表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/114

17 冷徹

 地面に倒れている3人の姿は、かつて両親が強盗に襲われたシーンをフラッシュバックさせた。あの時も、両親は必死に僕を逃がそうとしてくれた。


「に、逃げて……早く!」


 エルマさんが剣を杖代わりにして必死に立ち上がろうとしている。そこにグランドルが近づき、ふらつくエルマさんの腹を蹴り上げた。


「うぐっ!」


 エルマさんは苦悶の声を出して再び地面に倒れた。そしてグランドルは右足でエルマさんを踏みつけ、僕の方を向いて見下した表情で笑った。


「ハハハっ! 小僧、意外と来るのが早かったじゃないか。もう少し大人しく待ってろ。今から俺たちがこの女どもを犯してやるからよ!」


 グランドルが左手を上げて合図を出すと、周囲にいた盗賊たちが素早く僕を取り囲む。


「グランドル……すべてはお前たちが仕組んだ罠だったのか」

「こうやって獲物を誘い出して仕留めるのが俺たちのやり方でね。背後から魔法で麻痺させて、あとはお楽しみの時間さ。最後に獲物はすべて殺すから証拠は何も残らないし、美味しい思いをしたら足がつく前に次の街へ逃げればいい。どうだ、俺様は天才だろう?」


 グランドルはニタニタと笑みを浮かべながら、自身の狡猾さを自画自賛した。どうやらエルマさんたち3人は、最後尾にいたピスタの麻痺魔法を不意打ちで受けてしまったらしい。


「おい、グランドル! もう我慢できねえよ。ガキはこいつらに任せて早く犯ろうぜ。俺はこの乳のでかい魔導士をもらうぜ」

「……ね、願うは白銀……、凍土に棲む精霊……」


 下卑た表情で腰のベルトを緩めながらロジックがディアナさんに近づく。ディアナさんは必死に魔法を唱えようとしているが、体が麻痺してうまく詠唱できていない。


「わしはこの小さな娘じゃな。わしの薬でどこまで狂うか楽しみじゃわい……ヒヒヒッ」

「こ、来ないでっ! いやっ!」


 ピスタが口の端をニヤリと上げ、胸元から小瓶を取り出しリーリカさんの下へ向かう。リーリカさんは怯えた表情で涙を流していた。


「お前たち、リーダーを差し置いて先に選ぶとはどういう了見だ? じゃあ俺はこの赤髪の女で我慢するとするか……おらっ!」

「ぐうっ! あたしは……ま、負けないんだから……」


 グランドルは右足に力を入れ、踏みつけられているエルマさんから苦しそうな声が漏れる。エルマさんは気丈にも必死に抵抗を続けようとしていた。


「屑ども……彼女たちに触るな……」


 僕は慈愛のナイフを取り出して構えた。両親と彼女たちの姿が重なり怒りで気が狂いそうだったが、女神の加護のおかげか何とかそれを抑えることができた。


「おいおい、この状況が分かってるのか? 貧弱な魔導士がそんなお粗末なナイフなんか取り出してどうするんだ? お前は女たちが犯されるのを黙ってそこで見てろ!」


 僕を取り囲んでいる盗賊も完全に油断していて、どいつもこいつも下品な顔で彼女たちの方を見ている。その隙に僕は≪コネクト(念話)≫を唱えてアリューシャと話をした。


『アリューシャ、今から僕は友人を守るために本気で奴らを攻撃するけれど、人族の女神として問題はないかい?』

『愚問よ。彼らはもはや人ではない、魔物と同じ存在よ。いや、本能ではなく自らの意思で行動している分、魔物よりもたちが悪いわね……』

『彼女たちをお願いできるかい?』

『しょうがないわねぇ……任されたわ。思いっきり戦ってきなさい』


 僕は地面を蹴って跳躍し、グランドルに全力で接近する。奴は驚きながらも双剣を抜いて僕を迎え撃ち……


「≪絶影≫」


 僕らの身体が交錯するその瞬間――……一瞬だけ時間が止まった。


「俺様の双剣を回避するとは……小僧、なかなかやるじゃないか。先にお前から殺してやるとするか」

「……まだ気付いていないのか?」


 グランドルの方に振り向き、僕は肩をすくめて奴に近づきながら問いかけた。


「訳の分からねぇことを……死ね! ――……あれっ!?」


 グランドルは双剣を振り上げようとして、何か違和感を覚えたようだった。グランドルが不思議そうな顔をして自身の両手に視線をやり、ようやく双剣が手元に無いことに気付いた。


 いや、正確には両腕の肘から先が全て消えていた……そして次の瞬間、高く宙を舞っていたグランドルの両腕と双剣が地面に落下した。


「わ、わわわわ……うぎゃーっ!! 痛い!! 痛い!!」


 グランドルは地面に転げまわってもだえ苦しんでいる。大声で叫んでいてうるさいのでグランドルの腹を強く蹴り上げると、気を失ったのかようやく静かになった。


「てめぇー! やりやがったな!」


 ロジックが両手に大剣を握りしめてこちらに向かい、僕の頭めがけて全力でそれを振り下ろした。巨大な大剣にロジックの体重が乗り、強烈な威力となって僕に襲い掛かる。しかし、僕はそれを右手のナイフで簡単に受け止めることができた。


