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16 協同依頼


 この1か月間、僕は精力的に依頼を受け、北西の森で薬草採取、南の街道でコボルト討伐、東の漁村へ商人の護衛、南西の廃村でスケルトン討伐などを無難にクリアしていった。僕の活動を評価してくれて、いくつかのパーティーに誘われたがすべて断っている。


 ある日、僕がいつものように冒険者ギルドの掲示板を見てめぼしい依頼がないかを確認していると、受付嬢のエミリアに話しかけられた。


「おはようございます、イオリ様。少しお時間よろしいでしょうか。ご相談したいことがありまして……」

「おはよう、エミリア。うん、大丈夫だよ」

「イオリ様に緊急依頼として、盗賊団の捕縛をお願いしたいのです」

「盗賊団?」

「はい、そうです。手強い相手ですので、捕縛が難しいならば討伐も仕方ありません」


 深刻そうな表情をしたエミリアが言うには、ここ最近、領都の近辺で盗賊による被害が大きくなっていて、特に商人や村人が襲われているとのことだった。


「魔物じゃなくて盗賊ならば、領内の治安を担う騎士団の出番じゃないの?」

「どうやら騎士団は手一杯みたいで……実はこの依頼は騎士団からのものなのです」

「騎士団が冒険者に依頼をするの?」

「ここの所、領都や領内での治安が悪化していて、騎士団にもこれ以上の余裕がないみたいです」


 騎士団は優秀ではあるが人数はあまり多くない。そのため自分たちで処理しきれない案件を、冒険者に依頼することはこれまでも多々あったそうだ。


「それで、どの盗賊団を捕縛すればいいの?」

「以前、ここから南西の廃村でスケルトンを討伐していただきましたが、その近くにある洞窟を拠点に活動している盗賊団がいます」

「ああ、あの廃村だね。盗賊の数は?」

「おおよそですが10人ほどです……ので、もちろんイオリ様だけでなく、他の冒険者もこの依頼に参加してもらう予定です」

「他の冒険者も?」

「はい。さすがにイオリ様といえど盗賊10人は危険です。“紅の乙女”と“蒼の牙”にも参加を依頼しています。そして、今回の報酬は盗賊団の壊滅を条件として、一人当たり金貨4枚になります」


 紅の乙女は赤髪のエルマを中心とする女性3名のパーテイーだ。一方、蒼の牙は男性3名のDランクパーティーとのことだった。つまり、僕を合わせて合計7名で盗賊の捕縛に向かうことになる。


「Dランク程の冒険者が7人だと、戦力が過剰すぎじゃないかな?」

「実はそれには理由がありまして……」


 エミリアの話によると、実は“蒼の牙”はこの依頼に単独で挑戦して一度失敗しているのだという。3人で盗賊の拠点に攻撃を仕掛けたが、盗賊の抵抗が思ったよりも激しく捕縛に失敗したらしい。


 そこで、あらためて盗賊団壊滅のために協同依頼が組まれることになった。冒険者ギルドとしては、居場所を知られた盗賊団が拠点を移す前に依頼を達成してもらう必要があるため、緊急的にイオリに声をかけたのだ。


『参加でいいんじゃないの。この国の治安の改善は“審判”の査定に影響するはずよ。小さなことからコツコツやりましょう』


 アリューシャが僕にしか聞こえない声で話しかけてきた。彼女が乗り気ならば断る理由はない。


「うん、話はわかった。僕もこの依頼を引き受けるよ」

「ありがとうございます。ただし、Dランクパーティーの蒼の牙が一度失敗した案件です。イオリ様の想像以上に手強い相手かもしれませんので、十分にお気をつけ下さいね」


 こうして、この異世界に来て初めて、他の冒険者と一緒に依頼に挑戦することになったのだった。


◇◇◇


 2日後、夏の星亭の1階の食堂でみんなと待ち合わせをすることになった。部屋を出る前に、アリューシャに確認することがあったので尋ねてみた。


「アリューシャ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」

「ん? どうしたの?」

「紅の乙女のディアナさんについてだけど……」

「ああ、あの娘ね……伊織も違和感を感じたでしょ? あの娘は人間じゃないわよ」

「ええっ!? じゃあ何者なの?」

長耳族エルフね。認識阻害の魔法で正体を隠しているわ」

「どうして……」

「理由は分からないけれど、何かのっぴきならない事情があるんでしょ。誇り高いエルフ族がわざわざこんな辺境にやって来るなんてね」


 ディアナさんがエルフ族だったなんて……。しかし本人がそれを隠したいと思っているのならば、こちらからそれを指摘するのは良くないだろう。現時点では特に詮索する必要はなさそうなので、その点についてはあまり気にしないことにした。


「イオリ君、今日はよろしくね」

「弟君と一緒にお仕事だなんてお姉ちゃん嬉しいわ」

「イオっち、僕の活躍に期待しててね」


 僕が部屋を出て1階の食堂に向かうと、さっそく紅の乙女の3人がやってきて挨拶を交わす。そして、なぜか分からないが全員にハグされた。3人と会話をしていると、すぐに蒼の牙のメンバーもやってきた。


