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18 真夜中の誘惑


 依頼を受けた時にはこんな結末になるとは全く予想していなかったけれど、一応これで盗賊団の壊滅の依頼は達成したということになるのだろう。盗賊のほとんどは死亡してしまい、捕縛できたのは頭目のグランドルだけという結果になってしまった。


 それよりも問題なのは、彼女たちにこの妖精をどう説明すればいいのかという点である。


「あのー、イオリ君。その子について教えてほしいのだけれど……」

「うんうんイオっち、僕もすごく気になるよ」

「弟君……まさかその子……妖精さんかしら?」


 この状況では何を言っても無駄だと思った。正直に話してしまった方が後で後悔せずに済むだろう。もちろん、制約があるので女神の詳細こついて話すことは無理だ。だからここはアリューシャに任せるのが良い……はずだ。


「私は妖精のアーシェよ。伊織は私のお気に入りなんだから、簡単に手に入ると思わないことね!」


 名前以外が全く自己紹介になっていないアリューシャの自己紹介が終わった。これで彼女たちは納得してくれるのだろうか。


「すごいすごい! 私、妖精初めて見たよ~」

「うわぁぁ、可愛いね! イオっち羨ましいなぁ~」

「やっぱり弟君はすごいわね。妖精に好かれるのは純真な心の持ち主だけなのよ」


 妖精の存在はあっさりと受け入れられた。やはり妖精は珍しいのか、3人はアリューシャに顔を近づけて凝視している。しかし、妖精に好かれるのは純真な心の持ち主だけというのは本当だろうか。僕は自分が純真とは全く思わない。さっきも盗賊団を皆殺しにしたばかりだし、健全な男子として女性にとても興味がある。


『純真な心が好き? 本当の妖精はそうなのかもね。でも、私は妖精じゃなくて女神だから』


◇◇◇


 紅の乙女の3人は元気を取り戻し、5人で賑やかに話をしながら帰ることができた。もし助けるのが遅れていたらと考えると、本当にアリューシャには感謝しかない。この異世界では小さな油断が致命傷になるのだということを痛感させられた。


 予定では夕方には戻る計画だったが、僕らが領都オルデンシュタインへ戻ったときには夜になっていた。冒険者ギルドに入ると、キリアンさんとエミリアが受付で話をしているのが見えた。


「ただいま戻りました!」

「イオリ様! 良かった……心配していたんですよ。おかえりなさいませ」

「お疲れの所を申し訳ないが、さっそく報告を聞かせてもらえるかい?」


 僕が代表して今日起きた出来事を2人に伝えた。エミリアは話の途中から顔を青くしている。


「ご、ごめんなさい! 私……そんなに危険な依頼だと思わなくて……」


 僕に今回の協同依頼を持ちかけたエミリアが、責任を感じて涙を浮かべながら頭を下げた。


「全然気にしなくていいよ。悪いのは蒼の牙の連中と盗賊団だから」


 僕がそう言っても、エミリアは首を振って謝罪を続けようとする。


「私たちが油断していたのもいけなかったのよ。イオリ君がいなかったら大変なことになっていたわ。この依頼にイオリ君を参加させてくれたエミリアに感謝したいくらいだわ」


 エルマさんが笑いながらエミリアを慰める。今回一緒に同行して、エルマさんが紅の乙女のリーダーを任されている理由が良く分かった。


「ところで、蒼の牙と盗賊たちはどうなったのかな?」

「ええっと、見てもらうのが早いと思うので、どこか近くに広い場所はないですか?」

「それなら、ここの裏にある素材の解体所に行こうか」


 キリアンさんは僕が何をしたいか理解したようで、すぐに僕らを解体所に案内してくれた。


「それでは、出しますね……≪ストレージ≫」


 ばらばらになった盗賊の死体が積み上げられる。最後に顔のないグロックの死体を取り出し、ピスタの死体は無いということを説明した。そこへ、エルマさんが拘束されたグランドルを引き摺ってきた。


「グランドルは生きているのか……それでは、念の為にこの男の証言も聞くとしよう」


 キリアンさんの質問に対し、グランドルはガタガタ震えながら素直にすべてを白状した。顔だけでなく髪の毛も真っ白になっている。僕と目が合う度に「ひいっ」という声を出した。どうやらよほど怖い思いをしたらしい。


