年、エリックは現在も苦しみ続けている。


 間違いなく犯人はグリゴア子爵だ。しかし、相手は爵位を持つ貴族でこの街の財務長官を務める男だ。証拠もなく追及しては、逆にエクスタイン家にとって窮地となりかねない。


(魔道具を見つけることができれば、それが証拠となる可能性があるけれど……)


 エクスタイン家を何度か捜索したが、高度な偽装のためか残念ながら魔道具は発見できていない。


(誕生日……エリック……ペンダント……1年前……)


 昨日からまったく寝ていないので、ぼんやりと考えていると急速に眠くなってきた。このまま眠気に身を任せようとしたその時、僕は一つの考えに思い至った。


「ロケット! エリックのロケットが魔道具なのかもしれない!」


 こんな単純なことになぜ気が付かなかったのか。僕は幸せそうな顔をして眠っているアリューシャを起こして、さっそくエクスタイン家に向かったのだった。


◇◇◇


 エクスタイン家ではクロードさんが応対してくれた。エルガーさんとゼアヒルトは騎士団の仕事で留守にしているとのことだった。クロードさんは突然の訪問の理由を聞くことなく、笑顔でエリックの部屋に案内してくれた。


 僕はさっそくエリックのロケットペンダントを詳しく調べてみたのだが……――


 結論から言うと、エリックのロケットは呪術用の魔道具ではなかった。念の為に魔力を注いでみたが、それらしき反応を何も感じ取ることができなかった。


 しかし、クロードさんとの会話の中で、エリックの誕生日にロケットを贈ったのがグリゴア子爵だということも判明した。これでロケットが魔道具ならば、グリゴア子爵を追い詰める決定的な証拠になったのだが……


 こうなったら、現場を押さえて医者に自白を迫るしかないか……だが、それではグリゴア子爵を裁くことができないかもしれない。


 おそらく奴は共犯を否定し、医者が独断で行ったことだと主張するだろう。子爵位にある者がそう言えば、それを事実に置き換えることは容易だ。


「最近は眠っている間に苦しむこともなく、少しだけ体調が良くなっているようです。少し前に医者に診てもらったのが良かったようですね」


 クロードさんが嬉しそうに、しかしどことなく寂しそうに話してくれた。エリックの症状改善を喜ぶ一方で、このままではグリゴア子爵の要求(ゴッドフリートとゼアヒルトの結婚)を断れない悲しさが入り混じっているのだろう。


 僕が迷路に迷い込んだ感覚に陥っていると、姿を消しているアリューシャの声が聴こえてきた。


『これで間違いないわね。さぁ、グリゴア子爵に鉄槌を下しましょう!』

『え!? どういうこと?』

『まだ気づかないの? もう、宿に戻ったら説明するわ!』


 突然のアリューシャの言葉を受けて、僕は訳が分からないままエクスタイン家を辞して宿に戻ったのだった。


◇◇◇


「ぐふふ……予定通りだな」

「はい、順調でございます」


 深夜、2人の男が酒を酌み交わしながら話をしていた。


「あの美しい娘がもうすぐわしの物になる。ぐふふ……母はエルガーに盗られたが、娘はわしがいただく」

「旦那様、ゼアヒルト嬢はゴッドフリート様の妻になるお方ですぞ」

「ふん、知ったことか! なんなら先にわしの子を孕ませてやる!」


 醜悪な笑みを浮かべながらグリゴア子爵は酒をあおる。会話の相手は王都の名医(エリックの主治医)だった。子爵はでっぷりと突き出た腹をさすりながら話を続ける。


「息子がゼアヒルトと結婚する前にエリックに死なれては困る。抜かりはないな?」

「はい。生かさず殺さず。エリックという人質がいる以上、エルガー子爵は旦那様には逆らえません」


 医者もまたグリゴア子爵に負けないほどの醜悪な笑みを浮かべている。


「ゼアヒルトを手に入れ、エリックを殺し、エルガーにも死んでもらう。そうして騎士団を掌握し、軍政両面でこの街を支配する……」


 グリゴア子爵は指を折って数えながら、自身の野望と今後の計画を確認した。


「やがてはこの伯爵領も奪い……そうだな、王国からの独立を目指しても良いな」

「なんとも素晴らしいご計画です」


 医者は両手を揉み合わせながら追従する。


「わしが王となったら、貴様を宰相にしてやろう。楽しみに待つがよい」

「どこまでもグリゴア様に付いて参ります」

「ぐふ、ぐふふふふ……」

「ふふ、ふふふふふ……」


 悪代官と越後屋のようなやり取りをしながら、2人はそれぞれの薔薇色の未来に思いを馳せて邪悪な笑みを浮かべた。


「旦那様、私は4日後にエクスタイン家で診察をしてから王都へ帰ります」

「ぐふふ、診察とは片腹痛い。失敗するなよ」

「お任せください。エクスタイン家は私のことを全く疑っておりません」


 医者は自信ありげに胸を張り、嘲笑するかのように口の端を吊り上げた。


「そもそも奴らは息子が病だと信じ切っておる」

「無骨な騎士などただの脳筋。馬鹿な奴らです」

「ぐふふ……そうだ! エルガーを殺す直前に真相を教えてやろう。奴の絶望する顔が楽しみだ」

「旦那様は極悪人ですなぁ」

「ぐふふ、そう褒めるな。ぐははははは」


 イオリが誕生日を祝ってもらっていたこの夜、グリゴア子爵は聞くに堪えない密談を行っていた。しかし、この翌日、ついにイオリたちは真相にたどりつくのである。

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