「初めまして。僕は“蒼の牙”のリーダーを任されているグランドルだ」

「俺は重戦士のロジックだ。こんなに可愛い女性たちと協同依頼とは嬉しいねぇ」

「わしは魔導士のピスタじゃ。短い間じゃがよろしく頼むぞ」


 リーダーのグランドルはさわやかな青年だった。話を聞くと双剣の使い手らしい。ロジックは重戦士だけあって大柄な中年男性で、紅の乙女の3人を舐めるように見ている。ピスタはかなり高齢の男性で、あごに白髭を生やしており謹厳そうな顔をしていた。


「いやぁ、恥ずかしい話だけれど、盗賊の技量が思ったより優れていてね……」

「ありゃあ、きっと元々はどこかで雇われていた傭兵崩れの連中に違いねぇ……」

「そして、わしらは命からがら逃げてきたというわけじゃよ……」


 僕たちは一緒に朝食をとりながら、蒼の牙の3人から盗賊団について話を聞いた。また、それぞれの戦闘スタイルや注意点などを確認してから協同依頼へ出発した。念のため出発前に冒険者ギルドに寄り、計画では夕方には戻るということをエミリアに告げておいた。


 移動には馬車を利用することになり、幌馬車を2台借りて1台に蒼の牙が、もう1台に紅の乙女と僕が乗ることになった……というかいつの間にかそう決まっていた。


「弟君、あの重戦士のゴリラがお姉ちゃんのことをジロジロ見るのよ」

「イオっち、あの魔導士お爺さん、何か嫌なんだけど」


 馬車の御者はエルマさんが引き受けてくれた。そして、馬車の中ではディアナさんとリーリカさんが、僕の両隣に座って愚痴っている。それは良いとして、僕の左右の腕に抱き着いて、胸を押し付けるのは止めてほしい。


「ディア、リリー! イオリ君が困っているでしょ!」


 さすがはDランクパーティーのリーダーであるエルマさんは常識人だ。御者台から振り返り2人を注意してくれた。


「もう! 止めなさい。そしてあたしと御者を交代しなさい。ずるいわよ2人とも!」

「無理よ。エルと違って、私が御者なんてできるわけないでしょ」

「僕も無理だね~。今はちょっと忙しいの」


 こうして姦しい3人の女性と一緒に2時間ほど馬車に揺られ、ようやく目的地に到着することができた。すでに蒼の牙の3人も到着しており、合流してみんなで作戦を話し合った。洞窟入り口には見張りはいなかったが、洞窟の中からわずかに人の声が聞こえるので、盗賊団はまだ拠点を移していないようだ。


「ロジックを先頭にして僕とエルマが前衛、その後にディアナとリーリカが中衛で続き、そして後衛にピスタという布陣でいこう」

「僕はどうすればいいですか?」

「イオリ君は万一に備えて、洞窟の入り口を見張っておいてくれないか。外にいる仲間が戻ってきたら厄介だから、その対応をお願いしたい」


 グランドルが要領よく説明をする。特に反対する理由はないので僕は「了解」と答えた。


 僕は洞窟入り口でエルマさんたちが中に突入するのを見送った後、洞窟を背にして座ってくつろいだ。さすがに2つのDランクパーティーに攻められては、盗賊たちにほぼ勝ち目はないだろう。


 現在の時刻は午後2時頃だろうか。早ければ1時間もせずに決着がつくはずだ。≪ストレージ≫から冷たい果実水を取り出して、アリューシャと一緒に飲んで結果を待った。


「油断しちゃだめよ、伊織。もしも盗賊と戦闘になれば、あなたは人を殺すことになるかもしれない。その覚悟はできているの?」


 妖精姿のアリューシャが少し悲しそうな顔をして僕に問いかけた。罪悪感を感じているのかもしれない。


「正直に言うと覚悟はできていないし、できれば人は殺したくない……」

「……それだとこの世界を生き抜くのは難しいわよ。それに、大切な人を守れなくなるわ」

「そうだね。もう、大切な人を失うのは嫌だから。二度とあの悲しみは経験したくないから……二度目の人生では自分の身近にいる人だけでも守りたい」

「……そっか……うん、伊織ならきっとできるよ」


 しばらくの間、僕たち2人の間に沈黙が流れた。不思議となんだか心地よい静かな時間だった。


「伊織! 洞窟の中に入るわよ!」


 突然、訳の分からないことをアリューシャが叫ぶ。


「いやいや、ここを見張るのが僕の役割だから……」

「エルマたちの危機よ!」

「そんなに盗賊たちが強いの?」

「いいから早く! このままじゃまずいわ!」


 アリューシャに急かされて、僕は慌てて洞窟内に駆け込んだ。洞窟の中は想像以上に広い空間が広がっていたが、幸いにも一本道だったため、迷うことなく奥にある盗賊団の拠点に到着することができた。


 そして、そこで僕が目にしたのは地面に倒れている紅の乙女の3人の姿だった。3人とも苦しそうな表情をしているのが分かる。


「みんな! 大丈夫か!?」

「イ、イオリ君……に、逃げて……」

「弟君……来ちゃダメ……」

「イオっち……蒼の牙が……」


 弱っている3人を盗賊たちが取り囲んでいる。その盗賊に加わってニヤニヤと笑っているのは、仲間のはずだった蒼の牙の連中だった。

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