「ば、馬鹿な……魔導士がそんなナイフで俺様の攻撃を……ごぼあっ!!」


 ロジックが言葉を最後まで言い終わる前に、僕は空いている左手を前に突き出して≪フレイムアロー≫を唱え、3本の火矢でロジックの顔面を打ち抜いた。首から上を失った巨体が大きな音を立てて後ろに倒れた。


「む、無詠唱じゃと……ば、化け物か……お、お前たち! 女を人質に取れ!!」


 ロジックがやられる様子を見ていたピスタが、焦りながら大声で叫んで盗賊たちに命令した。呆然としていた盗賊たちは我に返り、麻痺で倒れているエルマさんたちの下へ慌てて走り出す。


「……無駄よ。ここはへは近づかせないわ」


 しかし、姿をあらわした妖精アリューシャがエルマさんたちの周囲にあっという間に簡易結界を張り、盗賊たちは女性3人に全く近づくことができなかった。


「あとはお前と雑魚だけだ……」


 僕はピスタにゆっくりと近づく。ピスタは震えながら必死に魔法を唱えようとしていた。


「ね、願うは紅き煌めき。深淵の炎を統べる火の精霊サラマンダーよ。な、汝我が魔素を糧に契りを結び紅蓮の矢を顕現……」

「遅い……≪フレイムランス!(炎槍)≫」

「ひいいいぃぃぃ……――」


 ≪フレイムアロー≫とは比べ物にならないほど大きな炎の塊が僕の手から放たれる。避ける間もなくピスタは炎の槍に飲み込まれ、影も残さず完全に灰と化した。そして、炎の槍は洞窟の壁面に巨大な穴を開けてようやく消滅した。


 その様子を見て盗賊たちは、意識を失っているグランドルを見捨てて逃げ始めた。しかし、僕は一人も逃がすつもりはなかった。奴らを逃がせば、また同じような被害に遭う者が出てしまう。ここは冷徹に殲滅することを決心した。


「≪ウィンドブレイド!(風刃)≫」

「ひいいいっ! は、早く逃げるんだ!」

「た、助けてくれ! 命だけは――ぎゃあああああ……」

「悪かった! だから――ぐはっ……」


 高速の風の刃が逃げる盗賊たちの背中に襲い掛かる。一部の盗賊たちは命乞いを始めるが、僕は奴らの言葉を聞くつもりは一切なかった。そして、盗賊たちは身体を切り刻まれて次々と倒れ、十数秒後には全員が屍を地面にさらした。


「ありがとう、アーシェ。みんな、大丈夫?」


 僕は紅の乙女の下へ駆け寄った。3人は涙を流しながら、次々と僕に抱き着いてくる。僕はすぐに≪キュア≫と≪ヒール≫を唱えて彼女たちを回復した。


「イオリ君、グスッ……あり……がとう……」

「弟君、助かったわ……」

「怖かったよー、イオっち~……うえぇぇん……」


 なかなか僕から離れようとしない3人をようやく落ち着かせて、僕は近くに横たわっているグランドルの下へ向かった。奴は両腕から血を流していたので、僕は≪ヒール≫を唱えて止血してやった。そして気絶しているグランドルの顔に、≪ストレージ≫から取り出した冷水をぶっかける。


「おい、起きろ」

「……はぁ、はぁ……何が、どうなったんだ?」

「貴様の仲間は全員死んだ」

「な、何を言っているんだお前は? 元傭兵のあいつらが、お前みたいなガキ1人にやられるはずが……」

「周りを見てみろ」

 

 辺りに散らばるロジックや盗賊たちの死体を目にして、グランドルはガチガチと歯を鳴らしながら震え出した。


「ぴ、ピスタはどこに行った?」

「ああ、あいつは消えた」

「に、逃げたのか?」

「いや、燃えて灰になった」

「……は、はい?」


 グランドルの身体の震えが増々大きくなる。そして横になった状態で両足を動かし、僕から少しでも距離を取ろうともがいていた。


「た、たたた助けてくれ。い、いいい命ばかりは。た、たたた頼む」

「貴様はそうやって命乞いをした無辜の人々を殺してきたのだろう?」

「も、ももももうしない。絶対にもうしないから許してくれぇぇ」


 グランドルは土下座の格好で泣きながら命乞いをしていた。両肘がないため手をつくことができず、顔を地面に擦り付けている。あまりにも醜いので、もう殺してしまおうかと僕が考えていると……


『伊織、伊織、こっちを見て』


 アリューシャが呼ぶので彼女の方を見ると、紅の乙女の3人がグランドルに向かってサムズダウンをしていた。リーリカさんはあっかんべーまでしている。さすがは女だけでDランクパーティーまでのし上がってきた3人である。立ち直りが早いのは、これまで数多くの修羅場を潜り抜けてきた経験によるものだろう。


「ははは……了解」


 彼女たちの明るい表情に僕は安堵し……おかげで冷静さを取り戻した。僕は土下座をしているグランドルを蹴って仰向けにし、慈愛のナイフを振り下ろして奴の股間を切り裂いた。しばらくの間、洞窟内にはグランドルのうるさい悲鳴が響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 章をありがとう。 [一言] 主人公がアンチヒーローのように個性を伸ばし、愛する人だけに優しさを見せてくれることを願っています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