「よくぞグランドルを生かしておいてくれたね。私だったら自制できずに殺してしまっているよ」

「僕も危うく止めを刺してしまいそうになりましたが、彼女たちのおかげで冷静になれました」


 紅の乙女の3人は笑みを浮かべながら「本当は止めを刺してほしかったんだけどね」「女の敵は死刑」「死んだ方がましという言葉があるわよ」などと言っている。


「では、こいつの身柄については騎士団に預けるとしよう。おそらく今回だけでなく他の犯罪にもかかわっているはずだ。エミリア、悪いがすぐに騎士団に連絡を取ってくれ」

「僕たちはもう引き上げても大丈夫ですか?」

「ああ、今回は本当にご苦労だった。報酬は後日渡すことにしよう。とりあえず、今日はゆっくり休んでくれ」


 その後、僕と紅の乙女の3人は夏の星亭で一緒に夕食をとった。彼女たちは終始ハイテンションでお酒を飲み、最後にみんな酔いつぶれてしまったように見えた。彼女たちを宿の女将にまかせ、僕はアリューシャと一緒に自分の部屋に戻りベッドに横になった。


◇◇◇


 私が目を覚ますと目の前に宿の女将がいた。少し頭痛がする。どうやらイオリ君との夕食が楽しくて、ついついお酒を飲みすぎてしまったらしい。女将に話を聞くと、すでにディアナとリーリカは部屋に戻ったということだった。


 ここで私は気付いた……これはチャンスなのではないだろうかと。時刻はそろそれ午前零時になろうとしている。ディアナとリーリカは部屋で就寝中で、イオリ君に1対1で会う絶好の機会だ。そしてあわよくば……私の初めてを捧げることができるかもしれない。18歳にして、私はまだキスもしたことがない。


 可愛くも凛々しい顔、美しい黒髪に黒い目、魔導士としての圧倒的な実力、そして優しさと謙虚さ……自分の理想とする男性像にほとんど一致している。絶対に他の人には譲りたくない。そもそも、彼がいなければ今頃私は……


(エルマ、覚悟を決めなさい! 今日、私は女になるのよ。いや、逆にイオリ君を男にするの!)


 こう自分に言い聞かせて、私は音をたてないように慎重にイオリ君の部屋を目指した。誰にも見つからずに無事に部屋の前にたどり着くと、そっとドアをノックした。


「どなたですか?」

「エ、エルマです。ごめんなさい、こんな夜遅くに。どうしても今日のお礼を言いたくて……」


 愛しの男性の声を聴いて、私の心臓の鼓動が一気に早くなる。落ち着かなきゃと思うが、ついつい口調も早口になってしまう。


「あっ、エルマさん。どうぞ、鍵は開いてますよ」


 私がそっとドアを開けると、ベッドに寝間着姿のイオリ君が座っていた。


「イオリ君、今日は本当にありがとう。それで……」


 私はイオリ君に駆け寄って抱き着いた。このままキスを……


「――……痛ったーい!! 何するのっ!」


 私はなぜか突然頭に強い衝撃を受けた。そして、いつの間にか自分の近くにとんでもない美女……いや美少女が立っているのに気付いた。


「え!? あなた……誰?」

「何するのっ! ……はこちらのセリフよ!! あんたたち揃いも揃って……恥を知りなさい!」


 あんたたち? 訳が分からなかったが、美少女の背後の床にディアナとリーリカが正座させられているのを見て全てを悟った。3人とも同じことを考えて行動していたのだ。そして謎の美少女の妨害で3人とも夜這いに失敗したのだ……


「エル~、その子に見覚えあるでしょ。僕ら会ったことあるよ」

「その子をそのまま小さくして羽をつけてごらんなさい」


 リーリカとディアナがそれぞれ私に助け舟を出した。


「あっ! ……もしかして……アーシェ!?」

「そうよ、アーシェよ。警告したわよね。伊織を簡単に手に入れられると思うなって。ほら、あんたもここに並んで正座しなさい」


 こうして私たち紅の乙女の3人は、真夜中に仲良く並んで正座をすることになった。うつむく私たちをアリューシャが仁王立ちで睨みつけている。


「伊織、ちょっとあなたは部屋を出ていて」

「えっ?」

「ほら、いいから早く! 私はこの3人に大事な話があるから」


 こうして残念ながら私の貞操は守られ、女4人による真夜中の会談が始まったのだった。

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